天空七百年
鐘の音が辺り一面に重く響き渡る。
始まりを告げる合図。
同時に家々の扉が一斉に開け放たれた。
すぐに住人達が表に飛び出す。
彼らの瞳は好奇心の輝きに満ちている。
誰も彼もが我先にと鐘がある方向へ走り出す。
これから起こる出来事が余程待ちきれないらしい。
ゴォン…ゴォン…
その野太い音は、寝坊助な少女の耳にまで潜り込んできた。
呻き声を漏らし、耳障りとばかりに寝返りを打つ。
彼女に追い討ちをかけるように、小さな家の戸が激しく叩かれた。
「リディア!起きて!」
少女を急かす怒鳴り声。
しかし心地よい眠りの世界に浸っている彼女には届かない。
「何してるの!早く!」
全く騒々しい。
このカナリアみたいに高い声はアッレーグラね。
親友の呼び声に心の中で悪態をつきながら毛布に顔を埋める。
だが次の瞬間、友が放った一言が少女を一気に現実に引き戻した。
「今日はディボータよ!」
少女リディアが必要最低限の身支度をして表に飛び出すと、親切な友のお出迎えに預かった。
不満と呆れの文句を無理やり呑み込んだようなへの字の口。
人一倍大きな橙色の目は、いつもに増してきつく吊り上がっている。
彼女の親友、アッレーグラだ。
「リディア!あんたの寝坊助には、天神様も呆れ果てて首をお振りになるに違いないわ!」
まだ乱れている呼吸を整えながら、リディアは言い返す余裕も無く素直に謝った。
「本当にごめんなさい」
アッレーグラと同じ橙色の目で上目遣いに彼女を見つめ、バツが悪そうに首をすくめてみせる。
「この通りだから、どうか許してね、メルローちゃん」
メルローというのは歌声が綺麗な鳥の名前。
また、街一番の喉自慢を誇るアッレーグラのあだ名でもある。
「もう!毎朝ちっとも懲りないんだから」
ブツブツとぼやいてはいるが、親友が気を良くしたことは明白だ。
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