平和にニートしていた僕を狂わせた、窓から見えたアレ

ああ、今日も最低な一日の始まりだ
今日でニート歴1年
履歴書にニート1年って書けるな
まあでもここで「履歴書」なんて言葉が脳裏に浮かぶ時点で俺はまだ完全なニートとは呼べないとも言えるな

窓を開ける
ニートの中には太陽光アレルギーの奴もいるらしいが、俺は違う
毎朝(週5回は12時前には起きるようにしている、偉い)起きてまず最初にすることは窓を開けることだ
太陽も、風も、外の喧騒も気持ちがいい
家の外など恐るるに足りない。なぜなら部屋という聖域【Sanctuary】に守られているからだ
窓を開けたからといって聖域【Sanctuary】の神聖さは失われない
朝(12時前)には起きる・外を必要以上に恐れない
このふたつの点において俺は他のニートたちと一線を画すと言えるな

この窓からはたくさんの日常が見える
今日は日曜か
子連れの家族、カップル、老人、子供たち


ん?『アレ』はなんだ……?

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最初は何の変哲もない、お揃いの黒いパーカーを着たカップルだと思ったのだ
問題は、そのパーカーの背中にデカデカと書かれたシンプルながら目に入る白い文字

    アレ@ 
   Sanctuary
MARUGAYA COOP 405

マルガヤコーポ 405号室は、俺の部屋の番号だ
それ以外にも小さい文字が書かれているように見えた。まさか住所じゃないよな?

・・・いやいや、ありえないって!
「働いたら負け」「テイキョウ・ヘイセイ・ダイガク」とか、そういう文字Tなら俺も持ってるけど、アニメの聖地でも何でもない俺の部屋がどうしてプリントされてる?
頭を抱えたその時だった

ピンポーン

ドアの呼び鈴が鳴り、「荷物置いときますねー」という若い男の声が響く。置き配だ
今日届くような注文はしていない
ドアを開くと、某通販サイトの箱が置かれている
品名は、「衣料品」だった

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疑わしきは身内

電子印字された伝票に差出人の名前はないが、宛名には正しく俺の名前が書かれていた
俺はすぐさま部屋に荷物を運びこみ、ガムテープを乱暴にむしり取った
中身は案の定、あのカップルが着ていた俺の住所の書かれた黒のパーカーだった
上質なスウェット地のフルジップパーカーで、ゴシックな「アレ@」の記号が胸元にちょこんとついている
何も知らなければ手にとって買う人間がいるのも納得出来るぞ、こんなの・・・

もう一度、窓から外を見る
ロードバイクに乗った若い男の背中にも、確かに同じ「アレ@」以下の文字があった

まさか、そこそこ売れてるのか・・・?
悪戯だとすればタチが悪すぎるが、やりかねない人間の心当たりは悲しくも、ある
連絡は取りたくない。嫌すぎて発狂しそうだ。いっそ無視してやろうか
俺はスマホを手に取り悩みながらも、『容疑者』とのLINEにメッセージを書く
後は送るだけだ……

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「住所パーカーってw」

そう書いたメッセージに、すぐさま既読がつく
『容疑者』こと郁美ちゃんも、俺と競る程の暇人なのだ

俺が1年前にブラック企業を退職し、今は貯金でニート生活をしていることも、
都心からこの聖域【Sanctuary】に引っ越したことも、家族は知らない

友人付き合いもなく、職場でも浮いていた俺のスマホにある連絡先と言えば、
遠い親戚であり、元雇用主の『湯ノ花郁美』だけだった

それは、聖域【Sanctuary】に越してすぐの頃だった
部屋の外との繋がりを一切絶つべきか?死ぬまで貯金は持つのか?
という邪念が、俺をバイトに走らせた
近辺で怪しい画廊を営んでいる優しい彼女は、
何も聞かずにバイトとして俺を迎え入れてくれた
(結局興味のない絵に嫌気がさして1月と経たずに辞めてしまった)

そう、俺が住所を役所と不動産屋以外に提出したのは、
あの時便宜上書いた履歴書だけなのだ

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