お嫁さんにしたいコンテスト1位の後輩と遭難した

「先輩、起きてください先輩」
 朝日さんの優しい呼びかけによって、俺の意識は覚醒した。
 目を開けると、すぐ近くに朝日さんの美しい顔があった。彼女は高校の文化祭で行われた『お嫁さんにしたいコンテスト』で1位だった超絶美少女なので、思わず照れる。
 朝日さんは心配そうに俺の顔を覗き込んでおり、その背後には雲一つない青空が広がっている。
「――えっ? なんで外?」
 驚いて体を起こしてみると、なぜか俺は砂浜に倒れていた。

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「なんでこんなところに……?」
「覚えていないんですか? わたしたち、飛行機で最推しのライブに向かっていたんです。でも墜落してしまって……」
 朝日さんにそう言われて、俺の記憶が蘇ってきた。
 飛行中に突然爆発音が聞こえ、機内がパニックになり、徐々に高度が下がっていって……。
「他の乗客は? 飛行機はどうなったんだ?」
「わかりません。わたしも今、ここで目が覚めたばかりなので。……たださっき、飛行機の残骸のようなものが海に浮かんでいるのを見ました」
「飛行機が大破して、俺たちは機外に投げ出され、この島に流れ着いたって感じか。助かったのは奇跡だな」

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「それで、ここはどこなんだ?」
「わたしにもわかりません。どこかの島のようですけど……」
 俺はポケットからスマホを取り出したが、電源は入らず、画面は暗いままだ。海に落ちた時に壊れてしまったようだ。
「わたしのスマホも壊れちゃったみたいです」
「つまり、俺たちは遭難したってことか」
「みたいですね……」
「ひとまず、この島のことを調べよう」
「了解です」
 俺たちは立ち上がり、海岸沿いを歩きはじめた。
 すると、漂着地点からしばらく歩いたところで、ある物を発見した。それは――。

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巨大なタマゴ?だった。
子供の頃に大好きだった某怪獣映画に出てくるタマゴを彷彿とさせるような大きさだった。
「先輩は目玉焼きと卵焼きとエッグ・ベネディクトのどれが好きですか?」
目を輝かせた朝日さんが俺の方に振り返った。
「え!?食べる気なの!?てかエッグ・ベネディクト作れるの!?」
俺の驚きを全く意に介さない彼女はどんどん想像を膨らませていく。
「まずはあのタマゴは入るお鍋を見つけないといけないですね・・・」
「いや、まずは本当にタマゴかどうかも確かめないと!怪しすぎるだろ!」
俺の一言にようやく現実に戻ってきた朝日さんとタマゴを調べることにした。
そのタマゴは――

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 全長2メートルくらいあるが、どうやら本物の卵のようだ。
 人間より大きな卵があるなんて、信じられない……。
 表面を叩いてみるが、殻は硬くて、簡単には割れそうにない。
「これだけ大きい卵で目玉焼きを作ったら、世界記録になりそうですよね」
 朝日さんはそんな呑気なことを言って笑う。
「でも今は調理器具がありませんし、生で食べるしかないですかね?」
「腹を壊しそうだな……」
 そもそも、これは何の卵なのだろうか?
 明らかにヤバい生物が出てきそうだが、食料になる可能性を考えると、無視して進むわけにもいかない。
 俺たちは今、遭難中なのだから。
 とはいえこの卵、どうすればいいのだろうか――。

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「そうだ! 卵を調理できないなら、中身を調理すればいいんですよ!」
「――ん? どういうこと?」
「わたしたちがこの卵を温めて孵化させるんです。そして、産まれた動物を食べましょう!」
卵の調理を諦めた朝日さんがとんでもないことを言い出した。
確かに、大きい卵より大きい動物の方が調理する余地はありそうだが、それはそれで無謀な案としか思えない。
だが、俺が突っ込みを入れる間もなく、朝日さんは既に卵に抱きついている。
え? 自分の体より大きい卵を自分の体で温めるのって無理じゃない?
「先輩も早く温めてください。卵とは言え、今のうちに子供を育てる経験をしておくのはいいことですよ」
「いや、その理屈だと俺たちは自分の子供を食べることになるぞ。食べるために子供を育てるってどういう親――」
――待てよ。よく考えたら、卵があるということはその卵を産んだ親がいて、2メートルくらいの卵を産む親って――。

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「朝日さん、こんなことをしている場合じゃない。今気付いたんだが、こんな卵を産む親も相当な大きさのはずだ」
「――確かに、その通りです。悠長に卵を温めている場合じゃないですね」
「だろ? 親が戻って来る前に、一刻も早く遠くへ――」
「一刻も早く、親を捕獲するための罠を作りましょう! 巨大な卵を産む巨大な動物、きっとかなりの食べ応えがあります!」
「捕獲!? 逃げないの!?」
まずい。朝日さんの食に対する執念を甘く見ていた。
親が戻って来たら、俺たちは食料にありつく前に、巨大生物の食料になってしまうかもしれない。
「どんなに大きくても所詮は動物です。知恵を持つ人間の手で、けちょんけちょんにしてやりますよ」
どうしよう。朝日さんの発言に知恵を全く感じられない。
そもそも、罠を作ったところで、ただの高校生にどうにかできる生物が現れるとは思えないぞ。
早く朝日さんを説得して、ここから離れないと――。

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 だが次の瞬間、急に空が暗くなったかと思うと、頭上から強風が吹き下ろしてきた。
 空を見上げると、巨大なドラゴンが羽ばたきながら降下してきている。
 おそらく、この卵の親だろう。
 ――あっ、終わった。
 恐怖のあまり、その場から動けない。卵に抱きついている朝日さんも同様のようだ。
 やがて地面に降り立ったドラゴンは、俺たちを注視しながら巨大な口を開く。

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「――えっ? 何? 私の卵、温めてくれてるの? 超いい子じゃーん!」
 卵に抱きついている朝日さんに向かって、ドラゴンが嬉しそうに言った。
 ……よくわからないが、ものすごく都合がいい勘違いをしてくれているようだ。
 卵を温めているのは事実なのだが、俺たちは産まれた子どもを捕食する予定だったし、何なら親も罠にはめて食べるつもりだったのだが――。
「とんでもないです! 困った時はお互い様ですから!」
 朝日さんは全力でごまかした。
 とりあえず、命は助かったようだ。
 しかも、このドラゴンには日本語が通じるようだ。
 色々と聞きたいことがあるのだが、まずは何から質問しようか――。

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ドラゴンなんて常識外れの存在を目の当たりにしてるのに、俺の「嗅覚」が反応している。
朝日さんも同様のようで、2人は示し合わせることもなく同じ質問を口にした。
「「好きな声優は誰ですか?」」
「――!!!」
その瞬間、ドラゴンの目はカッと見開き、圧倒的なオーラを放ちながら口を開いた。
「男性声優なら武内〇輔!あの低音ボイスが堪らないわぁ!」
「でも私、女性声優が大好きなの!透き通るような癒しの声の早見〇織、どんな役もこなす天才、種﨑敦〇!独特の世界が魅力の芝〇典子や、圧倒的美貌とハンバーグ事件のギャップ、逢田梨〇子!猛虎魂満載の渡部〇衣も大好き!」
ドラゴンは早口でまくし立てていく!
「でも一番好きなのは女神、神崎真桜!!」
(( このドラゴン……同類(オタク)だ――!!! ))
これはドラゴンと友好を深める絶好のチャンスでは!?
「俺達も神崎真桜の大ファンなんです!」
するとドラゴンは――

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 神崎真桜さんの魅力について早口で語り出した。
 それを聞きながら俺は、明らかにここは異世界なのだが、ドラゴンが声優さんのことを知っているのはおかしいので、たぶん夢を見ているんだなと思った。
 というわけで、ここからは、これが俺の明晰夢だという前提で行動していこう。
 さて、まずは何をしようか――。

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 でも一応、変な事をする前に確認する。

「これは俺の夢?」

「いいえ現実」

 ドラゴンは答えた。

「でもドラゴンが声優に詳しいのは変。どうやって知ったの?」

「だってこの島Wi-Fi飛んでるし」

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 ドラゴンはそう言いながらスマホを取り出し、画面を見せてきた。たしかに電波状況は良いようだ。
 それは大画面スマホなのだが、巨大なドラゴンが持っているせいでゴマ粒みたいだ。
「なんでドラゴンがスマホを……」
「私、ただのドラゴンじゃなくて竜人族だから、人間の姿になれるんだよね。気が向いた時に人間の世界に遊びに行っているの。このスマホはバイトして買ったんだよ~」
「バイトしたんだ……」
「信じられないなら、人間の姿になって見せようか?」
 言うが早いか、ドラゴンの体が光り始めた――。

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光が収まると、そこにはグラマラスな美女が蠱惑的なポーズを取りながら立っていた。
肌は褐色、出るとこは出ていて引っ込むべきところは引っ込んでいる。
人間で言えば20台後半くらいだろうか?胸元を強調するような服と相まって、とてもけしからんオネーサンの姿となっていた。

「どう?リン〇フィットアドベンチャーで鍛えた自慢のボディ♡は? バイト先でも評判いいのよー」

俺達二人が呆然と立ちつくしていると、

「この先の森に綺麗な泉があるわ。2人とも海風に当たって体がベトベトでしょ?」
「日本人が腹を割って話すには裸の付き合いが1番ってゆーし、みんなで汗を流して語り合いましょう!」

そう言うとドラゴンは俺と朝日さんの手を引いて森の奥に連れていこうとする。
すると朝日さんが――。

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「本当に裸の付き合いをするんですか……?」
 そう言って俺を睨んできた。
「いや、そんなつもりは毛頭ないんだけど――」
 ドラゴンは握力が強く、俺の意志とは関係なく引っ張られていくしかないのだ。
 やがて泉に到着すると、ドラゴンは俺たちを解放し、一気に服を脱いだ。
 一糸まとわぬ姿になって水浴びするドラゴンを、思わず凝視してしまう。
 す、すごい……!!
「ガン見しないでくださいっ!!」
 朝日さんは怒声を上げたかと思うと、俺の背後に回り、両手で目を覆ってきた。
 朝日さんと体が密着し、背中には豊満な胸に押し当てられる。
 視界を奪われてしまったが、これはこれで幸せだ。
「ほら! 2人も裸になりなよ!」
 ドラゴンが呼びかけてきた。普通だったら拒否する場面だが、今後のことを考えるとドラゴンと仲良くなっておきたいので、無下にはできない。
 果たしてどう返答すればいいのか――。

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「朝日さん、俺はずっと目を瞑ってるから、ここはドラゴンの言う通りにしよう」
「嘘です!今だって私が目を覆ってるのに、薄目開けてるじゃないですか!」

朝日さんがさらに強く目を隠そうとしてくるので、胸がより押し付けられて大変なことになる

「俺達が無事に帰る為にはあのドラゴンに協力してもらうのが1番だと思うんだ。決してやましい気持ちはないから信じて欲しい!」
「ダメです!ダメったらダメなんです!」

朝日さんはどうしてこんなに頑なになってるんだろう?

すると俺たちのやり取りをクスクスと笑いながら見ていたドラゴンが――。

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「竜人族からの水浴びの誘いを断った場合、敵対の意思があると見なされるんだけど、大丈夫? 私がその気になったら、君たちなんか一瞬で消し炭にできるんだよ?」
 そんな恐ろしいことを言ってきた。
 水浴びを断ったら戦争が始まるって、どんな価値観だよ。
「ど、どうする朝日さん……水浴びしないという選択肢はなくなったみたいだけど……」
「先輩に裸を見られるくらいなら、死んだ方がマシです」
「そんなことを言っている場合じゃないだろ。早く服を脱いで水浴びをしよう」
「うううううっ……どうしてこんなことに……」
「とりあえず、水浴びをしている間は、お互いにずっと目を瞑っておこう」
「わ、わかりました……」
 こうして俺と朝日さんは、背中合わせになって服を脱ぎ始めたのだった――。

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かぽーん……

お風呂に入っているわけではないが、そんな擬音が頭に響いてくる。いや、無理にでも響かせる。

「わぁお!あなた、とってもスタイルがいいのね!お肌もスベスベのモチモチ!」
「ちょっとドラゴンさん! どこ触ってるんですか! あっ…… ダ、ダメです!」

泉の水が、俺の頭に冷静さを与えてくれる。そう、目の前で繰り広げられているエデンの光景を目に焼き付けたい誘惑に負けるわけにはいかないのだ。

「先輩!絶対目を閉じてて下さ……ひゃあ!!」
「ところで、あなた達はどうやってこの島に来たの?普通は来れないわよ?」
「そ、それは飛行機が……きゃ!!……んっっ♡」

落ち着け、こういう時どうすれば……
そ、そうだ!素数だ!素数を数えるんだ!!!

「ええ!?推しのライブに行く途中で飛行機が墜落して遭難した!?」

すると驚いたドラゴンは――。

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「こんなところで水浴びをしている場合じゃないでしょ! 早くライブ会場に向かわないと!」
「水浴びは他ならぬドラゴンさんに強制されたんですが……」
 朝日さんはそんなツッコミを入れた。
「そもそも、今から会場に向かっても間に合いませんよ。わたしたちがライブに向かっていたのは、たぶん昨日のことなので」
「そう……残念ね」
「命が助かっただけラッキーだったと考えるしかないです。それより、他の乗客の安否が心配です」
「いい子ね。それじゃあ水浴びは終わりにして、海岸に戻りましょうか」
 こうして俺たちは泉を出ることになったのだが、そこで重大な問題に直面した。
 目を瞑ったまま服を着るのは至難の業であることに気づいたのだ。
 そもそも、脱いだ服が今どこにあるのかすらわからない――。

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「服は目を閉じながら探してください」
「こっちも向かない!いいですね!」
俺の気持ちを覗き見たように朝日さんが無理めなお願いを言ってきた。

「えっ!そんなこと言ったって」
と言いながらも俺は中腰になり、手探りで服を探し始める。雑草を掻き分けながら服を探す。しばらくしてやっと、明らかに植物ではない布製の感触が指にあった。
「やった!見つけた!」
とすぐに手に取り、身につけようとする。
そこで、異変に気がついた。

この男物の下着には存在しない独特のツルツル感。
THE嫌な予感。

ブラだ。
よりにもよって俺はブラジャーを持っている。

「それだけはダメです!」
人には目を閉じろと言っていた朝日さんが目を全開にして俺を捕捉し、引っ叩いてきた。

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 思わず俺も目を開けてしまったのだが、そこにはあられもない姿の朝日さんが立っていた。すぐに目を逸らす。
 朝日さんは悲鳴を上げ、俺からブラジャーを引ったくった後、近くにいるドラゴンの背後に隠れた。
「ちょっと先輩! なんで目を開けるんですか!」
「いや、いきなり殴られたら目を開けるに決まっているだろうが。ていうか朝日さんも目を開けていたよね?」
「わたしは薄目を開けて地面だけを見るようにしていたんです。そしたら先輩がわたしの服を持っていったから……」
「俺は朝日さんの要求通り目を開けずに服を探していたんだから、間違えても仕方ないだろ」
「……たしかにそうですね。……わたしの服を持っていったことは不問にします」
 朝日さんは不満そうにしながらも、そう結論づけた。
 かと思うと、弱々しい声でこんな質問をしてくる。
「……ところで先輩。今、見ましたか……?」

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「見てない!絶対に見てない!」
俺は食い気味に否定した。

「良かったです。」
「私、実はお腹に大きな傷跡があって、コンプレックスがあるのであんまり人に見られたくないんですよ…」
朝日さんが伏し目がちに言った。

「え?そんな風に見えなかったけどな、普通に綺麗なお腹だったけどね」
見るからにスベスベしている本当に綺麗なお腹だった。

「やっぱり見てるじゃないですか!」
「傷跡の話は嘘です!」

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「くっ……罠だったか……!!」
「先輩、なんで嘘をついたんですか」
「それは…………もちろん、朝日さんを傷つけないためだよ」
「むぅ……そう言われたら怒れないじゃないですか」
 ドラゴンの背後で手早く服を着終えた朝日さんが、複雑そうにつぶやいた。
 かと思うと、朝日さんは両手で自分の目を覆う。
「……それに、わたしも先輩の裸を見てしまったわけですし……」
「――あっ!!」
 あまりのことで失念していたが、今の俺は全裸だった……。
 顔から火が出るほど恥ずかしい……。
 こうして、ものすごく気まずい雰囲気の中、俺と朝日さんは服を着終えた。
 水浴びによって親密度が増したと思われるドラゴンと一緒に、最初の海岸に戻る。

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さて、そろそろ本気で帰ることを考えないとな。
俺はそう決意し、ドラゴンに向き合った。
「なあ、人間の世界でバイトしてるって言ってたけど、やっぱり空を飛んで人間の世界まで行ってるのか?」
「もちろんそうだよ。ここからなら、一時間もあれば日本まで行けるかな」
よし、それなら俺が次に言うことは一つしかない。
「じゃあ、俺たちを背中に乗せて日本まで連れてってもらえないだろうか?」
「うーん、私は別に構わないんだけど、免許持ってないんだよね。それでもいい?」
「……免許って、何の?」
「生き物を背中に乗せて飛ぶ免許」
「免許いるの!?」
「いるよ! 結構スピードが出るから、背中の生き物を落とさないで飛ぶのは大変なんだよ!」
マジか……。しかも、ドラゴンの口振りからすると、本当に落とされる可能性も高そうだ。
だが、他に帰る方法が無いのも事実だし、ここは覚悟を決めるしかないのか――。

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「飛んでいる最中に振り落とされないよう、わたしたちの体をドラゴンさんの体にヒモで固定するというのはどうでしょうか?」
「いいと思うよ!」
 朝日さんの提案をドラゴンが了承したので、俺たちはヒモを準備することになった。
 森にあるツタをなるべく長めに切って葉を落とし、数本をまとめてねじった後で固定する。
 試しに引っ張ってみるが、全然ちぎれない丈夫なヒモが完成した。
 出来上がったヒモをドラゴンの体に巻きつけた後、俺と朝日さんが乗る。
 必然的に朝日さんと密着することになり、背中にやわらかい感触が押しつけられた。
「準備オッケーです! それじゃあドラゴンさん、お願いします!」
 朝日さんが元気に言った直後、ドラゴンの体が浮かび上がった。

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「――先輩、先輩!」
朝日さんの声にハッとした俺は、自分が空港に立っていることに気付いた。
ふと時計に目をやると、今は推しのライブが始まる数時間前だ。
「あれ? ここは空港? さっきまでドラゴンの背中に乗って空を飛んでなかった?」
「先輩、何わけの分からないことを言ってるんですか? …と言いたいところなんですが、私も同じことを考えてたんですよね」
「朝日さんもか。でも、ドラゴンなんているわけないし、二人で同じ夢を見ていたのかなあ」
「二人で同じ夢を、しかも立ったまま見るなんておかしな話ですが、そう考えるしかなさそうですね。それより、早くライブ会場に行きましょう! この日をずっと楽しみにしてたんですから!」
「そうだな。ライブの前に物販も見たいし、行こうか!」
そうしてライブ会場に向かおうと歩き出した時――。
「ライブ、楽しんで来てね!」
群衆の中から、夢の中で聞いた声が聞こえた気がした。

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「――大翔お兄ちゃん、朝だよ。早く起きないと遅刻しちゃうよ」
 スマホから発せられた最推しの目覚ましボイスで、俺は目が覚めた。
 当然のように、そこは自室のベッドの上である。
 ……変な夢を見た。
 冷静に思い返してみると、ツッコミどころ満載な夢だった。
 そもそも俺、優衣奈のことを「朝日さん」って呼んでいた頃に、2人で飛行機に乗ったりしていないし。
 思わず苦笑しながら、横で眠る優衣奈の頬に触れる。俺のお嫁さんは今日も可愛い。
 もしかしたらこれも夢かもしれないから、この感触をたっぷり楽しんでおこう。

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