機械人形の話

ここではないどこか。
今ではないいつか。
荒廃した街がそこにはひろがっていた。
かつては空を切るほど高くそびえ建っていたであろうビルは、周辺の小さなビルやを潰して折れ、周囲に散乱した硝子が太陽の光を受け輝いている。
かつて小さな人間達がここで過ごしていたであろう公園は、鉄棒がさびつき、ブランコは鎖が切れて落ちている。
人間の気配は、感じることが出来ない。
遊ぶ人のいなくなったドールハウスのようだと、それは思った。
人形と家だけがあって、肝心の遊ぶ人間が居ないのだから。
崩れ朽ちた建物の周りに、鎖が切れたブランコにに、黒い花の塊がなければの話だか。
それは鎖の切れたブランコに、おそらく鎖が切れる前にブランコに乗っていたのであろう、他の者より小さな黒い花の塊の前に立つと、それは静かに祈りを捧げた。

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祈りを捧げるといっても、両手を合わせる、十字を切るというよな行動をしている訳では無い。それは、人間にはさまざまな祈り方があり、その祈り方はその人間の信じる神によって変わることが多いと、ソレは記憶しているからであった。そのため、この黒い花の塊の者が、どんな神を信じていたのか分からないため、ソレは、祈りを行動には出さず思考の中でこの者が今、あるいは過去、幸福でありますようにと思考している。

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静かに黒い花の塊を見るソレの外見は、少なくとも頭部は人間の形をしていた。くすんだ灰色の髪を短く伸ばし、男とも女ともつかない顔の下は、紛れもなく機械のそれであった。
汚れた白い生地に黄色いボタンが多く付いた軍服を着ていて、右手は人間と形は変わらないが、間接や骨組みがむき出しの機械の手で白い手袋をしている。左手は肘から下は5つの細い鉄の管がまとめられているような形をした銃(ガトリング砲)になっていた。
脚も右手と同じく間接や骨組みが出ていて、足先は鹿の足のような細い形だった。

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ソレは目の前の小さな黒い花の塊を抱き上げた。
その所作には、黒い花の塊に対する敬意がにじみ出ていた。ソレはその黒い花の塊を先程前いた朽ちたビルの間にもどった。
そこには沢山の黒い花の塊が、綺麗に並べられていた。ソレは、抱えていた者をそっと降ろした。
そして置いておいたガソリンを黒い花の塊達にかける。ソレは、もう一度祈りを捧げると、少し離れ左手のガトリング砲から1発弾丸を撃った。

ズガン

静かなそこに、銃声が響いた。
途端にガソリンに火がつき、黒い花の塊達が日に包まれる。
ソレは、黒い花の塊が燃え尽きるまでまた祈りを捧げる。
この葬式を行うことがソレの日常であった。

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XX年前、突如人類に黒い花の脅威が襲いかかった。黒い花は百合に似た形状の、人間の体に寄生し体内で育っていき、花に侵食されていく。やがて口から黒い花が咲く。その花は、最低で2メートル成長し、周囲のものをは破壊しつくす。これを【咲いた花】と言った。花は時間が経つとぱったりと活動を停止し、寄生者と縁のある場所に移動する。そして、肉体の水分を急激に吸い上げると、全身をびっしりと黒い花を咲かせ黒い花の塊となるのだ。この現象は、花にちなんで【花が枯れる】と呼ばれた。寄生経路の分からない上、見境なく襲ってくる黒い花に、人類は絶滅の危機に直面した。
そこで作られたのが機械人形であり、ソレもその一機であった。

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黒い花の塊が燃え尽きた時には、空が茜色になる頃だった。ソレは、スリープモードに入ろうと雨風のしのげ、崩れなさそうな建物を探した。少し歩くと、元は食品を売っていたのであろう。1階建ての小さな建物を見つけた。ソレは、そこに入ってすぐに座った。そのままスリープモードに移行する。もうこの土地では、咲いた花も、人間も存在しない。ソレは、もう8年は人の姿を見ていなかった。スリープモードに入る前にソレはいつも思考してしまう。人の姿を探してもう何年旅をしているのだろうかと。黒い花に侵された人間の死体を焼く毎日。これで、自分の存在意義を果たせているのだろうか。
機械人形の存在意義、役割は、

・黒い花を駆逐すること。
・人間の生命活動を守ること。

そしてーーーーー

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ガシャン

「!」

スリープモードを急いで解除する。
何かが倒れるような大きな音が店の奥から鳴った。建物が倒壊する可能性を危惧したソレは、聴覚のレベルを上げ、店の奥を探った。

「ふぅ」

聞こえたのは生物の呼吸音。
8年ぶりに聞いた・・・
ソレは、音の発生源へと走り出した。
食品の棚を潜り抜け大きな棚がいくつも倒れている場所に、いた。

少女だった。

病院服を着ている。
黒い髪は肩につかない程度に切られていて、右目は薄い青緑色だったが、本来左目があるはずの場所には黒い花の蕾が出ている。
黒い花が咲いている訳では無いようだった。暴れている様子もない。
ソレは、少女を見て黒い花の寄生潜伏期間だと診断した。

機械人形の役割、それはーー

・黒い花を駆逐すること。

・人間の生命活動を守ること。

・黒い花に寄生されているが、黒い花が咲いていない、寄生潜伏期間の患者を研究施設に連行すること

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