春の夜の夢
あなたに会いに来たの。
あなたはもう憶えていないかもしれないけれど、私は憶えている。
春の花畑で出会った思い出は、今も色あせずに残っている。
また会いましょう。そう言って別れた。
だから、会いに行こうと思ったの。
かならず、私はあなたのもとへ。
私はアルメル、あなたの名前は?
僕の名前はノエル。
今日、十二月二十五日、クリスマスが誕生日なんだけど——祝ってくれるひとはいない。両親とも仕事で夜遅くまで帰ってこないし、冬休み中だから友達の誰とも会っていない。
独り、寂しいクリスマスは、特にやることもない。さっさと寝て、明日両親からの誕生日プレゼントがあることに期待するしかない今、僕は——。
自室の窓に、小さな銀色の蝶が止まっていた。
何だろう、と僕は近づき、そっと手を伸ばす。開いていない窓の内側に、いつの間にか入り込んできた季節外れの蝶。この寒空の下に追い出すことは、はばかられた。
僕は、蝶を手のひらに乗せて、暖かいオイルヒーターの横に行こうとした。
すると、銀色の蝶の鱗粉が目に入った。僕は思わず、蝶を乗せていないほうの手で両目を擦る。
目を開けた僕の前には——。
そこに現れたのは、ひとりの少女だった。月光を受けて銀色に輝く長い髪、長い睫毛、赤い瞳に、寒々しい銀色のドレスを身に纏っている。
僕は後ずさって、少女をまじまじと見つめていた。
少女は、口を開く。
「ノエル」
僕の名を呼んだ少女は、僕の手を握りしめて、微笑んだ。
とても儚い、弱々しい微笑みに、僕は胸が締めつけられる。どうしていいか分からない僕へ、少女はこう言った。
「あなたに会いに来たの。お誕生日、おめでとう」
「あ、ありがとう……君は? どこかで、会ったことが」
そこまで言って、唐突に、僕は思い出した。
あれは、十年近く前のことだ。
僕は町外れの花畑で、ひとり遊んでいた。友達もいなかったし、何より僕は病弱で、かけっこも何もできなかった。女の子のように、花畑で花を摘んで、花冠を作っていたのだ。
そこへ、ひとりの少女が現れた。僕と同い年くらいの、不思議な銀色の髪の少女だ。
僕はたった一度だけだったけど、その少女と仲良くなり、遊んだ。少女はとてもおしとやかで、微笑んだ顔はとても可愛くて、僕はそんな少女が大好きになった。
日が暮れて、僕が帰らなきゃいけないと言うと、少女は悲しそうだった。
でも、僕は確か、約束した。
また会おう、って。
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