女子更衣室に隠れていたら大変なことに
「かくれんぼしよう! 一番最初に見つかった人は罰ゲームね!」
ある日の放課後の教室。
友達4人で話していると、突然太郎くんがそんなことを言い出した。
「罰ゲームって、何をやるの?」
「火あぶりの刑!」
割とキツめの内容だった。
魔女狩りかよ。
中世ヨーロッパかよ。
「それじゃあ隠れて! 100秒たったら探しに行くから!」
「太郎くん、100まで数えられるの? すごーい!」
智也くんが驚いたような声を出した。
いや、高校2年生なんだから、当たり前だろ……。
「よーい、スタート!」
こうして、僕たちはまだやると言っていないのに、かくれんぼが始まってしまった。
太郎くんはこういう強引なところがある。
燃やされるのは絶対に嫌なので、僕はなるべく見つからない場所に向かうことにした。
隠れるなら女子更衣室か、女子トイレだな。
いや、待てよ。放課後でも、女子トイレだと誰かが使用中の可能性がある。
しかしこの時間なら、女子更衣室を使っている人はいないだろう。
運動部はみんな、部室で着替えるからな。
こうして僕は中庭にある無人の女子更衣室に駆け込み、ロッカーに隠れた。
ロッカーにはちょうど僕の目の高さに通気のための穴が空いており、そこから外の様子がうかがえる。
僕は息を殺して、他の誰かが見つかるのを待つ。
すると、ロッカーに隠れてから5分ほどがたったところで、更衣室のドアが開いた。
室内に入ってきたのは――。
学校1の美女と名高い生徒会長だった。
ジャージ姿の生徒会長は、ちょうど僕が隠れているロッカーの前に立った。
そして、ジャージの上を脱ぎ始める。
まさか、生徒会長の着替えシーンを見ることになるなんて……。
狭い隙間から、ジャージを脱ぎ捨てていく生徒会長をガン見する。
生徒会長はTシャツ姿になった後、すぐにズボンを下ろしてしまった。
しかし、生徒会長はジャージの下にスパッツを穿いていて、下着は見えなかった。
拍子抜けである。
……あれ?
何かがおかしいぞ。
制服を着始めた生徒会長を見て、僕は違和感を覚えた。
……なんだ? 一体何がおかしいんだ?
着替え途中の生徒会長の体を上から下まで凝視した僕は、やがて違和感の正体に気がついた。
生徒会長の股間が、不自然に膨らんでいるんだ。
でも、一体なぜ……?
そんな疑問を抱いている間に、生徒会長は制服に着替え終わった。
『ピリリリリリリ!』
そこで不意に、ロッカー内で僕のスマホの着信音が鳴り響いた。
しまった!! マナーモードにするのを忘れていた!!
「――誰だっ!」
生徒会長は、勢いよくロッカーを開けた。
「貴様、覗きとはいい度胸だな……!!」
僕の姿を認めた生徒会長が、こちらを睨みつけてくる。
「ち、違うんです! 僕は――」
「問答無用! 法の裁きを受けさせてやる!」
「待ってください生徒会長! 僕はあなたの秘密を知ってしまったんですよ!?」
「っ!? なっ、なんだと……!?」
「あなたが、本当は男だということを」
「もしこの件を大事にするなら、僕はあなたの秘密を暴露しなければなりません」
「……私を脅すというのか?」
「脅すなんて、滅相もない。ただ、取引をしようと言っているんですよ」
「…………」
生徒会長はしばらく黙り込んだ。黙考しているようだ。
やがて、考えがまとまったらしく、口を開く。
「ダメだ。たとえ私の秘密がバレたとしても、覗きなんていう卑劣な犯罪を見逃すわけにはいかない」
「待ってください! 誤解なんです!」
「何が誤解だって言うんだ」
「生徒会長と僕は、真逆なんです!」
「……真逆?」
「僕は男子生徒としてこの高校に通っていますが、本当は女なんです!」
「……はっ?」
「……信用できない」
生徒会長は僕の胸部と下半身に視線を向けた後、そう結論づけた。
「本当なんですって! お願いだから見逃してください! 僕は女だとバレるわけにはいかないんです!」
「……じゃあ、証拠を見せてみろ」
「――えっ?」
「私の着替えを見たんだ。貴様も私の目の前で、服を脱いでみろ」
「そ、それは……」
「嫌だと言うなら、貴様が女子更衣室に潜んでいたことを、教職員に報告させてもらう」
「くぅっ……!!」
こうして僕は、生徒会長の前で制服を脱ぐことになった。
「……上だけでいいですよね?」
「ダメだ。胸が少し膨らんでいる男もいるだろう」
「……じゃあどうすればいいんですか」
「男か女か、一目でわかる部分があるだろう」
生徒会長は、勝ち誇ったような表情で僕を見た。
そんな……。
「さぁ、早くしろ」
「で、でも……」
「自分で脱ぐのが無理なら、私が脱がせてやろうか?」
生徒会長はそう言って、僕のズボンに向かって手を伸ばしてきた。
「――い、嫌ですっ!!」
僕は悲鳴を上げ、生徒会長の横をすり抜けて、女子更衣室を飛び出した。
中庭に出ると、そこでは智也くんが火あぶりの刑にされていた。
「薫! 助けてくれ!」
中庭の大木に縛り付けられ、足下で炎がメラメラと燃えている智也くんは、僕と目が合うなり助けを求めてきた。
炎は足には届いていないものの、かなり熱そうだ。
しかし、近くに水道はない。消火するのは大変そうだ。
そもそも、智也くんを助けてあげたいのは山々だけど――。
「待て! 逃がさないぞ!」
僕がモタモタしている間に、生徒会長が後ろから迫ってきた。
「あっ! 薫みっけ!」
さらに別方向から太郎くんの嬉しそうな声が聞こえてきた。
まだかくれんぼを続けているらしい。
せっかく智也くんが火あぶりになっているんだから、もっと注目してあげてよ!
「よーし! 薫も火あぶりにしてやる!」
なんでだよ! 罰ゲームは一番最初に見つかった人って話だっただろ!
ああもう! やらなければならないことが多すぎる! 僕は一体どうすればいいんだ!
追い詰められた僕は、あることに気がついた。
「学校で火あぶりの刑なんかやるんじゃねーよ! 早く消火しろ!」
そう叫びつつ、駆け寄ってきた太郎くんを殴り飛ばした。
さらに、生徒会長の方に向き直る。
「僕が女子更衣室にいたことより、お前が女の振りしていることの方がヤバいじゃねーか!」
そんなツッコミを入れつつ、生徒会長をぶん殴った。
冷静に考えたら、僕が逃げる必要はなかったのだ。
近くに水場はない。苦しんでいる智也くんを助けるには、この方法しかないんだ……!!
僕は燃えさかる炎に向かって立ちションすることにした。
ズボンを下ろし、下半身を露出する。
「――ええええっ!?」
僕の姿を見て、生徒会長は悲鳴を上げた。
「貴様は女なんじゃなかったの!?」
「いやいや、アレはあの場を切り抜けるための嘘に決まっているでしょう」
そう、僕は正真正銘の男で、女子更衣室に侵入した不審者に過ぎないのだ。
まさか生徒会長が、こんな嘘を信じかけていたなんて。
生徒会長はモロ出しになった僕の下半身を、興味深そうに凝視している。
「生徒会長、ただ見てないで協力してください」
「――へっ!? い、いや、私には無理だ」
「恥ずかしがっている場合じゃないですよ! 同じ男なんですから、協力してください!」
「ち、違うんだ。……私も、本当に女なんだよ」
「――ええっ!?」
「股間が膨らんでいるように見えたのは、校則で禁止されているお菓子を下半身に隠しているからだ」
「なっ、なんですって……!?」
まさかそれが、生徒会長の秘密……!?
……あれ?
ということは、この状況って結構マズいのでは?
僕は女の子の目の前で立ちションしちゃっているわけで……。
「覗き魔、頑張れ。火事になるのは困るから、今だけは貴様のことを応援してやる」
生徒会長は僕の下半身をガン見しながらエールを送ってきた。
いや、あんまり見ないでほしいんだけど……。
「でも、どうしよう。僕だけの力じゃ、この炎を消すことなんて……」
次の瞬間、別の方向から水鉄砲が発射された。
その先にいたのは、下半身を露出した太郎くんだった。
「薫、お前だけにいい格好はさせないぜ」
「太郎くん……」
いや、元はといえば火を付けたのは君なんだけどね。
すると太郎くんは、生徒会長に呼びかける。
「性別なんか関係ない! お前も消火に協力しろ!」
「するわけないだろ!」
顔を真っ赤にした生徒会長が、全力でツッコミを入れた。
当たり前の話である。
「しかし2人とも、すごい勢いだな……。男子のオシッコってこんな感じなのか……。ホース自体の大きさは、覗き魔の方が大きいかな……?」
僕たちのモノを冷静に見比べないでほしい。
その後、2人分のオシッコによって無事に消火が完了した。
智也くんを縛っている縄を解き、地面に下ろしてあげる。
「ふぅ……これで一件落着だな。それじゃあ僕は帰るよ」
「待ちたまえ」
生徒会長に呼び止められた。
「君が女子更衣室のロッカーに隠れていた件について、場所を移動して追求させてもらうぞ」
「ごまかせなかったか……」
僕は生徒会室に連行された。
2人きりになり、向かい合って立つ生徒会長が、鋭い視線を向けてくる。
「私の着替えを覗いたのだから、覚悟はできているだろうな?」
「ち、違うんです。女子更衣室に隠れていたのは、火あぶりの刑を回避するためで……」
「わかっている。まさか、校内で火あぶりの刑を行う不届き者がいるとは思っていなかった。この高校の秩序はどうなっているんだ」
「僕に聞かれても……」
「考えてみれば、校内の風紀が乱れている原因は、生徒会長である私にもある。……それに、君は消火活動に協力してくれたわけだしな」
生徒会長はそう言って頬を赤らめた。僕の下半身を思い出しているのかもしれない。
こっちまで恥ずかしくなっていると、生徒会長はポツリとつぶやく。
「……あんなものを見せられたら、私はもう、君のお嫁さんになるしかないじゃないか」
「――はいっ?」
「生徒会長、自分が何を言っているか、ちゃんとわかっていますか?」
「当たり前だ」
「本気……なんですか? 僕の嫁になるなんて……」
「結婚相手が私では不服か?」
「不服というか、僕らはまだ知り合って1時間も経っていないですし……」
「断るなら、君が女子更衣室に隠れていたことを公表するぞ?」
「……つまり、僕に拒否権はないんですね……」
こうして僕は、生徒会長の夫になった。
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