鐘の音が辺り一面に重く響き渡る。
始まりを告げる合図。
同時に家々の扉が一斉に開け放たれた。
すぐに住人達が表に飛び出す。
彼らの瞳は好奇心の輝きに満ちている。
誰も彼もが我先にと鐘がある方向へ走り出す。
これから起こる出来事が余程待ちきれないらしい。
ゴォン…ゴォン…
その野太い音は、寝坊助な少女の耳にまで潜り込んできた。
呻き声を漏らし、耳障りとばかりに寝返りを打つ。
彼女に追い討ちをかけるように、小さな家の戸が激しく叩かれた。
「リディア!起きて!」
少女を急かす怒鳴り声。
しかし心地よい眠りの世界に浸っている彼女には届かない。
「何してるの!早く!」
全く騒々しい。
このカナリアみたいに高い声はアッレーグラね。
親友の呼び声に心の中で悪態をつきながら毛布に顔を埋める。
だが次の瞬間、友が放った一言が少女を一気に現実に引き戻した。
「今日はディボータよ!」