ナイト・テーブル・マナー

--故郷に戻って来たのは何年ぶりだろう?

そう思いながらエミリー・ロマンツォは空港から出てきた。
晴れ渡る空に目を細めていると、彼女の親友が太陽と同じくらいの輝きで出迎えてきた。

「エミリー!来てくれたのね!」
「アリシア!」

今日は高校の同窓会、海外で働いていたエミリーはギリギリまで予定が合わずなんとか当日に滑り込む事ができたのだった。

久しぶりの再会を喜んだ二人はそのままパーティー会場へと足を向ける。
その間もお互いに学生時代の話で盛り上がっていた。

「--それでその後こっそり抜け出してさ、彼と夜遅くまで好きなバンドの話を語り合ってたのー!」
「やだ、ステキー!」

「--続きまして、昨今のヴァンパイア問題についてのニュースです。」

二人の会話をかきけすように通りの電気屋に写ったニュースキャスターが淡々と世界の問題を読み上げた。

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...ヴァンパイア問題、

おとぎ話や伝説上の存在であった吸血鬼が突如全世界で出没。夜間に活動し人々を襲う問題である。

以降、夜間帯の行動は著しく危険となり人類は大きな制限を強いられていた。

「...今じゃそんなこと出来ないね...。」
二人の間に理不尽な重い空気が漂う。それを振り払うようにアリシアが明るく振る舞った。

「でも夜動けない分を昼間の間に取り返しちゃえばいいじゃない!ちょうど会場に着いたし、今日はとことんやるわよー!」

そういって子供のようにはしゃぐアリシアを見て、エミリーは笑顔とちょっとした心配が胸を掠めながら友人との楽しいひとときを過ごした。

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その夜、猫すら出歩かぬ静かな路地をエミリーはアリシアを介抱しながら歩いていた。

「もう...流石に羽目を外しすぎ。」
「うえへへ~ごべんねぇ~。」

同窓会にてアリシアは友人達との再会で浮かれていたのか、まさに酒を浴びるように飲んでしまいみかねたエミリーが自宅まで送ることにしたのだった。

解散は日の落ちる前に済ませていたが、家までの道中で吐いたりうずくまったりするアリシアを介抱していたらすっかり夜になってしまった。

不意に電気屋で流れたニュースがエミリーの脳裏をよぎる。恐怖にかられたエミリーが足を速めると少し先に人影が見えた。

中学...いや小学生程度だろうか?小柄な少女が道を塞ぐように仁王立ちしていたのだ。エミリーは今にも震えそうな体を抑えながら声を振り絞った。

「貴女は誰?...吸血鬼なの?」
「まさか私は人間よ、あんな連中と一緒にしないで。」

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「人間」

少女のこの一言にエミリーは安堵した。

と同時に数々の疑問が頭を駆け巡った。

この少女は何者なのか?

なぜ危険な夜に一人で要るのか?

...どうして道を遮り、通してくれないのか?

だがそれら全てを質問する余裕などなかった。
故にエミリーは1つだけ、重要な疑問を少女にぶつけた。

「...なぜ道を塞ぐの?夜は危険だし具合の悪い友人もいるの、早く家に送らなきゃ。」
「...友人?」

少女は軽蔑するようにシワを寄せエミリーを睨んだ。

「まさか、隣のそれが友人だなんて言い出すの?」
「...っ!貴女いきなり何なのよ!邪魔はするし人の友人を侮辱するし...」
「...ごべんねぇ」

急にアリシアは謝りだした。

「でもさぁ、私、嬉しくってついつい飲み過ぎちゃったんだぁ、エミリーこの事、ダベレ"ル"ガラ"ザァ」

その瞬間、アリシアの笑顔が最も輝き、最も醜くなった。

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アリシアの口が大きく開き、その中から明らかに人のものではない犬歯が顔を出した時、
エミリーは異形と化した友人だったものではなく別のものに目を奪われていた。

「まったく、貴方達って本当に醜い化け物ね」
少女はそう言いながら、少女の身の丈ほどもある巨大な”杭”を持ち、肩に乗せた。
月に照らされた白く美しい顔に長い黒髪がなびく。
その姿は美しい一枚の絵画のようだった。

さっきは暗がりで気付かなかったが、背中に大きなホルスターのようなものを背負っている。
”杭”はここに収まっていたようだ。

「少し、後ろに下がっていて」
少女はそう言うとエミリーの前に陣取った。

「お前は誰だ!?」
「なぜ私の食事の邪魔をする?」
アリシアが唾を飛ばしながら叫ぶ。

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「食事...だって?」

アリシアの叫びに少女は怒りを顕にする。

「人を貪り喰うことが?
 ケダモノ以下の醜態晒しながら?
 礼の一つもなく当然と威張りながら?

そんな品性のない食事があってたまるか!」

少女はそう言うとアリシアの頭上へと鋭く飛び上がり、流星が如く杭を顔に叩き込んだ。

アリシアの頭は杭に置き換わり、もう笑うことも醜く唾を撒き散らすこともなくなった。

「...せめてその汚い顔をなんとかしなさい、マナーがなってないわよ。」

エミリーは一連の出来事をただ呆然と見守ることしか出来なかった。


翌日、エミリーはそうそうに帰り支度を始めた。とても故郷に長居する気になれなかったのだ。

来たときとは全く異なる心境で空港を目指すエミリーにある新聞が飛び込んできた。

...そこには昨夜現れた少女の写真と見出しが踊っていた。

--若きハンター、ブレア・ベルセルクが今宵も活躍!

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アメリカ、ホワイトハウス前。

そこでは大勢の人が熱狂していた。

その中心は大統領...ジョーカー・マキシマムだった。
威厳のあるリーダーとも、強引なガキ大将ともとれるしかめっ面で彼は声を張り上げた。

「諸君!最後に星空を見上げたのは何時だ!?忌々しいヴァンパイアどもに夜を奪われ遠い昔に感じているのではないか!?...だがそれもじきに終わる!いや、終わらせるのだ!我が国の誇るハンターによって!」

歓声がひときわ大きくなる、その声に押されるように一人の男が大統領の隣に並んだ。

戦隊物のスーツに身を包んだ体は筋肉が鎧のように屈強だった。

「駆けつけてくれたエース、ジャスティス・ポールマンを始めとする優秀なハンターによって我々は夜を取り戻すのだ!!」

その場にいる全員がジャスティスに期待の目と声援を送り続ける。

彼は間違いなくヒーローだった。

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演説が無事に終了し、ジャスティスは歓声から解放されると大きなため息をついた。

そして腕のボタンを操作するとスーツを筋肉ごと取り外し、車椅子に座った。

完全筋肉衰弱症

全ての筋肉が衰弱してしまうこの病に侵されているジャスティスはそれでも愛する国や全てのために特別に改造されたパワードスーツを着込み、闘い続けていたのだった。

「よくまぁあんな見せ物パンダができるわね。」

疲れきった彼に声をかけた同業者、ブレア・ベルセルクは半ば呆れた様子だった。

「そのスーツ、スッゴク疲れるんでしょう?現にヘロヘロだし、その状態で夜に出てこないでよ?」

「...手厳しいな、君は。」

ジャスティスはそう言うと笑って見せた、だがそこに力強さはなかった。

「そういえば、どうして君がここに?」
「私が呼んだのだ。」

ジャスティスの問にジョーカー大統領が答えた。

「イギリスのホープに質問があってね。」

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「単刀直入に聞こう、我が国の対策をどう評価する?」
「…そうね。」

人員、兵力共に十分。
しかもそこからアップグレードするための研究等に膨大な費用もかけている。

実に申し分ない対策と言えたがブレアには一つ、気に入らない部分があった。

「少し目立ちすぎじゃないの?今回の演説といいヴァンパイアを挑発してるとしか思えないわ。」
「…なるほど、確かに問題を解決するだけなら無言でいいのかもしれない、しかし私の使命は国民を不安にさせない事だ、そのためには定期的な宣言が必要だと考えているのだがね。」
「…なら次から言葉選びは慎重にね。」

善処しよう
そういって大統領は眉間のしわを濃くした。改善するきはないのだろう。

ブレアは呆れ、ジャスティスが間でオロオロしているとドアが乱暴に開けられた。

乱入者は全身に青筋をたてて鮫のように歯がギラついている。

「クソ大統領、夜を待たずにきてやったぜ!」

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「……何の用かね?」

大統領のしわの数は変わらない、代わりに乱入者の青筋がどんどん増えていった。

「なんだぁあのクソみてーな演説はよぉ!
夜を取り戻す?
ヴァンパイアを根絶やし?
クソが!俺達の飯にしかならねぇクソどもがクソ調子こいてんじゃねーよクソ!」

彼は終始手足をオーバーにばたつかせていたのでさながら子供の癇癪のようだった。
その様子に一同は白い目を向ける。

「少し訂正させてもらおう。」

大統領が静かに告げる。

「一つ、演説でヴァンパイアを根絶やしとは一言も言っていない、二つ、人前でクソを何度も使うな、そして三つ、金輪際我々は貴様らのディナーにはならない……以上だ。」

「クッ!く、ク、苦……KUSOGAAAA!!」

最早言葉とも呼べない声をあげて飛び掛かる乱入者を真正面から受け止める者がいた。

ジャスティスだ。

「そこまでだ、それ以上は僕の正義が許さない。」

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左手で乱入者を抑えつけながら右手に己の正義と力を込めて渾身のストレートを放つ。

その一発に乱入者は歯も口もまとめて穿かれてしまった。

「……ッ……」

ジャスティスは静かになった乱入者から手を離すとそのまま倒れ込んだ、演説の疲労も相まって本人も限界だったのだろう。

「ご苦労ヒーロー。」
「あーあ、言わんこっちゃない……本当にバカなのね。」

そんな彼に大統領は淡々と、ブレアは呆れながら手を差し伸べる。


―ジャスティス·ポールマン、
不治の病に侵されながらもヴァンパイアを討伐し続けるアメリカのヒーロー。

彼の心に愛と正義がある限り、戦い続ける覚悟と信念が備わっていた。

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――――

日本、国会議事堂前。

総理大臣大原麻友子(おおはら まゆこ)が記者会見を行っていた。

「総理!今回の議会ではヴァンパイア問題についての具体的な対策はうちだされたのでしょうか!?」
「えー今回の議会にて、ハンターの増員等の対策を提案しましたが、ヴァンパイア被害の増加数、予算、憲法9条やヴァンパイアに対する人権問題等の事情に現状維持となりました、国民の皆様には再度夜間の外出の自粛をお願い致します……以上です。」
「国民にまだ不自由を強いるのですか!?」
「最早災害と言えるヴァンパイアに人権があると考える真意は何でしょうか!?」
「そもそもハンターの活動記録の開示はしないのでしょうか!?」

総理は何も答えない、その様子に当の国民は不満を持ちながらも異を唱えなかった。

「とりあえず偉いし言うこと聞いとけばイッカ」

そんな諦めとも楽観とも取れる気持ちが根付いてしまったからだ。

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記者会見の翌日、総理は日本のエースハンターの元を訪れていた。
だがその顔色は良いとは言えない、彼女にとって問題の一つであるからだ。

「……入りますよ。」
「ヒィィィ!おっ大原のオバ様!?」

蛇骨場静(じゃこつば しずか)
総理の親戚の子で伊賀忍者の末裔、ハンターの中でトップの剣術と討伐力を備えているが極度の恥ずかしがりやだったのだ。

「先日の会見は見ましたね?」
「ヒャイ……」
「ではもう分かりますね?まず貴方の活動記録を公表し、国民に対策していることを理解……
「イヤですゥゥゥ!そんなことをしたら目立ってしまいます!静は……静は恥ずかしくて死んでしまいますゥゥゥ!」

耳まで赤くなった顔を覆いワンワン泣きじゃくる静を見て、総理は最早頭を抑える事しか出来なかった。

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ハゴ 2022-03-19 22:19:40

まさか待ってくれるかたがおったとは……ありがたいことです。

今後も時間を見つけて書いていこうと思います。


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どどりあ 2021-11-11 11:38:06

続きが待ち遠しいです。


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