異世界イソップ物語

第一話 北風と太陽

 とある学院の放課後、一年生の首席二人が話していた。

 今年は例外で首席が二人いる。二人とも筆記、実技共に満点を叩き出したからだ。

 一人が話しかける。

「なぁ、俺の剣は誰よりも鋭く重い。この世で一番力があるのはこの俺だ。そうは思はないか?サンよ。」

 剣士ウィンドが魔術師サンに話しかける。

 サンは正直うんざりしていた。ウィンドは真っ直ぐで良きライバルだが、いかんせん力自慢が多すぎる。

 なので今日ばかりはいい返させてもらう。

 「確かに君は筋力のステータスが異常なまでに高いよ。でも、この世で一番ってことはないんじゃないか?」

 サンはウィンドが挑発に弱いのを知っている。ライバルとして、友人として暮らした故のことだ。

 案の定ウィンドがいい返してくる。

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「ならよぉ、勝負しようぜ。今から俺がお前に殴りかかるから受け止めてみろよ。」

 サンは落ち着いて返す。

「それは確かにいい案だけど、僕が簡単に死んでしまうよ。それよりも実践形式にしないか?近くの森に魔獣が出たと聞いているよ。それに討伐依頼も出てるしね。」

 実際、この体全てが筋肉でできているウィンドに殴られれば簡単に死ねる。冗談抜きでこいつの筋力は化け物だ。

「いいぜ、それで行こう。俺が先にやるから倒しちまったらごめんな。」

そう言って勝負することが決まった。

 ちなみに日程は明後日の休校日だ。

 そしてその日がやってきた。

 目的の山につき、程なくして目的の奴と対峙する。

 敵はクマの魔獣だ。身長は3メートル近くあるだろうか。器用に二足歩行で立っている。

「そんじゃあ、行ってくるぜ。身体強化」

そう言い残しウィンドが行ってしまった。

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 サンは木陰から様子を伺う。ウィンドが戦っている間に敵の弱点を探るためだ。一応調べてはきたが信用はしていない。

 一方ウィンドはバフを三重に重ね、剣にお得意の風属性を纏わせ切りかかっている。

 常人の目には止まらぬ速さと、剣筋の鋭さ、それでいて流そうにも触れただけで骨が折れそうになる、というか折れてしまうような重い一撃を連続で放っている。

 一瞬で勝負が決まると思っていた。少なくともウィンドは。

 しかしこの熊は倒れない。ダメージがまるで通っていないのだ。

 それもそのはず、この熊、防御力が高いだけでなく見た目の割りに早いのだ。

 ステータスで言えば防御とスピードに振られていて、攻撃面はあまり高くない。しかしその巨体のおかげでカバーされている。

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故に一対一では勇者には勝らないが善戦ができるほどの強敵だ。

 しかしこの熊には最大の弱点があり、それは脳の処理スピードが異様に遅いのだ。
 
 なので、パーティを組めば、そこそこの冒険者は倒せる。

 そうして、2時間が過ぎた。ウィンドが目に見えて疲弊している。

 それに対し熊はまだ元気だ。そのことに気づいたウィンドは渾身の一撃を囮にしてサンの元へと戻ってきた。

「さ、さん、俺には無理だ。俺もだいぶ強くなったと思っていたが、それは自惚れていただけらしい。もしサンが倒したら俺は潔く負けを認め、サンが倒せなかったら二人でやるぞ。」

 サンは分かったよと軽く返し熊と対峙する。

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 おおよそ勝算はついている。

 そこからは流れるような討伐劇だった。

 まず、力では勝てないことを確信したサンは地面に土魔法で罠を作り距離を取る。 
 
 そして、火球を適度に撃ち、挑発する。熊は素直に突っ込んで来、見事罠にはまった。

 その後、氷魔法で手を凍てつかせ、拘束する。

 そしてとどめにウィンドの使っていた剣で鼻を刺し、捻る。

 すると熊は、痛みと身動きが取れないという状態からパニックになり、そのタイミングを逃さず核を貫いた。

 ちなみにサンは全てウィンドが使える魔法しか使っていない。

 見事熊を倒し戻ってきたサンに対しウィンドは声をかける。

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