ハッピーエンド

とうとう、かぐや姫のもとに、月からのお迎えがやって来ました。

警護の人々は、何故か力が抜けてしまい、かぐや姫を守ることはできません。おじいさんとおばあさんは悲しみにくれました。

かぐや姫が月の人の持つ薬を飲もうとしたその時でした。

何処からか若草色の風変わりな服を着た少女が颯爽と姿を現し、かぐや姫に近づいていた月の人々を力づくで跳ね飛ばしましました。さらに警護の人々が持っていた弓を拾って追撃し、月へ追い返してしまいました。

こうして月からのお迎えを追い返すことが出来たかぐや姫は、おじいさんやおばあさんと、末永く平和に暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。

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「また物語が改変されている……これで200冊目だぞ」

アイリスは頭を抱える。『世界図書館』の本に、最近出現し始めた『とある少女』のせいで、彼女の睡眠時間は削られていた。

『世界図書館』は文字通り世界中に存在する全ての物語を管理する地下施設である。そして彼女、アイリス・リフレインは世界図書館の司書というわけだ。

「また『彼』に何とかしてもらうしか無いな」

彼女は、表紙に『ゆうしゃのだいぼうけん』と書かれた一冊の本を開く。ただの絵本のような見た目だが、これは物語の不正な改変に対する対抗策として、かねてからこの図書館が所有する『校閲システム』である。

「この物語に奴が出た。早急に対処してくれ」

アイリスは、本のページを開くと、中央に写っている青髪の青年のイラストにこう語り掛けた。

「了解しました、マスター」

彼はそう言うとたちまち姿を消した。

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理不尽な“終わり”など許さない。

少女は杖をにぎりしめ、目の前に現れた青年と対峙する。

「お前をこの物語から排除する」

ファンタジーの勇者のような格好の青年は腰の剣を抜いた。平安時代の日本の森に、異様な空気が漂う。

「またあなたですか。何度も言っているじゃないですか。彼女―かぐや姫は月に帰されて、幸せを奪われてしまうんです。私はそれを止めただけ。彼女らの幸せのためにやっただけ」

「それが彼女らの正しい結末だ。それを無理に改変することは世界を根本からねじ曲げることになる」

「世界……ここも同じ“世界”ですよ」

杖から稲光が放たれた。魔法少女として生み出された彼女の得意技だ。閃光が青年の頬を掠める。

「本当はあなたも分かっているんでしょう?私たちの知り得ない“何か”のせいで、この世界の彼らが強制的に不幸にさせられていると」

少女は続けて魔法を放った。

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「……分からないな。俺は正しい結末を、秩序ある世界を守る。そのために生み出されたのだから。そこに理不尽もあるものか。俺はその使命を全うするだけだ」

青年は少女の攻撃を何とか避けつつ、焼けただれた彼女の左膝を狙い続ける。彼女のいた物語を読みこんでいるので、得意技や弱点は把握済みだ。

「大人しくこの世界から出ていけ、『運命』の魔法少女」

「その名で呼ばないでください」

『運命』の魔法少女は膝を庇いながら青年の首筋に炎の渦を巻き付けた。青年は微かに呻き声を上げて後ずさる。

しかし直後、青年の体が前のめりになったかと思うと、鋭い脚で少女の目前に詰め寄った。

「魔法少女クリミネ・レジスティア。お前をこの物語から排除する」

勇者は、剣を振り下ろした。

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たとえ、無駄な抵抗でも。

たとえ、結末が決まっていても。

私達はこの世界で、“生きている”。

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