異世界vs地球

神によって異次元のデスゲームが始まった

ある日、世界中の人々の脳内に謎の声が響き渡る。【これから貴様らには、異世界と戦争をしてもらう。貴様らに選択権はない、時刻は明後日の夜5時。ちなみにだが理由は地球と異世界、どちらも私が管理しているが、どちらが有益、面白いのかわからないためだ。以上】そうして謎の声はなくなる。「やっべえなこりゃ」俺、友山健人は静かにそうつぶやいた。


現在の時刻は午前9時を少し過ぎたところだ。指定の時間までは56時間しかない。
戦争が起こることの真偽は定かではないが、起きなければ問題なし。起こることを前提に動いたほうが得策だろう。
「まず、何をするべきか・・・」
 情報は・・・この短時間では実のある情報などあるはずもないな。 異世界と言っても様々だ。 一番最初に思い当たるのは『剣と魔法の世界』、あとは『未来的サイバーな世界』くらいだ。発想力が乏しいな。
 取り合えず、個人では何も戦争に協力できることは無さそうなので食料品などの必要物資を買いだめておこう。明日になれば少しは有益な情報も出てくるだろう。方策が決まれば早速行動だ。 のろまなやつから戦場では死んでいくと言うしな。
 おれは寝間着からいつもの革ジャンにジーンズに着替え、駐車場に行き車に乗り近所のスーパーやホームセンターがある場所へ向かうのだった。

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ショッピングモールに向かう道中、車内から外を見ると多少ざわついてはいるが混乱はおきていないようだ。 この長年平和になれきった日本で危機感を持つのは稀なことなのだろう。
ショッピングモールの駐車場につき、まずはキャンプ用品売場に向かい大型リュックを買い、スーツケースも2つ買っておく。トレーダーで培った勘が準備を怠るなと告げている。簡易テントやカセットコンロから、救急治療セットや常備薬など長期災害避難時を想定した買い物をした。最後に缶詰やレトルト食品、乾麺など保存食を大量に買い込み駐車場でリュックに詰め込む。日常品はスーツケースにまとめてある。なんとかギリギリ入れきって帰途につく。
自宅マンションの近くにある駐車場に車を止め、背中に大型リュックや丸めたテントを背負い、両手にスーツケース持った姿は通常なら異様にうつるかもしれない。 だが、買い物に時間をとられたせいで日も落ち辺りは薄暗くなってるおかげで目たたない。道向かいにあるマンションに向かい道路を渡ろうとした時に視界が真っ白に染まった。

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「知らない天井だ・・・」
取り合えず、お約束な台詞は言わねばならない。辺りを見回して見て分かったことは自分が白い四角な十畳くらいな部屋の中心に出かけたときの服装で仰向けに寝転がっていることだ。
 すると近くに急に光をまとった球状の物体が現れて、脳内に声が響いた。【この忙しい時に転生条件を満たす奴が現れるとは。普通は特殊能力を与ええて転生させるんだが、今回は戦争の開始準備が忙しいのだ。そのでかい荷物と一緒に人間勢力のいずれかにそのまま転移させるぞ。】そう言うと謎の光の球体が点滅を始める。
「ちょっと待ったあぁぁぁ~」俺は急いで立ち上がり、片手を前に突き出して声を張り上げた。
『おおっと、ここでまさかのちょっと待ったコールだっ』と脳内に声が響き点滅が止まった。
【私は忙しいのだが、少しの時間なら融通してやってもよい。地球時間で1時間くらいやるから用件を言え。】
 忙しいと言いながら1時間もくれるのか。時間の感覚がずれているのかもしれない。
【長いと思うか? まぁ、この空間は地球の1/10の時間の流れだから気にするな】
 まるで思ったことをよんだような返答だが、顔に出てたのかな。
【いや、思ってることは分かるぞ。】
 思考が読めるのか、嘘は厳禁だな。取り合えずいくつかの質問をなげかけてみようと光る球体を直視する。ま、まぶしい。
【ん?まぶしいか?】そう言うと光る球体が人型に変形していき、やがて70代ほどの日本人っぽい男性に変化していく。
【こいつは前回、40年ほど前に発動条件を満たしてここに来た地球人よ。名前は確か・・・南井善次郎と名乗っていたな。】
 こんな爺さんが転生したのか。人生やり直しできたのは良かったんじゃないか?
「いや、こいつは私と対面するなり罵声を浴びせかけたり、神を語る不届き者だとか、くどくどと講釈垂れたり生意気だったので、そのままグランガイズのアリライ神聖国の聖都の転移させてやったわっ。転移その日に教団騎士団に捕まり、3日後に処刑されよった。」
 いきなり爺さんっぽい声で返事がきたので驚いてしまった。この神様ちゃんと転生させてないんじゃないか?
「ん?ちゃんと転生させてるぞ。800年ほど前にこの発動条件を決めてからここに来たのはお主を含め6人いるが、2人は特殊能力を与えて転生させたぞ。」
 俺と南井さんを含めると成功率が33%じゃねぇ~か!残りの2人の成り行きが気になるが時間は有限だ。無礼のないように簡潔に質問をしてみよう。

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まず、最初に聞かねばならないことは。
「俺が転移される世界は地球と戦う世界なのですか?」
 これは大事なことだ。ワンチャン、スローライフをすごせるかもしれない。
「いや、お主が行く世界は、グランガイズと言って地球と戦う世界じゃよ。わしが管理してることになってる世界は2つしかないからのぅ。」
 語り草もじじいっぽくなってきた神様はいつの間にか現れた椅子に座り、テーブルに両手をついてどこぞの司令官のようなポーズをとっていた。結局戦争する羽目になっちまうってことか。
「お主は戦いが始まる前に転移させるので地球側じゃなく、グランガイズの人間として戦ってもらうことになるじゃろう。」
え?俺、地球の敵になっちゃうの? いや、地球から先行偵察員として活動してもいいかもしれないな。
「それは無理じゃぞ。負けた側は滅亡か従属と大きなペナルティーが科せられるからのぅ。グランガイズが負けたらお主は死か地球の養分の如き働きをすることになるんじゃ。」
 養分のような働きってなんだよ。まぁ、聞いても碌なことはなさそうだ。次に聞きたいとこは・・・
「グランガイズとはどのような世界なのですか?」
「一言で言うなら、お主が想像した剣と魔法の世界で合っとる。なぜ地球人の多くが思い描くような世界があるのか知りたいか?」
 神様はポーズを維持しながら尋ねてきた。これは有益な情報とは思えないが、時間もあることだし好奇心が煽られる。
「まずは2つの世界の成り立ちからになるが・・・
 神様は語り始めた。

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「元々、わしが管理する世界は1つじゃった。と言うより通常は1つの世界しか管理できない。」
「では何故2つの世界があるんですか?」
「管理神に選ばれると1つの星が与えられ、その星の主要生命体となる種を選べるようになるんじゃ。 わしは人間種を選び管理を始め、その星を人間はグランガイズと呼び文明を作っていった。グランガイズは徐々に発達していった。 いくつもの文明の興亡の末、他の神が管理する世界に侵攻するまで増長してしまったじゃのじゃ。 その戦いに敗れグランガイズは滅びた。その事態を受けて管理神の会合が開かれ、わしは管理怠慢を指摘されグランガイズは初期化して作り直すことになったのじゃ。」
「世界は一度滅びたのですか。でも、作り直すにしても1つだけですよね? しかも1つでも怠慢を指摘されてるのになんで増えてるですかっ。」
 つい、ツッコんでしまった。
「怠慢を指摘されたわしは新生グランガイズの人間種に神託と言って頻繁に介入し、より良い世界を創ろうとしたんじゃが人間種はどうやら戦いをのぞむ性質があるらしくてな・・・ 機械文明に進んでしまうと前回と同じように他世界へと侵攻しそうじゃから神の能力の1部を与えて機械文明への移行を止めたのじゃ。 人間種はそれを魔法と名付け生活に浸透させていった。」
「おお、魔法誕生の秘話が聞けるとは!」
 俺は神の語りに引き込まれていた。 神は興奮する俺を見ると、落ち着きなさいと椅子を用意してくれた。 椅子に椅子に腰かけ、つい前傾姿勢で話の続きを聞く態勢にはいる。神は微笑まし気にそれを見ると続きを語りだした。
「グランガイズには大陸は1つだけしかなく、ほぼ横長の長方形なんじゃ、北と南の極は地球のように氷で覆われておる。 地球とちがうのは双方に陸地がないことじゃな。 大陸の中心に人間種を配置したんじゃが、何故か西へ西へと移動していき、大陸の西端が一番発展して大陸中心は寂れてしもうた。 魔法を得たことにより機械技術は生まれなくなったんじゃが、文明が地球で言う中世あたりで止まってしまってのぅ。  近代化をしなかった弊害があらわれた始めたんじゃ。 それは人口が減り始めたことじゃ。争いを始め、信託で仲裁してもすぐに別の場所で争いが起きてしまうんじゃ。」
 中世の地球は人口の伸びは緩やかだったけど、伝染病が流行ったとき以外は伸びていたはずだ。 なぜ減ったんだ?
「それはのぅ、攻撃魔法が防御魔法より発達したせいで戦争による死者が増えたからじゃ。」
 神はどこからともなく急須と湯呑2つを取り出し、お茶を入れ始めた。 入れ終え片方を俺に差しだし、ずずぅ~と茶をすするとまた例のポーズに戻り語りを再開した。

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「困ったわしは前回の侵攻で交友ができた管理神に相談してみた。 そうすると、そこの世界の主要生命体の長命種という人間種の亜種を譲り受けることができたんじゃ。」
「どれくらいの寿命の違いがあるのですか?」
「グランガイズの平均寿命は40くらいじゃな。 魔法が浸透したおかげで大幅に伸びておる。 戦死者を除けば50は超えてるかもしれん。 ちなみに地球の中世での平均寿命は30もいかないぞ。 まぁ、種としての寿命は100歳前後といったところじゃな。」 
 確かに医療が発達していなかったから新生児の死亡率が高かったことや、伝染病とかもあったしな。
「譲り受けた長命種の寿命は1000前後じゃと聞いていた。だが現状は平均寿命は50もいってないかもしれん。」
「また大幅に下がりましたね。」
 あまりにもの減少に驚いてしまった。
「最初に譲り受けた長命種100人を大陸東方に配置した。 長命種にも魔法を授け時空をいじり、時間をわしが操れる最高速度の1000倍にして成長速度を既存の人間種に追いつくようにしたのじゃ。 人間種は10万年で人口が1億人に手が届くところまで増えたんじゃが、ここ100年間平均すると毎年5万人くらい減っておる。 寿命が10倍でなら1000倍の速さで100年も経てば人間種の1/10くらいにはなると計算しての計画じゃった。」
「まぁ単純計算だとそうないますね。」
「10年たった時に長命種に3種類の新たな亜種が生まれた。 吸血種と巨人種と竜人族という種族誕生したのじゃ。 新たな3種は平均寿命は800年と2割ほど減っていた。 その代わり繁殖能力はあがったがのぅ。 その後も10年単位で亜種が増え続け、第2亜種は第1亜種の半分の400年になり第3亜種は第2亜種の1/4の100年、第4亜種はさらに1/5の20年、第5亜種はそのさらに1/5の4年じゃ。巨人種と竜人種は第5亜種がいないので平均寿命は高く、人口は少ないがの。 60年目に亜種が増えなかったので、多分打ち止めじゃ。それに、譲り受けた長命種は徐々に数を減らし、60年目には絶滅したんじゃ。」
「なるほど。 上位種は死ににくいけど増えにくい、下位種は死にやすいけど増えやすいので平均寿命が大幅に下がったと言うことですね。」
「そうじゃ、またここで新たな問題が浮上したんじゃよ。」
 この流れからいくと逆に人口爆発が起こったとかかな?

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「いや、違う。60年目を境に全く人口が増えなくなった。食糧が問題だったんじゃ。 長命種は人間種と違って農耕や畜産はしない。野生の獣や山の幸を中心に食べておる。自分より下位の種族を食う種もいたがな。わしも獣に魔力を与え、栄養価を増やし繁殖力も増やしてたんじゃが・・・ 人間種より領土の拡張意欲が少なく人口増加に土地拡張が追い付かず、餓死する下位種が続出したんじゃ。それに人口を増やすことに重きを置いていた神託を土地を拡張することに重点を変えて出し続けたが反応は鈍かった。」
「なるほど。 全体的な地域配分はどのような感じなのですか?」
「人間種が大陸西端から中心までじゃが、大陸中心部付近はほぼまばらな集落が点在して残ってる程度じゃ。 長命種は大陸東端から2割ほどを支配して、そこからは下位種族が食料を求めて放浪してる感じじゃな。」
 と言うことは、大陸の西5割が人間種、東3割ほどが長命種、間の2割が完全空白地で両種族とも中心1割は点在状態なので、実質4割が空いてるってことか。
 「そこで方針を変えて長命種の時空を戻し、空白地の中心部に吸血種の第2亜種の1種の妖精種を配置して時空を1000倍に変更し、新たに発展させることにしたんじゃ。」
 なぜ妖精種にしたんだろう? どうせなら吸血種の子孫で良かったんじゃないのか? 俺なら神託を生息地域拡張しして、吸血種の子孫からやり直すだろう。
 すると、例のポーズにいつの間にかかけていた眼鏡を『キラーン』と光らせ、神様こと南井爺ちゃんは理由を話し始めた。
 「なぜ妖精族かと言うと、第5亜種まで至ったのが妖精族だけだったからじゃ。妖精種は第3亜種では人狼種(ワーウルフ)や人猫種(ケットシー)などに変化し、第4亜種で小人種(ホビット)、小鬼種(ゴブリン)や子犬人(コボルト)と言った種族になっていったんじゃ。 妖精族は神託にも従順で繁栄させやすいと言う理由もあった。 妖精種は2種おって森人族(エルフ)、山人族(ドワーフ)じゃ。」
 なるほど。 従順で繁殖力も高いならうってつけの選択だ。 やはり聞いたことがある種族が多いが、何故地球で広まったんだろ。 グランガイズから地球への転生者か転移者が居たのだろうか? だが、そんな理由なら一言で済んでしまいそうなもんだよな。 まあ、話は聞いていて楽しいし、これから行く世界への理解を深めることは悪いことじゃない。

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「それで、順調に空白地は埋まったのですか? それに何故空白地があったら駄目だったのですか?」
「ああ、空白地は埋まった。 妖精種も10年経つと、やはり新たな亜種が生まれ出した。 じゃが、大陸東部と近いが違った亜種になったんじゃよ。 獣人種と言って12種の獣人が誕生したんじゃ。」
 人狼族や人と獣人種の違いが分からねぇ! どうやって分けてんだよ。
「それは鑑定の能力があるからじゃ。 基本、交配は同種族でしか行わないが、稀に他種族とする者も出てくる。 それでも通常は産まれる子供は両親の遺伝子を引き継ぎ、容姿はどちらかの種族のものになるんじゃ。
 だが、全く違う容姿の子供がいきなり何人も生まれたら気になるじゃろ? それで鑑定をすると種族名が出て新種族名が分かるんじゃよ。 人間族には無いことじゃから最初は混乱して大騒ぎになったが、長命種しか居なく、人口も少ない時期に1度目が起こったのが幸じゃった。 神託で新たの種の誕生は慶事だと教え混乱を収めたんじゃ。」
 確かに自分の子供の容姿が自分たちと違ってたら驚くよな。 自分の子供を捨てる親や、下手すると殺す親も居るかもしれない。 こういう時は神の存在が身近だといいよな。 あれ?地球だと神様の存在なんて感じたことはないぞ。   
「その疑問は後々分かるわい。 まずは何故空白地があると駄目なのかと言う疑問から答えよう。 それは人間種の人口減少の対策の為じゃ。 あくまでもわしの主な管理種は人間種じゃから、人間種の繁栄を第一に考えとるからの。」
「何故空白地がなくなると人間種が繁栄するんですか?」
「空白地をなくすことが主な目的ではなく、近くに敵対勢力を作ることいが大事じゃった。 譲り受けた長命種の力は強大だが、性質は基本穏やかだったんじゃ。 人間種に新たな敵を作ることによって団結させ、長命種に攻撃本能を向けさせる予定じゃった。 人間種と長命種の生息地域が離れすぎてると危機感が薄れ、結局人間種同士の戦いが続くと思われたからの。 実際に長命種の時空を戻し妖精種を配置したとき人間種に【大陸東に強大な種が誕生し、人間族に災いを与えるであろう。備えよ。】と神託を出したんじゃ。 10年ほどの間は東に探索団を出しておったが、発見するのは第5亜種のはぐれ部族くらいじゃった。 徐々に危機感は薄れていき、人間種同士の争いが再発したんじゃ。」

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「25年ほどが経ち、空白地を埋めるほどに妖精種の生息範囲が広がったので時空を戻した。 そして人間種には隣に友好的な種族を配置したが、その更に東には脅威があると神託をだしたんじゃ。」
 それでも人間種は妖精種に戦いを挑みそうな気もするな。
「いや、しばらく放置して様子を見ていたのじゃが結構友好的に接して負った。 これでグランガイズは一時的に安定期に入ったんじゃよ。」
なるほど、これでグランガイズは平和になってめでたし、めでたしってことだな。 いやぁ~ファンタジー小説でも聞いてるようで楽しかったなぁ。 って、最初の疑問も2つの世界を管理してる理由も何も解決してねぇ~よ!
 再度ツッコんでしまった。
「そうじゃな。 次元を最大で90年近くも操作してたせいで神力が大分減っておってな、神の国の楽園で100年ほど休養することになったんじゃ。」
「また、大事な時期に休養したんですね。」
「いざという時に力が足りなくて何もできないよりマシじゃからな。 それに留守の間は代理の管理者を派遣してもらえるんじゃ。」
「それなら安心ですね。」
「わしも安心して休養を取って負った。 それで英気を養って戻ってきたら・・・ グランガイズは大きく変わっておったんじゃ・・・・。」
 代理のものがなにかやらかしたのか!
「いや違う、何もしなかったんじゃ・・・・ わしが居た時は定期的に神託を出しておったんじゃが、代理神は基本様子を見て大きな問題がおきたときにくらいしか対応しない方針だったと言っておった。」
「じゃ、大きな問題が起きなかったのに大きく変わったということですか?」
「そうじゃ。 神託がなくなった人々は自分たちで神を創ったのじゃ。 人間族は『光』を司る神を、吸血族を筆頭に長命種の子孫たちは『闇』を司る神を、妖精種たちは自然『火・水・風・土』の神を創りだしておった。 魔法(神の力)には想像を具現化する力がある。 個人では創り出せないことでも種族単位ともなると、疑似神さえ創り出してしまえたんじゃ。」

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南井爺ちゃんなら疑似神くらい排除できるんじゃないか?
「できる、できないかで言えばできる。 じゃが珍しい事象じゃったから管理神の会合を開き、そこでの判断を仰ぐことにしたんじゃ。 そこで示された判断は管理者はわしじゃが、なにか大きな変化が起こるまでは様子見と言うことになった。 やることが大幅に減ったことで新たな世界をもう1つ管理することになったんじゃ。 それが地球じょよ。 地球は最初のグランガイズの時のようにあまり発展に関与せずに見守っていたんじゃ。 時空を1000倍で100年進めて、100年間休んで戻ってきたのが20年前でそこから100倍で20年経ったのが今じゃ。」
「なるほど。 これで2つの世界を管理して謎が解けました。」
「何故、グランガイズのような世界のことを地球の者たちが思い描いているのかと言うと、グランガイズの人間種の輪廻してる魂を地球に持ってきたきたことによる副産物じゃな。 グランガイズで生活していた昔の記憶が少し蘇った者も居たんじゃろうな。 」
「では、私たちの遠い祖先はグランガイズから来たようなものなのですね。」
「そうとも言えるの。」
「グランガイズの成り立ちと地球とグランガイズの関係も大まかですが理解できました。 グランガイズの現状は3つの種族が1つの大陸で生活をしてるで合ってますよね。」
「そうじゃの。 大陸西部から中央部くらいが人間種、大陸東部から1/3くらいが長命種の子孫、その間に妖精種系じゃな。 人間種は己たちを人族と呼び、長命種の子孫を魔人族と、妖精族系を亜人族と呼んでおる。 今では鑑定でもそう表わされるようになった。 人族は20の国に分かれて治めておって、亜人族はエルフ族とドワーフを中心に獣人12氏族が各々複数の村を点在させておる。 魔人族は北は巨人族、中央は吸血族、南は竜人族が治めておる感じじゃな。」
 俺は人族の国の何処かに転移させられるんだよな。 あと聞いておかなければならない大事なことは・・・

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「グランガイズの言葉は理解できるのですかね?」
 言葉が通じないとなると色々問題が出てくる。 通じないとなると習得までの期間もかかるし、生活もままならないからな。
「その点は大丈夫じゃ、普通に会話はできるぞ。 グランガイズの言語は1つじゃ。 ちなみに今、わしが話してる言葉はグランガイズ共通語じゃぞ。 お主は日本語を話しておるがな。」
「え? 普通に日本語と思ってましたよ。」
「そうじゃろ。 グランガイズでは魔法の念が発達し言語に至ったので他種族とも会話ができる。 個人でなら念話で話すこともあるが1人限定なので通常は言語で話すのが一般的になっておる。 お主も転移させるときにグランガイズの人と同じような能力を得るので大丈夫であろう。 ただし、文字は自分で習得するしかないぞ。」
 まぁ、話が通じるだけでも大助かりだ。 これで人里離れたところでキャンプ生活せずに街に行くことができる。 グランガイズ人と同様の能力を得るということは俺は魔法が使えちゃうのか!!
 不安が一気に期待へと変わっていく。 それを見た南井爺ちゃんは茶受けを齧りながら答えてくれた。
「魔法は使えるようになるぞ。 グランガイズはスキル制じゃから、努力すると資質があれば能力は上がる。 お主は人間族が使えるスキルは概ね使えることになるじゃろう。 精進せよ。」
「スキル制なのですか。 ではHPとかMPとかステータスも表示されるのですか?」
「一般の人々は知らないであろうな。 だが、人間族の貴族や神官たちは知っておる。 あと、冒険者のギルドカード記録されているので念じれば自分のステータスを見ることができる。 あとは鑑定の特殊能力持ちも見ることができるじゃろうな。」
「ちなみに俺に何かチートスキルを下さるとかないですかね?」
「そんなもん与える訳がなかろう。 このような忙しい時期に来ただけで迷惑なのに。 逆に逆に迷惑料とかとりたいくらいじゃ。」
「ですよねぇ~」
「じゃが、久々に楽しく会話が出来た。 このように長く会話をしたのは20年前、後に聖人と呼ばれることになった奴以来じゃ。 8年前に転移制度を決めてからお主が6人目と言っておったじゃろ? 2人は理解してないようじゃったが、一応納得してある程度の特殊能力を与えて転生して行きおった。 2人は帰せとしか言わなくて話にもならなかったので、魔人国に転移させてやった、この爺は前に話したとおりじゃ。 お主は楽しませてくれたので2つのものを与えよう。」
 おお、言ってみるもんだ。 何がもらえるのだろう。

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「1つはわしがグランガイズにお忍びで使っていた装備一式じゃ。 普通の街人の装備と2~3年は生活できるであろう硬貨と小さいが時空をいじった巾着じゃ。 そこにあるお主の荷物の10倍くらいしか入らんし、生き物も入らんが時間も止まるので便利じゃぞ。 アイテムボックスは普通に町の道具屋で売っているから、そんなに珍しい物ではないぞ。 時間はが止まるのは貴重かもしれんがな。」
 能力ではないが簡易アイテムボックスが手に入ったのは大きい。 あと怪しまれずに街に入れるし、生活費を稼ぐことに追われないのもいい。
「あと1つは情報じゃ。 2日後の戦争開始時に地球側に公表される情報は『南北アメリカ大陸、アフリカ大陸1つづつ、ヨーロッパ地域に14、アジア・中東・オセアニア周辺国に20個異世界に通じる『道』ができる。 勝利条件は異世界にある人間族の国20の政治機関と魔人国の公爵領の3つの王城、亜人国の14の政治機関を支配するか、全種族を皆殺しにするか。 敗北条件は国連加盟国193国の政治機関の喪失か人類滅亡。 期間は無制限。』 これだけじゃ。 グランガイズ側にも神託で6神に通達させる。」
「結構ハードな条件ですね。」
「20年前に管理神の会合でグランガイズのデータが集まったので、地球かどちらか1つを消して良いと決まったのじゃ。 わしが勝手に選んでも良かったが、生き残りの可能性を自分たちで掴む機会を与えることにしたんじゃよ。」
 何も知らずに地球が消えていた可能性もあったのか。 それはそれで幸せだったかもしれないな・・・
「お主には特別に情報を与えよう。 まずは『道』のことじゃ。 グランガイズの内情を理解したお主なら分かったと思うが人族vsアジア・中東・オセアニアとなる。 魔人族vs北南米+アフリカ、亜人国vs欧州じゃ。 『道』はその地区の人口順に現れる  例えるなら人族1位のガーリス帝国とアジア・中東・オセアニア1位の中国、亜人国1位の鼠人村と欧州1位のロシア、魔人国1位の公領である吸血人族領とアメリカと言った感じじゃな。 別に他の国家や村に援軍に行ってもかまわない。」
 俺は人族の地域に行くことになると言うことだからアジア・中東・オセアニアと戦うことになるのか。 それに今ロシアってウクライナと戦争してなかったか? ウクライナも人口で言えば10位以内に入ってたと思うが大丈夫なのか? もしや、グランガイズでも、まだ人族同士が戦争してたりするのか!?
「今、グランガイズで戦争は起きてないはずじゃ。 険悪な関係の国はあるがな。」
 それは一安心だな。

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「『道』37個同時に発生させる。『道』は1mの出入り口を持った穴と、中はは1kmほどの長さと高さと幅が500mな長方形の空間じゃ。 出入り口の大きさは日に1cmづつ大きくなるように設定するつもりじゃ。 『道』の中で戦うことも可能じゃぞ。」

 また面倒な設定をするもんだな。 どちらにせよ先に『道』とやらを見つけたほうが多少なり有利になるのではないだろうか。 東京都内に突然、『道』とやらができたら後先もないがな。 ん?この設定どっかで見たととあるような‥‥‥

「いきなり大きな出入口を人口過密地に作って全面戦争も楽しいかもしれないが、折角のイベントじゃ、見つかなそうに場所に作る予定じゃ。 長く楽しませてもわらんとな。」
 とか言って、少しグランガイズに有利な設定になってないか? 序盤に地球側の利点である機械系はドローンくらいしか役に立ちそうにない。 バイクも半年ほど使え無さそうだし、主力である戦車は1年くらい使えないし、ヘリや戦闘機も2~3年はグランガイズ側に持ってこれない。 今の性能でグランガイズに持ってきても役に立ちそうにないがな。 まず、測量して衛星でも打ち上げない限り性能を使い切れないだろう。 船は持って行けそうにないから、海戦はなしだな。

「否定はせん。やはり最初に管理した世界じゃ思い入れもある。 じゃが、できるだけ地球にも配慮はしてるぞ。 確かに電脳化で攻めづらくはなったかもしれんが守りは強化されたはずじゃ。 電化しすぎの気もしないではないがな。 人間側には戦争開始の通達も2日前に出したが、グランガイズには開始直前に知らせる。」

 確かに先進国や各国都市部の電力が止まると大混乱になるだろうな。 事前通知も地球側は混乱するだけで有利になったと言えるのだろうか?

「それは受け止め方じゃ。 地球の時間で500年ほど前に、グランガイズとの戦争を500年後に起こすと決めたと地球の者・・・ノストラ何某に情報を与えたのだが、正確な情報が伝わらず大予言とか言われておったのぅ。 情報を生かすも殺すもお主次第じゃて。」

  情報や知識は持っていても有効に使わないと意味がない。 有効に使える立ち位置にいるか、そのポジションの人間と交友を持たねばならないな。

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「それにグランガイズの文明の発達は遅い。 戦いの最中に地球側の団結と文明の発展が勝敗の大きなカギになるじゃろうな。」
 確かに戦いが長引けば対処能力は地球に分があるだろう。
「さて、残りの時間は30分となった。 ここはスマホの電波が届くが、グランガイズでは届かないじゃろう。 合図はしてやるから安心して調べるがよい。」
 ここからはどれだけの情報をグランガイズに持っていけるかが大事だ。 ソーラー充電器があるのでネットはできないがスマホの機能は使うことはできるだろう。 覚えきれそうにない情報はダウンロードしておこう。 荷物も巾着にまとめておかないとな。 南井爺ちゃんと世間話をしながら準備を進めていった。

「さて、ここまでじゃ。」
 集中しているとすぐに30分は過ぎてしまったようだ。
「準備はできたかな? 転移と始めるぞ。」
「転移する場所は決まっているのでしょうか?」
  南井爺ちゃんは少し考えたのちに
「言っても分からんじゃろ? 希望があるのかね。」
 俺は行きたい国があったのだ。 それは‥‥‥
「人間族の国に行くのが決まっているなら6番目の国に行きたいです。」
 南井爺ちゃんはニヤリと笑って
「それで良いのかね? わしとしても楽しめそうだから反対はしないよ。 お主の希望は叶えてやろう。 それでは精進してわしを退屈させんでくれよ。」
 南井爺ちゃんはそう言いながら立ち上がり、呪文のような言葉を呟き始めた。 俺も急いで立ち上がり一礼して
 「 南井爺さん、ありがとうござい‥‥‥」
と、お礼の言葉を発したが、途中で意識が遠のいていったのだった。

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1 異世界到着

「知らない夜空だ‥‥‥」 

 いや、本当に月の大きさが違う。 多分、星座の位置も違うのだろうが、はっきりとはわからない。 だが月の明りのせいで、暗いと言う感じはしない。
 まだ頭の働きが覚醒してないが、大地に横たわってる体を起こしつつ周りを見渡してみと草原に転移したようだ。 風で草花が揺れてはいるが生物が動いているような不自然な動きや音は感じられない。

 取り合えず転移直後に敵対生物と鉢合わせといったハードモードではなく、南井爺ちゃんは安全な場所に転移させてくれたようだ。

 爺ちゃん、ありがとうございます。 と、心で再度お礼を述べ今後の方針を考え始める。 言葉が通じるとのことなので、まずは現地の人とと接触して情報を集めないとならない。 魔法世界とは言え、中世の村レベルでは情報は限られてるだろう。 だが、まずは人を探しつつ村か街の場所を聞き出すことから始めようか。

 さて、方針が決まれば行動だ。 と行きたいとこだが‥‥‥ 見渡す限りの草原だな! 右側遠くに森っぽいものが見え、左側には幽かに山のようなものが見える。 もちろん周辺に道らしきものは見えない。 どの方向に向かえばいいのだろうか‥‥‥  

 今は南井爺ちゃんにもらった服にズボンと靴を着込み、片手に巾着を持っている状態だ。 巾着から南スーツケース2つとリュックを取り出す。 まずはスーツケースから使う頻度の高いものを取り出しておこう。 そして大型リュックに詰め込んである食品類を数日分だけ残し、種類別にポリ袋に小分けして巾着にもどす。 使う頻度の低そうなものはスーツケースに残し、それも巾着に戻す。 使う頻度の多そうなものはリュックに入れてこれも巾着に戻しておく。

 方位磁針は正常に作動してるか分からないが、山の方角を北と示していることから一応機能はしていると判断できる。 南に森が見え、東西は見渡す限りの平原だな。 確かグランガイズの人間領は大陸の西側で大陸中心は亜人領となっていたはずだよな。 しかも西端の海側が栄えていると言う話だから、向かうは西だ! そうと決まれば即行動だ。
 
 俺は巾着を腰紐にくくりつけ、右手に短剣を左手に双眼鏡を周囲を警戒しながら持ち歩き始めた。 月明りのおかげで視界は良好で、草花も高くて30㎝ほどなので歩行の邪魔にはならない。
 いつしか鼻歌を歌い、寂しさを紛らわしながら歩いていると前方の草が不自然に揺れた。
 
  短剣を構え、慎重に揺れた草周辺を凝視する。 揺れた範囲と動きからすると小動物と思われる。 南井爺ちゃんの話では日本のファンタジー小説に出てくるような魔獣と呼ばれる生物は魔人領に生息していて亜人国までは出没するらしいが、人族の国には滅多に現れないとのことだったはずだ。

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剣の心得など全くないが素手よりは心強さは段違いだ。 少しの間、静寂が辺りをつつみこむ。 無為に時を過ごすのも意味がないので一歩踏む出す。 すると草の中から長い2本の耳が見えた。

「兎かぁ。 危険な獣じゃなくて良かった。」

 緊張でカラカラになった口から安堵の言葉が漏れる。 歩きやすいと思った道も草木が邪魔で実際歩いてみると結構疲れる。 そろそろ歩き始めて時間も経つし一旦休憩を取るべきだろう。 巾着からペットボトルと簡易食料バーとレジャー椅子を取り出し休憩に入った。
 ペットボトルの水を飲みながら少し考えに耽る。

 まず1つ目にこの国の大きさだ。 仮に日本と同じ大きさだとすると1日12時間歩いても50km程度だろう。 と、言うことは東京から鎌倉あたりまで歩ける範囲になる。 爺ちゃんにグランガイズとこの国の大きさを聞くのを忘れたのが痛いな。 人口は中世日本と同じ程度と聞いていたから、700~1300万人ってことは調べてある。 どの程度の距離でどの程度の規模の集落があるのだろう。 

 2つ目は地球と1日の長さが同じかどうかだ。 まぁ、これは丸24時間経過すれば分かることなんだが。 日本と同じなら日の出は5時前後だったはず。 あと2時間で明けてくれればよいのだけどな。 明けるよな? ずっと夜ってことはないよな⁈

 3つ目は魔法が使えるとのことなので、歩きながら色々試してみたが、全く発動する気配なかった。 発動条件があるのだろうか。 触媒がいるような面倒な世界ではないことを祈ろう。

 簡易食料バーも食べ終わり、水も飲み切ったのでゴミをポリ袋に入れて椅子とともに巾着にしまうと西へ向かい歩を進める。 休憩から少し歩いた時に遠くに草が線状に途切れて見えるような場所があることに気づく。 これは、道を見つけれたのではないだろうか。 喜び勇んで歩を早めその場所へ進んでいく。 到着すると、そこには幅50cmほどの道だと思えるものが南東から北西に向かって伸びていた。

 これで歩きが大分楽になるな。 道があると言っても草を踏みつぶして地面が見える程度だが、人の行き来があると分かっただけで気分が高揚する。 時刻は3時を回ったとこだ。 さすがに異世界でもこのような時間にこのような場所を移動しているよなヤツは居ないだろうと思い、最近よく聞いていた歌を歌いながら北西へと歩を進める。
 
 1時間半ほど歩いた時に東の方角が少しづつ明るくなってきているのに気づく。 

 ふむ、日の出は東京と同じような時間なのだな。 日の入りも確認し、明日また同時刻に日の出があるなら地球と同じ24時間周期と判断できるかもしれないな。 しかしの地平線での日の出を拝めるなんて都会暮らしの俺には感動すら覚える。 太陽が顔を出すのを見ながら、少しの間惚けていたが気を取り直し道を進むことにした。

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日の出から1時間ほど歩いていると、前方から土煙をあげながら凄い速度でこちらに向かってくる物体が見えたので、俺は急いで双眼鏡を覗き込んだ。 どうやら人間の男のようだ。 スクーター並みの速度でこちらに向かって爆進してくる。 俺は双眼鏡を巾着に入れて短剣も腰の鞘に戻して敵意の無いように心がけるようにした。 あんな速度で走る人間と戦って勝てる気が全くしなかったからだ。
爆速で走ってくる人物は俺の少し手前で立ち止まり訝し気に俺に向かって声をかけてきた。

「おっちゃん。 ここらでは見かけない顔だけど、この先にはおいらが住む村しかないんだが何か用なんか?」

 10歳前後と思われる少年‥‥  もう、ガキでいいや。  言うに事欠いて俺のことをおっちゃんだと!? おれはまだ20代だぞ! いや、俺、冷静になれ。 見かけはガキでもあの速度で走れるだけの運動能力があるのだ。
 俺は少し引きずった笑顔で答える。

「道に迷ってるんだよ。 どこかであたまを打ったらしく記憶が無くなってしまってるようなんだ。 自分が何者で何処へ向かってるのかも分からいんだよ。(嘘)」
「へぇ~ うちの村の長老もボケて段々と物忘れが酷くなってるけど、それと似たような感じかぁ~」

 全然違うが説明するのも面倒だし合わせておこう。
「そんな感じだな。この先には村があると言うことだけど、どれくらいの距離なのかな?」

  ガキは少し考えたのちに
「えっと、走って2/6刻ってとこかな?」

 うわ、分からねぇ。 が、想像はできる。

「太陽が昇って、次の太陽が昇るのは何刻だい?」 
「24だよ。1刻を更に1/6で分けて言うんだ。」

と言うことは、グランガイズまたはこの少年が住む村では10分単位で時刻を数えるのだな。 だが、意外と言えば意外だ。 どうやって時刻を判断してるのだろうか。

「少年。 どうやって時間を判断してるんだい?」

 するとガキは肩に掛けていたカバンから砂時計のようなものを取り出して俺に向かって突き出しながら

「おっちゃん魔道時計も知らないんだ。 これがあるとどこでも時間が分かるんだよ。 街の道具屋で安く売ってるから買ったらいいよ。」 と見せてくれた。

 砂時計の砂が6色に分かれていて、横に向けても逆さにしても一定歩行に砂が流れていく。 砂時計の上下に1~12の文字が輪っか状に書いてあり、現在は6の数字のところまで砂が入ってある。 ガラスの中の砂は2色目が流れ始めたとこだ。 つまり、6時10分だな。 村まで20分ってことか。 しかしよくよく考えてみると、あの速度で20分だぞ!   時速で50~60kmは出てたよな‥‥ 徒歩だと15倍計算で5~6時間かよ。 一応行先も聞いておこうか。

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「少年よ、何処へ向かってるのかな?」
「んとね、街だよ。 おっちゃん街から来たんじゃねぇ~のか?」
 ガキは不思議そうに聞き返してきた。

「『お兄さん』は気づけば草原で倒れていたんだよ。 さっきも言ったけど、それ以前の記憶が無くて何をすれば良いのか分からないので、取り合えず人か街を探していたんだよ。」
「へぇ~ だったら転移に失敗したのかもね。」
 あまりにも当然のように紡ぎ出された解答に感心しながら質問を続ける。

「転移とはなんだい? 失敗とかは良く起こるものなのかな?」
「転移とはね。村と街を繋ぐ門を転移門と言ってね、村の人は魔導石が高いので使わないけど、街から商人や冒険者やお役人やお偉いさんとかが使って転移してくるよ。 転移の失敗は門では起きることはほとんど無いけど、魔導士が偶に失敗することがあるって前に会った冒険者のおっちゃんが言ってたよ。」

 なるほど、乗り物が通って無さそうな道なのは乗り物を使うくらいの金を持ってれば転移門使ったほうが早いんだな。 アイテムボックスがあるなら、商人も荷馬車などで移動しないのだろう。 さすが魔法世界だ。

「そうなのか。 少年はすごい勢いで走っていたけど、どうやって走ってるんだい?」
「身体強化に決まってるじゃん。 これはみんな使える魔法だよ。 もしかしておっちゃん使えないの?」
「『お兄ちゃん』は魔法の使い方も忘れてしまったようなんだ。 どうやったら使えるか教えてくれるかな?」
 おお、自然に魔法の使い方を訊ねることができたぞ! ここで使えるようになれば時間も短縮でき、色々楽になることに違いない。
 
「教会に寄付をして、欲しい魔法を司祭様に言ったらもらえるんだよ。 おいらが使ってる生活魔法と呼ばれる魔法は1つの種類が大銅貨銅貨1枚で使えるようにしてもらえるから、おっちゃんも何種類か買ったらいいよ。 普通は使えるはずなんだけど、使えないならもう一回使えるようにしてもらったらいいんだよ。」
 教会までいかないと魔法は使えないのかと少しガッカリしたが、街着いて教会に行けば魔法を覚えられるのが分かっただけで成果はあったな。 ただ、貨幣価値が話か分からなねぇ~な。 まぁ、村の子供に覚えさせれるくらいなら安いとは思うんだけどな。

「でも、おっちゃん。 今向かってるおいらの村には司祭様は居ないよ。 新年の儀とか成人の儀とか豊穣祭とかじゃないと司祭様は村にいらっしゃらないんだ。」
 どれくらいの規模の村だかは分からないが、小さい村だと教会が有るかもしれないが、有ったとしても司祭様が常駐してるとかぎらないよな。

「じゃ、少年の向かってる街には司祭様はおられるのかな?」
 これで司祭が居ないようなら転移門を使って大きな街へと移動するしかないな。 そう思いながら尋ねてみる。

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「うん。おいらが行く街には教会があって、いつでも司祭様がいらっしゃるよ。」
「では、『お兄さん』も街に向かうとするよ。 魔法は使えないので普通に歩いていくけど、少年の速さでここからどれくらいの時間で街に辿り着けるのかな?」 
「え~っとここまで、大体1/3刻で村から町までが5/6刻だから‥‥」と呟く。
「あと半刻ってことでいいのかな?」
「そうそう、それで合ってるよ! 多分‥‥」
 自信なさげに答えるが、ここはガキを信じるしかないしな。 このガキの速度で30分となれば普通に歩けば7~8時間ってところか。 日が暮れるまでには着きそうだなと思いながらガキに礼を言うと早速歩き始める。 

「おっちゃん、魔法が使えないならおいらが背負って運んでやろうか? 偶に長老を背負って街まで往復するけど全然平気だからな、 屋台で何かおごってくれるなら運んでやるよ。」 と話しかけてきた。
「俺は結構重いぞ。 大丈夫なのか?」
「平気だよ。帰りに運ぶ荷物のほうがきっと重いし。」

 凄いな魔法。 こんなのが一般市民だとすると人数差はあれど、地球側が勝てる気はまったくしないぞ。 俺はこっち側だから問題ないけどな!
 
「では、頼むよ。すごく助かる。 高価なものは無理だけどできる範囲でおごってやるよ。」
「じゃ~背負うね~。」
 ガキはおれを軽々と背負い、すごい勢いで走り始めた。

 ちょ、おま‥‥ 縦揺れが激しく、すぐに気分が悪くなる。 そりゃそうだ背負われて走ったら揺れるよな。 少し考えると分かることだった。 時間短縮とお手軽感の誘惑に負けた罰だとでも言うのか! 少年が話しかけてくれるが、返事も空返事で内容もほとんど聞いていなかった。

「おっちゃん、街が見えてきたよ。」
 クソガキが大きな声で俺に呼びかけていたようだ。 あまりの揺れに気分が悪くなりすぎて気を失ってたのかもしれない。 しかし利点もあった。 背負われてからすぐに気を失って一瞬で時が過ぎ去ったので、背中で大惨事を起こすことはなかったようだ。 俺の尊厳は守られたのだ!
 前方を見ると街の外壁がドンドン大きくなってくる。 ここまで来ると道の周りには田畑が広がっていて、ポツポツと農作業している姿も確認出来るようになった。

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「少年。もう降ろしてくれ。 少し気分がすぐれないので、ここからは気分転換がてら歩いて行きたいんだ。 この距離だと1/6刻ほどで着くだろう。 それくらいの時間の余裕はあるだろ?」
 限界は間近だったか、余裕のある振りをしてクソガキに尋ねてみた。

「おっちゃんはだらしないな。 長老は全然平気なんだぜ。」
 それ絶対何かの魔法を使ってるだろ! 常人があの揺れに耐えれるとは思えない。 
 クソガキに降ろしてもらい地面に立とうとするが、ふらついて真っすぐに立てないで千鳥足になってしまう。

「ははは。 おっちゃん、なんだよその変な踊りは。」
 腹を抱えて笑われてしまった。 俺は繊細なガラスの心が音を立てて割れていくのを感じながら笑顔で応える。
 深呼吸をして、2~3回の屈伸をした後にゆっくりと街へ向かって歩き始めた。

「少年、あの街の名前はなんというのだい?」
 俺は当然な疑問を投げかけたはずなのだが、クソガキは何を言ってるんだ、こいつはとでも言うように
「街は街じゃん。 それ以外に呼び方なんてないよ。 村は村だし名前なんてあるわけないじゃん。」
「いや、それはおかしい。 ほかの街や村と区別がつかないじゃないか?」
「なんでほかの村とか街とか関係あるの? うちの村の人のほとんどは自分の村から出ないし、おいらみたいに荷物運びで小遣い稼いでるやつも、この街にしか行かないからね。 確か街の人はうちの村を名前で呼んでたような気がするけど、気にしてなかったよ。」

 他の街や村を知らないならそんな事もありえるのか。 街や村の名前は街に着いてから聞けばいいや。 やはり村の子供から情報を得るのは得策じゃないな。 日常会話をしつつ街に向かって歩いていく。

 街の外壁には門が有り、そこには4人の門番が立っていた。 時間が早いせいか、交通の手段が転移門がメインなのだかは分からないが人の出入りは全く無さそうだった。 門番の1人が俺たちを見つけ声をかけてきた。

「おい小僧、今日は珍しくゆっくりじゃねぇ~か。 それにその兄ちゃんは知り合いか?」
「違うよ。 ここに来る途中に出会ったんだ。 転移の失敗かなんかで記憶をなくしたんだってさ。」
 
 クソガキは小走りになって門のほうへ駆けていく。 俺も遅れまいと全速で追いかけていった。 門に辿り着くと息を切らした俺に向かって門番が囲むようにして話しかけてきた。

「兄ちゃん、悪いが決まりなんで、あそこにある水晶の上に手を置いてくれないか? 別に危害を加える訳じゃねぇ。 街に犯罪者を入れる訳にはいかないんでな。 あの水晶が光らなければ普通に通れる。 赤く光れば犯罪者として捕まえることになる。 青く光れば誰かの探し人なので本人の許可を取って依頼主に連絡することになってる。 兄ちゃんは青く光るかもしれないからな。」

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犯罪者の特定に捜索願いが届けられてる人物を判定できるとはかなり便利なシステムだな。 俺はグランガイズに来たばかりだから犯罪歴もないし、知り合いもいないからと安心して手をかざしす。 すると水晶が白色に光り出した。
「白色⁈ おい、誰か白色に光ったときの条件って知ってるか?」
 門番の中でも年長に見える男が慌てたように皆に問いかけている。 残りの3人も「白色なんて聞いたととねぇ~。」
とか、「白色があるなんて初めて知ったよ。」など口々に話している。
 
 意を決したのか年長の門番が話しかけてきた。
「兄ちゃん、悪いな。 水晶が光ったと言うことは何か問題があるってことだ。 犯罪者ではないし、黄色でもなかったので危険人物とは思えねぇ~が、おいらの一存ではどうしようもない。 そこで、兄ちゃんには2つの選択肢がある。 1つはおいらが神殿に確認に行ってる間、この番所の裏にある個室でおとなしく待っていることだ。 もう1つはおいらと一緒に神殿に行くかだ。 逃げようとは思わないことだ。 命の保証はできないからな。」

 俺も突然の出来事に混乱していたが、神殿と言えば司祭様。 魔法を覚えるために訪れようと思っていただけに道案内までしてもらえるとなるとお得なのかもしれないな。 ここは神殿に一緒に行くことを選ぶことにする。

 ふと、隣を見るとクソガキが俺を睨んでいた。 心当たりは‥‥‥ あっ、屋台で何かおごると約束してたんだ。 だが、どれくらい神殿で時間がとられるか分からないし、 このまま約束を反故にするのも、たとえ生意気なガキでも心が痛む。 でも、駄賃として硬貨を渡すにしても相場が分からない。 なら、門番に聞くしかないだろう。
「あの、この少年に道案内を頼んだお礼に屋台で何か食べさせてあげると約束したのですが、時間がなさそうなのでお駄賃を渡したいのです。 生憎相場が分からないので教えてもらえませんか?」
 「そうだな。一番人気のある串焼きが1本で銅貨2枚だ。 村の小僧には贅沢な食べものだがな。」

 門番の1人が答えてくれた。 多少高価であっても、一番人気なら一般人が買える金額のはずなので、小遣いとしては範囲内だろう。 俺は巾着に入れていた小袋から銅貨2枚を取り出しクソガキに渡す。

「生憎、俺はこれから神殿に行かねばならないらしい。 一緒に屋台には行けないが、これで好きな物を買って食ってくれ。 ここまで助かった。」
「おっちゃん、ありがとう。 生きて街から出られてうちの村に来ることが有ったら村を案内してやるよ。」
 手を振りながら街の中へゆっくりと走って行った。

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「さて兄ちゃん、悪いがこの腕輪をつけてくれないか。 別に危険な物じゃねぇ。 逃走防止のために魔法を封じさせてもらう。 この部屋は魔封じの結界が張ってあるから転移や攻撃は出来ないが、街中だとそうはいかんからな。」
 最年長の門番の男がそう言いつつシンプルな銀色の腕輪を差し出してきた。 日本では手錠とか腰紐で逃走防止をするのだが、さすが異世界魔法さえ封じれ逃走はふせげると言う事なんだな。 俺は受け取った腕輪を左手首に嵌めて繁々と眺めてみた。 普通にデジタル腕時計でもしているような感じに見えるな。
「おい、ゲルタ。 今から神殿にこの兄ちゃんを連れて行くから、長司祭に訪問の連絡を入れておけ。 内容は『水晶が白く光ったので、その人物を連れてくから鑑定を頼む』だ。」
 最年長の門番の男は門番の1人のゲルタと言う男に伝言を頼んでいる。 何だかの通信手段も確立されているのか。 中々侮れないじゃないか、異世界。
「じゃぁ、出かけるぞ。 ライドル、お前は兄ちゃんの前を歩いて神殿へ案内の役だ。 おいらは後ろで警戒しながら付いていく。」
「解りました、おやっさん。 出発するけど兄ちゃんも準備はできてるよな。」
 一番若そうなライドルと呼ばれた門番が俺に確認してきた。 俺の持ち物なんて巾着1つだし、心の準備と言う事ならできている。
「はい、いつでも行けます。」
「歩いて10分もかからない。何か聞きたいことが有ったら質問を受け付ける。答えられる事なら答えてやるから気軽に聞いてくれ。 兄ちゃんは犯罪者って訳じゃないから、そんなに身構えなくていいぞ。」
 おやっさんよ呼ばれた最年長の門番が豪快に笑いながら言ってきた。
 
 これはチャンスかも知れない。 まず知りたいのはこの国の名前と位置、それにこの街の名前と位置と規模だな。 門番クラスになると正規兵だろうし、ある程度の情報は持っているはずだ。 時間はあまりないので重要な情報順に聞いていくことにしよう。 ライドルが部屋の扉を開けて先導して歩き始めた。 おれはそれに続き付いていくことになる。 最後尾におやっさんが扉を閉め辺りを警戒しながら留守をする門番に声をかけた後歩き始めた。 
 番所から出て、街の中へ目を向けると、いかにもファンタジーアニメなどで映し出される一般的な風景が視界に飛び込んできた。 さすがに2階建てまでの建物が多く。稀に、3階建てと思われる建物も点在している。
 そこに、思いもしなかった情景が目に入った。 それは亜人が少数ではあるが居たことだ。 亜人は一目で分かった。 見た目は普通の人間だが、耳がケモ耳なのだ。 人間のような側頭部に人のような耳もない。 よく見ればズボンの後ろから尻尾も出ているじゃないか。 俺は気になり、おやっさんに尋ねてみた。

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「亜人との交流も結構あるのですね。」
「そりゃそうだ。この国は位置的に亜人の村と近い。 亜人との交易で大きくなったような国だからな。 国境周辺の街に行くと、もっと亜人の数も増えるぞ。」

 なるほど、この国は人族の国の中でも東部に位置するんだな。 亜人とも友好的な関係らしい。 爺ちゃんからの話ではエルフ、ドワーフと12の獣人だったっけな。 見渡す限りでは3種の獣人しか見当たらない。 ウサ耳とトラ耳と犬耳がひょこひょこと動いて、見てて癒される。 だが、俺はエルフが見てみたい、とてもだ! 
「3種類の亜人しか見当たりませんが、他の種族の方はおられないのですか?」
「この国と接してる亜人村が兎人村と虎人村と犬人村だからな。 兎人と犬人は人族と友好的な種族だ。 虎人は中立ってとこだな。 土竜人や蛇人ってのも居るらしいが、滅多に人族と関りを持とうとしないと聞く。 

 エルフの名前が出てこない。 まあ、14種全部の立ち位置を聞くのも時間がおしいし、何故知ってるのかと聴かれても答える術がないからな。 ここは当初の予定通りの質問に戻ろうか。

「この国の名前を聞きたいのですが‥‥‥」
「兄ちゃん、この国の名前も忘れちまったんか。 この国の名はエルテルム王国だ。 最近、急成長して結構名前も通ってきているから、国名を聞かれたのは初めてだぁ。」 
「エルテルム王国ですか。 この街の名前も先ほどの少年にも聞いたのですが知らないと言われてしまって困ってたんですよ。 自分の住んでる村や近くの街の名前も知らないとは思いませんでした。 ちゃんと名前はあるのですよね?」
「そりゃあるに決まってるだろ。 この街の名前はアハグトで、坊主の住んでる村はアハグトイミグだな。まぁ、アハグトの13番目の村って意味の名前だ。 村の奴らは滅多に外には出かけないから名前など気にしないんだろうな。 この街の者たちならイミグ村で通じるが、よその街もそれぞれの村を街の名前の後に番号を付けて呼ぶから、そこは気を付けないと混乱することになるぞ。 街や国を行き来する奴なんて商人か冒険者くらいしか居ないから大丈夫だと思うがな。 大抵の街は、その周辺に複数の開拓村を持つんだ。 そこから農作物や畜産品を仕入れて、生活物資や嗜好品を卸して成り立っている。 街の規模が大きくなるにつれ開拓村は増えていくって寸法さ。 アハグトには18の開拓村があるんだよ。」

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開拓村の数で大体の街の規模が分かるのか。 街に入る前に見えた田畑の規模では到底、街の人々の食料を補えるとは思えなかったが、周りに村を作って不足しそうになると村を増やしていくと言う方法は効率的ではある。 土地が潤沢にあるから出来るのだろうけどな。 18と言う村の数が多いのか少ないのかは分からないが、結構大きい気がする。 対面の側面の外壁が見えないので、直径数キロはありそうな感じだ。 地球では在り得ない規模だな。
「18も開発村を持っているってことは結構大きな街なんですね。」
「そうでもないぞ。 ここケルゼン伯領には12個の街があってな、アハグトの街の人口は2万5千人ほどで5番目くらいの規模だったと思うぜ。 ケルゼン伯が治める領都ケルゼンが一番大きくて15万人くらい居るって話だ。 収穫の3割は領主に納めねばならんから、最低でも街に10以上の開拓村がないと街の経営が成り立たん。 村を増やす時は領主様に相談して承認を得られれば、村の建設の予算の半額が与えられ、軍から建設魔法の特化魔導小隊と工兵小隊と輸送小隊が派遣される。 早ければ、1月ほどで村の主要設備や家屋が出来上がるぞ。 今この国は発展期だから、慢性的な順番待ち状態だな。」

 村を作るときのは予算の半分が支給され、村づくりのスペシャリスト部隊も貸してもらえるのか。 軍隊と言うものは平時となるとお荷物みたいなものだから、屯田制にするか工作部隊としての兵站の訓練を兼ねて有効活用すると良いと偉い人が言ってた気がする。 国がまとめて村の建設を差配するのは計画も立てやすいし、人材の無駄も少なくなるのかもしれない。 転移で街と街や街と村の間を移動できるなら全て国有地にしてしまってもいいだろう。 まぁ、封建制でそのような制度ができるとは思えないがな。 しかし、村1つ作るのに1ヵ月ほどなのか。 1ヵ月と言ってもグランガイズと地球と同じ日数計算なのだろうか。 週とか曜日の概念があるのかも分からないしな。 聞きたいことが増えていく一方だな。

「ケルゼン伯領は王国の中では大きい所領なんでしょうか?」
「エルテルム王国には王都と辺境伯領が4個、伯領が15個の計20の所領があるが、ケルゼン伯領は10~15番目くらいの規模だったと思う。 最近、急激に人口が増えて順が入れ替わったりするが、確かその辺りだった気がする。 王都が断トツに多く、最近600万人を超えたとか大騒ぎしてたぞ。」

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は? 王都だけで600万だと⁈ 10~15番の規模ってことは真ん中より少し下ということだ。 それでで30~50万人くらいと推定してみる。 爺ちゃんから聞いてた人口と全く違うじゃないか。 もしかして、地球の育成にかかった年数の情報が抜けているんじゃないだろうな。 確か‥‥‥1000倍で100年、休憩に100年、100倍で20年とか言ってたな。 合計220年か。 それだけ年数が進めば平和になった時代なら人口が急増していてもおかしくないな。 爺ちゃんから聞いた情報の歴史以外は参考程度と思ってたほうがいいかもな。

「ケルゼン伯領は王国のどの辺りにある所領なんですか?」
「そうだな‥‥‥ 王国の東西南北には辺境伯の伯領があってな、中心と東伯の所領の間に王都がある。 その逆の中心と西伯との所領の間にあるのがケルゼン伯領だ。 王都とうちの領の間には王都と辺境伯領の次に大きいガルデム伯領ってのがあってな、ここのガルデム伯ってのがあまり良い噂を聞かないのよ。 近々、王様か大司教からお咎めがあるんじゃないかと言われてるからな。 隣領なのであまり騒ぎが起こると、こちらまで被害が来るんじゃねぇ~かと皆心配してるのさ。」

 戦争が無くても紛争の火種は燻ってるってことだな。グランガイズにおけるこの国、領土、街、村に関しての初級な基礎知識はある程度得られたのではなかろうか。 地球との『道』の入り口が国のどの領に現れるかは分からないが、ケルゼン伯領に拠点を構えるのも良いかもしれないな。 王都でも良いが、どれくらいの広さに600万人も住んでるのか分からない。 あまり人が多いのは好きではないから、中規模辺りが丁度いいだろう。
 ケルゼン伯の評判を集めて、悪くないなら街の選択だな。 この街の評判も集めて悪くないなら、この街でも良いかもな。 取り合えず『道』の入り口が見つかるまでの拠点だ。おやっさんに評判を聞いてから決めてみようか。

「この街の暮らしは良いですか?」
「漠然とした質問だな。 まぁ、領主のアハグト子伯はお優しい御方だな。 嫡男のリューゲル様も優秀な御方だと聞いている。 リューゲル様も御年30になられるので、そろそろ子伯も代替わりを考えられてるのではと囁かれてるな。 ということで、未来は結構明るい。 亜人との交流が盛んな国で、この街もその影響が大きく発展し、勢いもある。 おいらとしては結構良いと感じてるぜ。」

 アハグトの街を第一候補にしておこう。 ここまで歩いて来ても雰囲気も悪きない気がする。 だが、エルフが多い領があるなら考えを改めねばならないかもしれない。
 そのような考えをしていると、今まで無言だったライドルが話しかけてきた。
「この角を曲がると神殿が見えてきます。 もうすぐ着きますよ。」

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角を曲がると、大きな門構えの建物が見えてきた。
「神殿にしては、かなり閉鎖的な建物なんですね。」
「普通だろ? 神殿は神聖国の飛び地みたいな場所だから、関係者以外は入れないぞ。 教会と勘違いしてるのではないか。 信徒の礼拝は教会で行うからな。 神殿はあくまで神を祀る場所であって、政治機関としての一面も持ってる。 なので、警戒は厳重になるのは仕方がないだろう。」

 ギリシャ神話でよく描かれる神殿をイメージしてたので、かなりのギャップを感じてしまった。 宗教関係は詳しくないので、あまり深入りしないようにしなければな。 地球より、かなり宗教関係の力が強い感じがする。 神が現存するのだし、仕方ないのかもしれない。 権威だけで中身が腐ってないことを祈ろう。 神様も見てるし大丈夫だと信じたい。

「ライドル、受付に行って先方に到着の報告に行って来い。」
 命を受けたライドルは門の横にある窓の前まで走ってき、中にいる受付の男と話している。 少し話すと受付をしていた男が部屋の奥の扉を開け出て行き、暫くして門の閂らしきものを外す音が聞こえてきた。
 やけに厳重だな。 グランガイズではこれが普通なのだろうか? まぁ~大使館みたいなものと思えば、それほど違和感はないのか。 

「番兵のお二方、案内ご苦労様でした。後のことはこちらで処理致しますので、お引き取り願っても結構です。 ではそこの御方、こちらにいらしてください。」
 受付の男が、おやっさんとライドルに戻るように話して、俺に呼びかけてくる。 ここでおやっさん達と別れ、神殿に残されるは不安が一気に襲ってきた。

「おやっさん、色々有難うございました。 ここを出たら、絶対すぐにお礼に伺います。 なにか美味しい物でもおごりますので、また色々教えてください。 ライドルさんにもお世話になりました。」
「おお、楽しみに待ってるぞ。 遅くなって、おいらが帰った後でも次の番の奴に連絡先を告げておくから、気軽に連絡してくれや。」
 おやっさんは俺の不安を察してくれたのだろう。 豪快に笑いながら手を振って答えてくれた。 俺はその心遣いに感謝しつつ案内役の男の後に着いて行く。
 
 建物の中は取り立て飾り物もなく殺風景で生活感が全くない上、人の気配すら感じられない空間になっている。 通路の横には中庭であろうか、芝生が敷き詰められ中央に噴水が備えられていた。 噴水から吹き上がる水の音と案内役と俺の足音だけがこの空間を支配していた。 通路脇にある扉の前に案内役は止まると、扉を3回ノックする。

「掌院ケッセル様、例の御仁を御連れ致しました。」
 案内役は恭しく部屋の中にいるであろう上司に到着の報告を行った。

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「はい。お入りください。 案内御苦労様でした。 貴方は勤務に戻ってください。 後のことは全てこちらで引き受けます。 では、貴方は此方にいらして下さい。」
 中から思ったより若そうな男の声が聞こえ、それに従うように部屋の中に入った。 それと入れ替わるように俺の前にいた案内役の男はそのまま部屋の前から踵を返し、元来た通路へと歩を進めて行く。 中に入ると10畳くらいの部屋の正面に長方形の机が1つ、椅子がこちらに3つ奥に2つ並んでいて、そのうちの1つに20代後半に見える男が座っていた。 部屋には窓はなく、大きな鏡が壁に張ってあるだけの、この建物らしい殺風景な部屋だった。 鏡と逆の壁際に20代前半に見える男女の神官が待機しているのが見える。

「私はこの神殿を預かっているの掌院ライウズ・ケッセルと申します。 ケッセルとお呼びください。 そこにいる2人はこの神殿の司祭であります。 さぁ、そちらの席にお座りください。」
 ケッセルと名乗る人物はアニメの教会に出てくるより少し飾り物が多く着いた白い祭服を身に纏っていた。俺は促されるままに3つ並んである中央の椅子に腰を下ろす。 すると壁際にいた男が俺の入って来た扉の前に移動し、錠をかけて扉の前に直立した。 罪人と言うほどの扱いではないが、不審人物扱いである。 まぁ、確かに不審人物なんだろうが。

「さて、お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「友山健人です。 性が友山、名が健人です。」
「ほう、性をお持ちなのですか。 では友山様、鑑定をかけますがよろしいですね。」
 よろしくないが、断ることも出来ないだろうが! なんとか穏便に、この場から帰れるように行動しなければならない。

「はい、大丈夫です。」
「始めます。 『世界を照らす光の神よ。 我に真実の理を映し出したまえ。鑑定。』」
 ケッセルは呪文のような言葉を発し、自身と俺の間の空を見つめている。 俺には見えないから予想だが、そこに俺のステータスがあらわれているのだろう。 暫しの間、静かに時間だけが流れていく。 

「友山様、ここは神の御前です。 嘘偽りの無いように願います。 偽りの言葉を吐けば、貴方自身に厄災が訪れ、不幸な未来が訪れることになるでしょう。 最初の質問です。 貴方は何処から来られたのですか?」
 最初から答えづらい質問からブッコんできやがったな。 まぁ、最初に聞かれるとは思っていたが。 ここは想定通りの応答で乗り切れるしか方法はあるまい。

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「気が付けば草原の中で倒れていたのです。 自分の名前は思い出せたのですが、何処から来たのか、何処へ向かっていたのか記憶がないのです。」
「それは大変でしたね。 鑑定の結果、貴方の国籍が空白なのです。 水晶が白く光った訳はそれだと思われます。 水晶での審査方法が広まって以来ずいぶんと時は経つのですが、白く光ったのは過去に一度しか御座いませんでした。 前回の場合も国籍が空白だと言う事が伝わってますし、今回貴方も同様な結果となったので原因は国籍不明と言う事だと思われます。なにか国籍や身元が分かるような物はお持ちではないですか?」
 ケッセル神父は俺の腰紐に付いてある巾着を見ながら尋ねてきた。

「巾着の中は調べたのですが、入っていたのは硬貨を入れた小袋だけでした。あとは腰につけた鞘に入った短剣ぐらいしか持っていませんでした。」
「なるほど、硬貨は人族統一硬貨なので出身国は分からないですね。 その短剣を見せていただいてよろしいでしょうか。」
 帯刀したまま、このような場に座ってしまった非礼は咎められないようだ。 俺は腰に付けた鞘ごと外し、神父の前の机の上に短剣をそっと置いた。 神父は短剣を手に取ると、繁々と眺めている。 おじいちゃんからは街の人が使うような一般的な短剣と聴いていたので、不審な点は見つからないだろう。

「結構古い型の短剣ですな。 まるで新品のような品質でございますね。 通常の手入れでは、このような状態を維持できますまい。 何か方法があるので御座いましょうか?」
 そう言えば、220年以上前の短剣なのだった。 そこらの整合性もこれからは注意しないといけないな。

「気が付いた時には佩していたので、どのような経緯で手に入れ、どのような手入れをしていたかわからないのです。」
「水晶が白く光った原因は分かりました。貴方に記憶が無いこと以外は、一点を除き怪しいことも御座いませんでした。 私の虚言判定にも反応は有りません。 最後に不可解な点をお尋ねします。 貴方のステータスに表示されているスキルは無く、所有魔法も無い。 職業は記されず、レベルも1です。 能力値も空白になってます。 どうやって生きてこられたのでしょうかね。 成人以上だとお見受けする貴方には絶対に有り得ないことなんですよ。」
 おい、じいちゃん、そこらも調整しておいてくれよ。 確かに、この年齢になってもレベルが1って事は有り得ないよな。 魔法やスキルのことは誤魔化せたとしても、この世界の常識を知らない俺にでも異常と言う事は理解できた。 しかし、ここは記憶に御座いません戦法で乗り切るしかないだろう。

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「王都の大神殿から大司教台下がいらっやるとの念話が入りました。 すぐに転移門から来られると言う事です。 少しお待ちいただくようにと連絡が入りましたので、ひとまず休憩と致しましょうか。 私は表まで大司教台下をお迎えに行って参りますので、気を楽にしてお待ちください。」
 ケッセル神父は扉の前に立つ男性に少し話をした後に部屋を出て行った。
 
 大司教って結構な身分の人だったよな。 俺は無事にこの建物から出ることが出来るのだろうか。 不安が雰囲気に出ていたのだろうか、白い祭服姿の女性が俺に声をかけてきた。

「 私はシスターマルレシアと申します。 何も分からないのは辛いことでしょうね。 私でよろしければ多少の疑問にお答えできることもあるかもしれません。 会話することによって、気持ちがが落ち着くことも御座いましょう。 我々六神教・光の徒は民に寄り添い、心と身体のケアを心がけてます。 どうか、悩みや分からないことが有れば、気軽に話してみてはいかがでしょうか。」
 先ほどまで話していたケッセル神父よりかは幾ばくか年嵩の増したと見える女性で、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。 俺は内心、胡散臭いと思いながらも質問をすることにした。

「国籍が無いと言う事なのですが、これから私はどのように扱われるのでしょう。」
「犯罪者ではない限りは、最初に確認された場所に登録されることになるはずです。 貴方の場合ですと、村の少年と道中で出会い、最初に確認されたのがアハグトの街ですので、エルテルム王国のケルゼン伯領・アハグトの領民登録になると思われます。 もし貴方が神殿に保護を求めるのであれば、私たちも出来る限りの助勢はさせていただきますよ。」
 既に俺の行動はある程度調べ上げてると言うことだな。 念話で個人通話が出来る世界だ。 門番の誰かから情報を得たのか、あの部屋の会話を知る術があるのかは分からないが、好ましい行為とは思えない。 それに宗教を信じるのであれば、初めからグランガイズ3位のアリライ神聖国を選んでるよ。 この世界は神と呼ばれる者が実際に居るので、地球ほどには腐っていないとは思うけどな。 レベルとかの事も聞きたいが、何をどのように聞けば良いのか分からない。 取り合えず漠然と聞いてみるべきか。

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「レベルと仰られてましたが、レベルとは何ですか?」
「まず、ステータス情報は御存知ですか?」
「いえ、分かりません。」
「生物にはステータス情報があるのですよ。 鑑定などで見られるものなのですが、『名前・年齢』『職業・レベル』『現在の状態』『所有魔法と所有スキル・レベル』『現状能力値』が分かります。 鑑定のレベルが上がるともっと詳細な情報が得られるらしいのですが、鑑定のレベルの高い人は滅多におられないので真偽のほどは分かりかねますね。」
 俺は自分のステータスは見れないので、どのように映し出されているのかが分からないが、取り合えず職業レベルが1なのだけは確かなようだ。 おれの職業欄は空白だと言っていたな。 この世界にはトレーダーなんて無いだろうし、職が不明なのは仕方が無いだろう。

「職業はどうやって決まるのでしょうか?」
「職業は成人の儀の際に成りたい職業を選択することができます。 嫡子は親の職業を継ぐのが一般的で、後の子供は、街に出て職を探すことになります。 一番多くの人が選ぶのが、新村が出来て農業を営む『農民』でしょうか? 職人に弟子入りする場合もありますし、最近では冒険者組合で『冒険者』を選ぶ若者や傭兵組合で『傭兵』を選ぶ若者が増えてると聞きます。 転職したい場合は教会でできるのですよ。 ただし、転職前の職業とレベルは残るのですが、転職後のレベルは転職前の職業のレベルの半分から始まります。 なので、うまくいかずに諦めて元の職に戻る人も多いですね。 婚姻すれば家業を持ってる人に合わせる場合が多いです。 もちろん、別々の職業の方もおられますよ。 職業を変えずに他の仕事に着くことは出来るのですが、本職の人よりは効率や上達にすごく差ができるのでお勧めしません。」
 職業を変えた時に現時点の半分のレベルがもらえるのか。 レベル1からやり直すので無いのは結構優しい制度だな。

「後、犯罪者になると強制的に職業欄に犯罪名が表されることになります。 例えば人を殺めた者は『殺人者』となり、捕まれば神殿に送られ審議官が罪の重さを判定します。 事故等によって人を殺めた場合などは、更生施設に送られ刑期を終えれば再度一般職に戻れます。 軽犯罪も同様ですね。」
 入門審査で水晶が赤く光ると犯罪者と言っていたな。 あそこで赤く光ると神殿送りになってしまうのか。 裁判所の役目も負ってるんだな。 罪状が明らかだから、弁護士や判事も要らず即日結審って訳だ。 後は本当に教会関係者が誠実であるかどうかだがな。

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「大司教が来られるとおっしゃられてたのですが、教会ではどのような地位におられる人なのでしょうか。」
「六神教と言っても色々御座いますが、人族限定で言えば教皇猊下を頂に、23名の大司教台下が次席として数えられます。 本国の大聖堂に教皇猊下と大司教台下3名が常駐しており、各国の首都の大神殿に1人ずつ常駐しております。 各領都の神殿には司教が、各街の神殿には神父ケッセルのような掌院や典院が管理を任されていて、そこに私達のような司祭や輔祭が務めております。」
 掌院や典院などは聞いたことはないが、司教と司祭の間の地位っぽいな。 俗に言うとファーストフード店の店長みたいな地位ってことだな。 大司教ならこの国の教会のトップか。 それに、このシスターは自分が司祭か輔祭と言ったな。 この世界では聖職者に女性もなれるのだな。

「魔法やスキルは教会で得られると聞いたのですが、ここでも得ることはできますか?」
「各神殿は神聖国の出先機関でも在り、法を司る場所でもあり、聖職者が祈り修行する場所ですので一般人の出入りは許可が無いと許されません。 ですので、通常は街や村の各教会でのみ配付しております。」
 ここでは無理なのか。 来た意味が無くなってしまった。 おやっさんも一般人は入れないって言ってたもんな。

「神父リーリアス、台下の面談の後であれば貴方がトモヤマ様に配付することは可能ですか?」
「神殿内での配付は無理ですが、近くの教会でなら私が同行して配付することは可能です。」
 リーリアスと呼ばれた神父が無表情で応えた。 こいつ、会ってからずっと無表情だな。

「神父リーリアスは長司祭で司祭の中でも優秀なので褒章されるほどの人物なのです。 頼られると良いですよ。」
 この無愛想な神父が長司祭だったのか。 確かおやっさんは長司祭に連絡取れって言っていたよな。 本来ならこいつが俺を審査してたはずってことだ。 それが何故か、この施設の責任者に代わって、更に王都から大司教とかが来ると言う。 段々と自体が大事になっていないか? そのような事を考えていると廊下の方から話し声と金属が擦れるような音が聞こえるだした。 声と音の主は扉の前まで来て、リーリアスみに扉を開けるように指示をだした。 声からするとケッセル神父が戻ってきたようだ。

 ケッセルを筆頭に豪華な赤い祭服を纏った男が後に続き、その後ろには豪華な白い祭服を纏った男が続き、その後ろから鎧を着込んだ2人の騎士っぽい人物が入って来た。 リーリアスは赤い祭服の男が入って来た時に無愛想な顔が一瞬、驚愕の色を浮かべていた。 やはり優秀な司祭でも国の管理を任される大司教と顔を見ることはあまりないのだろうか。 赤と白の豪華な祭服の男2人が俺の対面の席に座り、ケッセルが2人の間の後方で直立している。 騎士2人は机の両側面に待機したようだ。

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「お待たせして申し訳ありません。 私は神聖国の大聖堂で大司教をしておりますライウズ・ミケイルと申します。 そこの騎士2人は私の護衛ですのでお気になさらないでください。 国元を出るときには護衛をも共わなければならない決まりがあるのですよ。」
 赤い祭服の男が自己紹介してきた。 あれ? 神聖国から来たって言ったぞ。 しかも、またライウズと名乗ったな。 兄弟なのだろうか。

「私はエルテルム王国の教区を任されているライウズ・カステレウスだ。 本国に連絡を入れた時にミケイル枢機卿が同行されると仰ったので、一緒に来られることになったのだ。」
 この赤紫の祭服の男が、この王国の大神殿の大司教なのか。 こいつもライウズかよ。 ライウズって地球で『聖人』とか付けて呼ぶあれかな? この大司教はミケイルを枢機卿って言ったよな。 確か俺の曖昧な宗教知識と先ほど女司祭から聞いた情報を整理して考えてみた。 日本で例えると教皇が総理、枢機卿が閣僚、大司教が国会議員、司教が県会議員、掌院や典院が市会議員、司祭や輔祭が公務員って感じだよな。

「早速、鑑定をさせてもらうね。 『世界を照らす光の神よ。 我に真実の理を映し出したまえ。鑑定。』」
ミケイル大司教がケッセルと同じ呪文を唱えた。 魔法を使う時には詠唱する文言が決まっているのだろうか。 そうだとすれば面倒だな。
 
「トモヤマ殿、掌院ケッセルから聞いておられるでしょうが貴方のステ―タス情報欄には職業レベルが1と書かれています。 名前欄も(性)トモヤマ・(名)タケト(仮)となっていますね。 貴方が掌院ケッセルにそのように名乗ったのでその様に仮登録されたのですな。 我ら人族の国で性を名乗るのは貴族身分くらいなのですが、各国に神殿を構える我らもトモヤマと名乗る性を聞いたことが御座いません。 それに大半の人族の貴族は性は後に名乗るのですよ。貴方は何者ですか?」
「ケッセル神父にも答えたのですが、私には記憶が無いのです。 なので自分が以前に何をしていたかは全く分からないのです。」
 ミケイル枢機卿は俺を興味深そうに見ながら微笑んでいる。

「なるほど。 掌院ケッセルが言った意味が解りました。 私たち聖職者は真偽判定のスキルを所持しており、高位になるほど詳細が解るのです。 それによると、貴方には真偽判定のスキルが反応しないのですよ。 鑑定スキルは反応するのに真偽判定は反応しない。 まぁ、鑑定スキルも完全に反応したかは分かりかねますが‥‥‥ 何か特殊なプロテクトスキルでもかけてあるのでしょうかね。」
「ミケイル枢機卿、これは異常な事態ですぞ。 こ奴を本国の大聖堂に連行し、そこで尋問するべきではありませぬか?」

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カステレウスと呼ばれた大司教が俺を睨みながらミケイル枢機卿に話しかけた。 おい、これはヤバいかもしれない。 どうやら決定権はミケイル枢機卿が持ってるらしい。 穏便な判断をしてくれよな。

「カステレウス大司教、どのような容疑でトモヤマ殿を連行するのだ?」
「このように真偽判定のスキルが通じない危険人物は大聖堂で保護し、世の為にスキル解析の検証体になってもらうのが一番ではないかね。」
 おいおい、どんどんヤバい方向に話が進んでるぞ。 

「そのような曖昧な嫌疑で彼を拘束することはエルテルム王国との関係も悪くなるのではないかね。」
「罪状など作ればよろしい。 真偽判定が出来ないと言う事なら、偽証したと言う事もあり得るのではないかね。 もしかすると、高度なステータス偽造のスキルや判定スキル全般を妨害できるスキルを使っているのかもしれませぬぞ。 何にせよ、一旦本国に送ってから考えても良いのではないかね。」
 おいおいおい、立場が逆じゃね? 神聖国から来た枢機卿が王国との関係を気にして、王国の大司教が関係を気にせず強引に物事を進めようとするとはな。 ミケイル枢機卿が穏便派でカステレウス大司教が過激派ってことなのか。 それか宗教勢力が強く、実際に管理している大司教からすると、王国は気にするに値しない程度の存在と思ってるかだな。 どちらにせよ俺の運命はミケイル枢機卿に託されたわけだ。 

「我々は各国で秩序と法を司る存在としてお役に立っていると自認しております。 一番は神の存在の威光のおかげでありますが、長年の神聖国が培ってきた信用と努力の賜物でもあるのですよ。 だからこそ我々は常に公平で在らねばなりません。 自分が思う公平ではなく、他者から見ての公平です。」
 どうやらミケイル枢機卿は本当に人格者なのかもしれない。 表面だけかもしれないので油断はしてはいけないがな。 カステレウス大司教‥‥ もうカスでいいや。 カスの表情が憤怒に染まって見える。 しかし、自分より上位の存在に正論を言われてしまうと、さすがに反論は出来ないようだ。 

「枢機卿台下、受付に王国のアハグト子爵が参られたとの連絡が御座いましたがいかがいたしましょうか?」
 唐突にリーリアス神父が無表情に戻った顔で報告を入れてきた。 アハグト子爵、名前からするとこの街を統治している貴族なのだろう。 貴族などとも余り関りを持ちたくはないな。 状況によってはこの枢機卿を信用して神聖国を頼らざるを得ない事になるかもしれない。 ここは状況を静観するしかないだろう。

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「少しお待ち頂きなさい。 トモヤマ殿、最後の確認させていただいて宜しいですかな。 貴殿は南井善次郎と言う人物を御存知ですかな?」
 予想していなかった質問に、思わず答えに詰まってしまった。 そうだった、地球時間では40年前だけどグランガイズでは100倍の速度だ。 と言う事はグランガイズは5か月前の出来事じゃないか。 無国籍の前例が一件と聞いた時に予想しておくべきだった。 このクラスの尋問官に一瞬でも躊躇したのはまずかったな。 完全に知ってることはバレたようだ。

「なるほど、御存知なのですね。 彼がどの様な結末を辿ったかは御存知ですかな?」
「はい、知っております。 どのような状況で何をしたのかは知りませんが、処刑されたと聞きました。」
 俺は観念して知ってる情報を素直に話すことにした。 ここで下手に心証を悪くすると後に後悔することになりそうな予感がしたからだ。

「ミケイル枢機卿、こ奴は神聖国でも上層部しか知り得ない事柄を知っておるぞ。 これは大問題ではないかね。 やはり大聖堂に連行して徹底的に身柄を調べるべきではないかね。」
「それには及びませんよ。 教皇からこれを御借りして来て参りました。」
 ミケイル枢機卿はそう言うと、懐からビー玉くらいのガラス玉の様なものを取り出した。 カスはそれを見て驚愕の表情を見せながら
「それは神意球ではないか。 大聖堂から持ち出すことは禁止されていたのではないかね。」
「教皇様が必要になるから持参して行けようにとお達しがあったのですよ。 教皇は持ち出し許可を与える権限が有り、枢機卿は使用者権限が有りますので何の問題もありますまい。 トモヤマ殿、私の手に触れて下さい。」
 ミケイル枢機卿は右手に神意玉を持ちながら、左手を俺の方へと差し出してきた。 おれは諦念の状で枢機卿の手を取ると神意玉は光輝き出した。 

「光の神から神意が下されました。 トモヤマ殿は大神が連れてこられた迷い人だそうです。 迷い人とは、この世界の理が無い世界からこの世界に送られてきた一般人だそうです。 トモヤマ殿に過度に干渉するなと大神から警告があったようですね。 これでトモヤマ殿に対する建議は晴れました。」
 そう言ってミハイル枢機卿が微笑みながら席を立ち上がったってドアの方へと歩を進め出した。 それにつられた様にカスもいそいそと追いかけて行く。 リーリアス神父が扉の錠を外し、扉を開放する。

「長司祭リーリアス、 トモヤマ殿に王国からの干渉無きように警告せよ。 下手に干渉すると神罰が下ると言っておきなさい。 それと彼はこの地に不慣れな状況でもあります。 案内役に1人、有能と貴方が思う戦闘司祭をお付けしなさい。」
「案内役の件、畏まりました。 早速用意させます。」
 リーリアスは目を閉じ瞑想でもしているような状態になった。

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「トモヤマ殿、私たちが直接干渉出来るのはここまでです。 後は王国の庇護下に入ることになります。 一応、忠告は入れましたが、王国の動きは読めません。 神殿から護衛を付けますのでご自由にお使いください。 神殿の関係者を側に置いておくと王国の連中も無茶な行動も取れないはずですよ。 それに、この世の常識やある程度の高度な知識も得られましょう。 司祭ならば魔法や職業を選択して配付を授けることも出来ますよ。 お布施は頂きますがね。」
 特典付きの警護か。 これは受けておくべきだな。 リーリアスから配付を受け取るよりは気が楽だろう。

「御厚意、有難うございます。」
「何、こちらとしても貴殿とは交友を繋いでおいた方が有益だと思っての事。 警護の者に不満が有れば、この神殿に連絡を入れて神父ケッセルに申し出ると対応するように命じておきます。 他に何か『思い出した』事があれば気軽に護衛の司祭に話してくださいね。 私共は貴族とあまり関係を持つことは許されてません。 神殿の内部の視察を行って本国に戻りますので、ここで失礼します。」
 そう俺に告げると、大司教と騎士2人とケッセル神父を率いて廊下を入り口とは逆の方向へと歩いて行った。 ミハイル枢機卿は俺が記憶が無いと言ってることを嘘だと見抜いているようだったな。 結果的に彼がここに来てくれたのは俺にとってとても有益なことになった。 あと、じいちゃん。 何だかんだ言って、光の神に俺の事を頼んでくれていたんだな。  あとはこの街の貴族との話を無事に乗り切れば自由が待ってる‥‥‥はずだよな?

「トモヤマ、随行する司祭の用意が出来た。 受付に先に行くように命じてあるので、そこで合流するように。」
「トモヤマ様、私が表門までお送り致します。用意が出来たら仰ってください。」
 リーリアス神父が相変わらずの無愛想な表情で俺に指示を出し、シスターマルレシアが玄関まで送ってくれるらしい。 俺は机に乗った短剣の入った鞘を巾着に入れると立ち上がり、準備が整った旨をシスターに伝えた。

 シスターは開いた扉から出て待機し、俺が後に続いて歩き出すのを確認してから玄関へ向けて歩き出した。 突然の本国からの枢機卿の来訪に驚いたらしく、人の気配が薄かった神殿の奥の方が慌ただしく動いている様子が伺える。その気配に背を向けシスターの後に着いて行く。 玄関口に着くと眼前の門は開け放たれており、門の向こうには貴族っぽい男と兵士姿の男が3人に黒い祭服の男が何かを説明している姿が見えた。

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「あちらにお見えになられている貴族が、この街の管理を任されているアハグト子爵ですわ。 本国から枢機卿が参られたと聞いて取り急ぎ駆け付けたみたいですね。 その子爵に枢機卿来訪の趣旨を説明しているのが、トモヤマ様の護衛を務めることになる神父ラーテイです。」
 え? ここは普通、女神官が来るんじゃないの? 全世界の俺からブーイングが起こるぞ! シスターはラーテイと呼ばれた男の横まで歩を進め、子爵と神父に向けて話しだした。

「アハグト子爵、御来訪いただき御苦労様です。 神父ラーテイ、子爵様の御用件は伺いましたか?」
「アハグト子爵の御用件は、ミケイル枢機卿台下とカステレウス大司教台下の来訪の理由とトモヤマ様が水晶の検査で白く光った理由をお聞きになりたいとの事です。」
「解りました。 水晶が白く光った理由についてはステータス表示で国籍と所属地域の登録が為されてなかった事によって起きたとのことです。 犯罪等の容疑が有った訳では御座いませんので御安心ください。 枢機卿台下と大司教台下がいらっしゃった件は聖王国でも半年ほど前に同様な事象が起こったので、その為の確認で来訪されたとの事です。 確認されて、何も問題がないとの事ですので、両台下は当神殿の視察をなされてます。」
「それでは、そちらの男は何の問題も無かったと言う事ですかな。」
 アハグト子爵は俺の方を見ながら、シスターに確認を入れた。

「はい、何の問題も御座いませんでした。 ですが、記憶を失って御困りとの事でしたので、神殿から神父ラーテイを警護役と保護司を兼ねて随行させる事になったのです。 後ほど住民登録の為に役所に登録に同行させる予定でしたのですよ。」
「記憶が無いのですか。 それはお困りでしょうな。 問題が無いとの事ですので我々は引き上げると致しましょう。」 
 そう言うと、アハグト子爵と兵士達は引き返して行った。 拍子抜けするほど素直に引き返して行ったな。 確認の為だけなら配下の者にさせても良かっただろうに。 枢機卿か大司教に直接会えればラッキーくらいの考えで来たのだろうな。 俺はラーテイ神父の側まで歩いて行き、ラーテイ神父を観察していた。 
 ラーテイ神父は黒い祭服を身に纏い、戦闘司祭と言う割には武装しているようには見えず、筋肉粒々なマッチョの体質とは思えない細身な体をしている。 髪は金髪で、年齢は20代くらいの如何にも人の好さそうに見える若者って感じの男だ。  身長は180くらいあるだろうか、俺より高いな。 身長で負けたくらいで悔しいとか思ってないからな!

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「戦闘司祭ラーテイと申します。 私の事はラーテイとお呼びください。 拳闘士スキルと補助と治癒の魔法が使えます。 暫くの間御一緒させて頂きますが、御迷惑にならないように助力させて頂きます。 どうぞよろしくお願い致します。 分からないことが有れば、何でもお尋ね下さい。 私の知り得る事であればお答えさせていただきます。」
「俺は友山健人だ。  記憶が無くて、常識も全く分からない状態だ。 色々質問するだろうがよろしく頼む。」
 俺はそう言ってラーテイに向けて右手を差し出した。 ラーテイはその手を不思議そうに見つめている。 もしかしてグランガイズには握手と言う文化が無いのだろうか。 こういった地球での常識が無意識で出るのは仕方がないが、誤魔化し方も考えねばなるまい。 俺は何事も無かったように右手を引っ込めシスターに謝意を伝え、ラーテイと今後の予定を話し合うことにした。

「まず、何からすれば良いのかな? 住民登録やらをする為に役所に向かうのが良いのかな?」
「そうですね、何をするにしても住民登録はしておいた方が宜しいと思いますよ。」
「それでは役所まで案内を頼む。」
 ラーテイは了承し、俺を先導して歩き出した。

「なぁ、ラーテイ。 戦闘司祭と司祭って何が違うんだ?」
「まず出発点が違いますね。 戦闘司祭は戦闘修道院に入ります。 司祭は通常の修道院です。 通常の修道院では神に祈り、修行しながら労働し経験や知識を得る事が目的です。 戦闘修道院は祈りと身を鍛え、後に聖騎士となるべく修練するのが目的なのです。 戦闘修道院から聖騎士にならず神官への道を歩む者を戦闘司祭と呼びます。 この街には神殿内に小さな修道院も併設されておりますが、戦闘修道院は領都にある大神殿内にしか御座いません。 戦闘司教まで叙聖される方もおられるのですよ。」
 ラーテイは誇らしげに語ってくるが、宗教に興味がない俺からすれば、司教も司祭も変わらないように感じてしまう。
 
「俺に向いている職業って何があるんだろうな。」
「私は分かりかねますが、要はトモヤマ様が何を望まれているかによると思いますよ。 神に仕え、民に奉仕したいなら神職の道へ。 何かを作って自分を表現したいなら生産職の道へ。 戦うことや世界を渡り歩きたいと思われるなら傭兵や冒険者になると言う事も候補にあがるのではないでしょうか。 安定した生活を望むなら役人になると言う道も御座います。 後は‥‥‥その日暮らしで良いと思うのであれば、単純労働者ですかね。」

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自分が何者で何がしたいかなんて考えた事なんてなかったな。 大学時代に暇つぶしで始めた仮想通過取引で儲けを出したのをきっかけに個人トレーダーの道へ進んでいっただけだ。 情報分析が得意だと言う訳でもなく、運の良い男と例えるのが正しいだろう。 俺は数年前からアメリカの某電気自動車や大手IT事業の株に投資して儲けを出して売り抜け、今では細々と趣味で日本の外食関連の株で遊んでいるような状態だ。 趣味は読書程度だし、外出も好まない。 人付き合いも多いほどではないし、散財する要素がない。 多分、今の生活なら50回くらいの人生を繰り返せるほどの資産はあったな。 転移前に住んでいたマンションも俺の名義だし、マンションの家賃収入だけでも俺が余裕をもって何人か暮らせるだけあった。 まぁ、もう無くしたも同然だから意味ないがな。

「トモヤマ様がお持ちの資金の状態にもよりますが、資金が多ければ冒険者や傭兵がお勧めですね。」
「ほう、何故資金の多寡で推薦する職業が変わるんだ?」
「例えば神職や生産職や役人や単純労働者はスキルや魔法の所有数ではなく、熟練度が大事になってきます。 冒険者や傭兵も熟練度も大切ですが、所有スキルや所有魔法によってやれる事の範囲が大幅に変わってくるからですよ。 スキルや魔法を会得するには資金が要ります。 特に中位や上位のスキルや属性魔法は結構お高いですからね。」
「傭兵や冒険者と言うのはどのような事をして金を稼いでるんだ?」
「傭兵は傭兵組合に登録して、組合に登録しているクランに所属するのが大半です。 傭兵のクランは街の役所と契約して街や村の警護や領内のパトロールを受け持っていますね。 罪を犯して街に入れなくなった連中や、冒険者くずれの連中が野盗となり村を襲うことがあるのです。 それを防ぐのが目的ですね。 この街の門番も傭兵クランが任されているのですよ。」
 おやっさん達はこの街の正規兵ではなく傭兵だったのか。 あ、後でおやっさんにも会いに行かないとな。

「冒険者は冒険者組合に登録して、個人や組合の募集で集まった人や特定のパーティを組んだり、クランに所属したりと様々です。 それぞれにメリットやデメリットが御座います。 個人は自分の都合が優先出来ますが、よほどの実力が無いとかなり危険です。 組合で募集をしたり、募集しているグループに参加するのも自分の都合に合わせられるけれど、実力が不釣り合いだったり、信用がどこまでおけるか分からないところがデメリットですね。 特定のパーティを組む場合は自分の都合は優先されないけれど、ある程度信用できる仲間と言う事になるでしょう。 クランに所属すれば組織の一員としての働きを求められますが、一定の所得と新人のときに細やかな指導を得られることです。」

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せっかく異世界に来たんだ。 農民や単純労働をするのは嫌だな。 と言って生産職に就くほど器用でも無ければ発想力がる訳でもない。 もうすぐに戦争が始まると言うのに傭兵なんかになったら、速攻で戦死してしまうかもしれない。
 役人に成れるほど学がやコネがある訳でもないとなると冒険者が一番ということになる。 異世界小説などで冒険者を選ぶ奴が多いのは仕方ないことなのだろう。 特にチート能力など持ってれば当然の帰結だろう。 チート能力で思い出したが2人ほど転生者が居るんだったな。 最高齢でも8才だから戦力にはならんし、知識も古いだろうから役には立たんだろうが能力次第ではある。 優れた能力なら何れ天才児として名前が上がってくるだろう。 頭の片隅にでも記憶しておこう。
 金が無くて冒険者になるならクランに所属するのが良くて、決まった仲間がいるのならパーティを組むのも良し、ある程度懐に余裕が有って、自由を求めるなら募集か個人ってことだな。 おれは集団生活や行動は苦手なので傭兵や冒険者のクランに入るのは無理だ。

「冒険者の収入源となるのは、組合からの依頼とダンジョンの報酬が主ですかね。」
 ダンジョンがあるのか! これは冒険者になるのも良いかもしれない。

「ダンジョンでどのような事が収入になるのかな?」
「通常の収入は魔石と素材です。 モンスターは体内に魔石を持っているのです。 人間でいえば心臓にあたるものが魔石だと言われています。 モンスターが高ランクになれば魔石の大きくなり価値も上がります。 素材はモンスターの肉や部位がお金になります。」
 モンスターがそのまま残るタイプのダンジョンなのか‥‥‥ ゲームみたいに素材と魔石が残るタイプが理想だが仕方ないな。

「稀に宝箱が有り、アーティファクトが出ると品によっては大儲け出来るらしいですよ。 レリックも出たことも有るらしく、手に入れる為なら教団は金銭を惜しまないそうです。 下層に行くほどに魔物も強力になって行き、宝物から出る品も高価になるという話です。 以上の事柄からダンジョンは神の制作物と見られていますよ。」 
 一攫千金などは期待はしないが、普通に生活が出来るほどには収入を得たい。 戦争が始まっても、道を見つけるのにも時間はかかるだろうし、直ぐに激戦になるとは考えづらい。

「そう言えば、魔法を使う時に詠唱しなければならないのかな?」
「私たちが主に使う神聖魔法は詠唱が必要ですが触媒は要りません。 無属性魔法や属性魔法は詠唱は要りませんが触媒が必要になります。 ただ、混乱を避けるために魔法名を発することを義務付けられています。 スクロールを使うのであれば魔力も触媒も要りませんね。」
「触媒って何が必要なんだ?」

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「低位の魔法なら極小魔石~小魔石が必要で、中位の魔法なら中魔石、高位の魔法なら大魔石が必要とされています。 特殊な呪文なら、それに足して必要な素材が増えるらしいです。 私も神聖魔法以外を使う時が有るので、このように魔石ポーチに魔石を入れて持ち歩いてるのですよ。」
 そう言うとラーテイは腰につけてあるポーチの中身を見せてくれた。 ポーチの中には空気銃で使う玉くらいの小さな魔石らしい赤い石とビー玉ほどの赤い石とピンポン玉ほどの赤い石の3種類が入っているのが見えた。 数は小さい石ほど多いようだ。 一番小さいのから極小・小・中の魔石なのだろう。 さすがに高位の魔法は使えないのか大魔石は持っていないのだろう。
「この魔石ポーチは吸収魔法と連動しており、吸収魔法を自分に掛けておけば半日ほどの間はモンスターの死体に手のひらを翳すとポーチの中に魔石を吸収してくれるのです。 冒険者の必須アイテムとも言える品でしょうね。 後でトモヤマ様もお買いになられるが良いでしょう。」
 何それ、便利じゃないか。 ってことは、モンスターの素材もアイテムボックスが吸収してくれるのだろうか? 
「モンスターの素材はどうするんだ?」
「モンスターは解体スキルを使って解体するのが普通ですね。 解体スキルも熟練度が上がれば、高品質で素早く解体できるようになりますよ。」
 うへ、解体は自分でするのかよ。 アイテムボックスは何処に行った。
「素材とか冒険中に邪魔にならないか?」
「上層では素材を得るようなモンスターは出ませんし、中層に行けるほどになるとサポーターを雇う場合が多いです。 下層や深層に行くような上位者はアイテムボックスを使ってるみたいですね。」
 よし、やっと出てきたな、アイテムボックスよ。 じいちゃんの話では普通の道具屋で売ってる品で高価では無いって言ってたはずなんだが‥‥‥
「上位者じゃないとアイテムボックスが買えないほど高いのかい?」
「昔はそれほど高価では無かったらしいのですが、空間魔法で必要になる時空トカゲが200年ほど前に乱獲の末に絶滅しかかって禁猟指定されてから品薄になってるのです。 120~150年ほど前にルクサセス魔法国の稀代の空間使いが人族の持つアイテムボックスを回収し、規格統一を図って再作成したらしく、ほとんどのアイテムボックスの形状は統一され、収容能力にだけ違いがあるそうです。 アイテムボックスは年が経つほどに容量が減るらしく、最大収納量時から年に1%づつ減っていくようです。 規格統一時に再作成されたアイテムボックスは劣化が1/10に抑える魔法が付与されたので、今残ってるアイテムボックスは、その再作成された品か違法に時空トカゲを狩った素材で作られた品しかないですね。」
 レアな状態になってるじゃねぇ~か。

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この巾着は絶対にアイテム収納出来るとバレないようにしないといけなくなったな。 あとで魔石ポーチを買う時にアイテムボックスの形状や容量や値段も見ておこう。

「役所が見えてきました。 あそこの角に見える3階建ての建物が、この街の役所です。 役所で住民登録をしてから今後の事を考えましょう。」
 そう言うとラーテイは速足になり、役所へと向かっていく。 木製の扉は開放されており、中に入ると多くの受付が並んでおり、数人が順番待ちしている状態だった。 そこで俺はある事柄を思い出すことになった。
『俺、字が読めないんだった‥‥‥』

「ラーテイ、住民登録の窓口は何処だ。」
「そこの5番で書類を受け付けてます。」
 ラーテイは右前方にある窓口を指差して答えた。 窓口には順番待ちの列もなく、すぐに受付の女性に話しかけることができた。

「すいません。 住民登録をお願いしたいのですが。」
「お子様の登録ですか? 」
 そりゃそうだ。 こんな年齢で未登録の奴が居るとは思わないもんな。

「いえ、私自身の登録なのです。」
 受付の女性は驚いた表情で、こちらに1枚の紙を差し出してきた。

「あちらの机で、こちら書面に必要事項を記入してこの窓口に提出してください。 文字が読めない場合は代読と代筆しますので御申しつけ下さい。」
「文字が分からないので、お願いできますか?」
「では、ここで代筆させていただきます。 まずはお名前からお聞かせください。」
 名前からか。 確か枢機卿は俺が名乗ったからステータスに名前が表示されたって言ってたよな。 では、名前を変えようとしたらどうなるのだろうか。 日本と戦いになるかもしれないのに日本人名ってのはマズイ気がする。 ラーテイには後で説明したら良いだろうし、ここは本名とは違う名前で登録しよう。 何か良い名前は‥‥特にエルフに好かれそうな名前は‥‥ そうだ、あれで行こう。

「名は『ユグ』で、性は『ドラシル』でお願いします。」
「名前がユグさんで、性をお持ちなのですね。 ドラシルっと‥‥ 次は年齢をお願いします。」
「年齢は28です。」
「定住地か定宿とかは御座いますか? なければ、仕事先や所属組合でも構いませんよ。」
 今日来たばかりなのに、そんな場所は無いって。 どう答えるか迷っていると後ろからラーテイが答えてくれた。

「ユグ様は今朝、記憶を失って草原に倒れていたらしく、鑑定でも何も表示されない状態だったのです。 ですが、神殿の審査で犯罪行為や不審な点が見つからなかったので、教団が素性を保証する事となり私が同行する事になったのです。」
 ラーテイは俺に合わせて偽名で呼んでくれた。

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「でしたら、職業欄も空白と。 では最後に、ここに血を一滴垂らしてください。」
 受付の女性は俺に針っぽい物を渡して、書類の右下の囲いを指差していた。 俺は左手の人差し指に針を刺し書類の上に指を持っていくが血が落ちる気配がない。 仕方なく巾着から短剣を取り出し、指を縦に切って血を垂らした。 すぐに後ろから詠唱が唱え始められ俺の指は切れる前の状態に戻っていった。 こいつ結構、過保護なのだな。 と思いもしたが素直に謝意を述べておこう。

「職業を決められたときに、個人事業などをされる場合は税金の兼ね合いも御座いますので、あちらの1と2番窓口で登録していただくことになります。 組合などに加入された場合は登録した組合から税金を差し引かれますので、こちらでの登録は結構です。 あと何か分からないことが有れば 入り口横の総合受付でおたずねください。」
 まぁ、名前とレベルしかないのだから、これくらいしか書くことはないだろうしな。 俺はラーテイを引き連れて役所を後にした。 役所から出ると向かいに役所の倍ほどの大きさの建物が目についた。

「あの大きい建物も街の施設なのか?」
「あの建屋は転移施設ですね。 街中ではあの施設以外で転移を行うことが許されてません。 この街の転移門は19個あり、1個は領都ケルゼンで、残り18個はこの街の開拓村に通じてます。転移門は対でしか使えないので限定して置くことになります。 街は領都と開拓村、領都は王都と各街、王都は各国と各領都と繋がる転移門を置いているのです。 施設には、それとは別に個別の転移部屋が御座います。 あと冒険者が増えたことで、この施設とダンジョンを繋ぐ転移門の設置が検討されていますね。」
 ラーテイは一息入れて、話を続けた。
「そうですね‥‥‥ 今日来られた枢機卿台下の来られた順を例に挙げると分かりやすいでしょうか。 枢機卿台下は聖都の転移門からエルテルム王都の転移門へと転移され、王都から領都ケルゼンに、領都からアハグトの転移門に、転移部屋から神殿の転移部屋まで来られたのですよ。」
「では、帰りは神殿の転移部屋からここの転移部屋に転移するんだな。」
「いえ、この施設の転移部屋は片道で転移する場所であって、転移で来ることは出来ませんよ。 街中の施設や個人の転移に対応してしまうと、同時に転移場所が重なり事故の原因になりますからね。 転移門以外でこの街に転移してくる場合は門の外の安全な場所に転移板を埋めておくのです。 転移板は厚みの1cmの50cmほどの正方形ですので、埋めるときに先に転移版がなければ設置しても良いことになってます。 他人の設置版を動かすことは犯罪になりますので覚えていてくださいね。」
 そりゃそうだ。 同じ場所に同時に転移してきたら事故になるわな。

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「役所の隣の建物は何の施設なんだ。」
「あの建物は人材斡旋所ですね。 自分や家族を売ってお金を借りた人や、借金をして返せなくなった人、軽犯罪を犯して神殿で審判で罰を受けた人が隷属魔法をかけられて斡旋されてる場所ですよ。」
 やっぱりあるんだ、奴隷制度。 奴隷とは言ってないが、システムは奴隷と同じだもんな。 現在日本で育った俺には人権の関係上忌避感はあるが、ラーテイが居なければ利用も考えたかもしれないな。

「人材斡旋所は国で運営されており、人材は国が一括管理しています。 基本、治安が良い国や地域では人材不足に陥りやすく、治安の悪い場所から仕入れることになります。 アハグトの街周辺は発展途上で治安も良いので、需要が高く供給が低いのです。 エルテルム王国全体も需要が高く、供給が低いので他国から人材を入れてる状態です。」
 発展しているなら、仕事も選べるし金に困ることも少ないだろうな。 需要が勝ってると言う事は単価も高いってことだろう。 まぁ、よほど困らない限り利用することはないだろう。 全ての施設を聞く訳にはいかないし、いずれ必要な時に尋ねれば良いだろう。 では、何処へ向かうとしようかと考えていると
「何故、違う名前で登録されたのですか?」
 早速尋ねてきやがったな。
「今は言えないが、今後言える時が来ると思う。 ラーテイは俺の事を誰に報告することになってるんだ? リーリアス神父か? それともケッセル神父、もしくはカステレウス大司教かい?」
「基本は長司祭リーリアスに報告することとなりますが、何か不満な点でも御座いますか?」
「間に誰も通さずにミケイル枢機卿に連絡が取れるなら、明日の夕刻に重要な話が出来るかもしれないと思ってね。」
 
 ラーテイは少し考えた後に
「独自のコネクションは御座いませんが、私の師である大神殿の戦闘修道院の体術の師範を経由すれば枢機卿台下と連絡が取れると思います。」
「では、その時にでも話すとしようか。 腹も減ったし飯でも食べないか?」
 朝に簡易食料バーを食べてから何も食べてなかったからな。 この世界も食は3食取るのだろうか。物価も気になるし、街の食文化も気になる。 

「それでは、冒険者組合の近くに『安い・美味い・多い』と評判の店が有るので、そこで食事を取りましょうか。 ユグ様は資金はお持ちなのでしょうか? 我々教団は貸金業も商っておりますので御融資できますよ」
 この世界でも宗教が金貸しやってるのかよ。 日本も昔は寺社が金貸しやってたと言うし、その制度のせいで寺社の権力が大きくなったと書いてあったな。

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「長司祭リーリアスからユグ様には無制限で融資しても良いと許可頂いておりますので、気軽に御申しつけ下さい。」
「利息は有るんだろう?」
「御座います。 利息は月に1割と法で決められています。」
 単利か福利かは分からないが、単利だとしても年利換算で120%かよ。 一昔前の街金でもそこまで高くなかったぞ。

「大丈夫だ。 巾着の中に硬貨入れが入っていてな、資金には問題ないと思う。 足りなくなったら、頼むかもしれないから、その時はお願いするよ。 物価が分からないので、どの程度持つか分からないんだけどな。」
「一般的な初級の冒険者の1日の生活費で例えますと、宿泊費は組合施設の大部屋なら1人銅貨3枚です。ここは人気ですので空きは無いことが多いです。 安宿の大部屋なら1人銅貨5枚です。 大部屋は個人で使うと問題が起こることも多いですのでパーティーで借りる人優先されています。 宿には2人部屋と個人部屋も御座いまして、2人部屋が1人大銅貨1枚です。 個人部屋なら大銅貨2枚ってところが初級冒険者の宿泊費です。」
 宿泊費を考えると大銅貨が千円と考えれそうだ。 硬貨入れには銅貨が3種類、銀貨が2種と金貨が入っていた。 大銅貨が千円で銅貨が百円と考えられる。 残りの銅貨と銀貨と金貨の価値も聞いておこう。 

「銅貨と大銅貨の他にどのような硬貨があるんだ?」
「小銅貨10枚で銅貨になります。 そこからも10枚単位で価値が上がっていって、小銅貨➡銅貨➡大銅貨➡銀貨➡大銀貨➡金貨➡大金貨となっております。 大金貨などは大商店や国家や組合くらいしか扱ってないでしょうね。 神殿関係者でも見たと聞いたことが御座いません。 司教クラスになれば扱うこともあるでしょうが‥‥」
 金貨も2種類あったのか。 小銅貨が10円で小銀貨が1万円、銀貨が10万円、金貨が100万円、大金貨が1000万円ってことか。 そりゃ大金貨は入ってないはずだ。 詳しくは数えてないが金貨は10枚以上入っていたはずだ。 1000万もあれば普通の生活でも2~3年出来ると言うのは、爺ちゃんの言う通りだったな。

「月に1割と言っていたが、ひと月は何日で1日は何時間なんだ?」
「ひと月は30日で1日は24刻です。 1年には12の月が御座います。 今は8の月の4の週の土の日です。」
 ガキの言っていたことは正しかったな。
「土の日とは?」
「1週間には7日御座いまして、1日から大、光、火、水、風、土、闇の順で日数が過ぎて、8日目からまた大から数えるのです。 ですので、大と光は月に5回有ります。」
 なるほど、今日は8月の27日だということなんだな。 地球とは1年で5日の誤差ができるのか。 そのような事を話しながら歩いていたら、ラーテイがある店舗と思われる建物の前に立ち止まった。

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「ここが先ほど話していた食堂です。 そして、あそこに見えるのが冒険者組合で、その向かいが傭兵組合ですよ。あと、近くに商人組合や生産組合の建物も御座います。 この辺りに組合が集まっているのです。」
 ラーテイは少し向こうに見える建物を指差しながら説明してくれた。 昼過ぎだからだろうか、店の前も大通りも組合周辺も、それほどの混雑している様子はない。 スマホは巾着の中だから正確な時間は分からないがな。 ラーテイは木製の扉を開け中に入って行った。 俺もそれに続き中に入って行く。 中はテレビで見るような社員食堂といった感じで横長の木製の机に両側に木製の丸椅子が5個づつ並んでいた。 そのような机が横5列、縦10列ほど並んでいる。 見た限り座席は1割~2割しか埋まっていない。 しかも、飯を食ってると言うより酒を飲んで話してくつろいでるように見える。 まぁ、何処の世界でもこういう人間はいるよな。 ラーテイは誰も掛けていない机の座席の前まで行き俺を座席に案内してくれた。

「こちらで頂きましょう。 今回はユグ様の登録祝いとして、支払いは私が持つのでお好きな物を注文してくださいね。」
 ラーテイが奢ってくれるらしい。 好きな物を頼んで良いと言ってくれたが、メニューも読めないし、どんな食べ物が有るかさえ分からない。 かつ丼って言ってかつ丼が出てくるとは思えないしな。
「俺はどのような品が有るか分からないから、ラーテイと同じで良いぞ。」
「では、肉・魚・野菜のどれがお好きですか?」
 その中でなら肉なんだが、この世界の肉って何の肉なんだろう。 魚も不安だな。 といって野菜はあまり好んで食べてこなかったからな‥‥‥ 郷に入っては郷に従えと言うし、ここは肉を頼んでみよう。 
「肉が好きだから、肉料理を頼めるかな。」
 ラーテイは店員を呼ぶと、焼肉の定食らしいも者とワインを頼み、その場で大銅貨2枚を支払っていた。

「あ、お飲み物はワインにしましたが宜しかったでしょうか? ワインが飲めないのであればエールに変えることも可能ですよ。」
 どっちにしても酒類じゃねぇ~か。 昼間から酒を飲むって言うのは日本人として違和感があるよな。

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「いや、ワインで良いよ。」
「それは良かったです。 私は宗教上の理由からエールを嗜むことを禁じられているのですよ。 無料で水を頼むことも出来るのですが、食材の品質や接客態度や提供時間に影響が出ますのでお勧めしません。」
 注文するものによって店の応対が変わるのか。 忙しい時間帯ならまだしも、このような空いてる状況なら目立つだろうしな。 それに祭服を着てるような人物がケチだと思われるのを避ける意味もあるのだろう。 暫くすると300gは有ろうかと思える肉の塊が乗った木製のプレートが2つ運ばれてきた。 続いてワインが500mlほど入ってそうな木製のジョッキ2つと、こぶし状の大きさの黒パンが4つ入った木製のボール状の入れ物が運ばれてきた。 

「この量で1人で大銅貨1枚なのは安いんだろうな。」
「そうですね。 この焼肉のセットで銅貨5枚でワインが銅貨5枚なのはお安いですよ。 エールなら同じ量で銅貨2枚で済みますからね。」
 この焼肉セットが日本円で500円だと! 確かにプレートの上には野菜やポテトなどの付け合わせもない肉だけだが、硬いパンだけど、2個もついてるので安すぎる。 日本で食べたら安くとも2千円くらいするのではないだろうか。 食べ物に対して、ワインはちょっと高く感じるが、日本と比べると相場より少し安いのと思う。 日本での生活に慣れていると代金の先払いに違和感があるが、地球にも先払いな地域も多いらしいからな。 少しの雑談を交えながら食事を取り終え食堂を後にする

「次は何処に参られますか?」
「そうだなぁ、冒険者組合で登録して行くか。」
「冒険者をお選びにになられましたか。 冒険者は金と意欲と運が大きく影響する世界ですが、ユグ様なら大丈夫でしょう。 もちろん、どの職業も力量が要るのは変わりませんから。」
 一番目に金が出てくるあたりにスキルと魔法の重要性を感じるな。 食堂を出て2分ほど歩いた先にある、食前に指差した建物に入っていった。

「あのカウンターが登録受付の窓口です。」
 今回はラーテイは文字の読めない俺を気遣い、聞く前に察して誘導してくれる。 さすが優秀とリーリアスが押すだけはある。 受付にいる女性に声をかける。

「冒険者の登録がしたいのですが。」
「それでは、こちらにある水晶に手を置いてください。」
 水晶の上に手を置くと、水晶からクレジットカード状の鉄の板が出てきた。 受付嬢はそのカードを手に取りカードを俺に差し出しながらたずねてきた。

「ユグ・ドラシル様で間違いございませんか?」
「ああ、そうだ。」
 早速、ユグの名前で登録されている。 俺のステータス情報の名前がユグに固定されたっぽいな。

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「冒険者の必要事項はこの冊子に書いてありますのでご確認ください。 これから最低限の決まりを説明します。
・獲得した魔石や素材は組合を通さずに売ってはいけない。 
・税率は30%で換金時に差し引かれる。
・ランクにより任務期間と魔石の収集義務が生じる。 未達成時はランクが1つ下がる。最低ランクで未達成なら除名も有り得る。
・公共施設内での問題行動は組合からの除名も有り得る。
・組合を通さないパーティーを組んだ場合、問題が生じても組合は責任を一切負わない。
 この規則に従う事に納得されたなら、そのまま了承の意を宣言してください。」
「誓う。」
 俺が宣誓するとカードが発行し、銅色に変化していった。

「これでユグ様は銅ランクに登録されました。 ギルドカードは『ギルドカード収納』と発言すれば体内に収納され、『ギルドカード出現』と言えば出現します。 『ステータス表示』とカードも手に持ち発言すると、カードから情報が見れるようになります。 銅ランクは月に3000個の極小魔石収集義務が生じます。それ以外の指定任務は御座いません、 期限が切れる5日前にカードに書かれたランクの色が今の銅色から黄色に変わります。 期限が切れる色が赤に変わりカードの機能は停止されます。 再発行も可能ですが、お預かりしている硬貨や品は消失したことになります。 カードの再発行には銀貨1枚が必要になりますのでご注意ください。 3000個以上納品されますと貢献ポイントが上昇しますので、頑張って多く納品してくださいね。 貢献度が規定値を超えるとランクアップします。」
 カードが体内に収納されるのは無くすこともないだろうし、すごく便利だな。俺は最低ランクだから即停止なのか。 銀貨1枚での再発行は最低ランクの冒険者にはきついのではないだろうか。 最低ランクで義務も果たせないような人物は要らないと言う事なのだろう。 俺は受付嬢からカードと冊子を受け取った。

「冊子を読まずに捨てられる方も多いですが、色々有益な情報も載ってますので一読されることをお勧めします。」
 と言っても、俺は読めないんだがな。 ラーテイに読んでもらったら有益な情報は言ってくれるだろう。 受付嬢に礼を述べ組合から出て行った。

「スキルと魔法を習得したいんだが、この場で可能なのか?」
「いいえ、司教以上でないと簡易祭壇を携帯することが許されてませんので、教会の祭壇で行うことになります。」
「では近くの教会に案内してくれ。」
 ラーテイはおれの言葉を聞くと先ほど通って来た大通りを神殿の方へと歩を進めた。

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「冒険者のランクってどのようになってるんだ?」
「一番下が銅ランクで上が鉄ランク、その上が銀ランク、その上が金ランク、その上がダイヤランク、最上がミスリルランクですね。」
 ラーテイは歩きながら冊子を見て答えてくれた。 やっぱりあるのか魔法金属。

「ランクアップの条件はどうなっている?」
「銅ランクの場合ですと、毎月3000個の極小魔石の義務納品の他に納品すれば、貢献度が100個に付き1pt加算されるようです。 1000pt貯まれば鉄ランクへと昇級できます。 極小魔石は100個単位での納品が可能であり、単価は1個小銅貨1枚で換金時に税金として30%引かれると書いてあります。」
 毎日最低の100個づつ納品したら、銅貨7枚か。 ギルドの宿泊施設で3枚、宿の大部屋で5枚使うと食費が2~4枚で生きていける計算なのかな。 倍の200個づつ納めれば月に30p貯まり3年ほどで昇級できるのか。 ひと月で10万個余剰に納めれば即ランクアップできるのか!  確か硬貨入れに金貨10枚以上あったから、即ランクアップ可能だな。 ランクアップしても残金が乏しくなるだろうからやらないがな!

「ラーテイも自分で魔石は取りに行ってるのか?」
「いいえ、国に登録してる住人は成人を過ぎると、月に100個の極小魔石が配付されるのです。 組合に所属してるなら組合で、所属してないのであれば町や村の役場で受け取れます。 道具屋でも魔石は購入できますが小売価格が組合の買い取りの2倍の金額になっています。 今回は随行中に補助魔法や回復魔法を使用すると思われるので、教団から小魔石も特別に配付されております。」
 買うと金額が倍になるのかよ。 そりゃ、組合以外で売ると罰がある訳だ。 住人に配るとなると、そりゃノルマを課せて集めないといけない訳だ。即ランクアップが金貨2枚になったな。 どっちにしろ、やらないがな!

「犯罪者や納税しない人には配付はされませんが、納税義務を果たしている限り、微小魔石が所持していていれば飢え死ぬことは有り得ないので安心してください。」
「一般市民でも魔石は売ることができるのか? 出来たとしても銅貨10枚で1カ月は生活できないだろ。」
「魔石は冒険者や傭兵以外が組合などに売ることは出来ません。 ですが、極小魔石で使える生活魔法を使えば最低限の飲食は出来るので生きてはいけます。」
 そのような魔法があるのか。 確かガキが生活魔法は1つに付き大銅貨1枚で買えるとか言ってたな。 大銅貨1枚で済むのなら村の住人でも数種類は持つことができそうだ。

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「基本の生活魔法の基本6種は最低でも取った方がよろしいですね。 あとは戦闘スキルも欲しいですね。 ダンジョンに潜るなら、低階層で魔法は金銭効率が悪いので、武装した方がよろしいですよ。」
「生活魔法6種って、どのような魔法なんだ?」
「生活魔法について説明させて頂きます。 
 1つは『水創造』です。水創造を使うと最大1樽分の水を生み出すことが出来ます。 樽の容量は教団によって決められておのり人類共通になっております。 最大量以下なら自分が思う量を調整できます。
 次は『食料創造』です。 食料創造を使うと固形の食料が現れます。 無味無臭ですが空腹感は抑えられ、栄養価もあるらしいです。 が、好んで食しようとは思いませんね。
 次は『照明』です。 一定範囲を一定時間、明るくすることが出来ます。
 次は『修理』です。 消耗した物品をある程度補修できます。
 次は『清浄』です。 汚れや不浄な物質を粉上の物質に変化させます。 この粉上の物質は集めて月に1度、役所に提出する義務が御座います。 
 最後が『身体強化』です。 身体強化は属性魔法にも御座いますが、生活魔法の身体強化は1刻の間、体の1部だけ強化することが出来ます。 『瞬動』の魔法とも親和性が無いので加速力が無く戦闘では使えないと思います。 足の速さで言うと最高速度は同じでも生活魔法は徐々に加速していき、属性魔法+瞬動なら一瞬で最高速度に達します。 強化時間も半日になりますの、で戦闘中に切れる恐れもないのです。」
 なるほど、生活魔法の身体強化は速く距離を移動したいときや、重い物を運びたいときに使えるのであって、戦闘で素早い動きや強力な攻撃をするには向かないのか。 だからこそ、 生活魔法なんだろうけどな。 水も食料も生み出せるなら、最低餓死が無いのはうなづける。 照明や修理も言葉のままだろう。 問題は清浄だ。 汚れや不浄な物質を粉に変える? 想像だが、体で言えば垢や便を粉にして、部屋の汚れや食器等の汚れも粉に出来るのだろう。 

「何故、清浄で出来た粉を役所に納めないといけないんだ?」
「清浄で出来た粉は、上質な肥料や飼料になるのですよ。 農家は、その粉が無いと作物や畜産物の量や品質が大きく低下するそうです。 国としても直接的に収入が増えますし、作物の質と量が上がれば間接的に税として収入が増えるのです。 極小魔石100個と粉末を交換すると考えても良いですね。」
 確かに理に適ってるな。

「ここを曲がれば、すぐに教会が見えますよ。」
 そう言うと、ラーテイは辻を曲がり大通りの半分ほどの幅の道へと歩いて行った。 するとすぐに。右前方に大きな協会が見えてきた。

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「神父カルモイ、祭壇をお借りしますよ。」
「神父ラーテイか。 君が同行者として選ばれると言う事は重要人物なのかね?」
「詳しくは語れませんが、一般人らしいですよ。」
「ほう、訳アリなのですかな。 では、詳しくは聞きますまい。 自由にお使いなさい。」
 ラーテイはカルモイと呼んだ神父に一礼をすると礼拝堂を祭壇に向け歩き始めた。 俺もカルモイ神父に一礼し、ラーテイに着いて行った。

「ユグ様、生活魔法は取得されますか?」
「なぁラーテイ、そう訊ねるってことは義務じゃないんだよな。では、清浄の魔法を取得しなかったら粉末が出来ないよな。 そうなれば納品できなくならないか?」
「身近な者に魔法をかけてもらえば良いのです。 家族に1人居れば問題は有りませんし、代価を払って頼むことも良いでしょう。 国が定める最低物納量さえ超えれば問題ないので、粉末事態を売買している輩も居るらしいです。 勿論、そういった事が発覚すると罰せられますよ。」
 家族単位で考えたりグループ単位で考えて取得することにより節約も出来るんだな。 俺は大学生活からずっと1人暮らしだから、そう言った観点は無かったな。 安い物だから念のため全部取得しておくことにしよう。

「生活魔法は全部取得することにするよ。」
「それがよろしいかと。 それでは『ステータスオープン』と唱えていただけますか? 私の鑑定からでも付与は可能なのですが、冒険者や傭兵のギルドカードからステータス情報を出しますと、その個人の特性が高い魔法やスキルが変化して見えるのです。 鑑定なら使えるスキルや魔法が表示され、使えないスキルや魔法の場所は空欄となりますが、ギルドカードで表示された場合、使えないスキルや魔法が空欄なのは変わりませんが、後に取得可能になる可能性がある場合は赤で、熟練度が上がりにくい場合は黄色で、通常は黒で、上がりやすい場合は青で表示されるので、取得する際の参考になると思われます。 あ、スキルカードを現出させなくても大丈夫ですよ。」
 すごく親切な仕組みだな。 神様はグランガイズの民を甘やかしすぎではないだろうか。 最初の放置し失敗して滅んだのが心の傷になって、甘やかしたんだろう。 甘やかしすぎに気づいて、地球ではまた放置気味になってると。 両極端なんだよ。 そして、どっちのほうが良いのか戦わせて決めると。 まぁ神様の考えってのはそんなものなんだろうな。

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「『ギルドカード出現』」
 ギルドカードを顕現させた俺を見てラーテイが不可解そうに見つめている。

「ギルドカードを一度も出したことが無かっただろ。 練習を兼ねて出してみたんだよ。」
「なるほど、出されたことが無かったのですね。 それは一度試しておいた方がよろしいです。 私も配慮が足りてませんでした。」
「気にするな。 こんな事は通常在り得ないだろうからな。 それでは『ステータスオープン』」
 呪文を唱えると、眼前に俺が転移前に使っていた21インチのモニターのようなステータスウィンドウが浮かび上がり、そこには文字が羅列されていた。

「珍しいステータスウィンドウですね。 通常はこれ位の正方形なのですが。」
 ラーテイはそう言いながら、指でか大きさを象って見せた。 これは俺がパソコンのモニターを想像して呪文を唱えたから、このような形になったのかもしれない。 何も考えなくて呪文を唱えれば、ラーテイの言う形が基本形として表示されるのだろう。

「通常は先に献金を頂くのですが、ユグ様は金銭保証を教会をしておりますので後払いで大丈夫です。 それでは、生活魔法から付与します。 『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』 あれ? 7種類ありますね‥‥‥ 解読と言う魔法が新たに載ってます。 しばらくお待ちください。」
 ラーテイは呪文を唱え、ステータスウィンドウもある箇所を指で押すと新たに浮かび出た7種の文字を見て戸惑っている。
 
「『世界を照らす光の神よ、我に真実の理を映し出したまえ。自己鑑定。』 私にも赤色ですが解読の魔法が現れてます。 これはどう言う判断したらようのでしょうか‥‥‥ 字から意味するところは読み解くってことですが。 少し席を外させて頂きます。」
 そう告げるとラーテイは礼拝堂を出て奥の方に入って行く。 俺はステータスウィンドウを眺めていたが、文字が読めないので配色を見ていた。 全体的に黄色が多いな。 次に青と黒が多く、赤色は少ないな。 人間種は使えるスキルが多いと南井爺ちゃんも言っていたからな。 読解の魔法で文字が読めるようになるとすれば、自分で取りたいスキルや魔法を探すことが出来るようになる。 選択肢が増えるのは嬉しい限りだが、ラーテイが同行してくれている期間は実践を踏まえつつ取得する魔法やスキルは最小限に抑えよう。 無駄に最初から多く取得しても使いこなせるか分からないし、どれほど稼げるかも分からないのだから節約はしないとな。
 15分ほど経つとラーテイが先ほどのカルモイと呼んだ神父を含む7人の神父を引き連れて戻って来た。

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「ユグ様、お待たせしました。 こちらの7人はこの教会を管理している司祭です。 奥で皆を鑑定したのですが、私以外は解読魔法は現れてませんでした。 ユグ様に魔法を取得していただき、魔法の効果を皆で識別させてもらって新種魔法に登録させていただきたいのです。 私が取得できれば良かったのですが、赤色なので取得条件が満たされて居ないようなのです。 報酬は生活魔法全種無料と属性魔法とスキルを1個づつ無料とさせていただきますがいかがでしょうか?」
 取得する予定の魔法が無料な上、属性魔法1個とスキル1個が無料なのか。 それなら見世物になるくらいはお安い物だ。 7人の神父達は俺のステータスウィンドウを見ながら、変わった形だとか確かに解読の魔法が有るとか口々に語っている。

「ああ、問題ない。 」
「それではユグ様、解読の魔法を附与します。 『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』」
 ラーテイはそう言うと、俺のステータスウィンドウの一部に指を触れる。  触れた先に有った文字が消えた。

「ユグ様、解読の魔法は付与されました。 教団から微小魔石を100個譲渡いたしますので、早速使っていただけないでしょうか。 解読と唱えれば発動するはずです。」
「解読」
 呪文を唱えると、ステータスウィンドウに書かれている文字が理解できるようになった。 見たことはない文字なのだが理解できるのだ。 すごく不思議な感覚だな。

「字が読めるようになったな。」
 俺はラーテイに起こった事をありのまま伝えた。

「それだけで御座いますか? 他に何か変わったことは御座いませんでしょうか?」
「今のところ、他には何か変わったようには思えないな。」
「そうですか。」
 ラーテイはそれだけ言うと神父達と共に礼拝堂を出て行った。 これは予想だが、ラーテイに解読のスキルが赤文字で現れたのは俺が日本語で会話しているのではないだろうか。 グランガイズは言葉が共通だと南井爺ちゃんが言ってたが文字も共通なのだろう。 ならば解読のスキルなんて意味がないと思うだろう。 だが、戦争が始まったら地球の知識を得るために地球の文字が読めると便利なはずだ。 ただ、赤文字が取得可能な黒文字に代わる条件が分からないけどな。
 取り合えず、文字が読めるようになったんだ。 ステータスを確認しないとな。

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名前 ユグ・ドラシル 年齢 28
種族 人族 性別 男 
第1職種 冒険者 LV1 銅ランク 
冒険者職種 ーー LVーー  ーー LVーー

体力(HP)10 
魔力(MP) 15
技力(SP)10 

筋力(STR) 3
器用(DEX) 5
持久(VIT)4
敏捷(AGI)5
知力(INT)7
精神(MND)4
幸運(LUK)7

所持スキル 
ーー
所持魔法  
生活魔法 解読

魔法効果継続 生活魔法・解読

 これが俺のステータスか。 パラメータから判断すると魔法使いタイプだな。 それに冒険者職種ってなんだろうか。 一番下には魔法効果継続に解読と書いてあり、その横にガキが持ってた魔法時計の絵が載っていて数字が11で1色目が流れている状態だった。 
 パラメーターの下にスキルと魔法の一覧が載っていた。 1個づつ無料で貰えるらしいので今のうちに選んでおこう。
 まずは武器スキルからだな。 スキルは全部黒色の文字だ。 武器は短剣を持ってるので、それを活かして剣術を取るべきか‥‥‥ だが、後々は魔法がメインになることを考えると杖術を選ぶのも良いかもしれないな。 これはラーテイと相談して決めるべきだな。
 生活魔法は全て取るとして、無属性魔法は他に防御魔法、補助魔法、回復魔法、時空魔法、召喚魔法があるらしい。 補助・時空魔法が黒色文字、防御・回復が黄色文字、召喚魔法が青入文字だった。 属性魔法は火、水、風、土、光、闇の6種で光と闇が赤文字で、残りは黒文字だった。 魔法は召喚魔法、君に決めた! 値段によっては自腹でいくつか取得しても良いかもしれない。 
 その様な事を考えているとラーテイ1人だけが礼拝堂にに戻って来て、再び俺のステータスウィンドウを覗き込みながら話し始めた。

「先ほど、ここに居た7人の神父にも赤文字で解読の魔法がステータスウィンドウに出現しました。 あと、掌院ケッセル、神父リーリアス、シスターマルレシアにも赤文字で出現したようです。 今、掌院ケッセルが枢機卿台下と大司教台下と随行した聖騎士2人にも確認している最中です。 もう、神殿から戻られた後なので、明朝の定時連絡時に確認の報告が来るそうです。 これでユグ様と会話した人物に出現するのか、ユグ様の会話を聞くだけで出現するのかが分かります。 あとは発動条件が分かれば魔法辞書に新魔法として登録されます。 発動条件が分からず1に年が過ぎるとオリジナル魔法として登録されます。」
 発動せずに俺だけが使えるならば、確かにオリジナルだな。

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「それでは続いて生活魔法を付与していきます。 『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』」
 ラーテイが呪文を唱えると、ステータスウィンドウの魔法欄の生活魔法の横に書いてある『水創造』『食料創造』『照明』『修理』『清掃』『身体強化』の文字に次々に触れて行くと、触れたと同時に消え、俺のステータスパラメーターの生活魔法の横に浮かび上がってきた。 取得すると一覧から俺のステータスパラメーターに移動するんだな。

「ユグ様、無料で付与を希望するスキルと魔法は決まりましたか?」
「一応決めたんだが、ラーテイの助言を聞いてから確定しようと思ってな。 まずは武器スキルなんだが、俺は短剣を持ってるから剣術を選ぶべきか、何れ魔法を主体に考えると良いスキルが他にあるのか聞きたい。」
「魔法主体の攻撃を考えるとしても、低階層では費用対効果で武器のみで戦うことになると思われます。魔法使いを目指す人は杖術や拳闘術を取得する人が多いですね。 トレントと言う魔物の素材で作った杖には、魔法の威力を上昇させる効果があるので人気です。 何故拳闘術が人気が有るかと言うと、基本魔法使いは新たに魔法を取得するために貯蓄したり、魔法に魔石を使うのでお金が貯まりません。 武器を調達したり、買い替えたりする資金に余裕が無いので武器を持たない拳闘術が選ぶ者が多いのです。」
 ここでも資金の差が出るんだな。 資金には余裕があるし、武器スキルは杖術にしよう。 

「武器スキルは杖術にする。 魔法は召喚魔法にしようと思ってる。」
「召喚魔法ですか。 人族で召喚魔法が青文字や黒文字の人は滅多に居ないのですよ。 黄色や空白な人が大半なので、私には判断は付き兼ねますね。 青色と言っても熟練度の上昇には幅が有るのを留意してください。 他の人より熟練度上昇が微小に多い場合も有れば、2倍、3倍と言う場合も御座います。 知り合いに召喚魔法を取得している人が居ませんので助言は出来ません。 大成している人物でも召喚魔法の使い手は居ないように思われます。 どちらかと言うと、上位の亜人や上位の魔族が持ってるイメージが強いですね。」
 まぁ、常人より上りが良いなら問題ないだろう。 俺は近接戦闘には向いてないと思うので、召喚した生物に期待したい部分もある。 所詮は無料で手に入った魔法だと割り切れば良い。 使えない魔法なら属性魔法の4種のうち、どれかを取得すればいいさ。

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「それで構わない。」
「『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』」
 ラーテイは武器スキルの杖術の文字と無属性魔法の召喚魔法の文字に触れる。  俺のステータスパラメーターの所持スキルに杖術の文字が浮かび、所持魔法の生活魔法の下に召喚魔法の文字が浮かび上がった。 先ほどの生活魔法を取得したときには取得した魔法の文字が消えたのだが今回はそのまま残り、その文字の横に新たに文字が浮かび上がってきていた。 杖術の横には黒文字で『杖波』、赤文字で『強打』と『魔法威力増加』、召喚魔法の横には黒文字で『魔物召喚』、赤文字で『精霊召喚』、『悪魔召喚』が浮かび上がってきていた。

「一覧に新たに文字が浮かんで来たんだが‥‥‥」
「説明をしてませんでしたね。 杖術を取得すると杖を使って戦闘すると熟練値が上がり、熟練値が一定数値まで上がるとレベルが上がります。レベルが上がると扱いが上手くなり、一定数値まで上げると左の赤文字の付随スキルが開放されていき青、黒、黄文字に変わっていきます。 そうなったら取得が可能になり、ここで付与を受けることが出来るのです。 召喚魔術の場合は『魔物召喚』を取得しないと魔法が発動しませんね。 祭壇の上に猪得に必要な献金表が御座いますので参考にして下さい。」
 別料金が要るのかよ、最初に言ってくれよな! 俺は文句を言いたい気持ちを抑えつつ祭壇の上にある献金表とよばれる紙を覗き込んだ。 無属性魔法の生活魔法自体は無料で各6種は大銅貨1枚で、防御魔法、回復魔法、時空魔法、召喚魔法は大銀貨1枚、補助魔法は銀貨5枚、属性魔法の火、水、風、土魔法が銀貨5枚で光と闇魔法が大銀貨1枚と書いてある。 俺が取得した召喚魔法の付随魔法は『魔物召喚』が大銀貨1枚、『精霊召喚』が金貨1枚。『悪魔召喚』が大金貨1枚と書いてある。 属性魔法もそれぞれ初級と中級と上級に分かれており、初級が2種類、中級が2種類、上級が1種類有るらしい。 初級の安い方でも銀貨5枚で高い方は大銀貨1枚である。 上級魔法なんて大金貨1枚だと! 資金が潤沢な奴にしか取得できないだろうな。 これで魔法を使う度に触媒として魔石を使うのだから、専業魔法使いはお金が無いとやっていけなんだろうな。 杖術は銀貨3枚で『杖波』が銀貨5枚、『強打』が大銀貨1枚、『魔法威力増加』が金貨1枚だ。 こちらも武器や防具も買わねばならないので初期投資に金はかかる。 本当に冒険者や傭兵は仕事として成り立っているのだろうか。

「なぁ、ラーテイ。 これだけ資金が要るなら冒険者や傭兵になるのは難しいのではないか?」

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「銅ランクの冒険者はスキルや魔法なんて持ってませんよ。 格安の武器や強化靴だけでダンジョンに潜って魔物を狩り、生活費を稼いでるのですよ。 冒険者の3割強が銅ランクで、その多くの者が生涯を銅ランクで終えるでしょう。 向上心が有るものは鉄ランクに1~2年ほどで上がりますからね。 冒険者の4割ほどが鉄ランク、2割ほどが銀ランク、数%が金ランク、ダイヤランク以上は1000人も居ません。 鉄ランクに上がってから中階層に潜るようになるまでに、武器スキルや魔法のメインと付随を取得できる資金を貯めるのが一般的ですね。」
 低階層に居る魔物は、よほど弱いようだ。 定番のスライムなのだろうか。 最近の異世界ファンタジーではスライムをテイムして従魔にするのが流行りだが、テイムスキルは無かったな。 召喚で出てきたら従魔にして愛でようではないか! 折角、召喚魔法を取得したのだから『魔物召喚』も取得しておこう。 杖術の『杖波』もついでだから取得しておくか。

「『魔物召喚』と『杖波』を取得するよ。 他に取得したら良いと思うスキルか魔法はあるかな? それと、この『魔物召喚』の文字の横にある○5とは何だ?」
「取りあえずは、それだけで宜しいかと思います。 その記号は『*』が微小魔石 『○』が小魔石 『◎』が中魔石 『●』が大魔石が必要と言う事で、数字は必要な個数です。」
 魔物召喚には小魔石が5個必要なのか。 どれくらいの時間召喚できるか、何を召喚できるかによって使い勝手が変わるな。

「では、お願いする。」
 ラーテイは例の呪文を唱え俺のステータスウィンドウの『魔物召喚』と『杖波』に触れる。

「そう言えば、冒険者職業って何のことだ? 2つもあるようなのだが。」
「ステータスウィンドウの冒険者職業の右の空白に触れてみてください。 触れると現在選択可能な職業が出てきますよ。」
 言われるままに空白の科挙に触れると『召喚士』『魔法使い』『戦士』『拳闘士』の4種の職業が出てきた。 
「基本、拳闘士は全員に出ます。武器を持たずに戦うことに優れた冒険職ですね。 戦士は武器を所持していると現れる職です。 生活魔法以外の魔法を所持していますと魔法使いの職は必ず出ます。 ユグ様は召喚魔法を取得されたので召喚士の職が現れたのでしょう。 2つ目の空白は所持する武器にとって表示される職業です。 ユグ様は短剣をお持ちだと言う事ですから『短剣士』が表示されると思います。 先ほど杖術を取得されたので『杖士』も表示されるでしょう。   左に表示された順に適性が高いので、ユグ様には召喚士をお勧めします。 2つ目は杖士がよろしいでしょう。 レベルは、それらの職に関係する行動をすることでレベルが上がり、技能も上達します。」

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俺は1つ目の空白を召喚士にして、2つ目の空白に杖士を選択した。

名前 ユグ・ドラシル 年齢 28
種族 人族 性別 男 
第1職種 冒険者 LV1 銅ランク 
冒険者職種 召喚士 LV1  杖士 LV1

体力(HP)10 
魔力(MP) 14/15
技力(SP)10

筋力(STR) 3
器用(DEX) 5
持久(VIT)4
敏捷(AGI)5
知力(INT)7
精神(MND) 4
幸運(LUK)7

所持スキル 
杖術 杖波
所持魔法  
生活魔法 解読
召喚魔法 魔物召喚

魔法効果継続 生活魔法・解読

 これが今の俺のステータスパラメーターだ。 MPが1減ってるのを見ると、解読の魔法で1消費したのだろう。 

「これで付与は完了ですね。 都合、大銀貨1枚と銀貨5枚と大銅貨6枚になります。」
 俺は巾着から硬貨入れを取り出し、硬貨入れから言われた枚数の硬貨をラーテイに渡し硬貨入れを巾着に戻した。

「ユグ様、次はどちらに向かわれますか?」
「そうだな‥‥‥ 道具屋には行きたいな。 宿泊する場所も探さないといけないな。 それに杖は道具屋で売ってるのか? それとも武器屋とかが有るのか?」
「杖は一応道具屋でも売ってますが品質は最下級で使い潰すか、こまめに修復の魔法をかけるかとなります。  武器スキルの付随スキルを使われるなら、武器屋で購入するのをお勧めします。 ですが、低階層なら付随スキルを使うことも無いでしょうし、手に装備しているだけでも熟練度が少量ですが上昇するので道具屋で売ってる杖を買うのも良いかもしれませんね。」
「ダンジョンの低階層って、どのような敵が出るんだ?」
「1~2階層は魔ミミズですね。 3階層は魔ミミズに加え魔ネズミが出ます。 4階層になると魔ミミズは出なくなり、魔ネズミだけになります。 5階層は魔ネズミと魔ヘビが出ます。 6階層は魔ヘビのみ、7階層は魔ヘビと魔イタチとなり、8階層は魔イタチのみ、9階層で魔イタチと魔ザルになり、10階層で魔ザルのみになり、11階層への階段の手前にボス部屋が御座います。 ボスを倒すと中階層に行けるようになります。」
「魔ミミズってどれほどの大きさなんだ?」
「大体10㎝~20㎝ほどの長さで、幅は1~2㎝ほどですね。」
 ラーテイは両手で大きさを表していた。 その程度の大きさならば、戦闘が素人の俺でも倒せそうだ。

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「それらは人間を襲ってくるのか?」
「人間が近づくと襲いかかってきます。 魔ミミズは酸を吐くので、通常の靴では溶けてしまいダメージを負ってしまいます。 強化靴を履いていたとしても酸を踏み続けたり、付着した状態を放置していると靴が溶けてダメージが入ってしまいます。 頭を潰せば倒せますので、棒状のもので突いて倒すか、靴で踏みつけて頭を潰して倒す場合が多いですね。 靴で踏んで倒す度に靴を磨くのは大変らしいです。」

 弱いが倒すのは面倒な相手ってことなんだな。 汚れる度に清掃なんてかけてたら魔石も貯まらないだろうしな。

「道具屋から案内してほしい。 多少遠くても良いので、品揃えが良い店を頼む。」
「戻ることになりますが、冒険者組合の近くにアハグト最大の道具屋が御座いますので、そちらに参りましょう。」
 俺とラーテイは教会を後にし、冒険者組合の方に歩を進めた。

「こちらがアハグト最大の葬具屋になります。」
  大通りを冒険者組合から少し先に進んだ所に『ダルス商会』と看板が掛けられた大きな2階建ての店舗が見えてきた。 木製の扉を開け中に入ると、ところせましと商品が陳列されている。 数度の買い物では商品を見て回るのは難しいだろう。 ラーテイに冒険者として必要最小限な品を聞いて購入することにして、あとは有れば便利な品や俺が必要だと思う品を足していけば良いな。 生活に必要な品は巾着の中に一通り揃っているから必要ないだろうが、念のために一応聞いておこう。

「生活や冒険者として、必要な品物を教えてくれないか?」
「生活品として必要なのは、衣服、清掃で出た粉を入れる粉袋、飲み物を飲むカップ、魔法時計でしょうか。 冒険者として必要なのは、魔石と魔石ポーチ、ポーションとポーション箱、水筒、食料袋、手袋、強化靴、背負い袋と武器さえ有ればダンジョンに潜ることが出来るでしょう。
「それでは生活用品から買っていこうか。」
「生活用品は手前の方に揃っていますね。」
 入り口を入ってすぐには、生活用品売り場だったらしく、食器や調理道具などが棚に並べられている。 飲み物を入れるカップはキャンプ用品売り場で買ったマグカップが有るので必要ないだろう。 今のところ自炊もしないだろうから、食器や調理道具も必要ないな。 粉袋は1種類しか置いてないから、これで良いだろう。魔法時計は数種類有ったが、シンプルで安い品を選んだ。 衣服は上下2種類づつ選び下着を見ていたが着心地が悪そうなので、地球から持ってきたものを着ることにしよう。 見せることも無いだろうしな。

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品物を一旦会計所に預け、冒険者用品の売り場に行くことにした。 魔石ポーチは2種類有ったが、ラーテイと同じ小さい方を選んだ。 食料袋は巾着で代用できそうだから購入は見送った。 手袋と強化靴はサイズが合うのを一対づつ購入。 背負い袋はリュックを使いたいところだが明らかに作りが違うので、こちらも中くらいの大きさのものを購入することにした。 杖も低階層では安物でも良いと言う事なので道具屋で買っていくことにする。 ポーション箱はポーション便が入れやすいように区切られた木箱だった。 この箱も特別な魔法が掛けられており、必要なポーション名を言うと手の中にポーション瓶が現れる便利グッズらしい。 ポーションは会計所の横の棚に並べられてるらしいので会計の時に選ぶとしよう。
 武器売り場で杖を探すと3種類の杖が売っていた。 どれも木製だが、ただの某のような物が棒杖、短く先端に装飾が付いているのは短杖、長く先端に飾りが付いている長杖と書かれていた。 どれも形状が違うだけで木の棒だ。 短杖は戦闘に使いにくそうなので棒杖か長杖の2択だが、いかにも魔法使いが使いそうな形の長杖にすることにした。 
 必要な品物も揃い、会計所に向かう途中に同じ形状の木箱が5つ並べられており、販売価格が高額だったのでラーテイに訊ねてみた。
 
「もしかして、これがアイテムボックスか?」
「そうです。 これらがアイテムボックスですね。」
「全部同じ大きさで形も同じなのに価格が違うのは何故なんだ?」
「素材となる時空トカゲの大きさが、アイテムボックスの内容量の大きさになります。 耐年数はほぼ同じはずなので容量の差ですね。」
「容量なんて、どうやって調べるんだ?」
「アイテムボックスを手に取り、『アイテムボックスステータスオープン』と言えばアイテムボックスの情報が表示されます。」
 俺は5個ある中の1番高額な大金貨5枚と書かれたアイテムボックスを手に取り呪文を唱えた。 すると、ステータスウィンドウが現れ、『容量800m×800m×500m 133/1000 内容物=無し』と表示されていた。

「133年前に作られた品ですね。 そこに書いてある容量から13.3%の容量が減っていますが、中の上と言った品物でしょうか。」
 中の上で大金貨5枚か‥‥‥ 俺には手が届かないな。 手に持ってたアイテムボックスを元の位置に戻し、一番安い金貨4枚と書かれたアイテムボックスを手に取って呪文を唱えた。 『15m×15m×10m 135/1000 内容物ー無し』と表示された。

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「これは最小の部類に入るのではないでしょうか。 中階層では役立つかもしれませんが、運搬人の一日の雇用代が大銅貨5枚で解体の熟練者が多いので、アイテムボックスを使う人は稀ですね。 アイテムボックスの利点は解体せずに収納できることで解体時間を短縮出来ることですが、中階層で出る魔物の大きさでは冒険者が戦闘している間に運搬人も解体をしてくれますからね。 解体せずにその容量に入れると、すぐに許容量を超えてしまうでしょう。」
 巾着がアイテムボックスなのを隠すために購入するのも有りなのではないか。 ラーテイの視線が巾着に目を向けられている。 俺も巾着に視線を移すと巾着からもステータスウィンドウが表示されていた。

「ラーテイさんや、もしかして見てしまいましたか?」
「バッチリ見させていただきました!」
 興奮のあまり言葉が少し乱れているようだ。

『容量1000m×1000m×1000m ∞/∞ 時間停止 【聖宝】 内容物=スーツケース×2 リュックサック  ポリ袋×3 ビニール袋 方位磁石 双眼鏡 鞘入り短剣 硬貨入れ』

 聞いていたより容量が大きいぞ! それに聖宝って、教団関係者の前で見せてはいけない文言だろ! しかし、カバンや袋に入った中身までは表示されないんだな。

「ラーテイさんや、君だけの胸の内に止めておくことは可能かな?」
「私は教団からの指示を受けてユグ様に随行させていただいてますので、上司への報告義務がございます。」
「この巾着は神様から下賜されたものなんだよ。 明日の夜以降にミケイル枢機卿と直接話せる機会が出来れば、直接私からミケイル枢機卿に説明するので、それまでの間でも無理かい?」
「記憶が戻られたのですか?」
「ミケイル枢機卿は薄々感づいてらっしゃったようだが、記憶が無いってのは嘘だ。 神殿の部屋での会話を聞いていた人物ならある程度事情は分かってると思うが、彼らから君への説明が無いのであれば俺からは言わない。 明日の夜以降ならある程度の事情を話せるかもしれないし、ミケイル枢機卿との会談に同席しても良いぞ。」
「ミケイル枢機卿台下との会談までと期間が区切られているのであれば、それまでは内密にしておくことは可能です。 必ずや枢機卿台下と会談が出来るように準備させていただきます。」
 ラーテイはまだ興奮が収まりきっていないのか、鼻息荒く話していた。 これではアイテムボックスの購入は見送くらねばならない。 購入したアイテムボックスのステータスウィンドウを開くたびに巾着のステータスウィンドウも開いてしまうのなら、危なくて使ってられない。 聖宝には金に糸目は付けないと教団関係者本人が言ってるのだから真実なんだろう。 そんな高価な品物を宿屋や何処かに置いておくことなんて考えられないからな。

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「短剣は鞘が有るけど、杖はずっと手に持ってないといけないのか?」
「魔石ポーチのベルトに適合した杖の留め具が御座いますので、私が持ってきますね。」
 ラーテイはそう言うと足早に武器売り場から留め具を持ってきてくれた。 それらを持って会計所に向かう。 会計所の横の棚でポーションを見ると低級、中級、高級に分かれて並べられていて、低級は1つ小銅貨5枚、中級は大銅貨2枚、上級は大銀貨1枚と値札が出ていた。 

「回復薬と解毒薬をそれぞれ低級5本、中級2本買っておけばよろしいかと思いますよ。 いざとなれば私が回復魔法が使えますから。」
 ラーテイの助言に従い会計所に持って行く。 合計金額を払い、ポーションをポーション箱に収納して、魔石ポーチを腰に付け購入した品を背負い袋に入れて背負った。 巾着から教会で貰った微小魔石を取り出し、魔石ポーチに入れる。
 そう言えば、召喚魔法は小魔石が必要だったはずだ。

「魔石も道具屋で購入出来ると言っていたよな。」
「会計所で口頭で直接注文すると買えますよ。 50個ほど購入して置けばよろしいのではないでしょうか。」
 これもラーテイの助言通りに会計所で小魔石を50個購入することにした。 購入した小魔石もポーチに入れて道具屋を後にする。

「さて、次は宿屋を探そうか。」
「どのようにな宿になさいますか? 個室か大部屋か私との相部屋がございますが‥‥‥」
「寝るときくらいは1人でのんびりしたいので個室が良いな。」
「安宿の個室は空きを探すのは難しいので、中級ほどの宿でもよろしいでしょうか? 朝食が付いて1泊で銀貨1枚ほど出せば見つかると思います。 定宿として1カ月単位で支払いをすれば半額になる場合が多いと聞きますね。 今は人口が増えて、壁の拡張が計画されている状態なので不動産の販売も少ないので安宿はすぐに埋まってしまうのですが、月に銀貨1枚以上を出せる人間は限られてますので空きがあるのですよ。」
「安宿が見つからず、資金が少ない人たちはどうやって夜を過ごしてるんだ?」
「南の門の外に巨大な天幕が数枚張ってあるのですよ。 そこで敷物をを敷いて自分の生活空間を確保しているようですね。 傭兵が巡回してますので治安は悪くは無いようですよ。 開拓村が出来るとそこで生活していた者が希望する場合が多いそうです。」
 貧乏な奴は壁の外で生活するのは中世ファンタジーの定番だな。 人族の街や村は魔獣がほぼ出ないが、野生の獣は出るだろうから安心して寝れないよな。 初期資金をくれた南井爺ちゃんには感謝の念しかない。 教会の場所も知れたことだし定期的に礼拝しに行こう。

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「銀貨1枚で安全と安心が買えるなら問題ない。 そこに案内してくれ。」
「畏まりました。 南東エリアには冒険者用の宿が多くございます。 冒険者の評判の良い宿を回ってみましょう。」
 歩くこと10分ほどで大通りから少し奥まったところにある大きな建物の前まで来た。

「部屋に空きが有るか聞いてきますので、こちらでお待ちください。」
 そう言い残してラーテイは建物の中に消えて行った。 建物にの前には『春風館』と書いた看板が掲げられており、歴史を感じる店構えをしている。 見渡すと宿らしき建物が多いが、その中でも春風館は一番大きく、品格も感じられた。

「ユグ様、部屋の空きがございました。 受付で宿泊手続きをするのでお越しください。」
 俺は受付カウンターまでラーテイに伴われて歩いて行く。 入り口の扉の中に入ると、1階の入り口付近はは食堂兼酒場になっているようだ。 受付カウンターの横は食堂のカウンターと繋がっており、料理の代金もここで支払う仕組みになっているらしい。 ラーテイガ言うには、食堂の奥には大部屋が4室あり、食堂と大部屋の間に2階への階段が有り、階段を上がると左に相部屋が4室、右に個室が8室あって、個室が3室空いていたらしい。 雰囲気もいいし、この宿を定宿にしても良いかもしれないな。 だが、冒険者として安定した稼ぎが出来るか分からないし、取り合えず月末までの4日間宿泊することにした。 

 春風館の個室は1泊銀貨1枚と大銅貨2枚と少し高いが、食堂が併設されている中級宿は少ないらしい。 春風館も月単位で宿泊料を払うと半額になる。 4日間過ごして問題なく、冒険者業も順調なら月初めから1カ月単位で宿泊することにしよう。 冒険者業が稼げないならラもう少しランクを落として安い宿を探すしかないな。 
 朝食は宿泊料金に含まれており、夕食も先にコースを選び、先に料金を支払いしておくと部屋まで届けてくれるらしい。 コースの値段は大銅貨2枚と3枚と5枚の3種類に分かれており、飲み物としてワインが一杯付いてくると説明された。 今日は春風館で食事する予定はないので4日分の宿泊料金を支払い部屋に向かう。
 階段を上り、右側一番手前の『201』とプレートが張られた部屋が俺の泊まる部屋だとラーテイが俺に告げる。 ラーテイは向かいの『208』の部屋だそうだ。 番号は俺の泊まる部屋から時計回りに番号が割り当てられてるみたいだな。 
 鍵はギルドカードを差し込めば良いらしく、受付で提出したギルドカードの所有者が登録される。 部屋の中に入り、ギルドカードを内側に差し込んで錠をかけ、ギルドカードを体内に収納する。

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部屋を見渡すと、ベットと机とイスと収納棚があり、ベットの横に10ℓくらい入りそうな木の樽が置いてあった。 多分、この樽がラーテイが言ってた教団指定の樽なんだろう。 
 部屋の隅に小部屋があり、真ん中に空洞が空いた椅子が置いてあった。 これはトイレだろうな‥‥‥ 
 背負い袋から粉袋とカップと魔法時計を取り出して机の上に置く。 巾着からリュックを取り出し、出したリュックからお茶が入ったペットボトルを出して机の上に置き、リュックと背負い袋を収納棚に入れてから椅子に腰かけた。
 まだグランガイズに転移して1日も経っていないが、色々な事が有りすぎて疲れている。 しかし、門番のおやっさんとの約束も有り、番所まで行かねばならない。 ペットボトルのお茶を飲みながら今後の事を考えようとし思ったときに扉がノックされ、ラーテイが部屋に訪ねてきた。 俺はお茶の入ったペットボトルを巾着にしまい、ギルドカードを抽出して鍵を外してラーテイを部屋に招き入れた。 

「部屋の使用法を伝えに参りました。」
「大体は想像は付くが、説明を頼む。」
 俺は再び椅子に腰を下ろしラーテイの説明を聞くことにした。

「ベット、机、椅子、棚の使い方は説明しなくてもいいですよね。 そこの樽は水創造で出せる最大量が入る教団指定の樽です。 樽は衛生管理されておりますので生活用水にお使いください。 そこの小部屋は清掃所となっております。  体の清掃の魔法や用を足すときに使ってください。 中にある椅子は清掃の魔法がかかっている場合には色が白になっており、用を足し終えると自動的に粉になります。 使い終われば椅子が黒くなりますので、再度清掃の魔法をかけ直してください。 小部屋に粉袋を持って入ると自動的に粉が収納される仕組みになっているので1日一回、または利用時に持って入ってください。 食事を部屋でお取りになる場合は食べ終えた食器を廊下に出しておけばよろしいですよ。 宿から外出する際は私に一声かけてからにしてください。 説明は以上です。」
「ラーテイはどれくらいの期間俺と同行するんだ?」
「今回は特殊なので分かり兼ねますが通常なら3日、長くとも5日と思われます。」
「すると5日後からは単独でダンジョンに挑むことになるんだな‥‥‥」
「説明しておりませんでしたが、私はユグ様が危険と判断しない限り手助けは致しません。 寄付を頂ければ補助魔法をかけることも可能ですので申しつけ下さい。 回復は無料ですので体力が減れば、私の判断でかけさせていただきます。」

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ラーテイの事を戦力として当てにしていたのに、早速計画にくるいが生じてしまったな。 低階層序盤では問題は無いだろうが、魔イタチが出る層からは召喚する魔物にもよるが苦戦が予想される。 組合でパーティに参加するか、人材斡旋所で人を雇うことも考えておかねばなるまい。 そもそも人材斡旋所の仕組みが分かってないので聞いておくことにしよう。

「人材斡旋所ではどのような制度や金額で人を雇えるんだ?」
「基本は1年契約と3年契約と5年契約に分かれております。 金額は斡旋される者の能力によって異なります。 冒険者として雇うとすれば金額は高くなるでしょう。 1年契約の場合は軽犯罪者や借金の少ない者が多く、 複数年契約者は罪の重い者や借金が多い者になります。 どちらの契約でも通常の生活を保障しなければなりません。」
「通常の生活とは?」
「寝床と1日2度の食事と月に100個の微小魔石を与えねばなりません。 これはどのような契約でも守らねばならない基礎です。 あとは契約年数によって契約条件が変わります。」
 衣食住は与えないといけないってことだな。 清掃の魔法が有れば服は汚れの無い状態が保てるからな。

「1年契約の場合は理不尽と思われる命令も拒否することも出来ます。 拒否されたことに不満が有るならば神殿に訴えて審判を仰ぐことができ、拒否の妥当性が無い場合は契約金は返金され拒否した者の奉仕期間が延びることになります。 その者と再契約するか、新たな者を雇用するかは自由です。 1年契約者と3年契約者は誰にも雇われずに斡旋所で暮らしていると期間や借金は減りませんので、日雇い労働として貸し出されるのです。 運搬人も日雇い労働の1つですが、日雇いの中でも高給なので人気が有るのです。 運搬人は大銅貨5枚で日雇い契約できるので中級冒険者が雇う場合が多いです。」
 1年契約だと理不尽な雇用制度ではなく、通常の人材派遣会社みたいに思えるな。

「3年契約の場合は契約時に条件を決めることになります。 決められた条件以外は1年契約と同じですね。 条件を決めた後に契約の首輪が嵌められ、条件に従わないと首輪が縮まり死に至る場合もございます。 条件が気に入らなければ契約が為されないので無理な条件はされないのが無難でしょう。 ただし2年間契約が為されない場合は5年契約者になります。」
 3年契約は自分で条件を選べるだけブラック企業よりマシないくらいかな。

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「5年契約の場合、死に直接つながるような命令以外は従わなければなりません。 雇用時に従属の首輪が嵌められ、契約の首輪と同じ仕様となっております。  契約相手を拒否することは可能ですが、3年間契約が為されなければ鉱山に送られ終生労働の罰が科されることになります。」
 5年契約は奴隷制度そのものだな。 でも、誰にも契約されないで生涯鉱山労働になるのも可哀そうな気がする。 1年契約や3年契約なら会社で雇用する感じで良いのかもしれないので、訪問する事も考慮に入れておこう。 

「門番の交代時間は分かるか?」
「門番に何か用事があるのですか?」
「門番の1人に夕食をおごると約束したんだよ。」
「なるほど、門番の交代時間は18刻ですね。 朝の6刻と晩の18刻には教会の鐘が鳴るので覚えておいてください。」
 俺は机の上に置いてある魔法時計に目をやった。 時計には17の数字が出ており、4色目の色が落ち始めていた。
  もうすぐ交代時間じゃね~か! でも、交代の門番に連絡先を告げておくと言ってたし問題ないな。

「今から東門まで行くんだがラーテイはどうする?」
「お邪魔でなければ同行したいと思います。」
 晩飯を食って、多少飲むと思うので同行者は居たほうがいいだろう。 暗くなると宿の場所も分からなくなるかもしれないからな。
「すぐにも出かけたいんだが、準備ができたらドアをノックしてくれ。」
「私は荷物を多く持ってきてませんので、このまま出かけれます。」
 そう言えばラーテイの手荷物は小袋だけだったな。
 俺とラーテイは宿を出て東門に向かった。 歩いていると教会の鐘が聞こえてきた。
 
「この鐘が終業の合図でもあるのです。 役所などの公的機関や教会の礼拝なども終了します。 宿屋や食事処、酒場、人材斡旋所がにぎわうのはこの時間からですね。」
「最初の3カ所は分かるんだが、何故人材斡旋所がにぎわうんだ? 通常は仕事が始まる早朝がにぎわうんじゃないのか?」」
「日雇いも仕事終わりに翌日の仕事を予約しておく場合が多いのですよ。 当日の早朝では探す時間も限られてしまいますし、定員が満たされていて良い仕事は無くなってますからね。 それに、人材斡旋所は性を売る場所でもあるのですよ。 高額な仕事ですし、短期でお金を稼ぎたい者が待機しております。 人材斡旋所の隣には専用の宿屋が用意されており、そこを使うも良いですし、定宿を相部屋にして連れ帰るのも良いですよ。 気に入れば、交渉すると週単位での契約も可能になります。 健康管理はしっかりとされており、病気がうつる心配も有りません。」
 人材斡旋所が風俗も兼ねてるのかよ。

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「教団関係者なのに性産業に肯定的なんだな。」
「神殿で罪人を裁き、刑期を決めるのです。 刑期は最低でも1年になっており、稼いだ金額から所定の生活費と税金が差し引かれ罰金を引いた額が釈放時に手渡れます。 刑期内で最低金額を稼げなかった場合は刑期が伸びます。 借金が返せずに入所した者も同じです。 何年も稼ぐことが出来ないと最終的には終身労働になるので必死に働くことになります。 自ら登録する場合は歩合制となります。 冒険者の多くが組合と併用して登録しているようですね。 売り上げの一部が教団に還元されるので、教団は人材斡旋所を推奨しております。 ユグ様も登録だけでもなさったらいかがでしょうか。 斡旋所でパーティを探す人も多いですよ。」
 組合は人材の紹介のみで保証もしてくれるが、人材斡旋所は交渉によって契約するので責任は自己責任になるってことか。

「冒険者で気に入った者を見つけて、斡旋所の契約条件に性交渉が可になっていれば申請することがも出来ますし、ユグ様を気に入って申請される方も居るかもしれませんからね。」
 俺は男色の気はないぞ!

「女性冒険者も利用者が多く、一夜の相手を見つける場所として利用されてます。」
ホストクラブとしての利用もあるのか。 グランガイズの女性は結構肉食系なのかもしれない。 登録するにしても条件は限定することにしよう。

「教団もそうだが、ラーテイも性に関しては開放的な考えなんだな。」
「教団には聖職者たるもの民を愛し、民に愛されねばならないという教義があり、司祭以上になると30歳までには配偶者を複数持たねばならない決まりまであるのです。 配偶者が多ければ多いほど慈愛に満ちていると称され昇叙されやすくなるのですよ。 斡旋所で異性に愛を施すことも奨励されています。 愛を与えることが間接的にも金銭的にも、彼の者たちの助けになりますからね。 ただし、聖職者同士の婚姻は認められておりませんし、性行為にも罰則がございす。」
 地球と違って聖職に就いていても結婚できるのか。 更に重婚も推奨されているとはな。 知らない法もあるみたいだし、地球の中世を想定して行動したら間違った判断をしてしまうかもしれないな。 グランガイズの常識を出来るだけ早く学び、親しい者に自分の行動が間違った場合に指摘してもらわねばならない。 
 ラーテイがいる間は心配はないが、別れた後も助言してくれる者が必要だと痛感した。

 そのような事を考えてると東門が見えてきた。 門の前にはおやっさんを含む4人の人物が屯っているのが見える。 おやっさんにライドル、ゲルタだったか‥‥に部屋の中にはいたが名前を聞いてない奴が話し込んでいた。

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「おう兄ちゃん、無事に出てこられたんだな。 って、監視付きかよ。」
「おやっさん、お世話になりました。 この神父はラーテイといって、監視も兼ねてると思いますが記憶のない俺に助言を与えてくれる貴重な存在でもあるのですよ。 付き合いは短いですが人間性も善良で、見かけ通り取っつきやすい男ですよ。」
「まぁ、兄ちゃんが良いなら良いんだけどな。」

「おやっさん、俺は家に帰ります。」
「俺も帰ります。」
 ゲルタと名も知らぬ門番がおやっさんに声をかけ、家に帰って行った。

「あの2人は世帯持ちだ。 仕事が終わったら寄り道せずに、すぐに帰っちまうんだ。 子供も幼いし、嫁さんを楽させたいんだろう。 おいらも世帯は持ってるが、子供も成人してるし、家に居ても邪魔者扱いだからな。」
 おやっさんはそう言うと豪快に笑った。
 おやっさん以外とは会話してないから、実際居ても居なくてもどっちでも良い。 

「私は帰ってもすることが無いので、ご一緒させていいですか?」
 ライドルが申し訳なさそうに声をかけてきた。

「別に構わないぞ。 今日の晩飯は俺のおごりだから、おやっさんもラーテイもライドルも遠慮なく食べてくれ。 酒も飲んでも良いが、家に帰れるくらいには抑えるんだぞ。 特にラーテイ、お前が酔っ払って正気をなくすと宿屋に戻れなくなってしまうから気を付けてくれ。」
「私は聖職者です。 人様の前で醜態はみせませんよ。」
 グランガイズの聖職者と言う概念が地球と違う限り、忠告はしておくべきだろう。 性に関して違うのだから、飲酒に関しても違うのかもしれないからな。

「俺はこの街の店なんて分からいので、おやっさんが良いと思う店に案内してください。」
「そうだな‥‥‥ 傭兵や底辺の冒険者が集まる店は兄ちゃんには合わないだろう。 傭兵団の幹部会議で使う店が値段も手ごろで、雰囲気も悪くない。 ライドル、お前は店の場所知ってるだろ。 ひとっ走りして店に空きが有るか見て来い。 個室が空いてれば確保してもらっておけ。」
「はい、行ってきます。」
 そう言うとライドルは走って行った。

「兄ちゃん、結局この街に腰を据えることにしたのか?」
「ほかに行く当ても無いので暫くの間、この街で冒険者をやってみようと思います。」
「ほう、冒険者になるのか。 夕食を奢ってくれると言い、懐は温かいんだな。 それとも、ここの神父さんに借りたのか? 教団から金を借りて返せなくなると斡旋所送りになるから、よく考えて借りるんだぞ。 やつらは貸す時には笑顔だが、集金に来るときは鬼のような面になるからな。」

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「そんなことはありませんよ。 借りたものは約束の期間に約束した額を返す。 人としての当たり前の事ができないのですから、多少強引な手段になるのは致し方ないでしょう。 我々も心苦しいのです。 人の道を踏み外してしまった者を正道へと導くのも我らの義務でもあるのですから。」
 いや、貸し方にも問題あるだろう。 返済計画なんてものがグランガイズにあるか分からないが、上限はあるとは言え希望金額を貸していたら返せなくなる奴なんて大量に出るだろう。 教団も斡旋所との関係で資金を回収できる仕組みが有るからこそ、そのように気軽に貸せるのだろうけどな。 逆に返せないことを見越して貸してる疑惑すらある。

 今、エルテルム王国全体が発展期を迎えてると言っていたし、その中でもケルゼン伯領は上位に入るらしい。 アハグトの街も開拓村を新たに複数作ることを王国に申請しているらしい。 エルテルム王国全体が好景気だが、単純労働者は人気が無い。 そこで人材斡旋所だ。 契約が為されない者は強制的に単純労働を課せられる。 安い賃金で働かせられる人材が大量に居れば、仕事は捗るはずだ。 借金を返済すれば即釈放となれば、数カ月で返済して退所するものも多くなるはなので、刑期が最短1年になってるのだろう。

「巾着に硬貨入れが入ってまして、結構硬貨が入っていたのです。 1~2年くらいは現在の宿に泊まっても大丈夫なくらいの資金は有ります。 生活魔法全種と召喚魔法、杖術と付随スキルを1つ覚えたので冒険者で稼ぎますよ。」
「それじゃ、一安心だな。 召喚魔法なんて珍しい魔法が使えるのか。 街中では使うなよ。 俺たちの仕事が増えるからな。」
 おやっさんはさらに豪快に笑った。

「門番は正規兵だと思ってたんですけど、傭兵だったんですね。」
「そうだ。 大抵の街の門番や街、村の警備は傭兵が請け負っている。 街の門と街中の警備は、その街の一番古い傭兵クランが任される。 一番最初に登録したクランは街の名前を取って名付けるんだ。 その例に倣って、うちのクランの名前はアハグト傭兵団って言うんだぜ。 アハグトには8つの傭兵クランが有るが、人数や練度は断トツで一番だ。」
「アハグトで一番の傭兵団だったんですか。 正規兵と比べたら、どっちが強いんですか?」
「正規兵は親の後継やコネでなるやつが多いし、戦争はおろか戦闘経験すらないやつらばっかりだ。  そんなやつらが村の警備で野盗なんかと遭遇したら全滅しちまうぜ。 あいつらは土木工事ばっかり上手になって戦闘になんて使えないからな。」

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南井爺ちゃんも言ってたけど、戦争は起きてないはずだ。 最近、南井爺ちゃんの情報は正確で無かった事が多いが、戦争のようなことを見逃すはずはないだろう。 長年戦争経験のない軍人は地球との戦争に役に立つのだろうか。 正規兵が使えない場合でも傭兵たちの戦闘力が高ければ何とかなりそうな気はするがな。

「おっちゃんはアハグト傭兵団の中ではどのような立場なんですか?」
「おう、おいらは5人いる幹部の1人だ。 傭兵団は団長、副団長、幹部、小隊長、副小隊長、団員って制度になっていな、これは傭兵組合に登録するときに必ず決めないといけない事項だから、すべての傭兵団は同じ制度のはずだ。 それと、総団員数が50人を超えないとクランとして組合に登録できない。 個人で組合に傭兵登録も出来るが、俺たちのようなクランの手伝いや、誰でもできるような簡単な仕事を安い金額で請負い階級を上げて行く必要がある。」

「傭兵組合も冒険者組合のようにランクが有るんですね。」
「冒険者は鉱石を模した階級だが、傭兵は10級から特級となっている。 クランを作るには代表が3級以上、副団長が4級以上じゃないと認可が下りない。 アハグト傭兵団は団長、副団長共に2級だ。」
「おやっさんは何級何ですか?」
「おいらか? おいらは3級だな。 アハグト傭兵団では最年長で結成当初から参加してるぜ。 だから、団員の皆からおやっさんと呼ばれてるんだよ。」
「幹部なのに門番の仕事もするのですね。」
「門番は2交代制で昼は3人、夜は5人で回してる。 夜は隊長と副隊長が交互に入っているが、昼は平団員で回してる。 幹部の1人が1週間の間、昼の門番に加わるのよ。 月の1週目は北門、2週目は西門、3週目は南門、4週目が東門って訳だ。 だから、おいらが4週目の昼を担当してるって訳さ。 明日、門番の仕事が終わったら本部で内勤をして、再来月の1週目に北門の門番が待ってるってことだな。」
「休日は有るのですか?」
「休日? そんなものはないぞ。 体調が悪くなったり、所用で勤務できないときは隊長か副隊長に報告すれば休める。 ただし、休めばその分の給金は支払われないし、休みを多く取ると組合で昇格試験のときの評価が大きく下がるぞ。 病弱な奴や、自己都合を優先するような奴が上の立場になれば傭兵全体の信用に関わるからな。」
 結構ブラックな仕事だな。 昇格を目指さないのであれば適度に休みを取って仕事をするってこともできそうだがな。

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「傭兵ってもっと荒くれた感じだと思ってたのですが、結構規律が厳しそうですね。」
「町や村の警備を任されるわけだから規律が厳しくないと無理だろ。 アハグトには8つの傭兵クランが有るって言ったよな。 だが、街や村の警備を請け負ってるクランは3つだけだ。 残りの5クランは他の国や街で起こってる紛争や治安維持に出稼ぎに行って金や階級を稼いでる。 兄ちゃんが想像した傭兵ってのはそいつらのことだろう。 あいつらのクランは規律が緩いから組合からの評価は高くないし、全体的に階級が低いやつが多いんだ。 そんなやつらに大事な町や村の警備を任せたくはないだろ?」
 それはそうだよな。 荒くれ物の集まりに街や村の警備なんて任せたら、逆に治安が悪化しそうだ。 街や村の警備を任せられるようなクランは日本で言うと正社員だけを使う現金輸送とか要人警護などを担当する会社で、残りのクランは工事現場や店舗誘導などに派遣やアルバイトを使ってる会社みたいな感じだと思っておこう。 それぞれに使い勝手が違うし、メリットやデメリットもあるだろうからな。

「もし今、この国やグランガイズ全体を巻き込んだ大規模な戦争が起こったら、傭兵団や我々市民はどうなると思いますか?」
「えらく物騒な話だな。 街や村の警備を請け負ってるクランは警備人数を増やして周辺警戒も密にしクランハウスで内勤や待機してる者には非常時警戒態勢が発動されて、いつでも出動できるような状態になるだろうな。 出稼ぎに出てるようなクランは儲け時とばかりに戦場に向かうだろう。 市民は戦場が近くない限りは通常維持だ。 冒険者組合は傭兵クランの巡回が薄い場所や街や村から離れた地域の偵察依頼を出すだろうぜ。」
「傭兵クランの内勤ってどのような事をやってるんですか?」
「俺たち幹部や隊長格は書類仕事が主だな。 通常の団員は訓練が大半だ。 いざ実戦となったときに動けないって状態になったら困るだろ? だから、新人には1~2年間は基礎体力や座学、そこで7級以上になると実践訓練が増えて6級以上になるとようやく実務に入るんだ。 実務時でも内勤の時は自己鍛錬や後輩の指導をして上の階級を目指すのさ。 街や村の警備などの外勤が3割、内勤が7割がアハグト傭兵団の内訳だな。 他の傭兵団も外勤の割合がうちより多いが、5割は残ってないと問題が起こったときに咄嗟に対処できないからな。 村などに盗賊が押し寄せてきても警備員だけで対処できんだろ。 報告が入ったらクランハウスの内勤してる者が対応するんだよ。」

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門番や村にいる傭兵はあくまで警戒要員で、実戦部隊はクランハウスで訓練しつつ待機してるのか。 新人研修もしっかりなされてるようだし、エリート集団って感じだな。 街と契約してる傭兵クランは街や村を守ることに徹して、契約してないクランは稼ぎを求めて戦場に行くのか。 傭兵クランの手が回らな範囲を冒険者が警戒することになるんだな。

「正規兵はなにをしてるんですか?」
「街や村にはほとんど正規兵は駐留してない。 領都ケルゼンの騎士団駐屯所で生活してる。 領都ケルゼンには領主が住んでる城が有ってな、そこに行政機関や軍隊の駐屯所などが併設されてるんだ。 軍隊は座学や設営作業や輜重輸送や単純な訓練が主な仕事で、出世や安定を希望する上級国民がなるような職業だな。 おいらたち一般庶民には縁遠い仕事だよ。」
 正規軍は作戦立案や後方支援に特化して戦闘には重きを置いていないんだな。 やはり長期間戦争が無いと軍隊と言うものは、ただの金食い虫みたいに思われてしまうのだろう。 ただ、魔法が使えるおかげで、村の初期建築作業に使える点は評価されてるのだろう。
「だが、正規軍にも良いとこは有る。 予算が潤沢なので中級の攻撃や防御、補助の魔法を多くの隊員が複数取得している。 大隊長クラスともなると上級魔法を取得している人物もいると聞く。 傭兵で上級魔法など高額で取得できないが、やつらは国費で賄うから熟練度さえ足りれば取得するらしい。 長年、戦争などが起きてないから無用の長物だが、昔は上級魔法が使えれば1人で千人以上の活躍をしていたと聞く。 まぁ、出世競争で腕のほどは分からんが上級魔法は使えるだけでも強力な戦力になる。 よほどな馬鹿じゃない限りは大丈夫だろう。」
 おやっさん、それはフラグにしか聞こえないぞ。 魔法の威力がどの程度あるのかサッパリ分からないので凄さは分からないが、一応頼りにはさせてもらおう。 
 発展著しいエルテルム王国でさえそのような人物がいるのだから、もっと昔から発展している東側の国やアリライ神聖国や魔法が盛んと言われているルクサセス魔法国などは大いに期待できるのではないだろうか。
 あとは魔族と呼ばれるだけあって、魔族も魔法が得意な種族が多いだろう。 南井爺ちゃんは魔族は温厚だと言っていたが戦争が起きてしまえば、さすがに行動を起こすはずだ。 人族とは連携は取れないだろうが、亜人を通じて協力を仰げないものだろうか。 俺みたいな一市民が考える事ではないが、ある程度の情報を知ってる身からすると色々考えてしまうな。

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「おやっさん所属のクランハウスは街のどの辺りにあるのですか? やはり転移施設に近いエリアにあるのですか?」
「いや、中央エリアは公共施設や商業施設が多いので土地の価格が高い。 傭兵のクランハウスは戦闘訓練場などもあって、敷地が大きいから地価の安い南西エリアに集中しているぞ。」
「それでは村に何か起きた場合に転移施設まで行くのに時間がかかりませんか?」
「兄ちゃん、盗賊連中も馬鹿じゃない。 奴らは傭兵が来ることを前提に、如何に素早く、如何に多く略奪しようとする。 そんな時に馬鹿正直に一々転移門を使うはずないだろ。 村の柵際に何カ所にも転移版を埋めてあるのよ。 村の警備員からの情報から何処から侵入したかによって、撤退経路を予想してクランの転移陣から順次転移していくんだよ。 盗賊も用心して転移版を探して除去しようとするやつもいるが、転移版には感知魔法がかけられていて触れれば警備の者が駆けつけるんだ。 もちろん、犯人が逃走しても村の警備は厳しくなるので、盗賊が押し寄せることはできなくなるからな。 俺たち傭兵は盗賊を捕まえることではなく村を守ることだから予防として町や村でも告知している。」
 確かにそうだよな。 グランガイズの傭兵団の立ち位置は警察ではなく警備会社みたいなものだからな。 警備会社が警察も兼ねていると言った方が正しいのかもな。

「兄ちゃんの宿は何処にしたんだ?」
「一応、春風館と言う宿に決めましたが、稼ぎによってはランクを落とした宿にするかもしれません。」
「ほう、南東エリアにある春風館か。 南東エリアは中級層の市民や宿が多く軒を連ねるエリアだな。 春風館を選ぶとは兄ちゃんも奮発したな。 銀ランクあたりが定宿に使ってるアハグトでも老舗の宿だ。 お付きの神父さんも数日間は羽を伸ばせるな。」
「私はユグ様が望まれることを実現できるように配慮することが仕事なので、私情は挟みませんよ。」
「ユグ様? 兄ちゃん、そんな名前じゃなかったよな。 トモヤマなんたらって名前だったはずだ。」
「おやっさん、そのことは後で話しますんで、ここは流してください。」
「色々と事情が有るんだろうから、詮索はしないでおくぜ。 神殿関係者が認めてることを、一介の傭兵が詮索するのもおかしいからな。」
「理解が早くて、恐縮です。」
 やはり、おやっさんは思考も柔軟で、理解力もある人物と見える。 偶然だがこのような人物とこの世界に来た初期段階で知り合えたのは幸運だったな。 ステータスでも幸運値が高かったのは偶然ではないのだろう。

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「そう言えば、ステータスウィンドウを見たのですが、レベルがありますよね。 職業レベルや冒険者職業のレベルが上がるとステータス値も上がるのですか?」
「兄ちゃんは冒険者組合に登録したからギルドカード持ってるんだったな。 傭兵にも傭兵組合からギルドカードが発行されてるからステータス値は分かるぜ。 ステータス値は職業レベルや職種レベルが5上がるたびにどれかの数値が1上がる。 一番使った数値が上がると言われてるが定かじゃねぇ。」
 そう言えば、ステータス値が分かるのはギルドカードが配付される職業だけだったな。 つい、昔読んでいた小説の話のような感じで皆が知ってると思ってしまっていた。
 しかし、レベル5でステータスのいずれかが1だけしか上がらないだと! 小説やゲームなどではレベル1上がって複数上がるのが普通だぞ。 南井爺ちゃんも色々甘いくせにケチなとこもあるよな。

「レベル5で1上がるのって少なくありませんか? それとも、レベルがとても上がりやすくて、平均がレベル300とかそんな感じなんですか?」
「確かにレベルは20までは上がりやすい、 頑張れば1カ月で到達できるかもしれん。 だが、レベル20の壁と言うのが有ってな。 レベル20からはレベルアップに要する熟練度が倍になって行くんだ。 冒険者で言えば、兄ちゃんが泊ってる春風館を定宿にしている銀ランクの平均がレベル30前後と言えば分かるか。」
 中堅冒険者でレベル30前後、第1、第2も30まで上がってるとして合計18アップってことか。 初期の能力が平均5の7個あったから35、レベル30まで上がっても初期値から1.5倍しか上がってないじゃないか!

「ステータス値って上昇速度が遅いのですね。」
「はあ? お前ちょっと頭おかしいんじゃねぇ~か? 能力が1.5倍になってるんだぞ? それで強くなってないだと! 握力50のやつが75になって、100㎏持てるやつが150㎏持てるようになってるのに強くなってないと言うのか。 お前の中では10倍とか100倍になってるんじゃないだろうな。」   
 そう説明されると、通常時の能力が10倍になってたら日常生活に支障が出るよな。 100㎏持てるやつが1t持てるようになって、更に強化魔法でパワーアップか。 想像してみると確かに異常だな。 強化魔法を使ったときの体の動かし方も練習しておかなければならないな。 小説やゲームの常識とは違うってことを理解しなければいけない。

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「少し思い違いをしていたようです。 力を欲するあまり欲が出ていたようです。 すいませんでした。」
「あやまるほどの事じゃねぇ。 誰もが強くなりたいと思うものだ。 ただ、レベルだけがステータスアップする道じゃないぞ。 地道な訓練でもステータスは上がるからな。 我ら傭兵団の強みはそこにある。 重い者を運ぶ訓練をすれば筋力値が上がるし、細かな作業を重ねると器用値が上がるってな感じで、地道な修練で上げることもできる。 冒険者は訓練をやらない奴が多いから、同じレベルでも傭兵の方がステータス値では高いんだ。 軍人も訓練はしてるが、あれは形だけの訓練だから、あまり効果は出てないはずだ。 強くなりたいなら地道な訓練が自分を育てる事になることを覚えて奥が良い。 上がると言っても毎日継続して1年で1ってとこだが10年で10も差が出ると思えばやる気もでるだろ?」
「我々、戦闘司祭も日々の修練は欠かしません。 明朝からご一緒に修練なさいますか?」
「いや、まずはこの地の知識や決まり事を覚える方が優先だ。 訓練は通常に生活が送れるようになってからでも遅くはないからな。」
 別に訓練が面倒なんてことはないぞ! 優先すべき順序が有るってことだ。 心にやましいことなんて、これっぽっちもないのだからな!

「兄ちゃんはレベルは全部1だったよな。 7つのステータスの平均初期値は5で、そこから±1ってとこだがどんな感じなんだ? 秘密なら言わなくても良いが、言ってくれたらアドバイスが出来るかもしれないぞ。 なんせクランでは教官もやったことがあるからな。」
「筋力値が3で知力値と幸運値が7ですね。」
「思いっきり、学者、魔法使いタイプだな。 幸運値が高いのはポイントが高いぞ! 幸運値と言うのは上がりにくいし、上げる方法が無い数値だ。 元より幸運値が低いやつは、全く幸運値が上がらない場合が多いから、兄ちゃんみたいに初期から幸運値が高いと上がりやすいらしい。
「幸運値が高いと何が良いのですか?」
「その個人が良いと思うことが多く起こったり、悪いと思うことが少なくなる。 例えると、冒険者なら体力が上限に近くて経験値を稼ぎたいときには魔物との遭遇率が上がるし、逆に体力が少なくて回復手段も無い状態なら遭遇率は下がる。 それと、宝箱の発見確率が上がると聞いている。 それに発見した宝箱から出る財宝の価値も上がるらしい。 価値の高い財宝を見つけたら一生遊んで暮らせるだけの硬貨が得られるからな。 冒険者がパーティーを組むと幸運値が一番高いやつに適応されるらしういから、野良で組むときとかは配分の交渉でより多くを求めることが可能だぞ。」
 幸運値は結構重要な要素なんだな。 グランガイズに来てから良い人ばかりに出会ってるのも幸運のおかげなのかもしれない。 カス大司教は例外だけどな。

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「初期で幸運値が7もあるならレベルも上がりやすい、3つの職のレベルが20になったときに幸運値が10に届いたならば、金ランクやダイヤランクのパーティーから勧誘が有るかもしれないぞ。 幸運値が10を超えると組合の掲示板に名前が張り出されるから、一気に有名人になれるぞ。 レベル20台で幸運値が10超えたものは、現在のアハグトの傭兵組合や冒険者組合に登録してるやつらの中には居ないからな。」
「出来れば目立たずに生活したいと思ってるんですけどね。」
「そりゃ無理だろ。 そもそも、初期値が3や7なだけでも珍しいのに幸運値が7なのは奇跡みたいなもんだ。 神父さんもそう思うだろ。」
「確かに教団の調べでは基礎値から上下に±1になる人は少なくは有りません。 稀に初期値が7になる人も出ますが、その多くは筋力値か器用値で千人に1人ってとこですね。 次に多いのが持久値で3千人に1人ほどです。 その次に多いのが敏捷値で5千人に1人、次が知力値で1万人に1人、次が精神値で2万人に1人、最後が幸運値で5万人に1人ほどだと記されてます。 これは冒険者組合や傭兵組合に公表されているので、調べればすぐに分かると思いますよ。 ですが、この数値は人族の成人の儀で判明している数値なので、傭兵や冒険者になる数は全体の1/10ほどです。 実質は先の数値を10倍した数で考えてもよろしいかと思われます。 東部に位置する国は西部の国に比べて冒険者や傭兵になる割合が高いのです。 発展が著しく、人口も急増中ですので、安定した職が見つけられないのが要因ですね。」
 そうか、成人の儀ですべての人族の数値が分かるので、教団は数値を把握しているんだな。 それに、10人に1人が冒険者か傭兵を選ぶのか。 農民が主の時代にしては多いような気がするな。 
 アハグトで注目されて冒険者として生活がやりにくくなったら、他の国に引っ越すのもありかな。 エルフが多く生活している人族の国も調べないといけないな。 無いならエルフの国で生活できないかを模索する必要も有るかもな。

「おやっさん、店の予約が取れました。 今からでも大丈夫とのことです。」
 ライドルが声を張り上げながら、こちらに向かって走ってくる。

「じゃ、店に向かうぞ。」
 おやっさんは走ってくるライドルの方へ向け歩き始めた。 俺とラーテイもそれに続いて歩きだした。

 おやっさんが指定した店は門から15分ほど歩いた場所に位置し、結構新しそうだが立派な店構えをしていた。

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「ここはコース料理で、1人大銅貨3枚で飲み物は別途支払いだ。 俺たちは明日も仕事だから、それほど飲むわけにはいけねぇ。 銀貨2枚も有れば釣りがくるだろうぜ。 兄ちゃんなら、それくらい払えるよな。」
「ええ、大丈夫です。 昼間は肉の塊を食べたので、今度はどんな料理が出てくるかたのしみですよ。」
「そうか、兄ちゃんは何を飲むんだ? 神父さんはワインでいいよな。」
「俺はおやっさんと同じで良いですよ。」
「私は聖職者なのでワインか水しか許されてませんので、ワインでお願いします。」
「何故、聖職者はワインが許されてるんだ?」
「それは、教団はワインの製造を独占しているので、ワインを大量に保有しているからです。 教会には娯楽が少ないで、せめて自分たちが作ったワインは飲んで良いと、光の神がお許しになられたのです。」
 なるほど、西洋の中世でもワインは教会が作っていて独占ではないが、かなりの収益を上げていたと聞いたことはあるな。 グランガイズの教団は事業が多角化されており、結構強力な存在ではないだろうか。 自分たちの支配する国を持ち、利益の出そうな事業を独占して営んでるとなると、一番人口が多いとされているガーリス帝国より力や発言力を持ってるのではないだろうか。  その教団でも上位10人に入るとされているミケイル枢機卿と個人的に知り合えたのは、すごい事だと今更ながらに感じてしまう。

「店で出されるような薄いワインでは何杯飲んでも酔うことは有りませんよ。」
「店で出されるワインが薄い? 確かに昼間飲んだワインは甘くて薄くて飲みやすかったな。」
「店で出されるワインは2~3倍に薄めて、香辛料や蜂蜜などを少し足して出すのが一般的なのですよ。 薄めずにそのまま出してしまいますと、アルコールの濃度も高く依存症になる者も出ますので薄めて出すのです。 食事とともに飲まれる場合が多く、大量に飲まれる方も居ますので価格を抑えるための方法でもあるのですよ。 教団は薄めて出すことは推奨しておりますが、4倍以上に薄めて出した場合には取り締まりの対象になります。」
「おいおい、そんな難しい話は席について一杯やってからにしようぜ。」
「そうですね。 取り合えず案内を頼みましょう。」
「ライドル、案内頼む。」
「6番の個室だそうですので、こちらにいらして下さい。」
 案内された個室には中心にテーブルが有り、両側に椅子が3つ置いてある部屋だった。 椅子の間は結構広めに空いており、4につの椅子が並んでも狭いとは感じないほどだ。

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「ライドル、エール3杯にワインが1杯だ。」
「解りました。 料金は先払いなので、すいませんが硬貨を渡してもらえませんか? 料理が大銅貨12枚で酒が銅貨11枚です。 心付けを渡せば、料理が出てくるのが早く、少し豪華になると思います。」
「心付けの相場が分からないな。」
「心付けに相場なんてないぞ。 チップを渡さない奴も多いからな。 コースなら料理は運んできてくれるが、それは運び代が料金に含まれているからだ。 酒や単体の料理なら自分で受付まで行って、代金と引き換えに自分で持ってこないといけない。 コースを頼むヤツは心付けを渡すことで、店員の態度や調理人の気分を良くするのが目的だからな。 渡さないことで態度や料理の品質が落ちれば店の評判は落ち、客が減ることになる。 幹部会では銅貨3枚を上乗せしているが、2~3人分のエール代くらい上乗せして置けば上客と判断されるぜ。」
 確か昼間の食堂でラーテイが、ワインが銅貨5枚でエールが2枚って言っていたはず。 ここでは違うのかもしれないが、計算上は同じと推測できる。 取り合えず、ライドルには銀貨1枚と大銅貨4枚を渡しておこう。

「ほれ、代金だ。 釣りは心づけとして渡しておいてくれ。」
「ほう、兄ちゃんは計算が早いんだな。 普通ならライドルみたいに硬貨を足すしかできないんだが、演算ができるのか。 おいらは書類仕事もするから分かるがライドルは咄嗟には無理だ。 兄ちゃんは事務仕事でも引く手数多だな。」
「取りあえず、全額渡しておけばいいのですね。 では行ってきます。」
 ライドルは硬貨を受け取ると、受付の方へ歩いて行った。
 
 暫くおやっさんと世間話をしていると、ライドルが木製のジョッキを4つ持ちながら戻って来た。

「では、飲もうか。」
 そう言うとおやっさんは一気にジョッキのエールを半分くらい飲みほした。 俺もそれに続きエールを一口飲んでみた。 

 生温い‥‥‥

日本で俺が飲む飲み物と言えば、えてるのかあったかいのが普通なので、常温の飲み物を飲むことは滅多にない。 特にビールなどは冷えてないと違和感を感じる。 西洋の方ではビールは常温で飲むのが普通だと聞いたことはあるが、喉ごしが良くない。 初めて飲んだ感想を言えば、ワインとビールを足して2で割った感じだ。 かすかに漂うフルーティーな香りにコクが口内に広がってくようだ。

「兄ちゃん、微妙な顔になってるが美味くなかったか?」
「いえ味は悪くありませんよ。 俺は冷やして飲むと言うのが普通だったので、少し驚いただけです。」
「冷やして飲むか‥‥‥ なんかルクサセス魔法国から戻って来た傭兵が、冷えたエールのようなものが売っていたって言ってたな。 確かラガーって言ったぞ。」
 やはりグランガイズでもラガービールは有るのか。 想像したら飲みたくなってきたな。

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そのようなことを話していると料理が運ばれてきた。 
 最初に運ばれて来た料理は豚の角煮っぽい肉の塊だ。 だが、大きさが俺の知っている角煮の3倍はある。 それが1枚の木製の皿に山積みにされていた。

「今日のコースは魔豚の柔らか煮と魔牛のシチューと川魚の餡かけでございます。 残りは後ほどお持ちしますのでごゆっくりおくつろぎ下さい。」
 そう言っている店員の後から、パンの入った籠が運ばれて来た。 昼間に食べた黒パンと違いバケットのような形のしたパンだ。 今運ばれてきた料理だけでも4人でなら丁度良い量だと思うのだが、あと2品来ると言う。
 ライドルが肉の塊を取り皿に分け各自に配ってくれた。

「暖かいうちに食っちまおうぜ。」
 おさっさんがそう言うと、ライドルが素手で肉の塊を掴みかぶりついた。 机の上にはナイフとフォークがあるんだが、素手で食べる料理なのか? 
 ライドルは肉の塊を食べ終えると机の上に有った布で手を拭き、ジョッキを持ってエールを流し込んだ。

「兄ちゃん、ライドルなんて見てないで料理を食ったらどうだ。」
「いや、若いからか豪快に食べるものだなと見とれてましたよ。 最近は食欲も落ちてきて、あのように食べることが無くなったんで羨ましくなったんです。」
「兄ちゃんはまだ若いじゃね~か。 爺臭いこと言ってないで食っちまおうや。」
 おやっさんはナイフとフォークを操りながら料理を口に運んでいる。 俺もそれに見習い肉の塊をナイフで切って口に運ぶ。 日本で食べた豚の角煮より味付けは薄いが、肉そのものが持っている濃厚なうま味が口いっぱいに広がってきた。
 おやっさんのジョッキが空になったので、ライドルに大銅貨1枚と銅貨7枚を渡してエールを6杯とワインを1杯買いに行ってもらった。  ラーテイの飲む速度からして、もう一杯で終わるだろうと見込み、俺たちは2杯づつ飲むと計算し、前もって買っておく。 エールは常温なので、先に買っておいても味は落ちないだろう。
 ライドルが器用に7つのジョッキを両手に持って戻って来た。 おやっさんは1つのジョッキを受け取るとまた半分くらい一気に口に流し込んだ。 ライドルも勢いを衰えさせずに肉の塊を消費していく。

 暫く食事に集中していると、店員が大きな木の器に入ったシチューを運んできた。 具は肉とジャガイモっぽい物と豆が入っていた。 具だくさんで肉の塊が器一杯にあふれんばかりに入っていた。 ライドルがそれを匙ですくい、それぞれの器に入れてくれる。 それでも、配り終えた後にも器には半分以上残っていた。

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豚の柔らか煮は肉の塊が20個ほど入っていたが、ライドルが半分、俺が2個、ラーテイとおやっさんとが4個づつ食べた。 シチューもおれとおやっさんが2杯、ライドルとラーテイが3杯食べることになった。 最後に川魚の餡かけが出されたが、アユほどの大きさにの魚だったので、何とか食べ終えることが出来た。

「肉の量が結構多いですが、肉は沢山捕れるのですか?」
「ダンジョンで魔豚や魔牛を専門に狩る冒険者が多いので肉の流通量は多く、亜人の国や魔族の国に送られてるほどだ。 亜人や魔族の土地は魔獣が出るので、農畜産業には向いてない。 亜人も魔族も人口が増加して常に食糧不足なんだ。 この街で見かけれる亜人の多くは冒険者として、自国に食料を送る役目も負っているんだ。 牧場で育てられた豚や牛は高級品でな、王都や東側の国がほとんど買って行っちまうので出回らないのよ。 魚は海のないエルテルム王国では品薄だ。 川魚でさえ、それほど売られてはいない。 今回のコースの主役は川魚だったってことだな。」
 先日まで日本に居た俺には肉料理のインパクトが強すぎて、魚料理はおまけみたいに思えてしまう。
 食べ終えた後はおやっさん達と世間話をして、最後に連絡手段を聞いて店を出た。 ほろ酔い気分になった俺は、ラーテイに先導されて、春風館に戻ってこれた。 自分1人であれば戻ってこれなかっただろう。

「明日の朝食は部屋でお取りになるようですが、何時ごろにお出かけになりますか?」
「朝食は何時ごろに運ばれてくるんだ?」
「朝の鐘が6刻に鳴り、1刻後ほどで運ばれてくると思います。」
「それでは8刻に出かけるとしようか。」
「ダンジョンに行かれるのですね。 私は朝の鍛錬で5刻から7刻あたりまで宿を留守にしていると思います。 必ず戻ってきますので、用件が出来た場合は受付に伝言を伝えお待ちください。」
「解った。 これから師範に連絡をとるのか? 」
「そうですね。 早くしないと、枢機卿台下までつなぎが取れませんからね。」
「それなら、取っておきな情報を渡しておく。 明日の17刻に重大な事件が起こるんだ。 そのことについての情報を少しだけだが持ってると言っておけばつなぎも取れやすくなるはずだ。」
「明日の17時に何か起きるのですか?」
「それは明日になれば分かるよ。 起きた時点で被害が出るようなことでは無いことだけは断言しておこう。 すぐにつなぎが取れなくとも、俺がそのことに関する情報を持ってることだけでも伝えておけば、向こうから俺に連絡を取ってくると思うぞ。」
「解りました。 今日は色々ありお疲れでしょうから、ゆっくり体を休めて下さいね。」
「おう。 それでは、お休みなさいだ。」
 ラーテイは一礼をすると部屋の鍵を開け部屋の中へと入って行った。 俺もカードを差し込み鍵を開け部屋の中に入った。

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部屋に入ると、鍵をかけ巾着の中からスーツケースを取り出す。 スーツケースの中から替えの下着と寝間着と歯ブラシと歯磨き粉と洗面器とフェイスタオルを取り出しスーツケースを巾着に戻した。
 着ている服を脱ぎ、樽からマグカップに水を汲んで歯を磨き始めた。 歯を磨き終え、部屋にある個室に向かい、口をゆすいで口内の水を椅子に空いている穴に吐き出す。 すると一瞬で粉に変わった。 
 粉袋を持って来ていなかったので、粉は穴にたまったままだ。 体も清掃の魔法をかければ綺麗になるそうだが、やっぱり風呂に入りたい。 しかし、無い物は仕方ないので体だけでも拭いておこう。
 個室から出て、洗面器に水を汲んでタオルを濡らして体を拭きていく。 体を拭き終わり、汚れた水を穴に捨てると、またすぐ粉になった。 魔法は一定時間継続するようだ。 
 下着も新しいのに着替え、着終えた服一式と粉袋を持ち個室で清掃の魔法を自分に向かってかける。 どうやら手に持っている品も効果範囲に入るらしく、綺麗になったみたいだ。 穴の中の粉も床に落ち粉も粉袋の中に吸い込まれていく。 それを見ていると魔法の世界に来たのだと実感が湧いてきた。
 椅子を見ると色が白から黒に変わっている。 そう言えば効果が切れたら色が変わるって言ってたな。 椅子に再度、清掃の魔法をかけ、色が白に変わったのを確認して個室から出た。
 そう言えば、着替えの服を2着買ったときにラーテイガ驚いていたのを思い出した。 理由を聞くと、服は替えなどは持たずに1着を着潰すのが普通で、予備は持っても1着だと言っていたな。 お洒落の概念が薄く、清掃や修理の魔法が有れば替えの服なんて要らないと言う言葉も理解できた。 エルテルム王国は気温の寒暖差が少ないらしく、上着も持ってないと聞いた。 大半の国民は寝るときも着替えず、ずっと同じ服を着たまま生活するらしい。 俺もその内、そうした生活になじんでいくのだろうか‥‥‥
   寝間着に着替え、着終わった下着をたたんで袋に入れ、リュックに仕舞い、服とタオルを椅子に掛けてベットに潜り込んだ。

 これだけ色々な出来事を体験して、まだ一日しか経ってないことに驚いた。 日々を惰性で送って来た俺には今日と言う1日だけで、今まで生きてきた期間の出来事より多くの出来事を体験することになった。
 ベットで今日あったことを色々と反芻しながら目を閉じていると、意識が遠のいていくのだった。

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2 開戦

鐘の音で目が覚める。

 考え事をしている間に寝てしまったようだ。 寝起きの気分は意外に爽快で、2日間寝てなかったにしては1度の睡眠で全ての疲れが一気に吹き飛んだ気がする。 朝食が運ばれてくるまで色々用事を済ませておこう。
 用事を済ませ、椅子に座りマグカップに入れた水を飲みながら今日の予定を考える。

 まずは、ダンジョンへに行く。
 ダンジョンに初めて潜るので、今日は様子見で良いだろう。 魔法と杖術スキルを試してみたい。 杖術スキルはラーテイからの説明である程度理解は出来たが、召喚魔法は手探りでやっていくしかない。 実際に魔物を見て戦う意思が保てるかも自信が無い。 日本での生活で、意図的に殺生を行うことは稀だからだ。 意図的に自らの手で殺したことが有るのは蚊くらいではないだろうか。 意図しないでなら、地面を走り回っているアリや小さい昆虫くらいだ。 あと意図的と言えば、黒く素早いヤツやハエは殺虫剤で殺したことはある。 だから、最初の魔物が大きいミミズと言うのは少し気が楽になった。 鼠になると殺せるか自信が持てない。 何しろ、哺乳類を殺したことなんて無いからな。 それでも、敵が襲ってくるのだから躊躇してるようでは冒険者などやって行けるはずもないだろう。

 覚悟を決めるとき近い。 今まで惰性で生きてきた生活を捨て、自己の意志で他者の命を奪い、それを糧に生きて行くのだ。 自分で決めた道だが後悔や絶望を感じるときもあるだろう。 だが何もしない後悔よりも、自分で決めて失敗したときの方が悔いは少ないはずだ。 今の俺には地球の情報と知識が有る。 それの活かし方はまだ分からないが、きっとどこかで役に立つはずだ。 南井爺ちゃんから聞いた情報もある。 これらの情報や知識を有効に使えれば、グランガイズが地球に勝つ確率が大幅に上がるだろう。 しかし使いどころを間違えると、自らを拘束する鎖にもなりかねない。
 誰を信用し、誰に何を話すかを慎重に見定めなければいけないだろう。 だが、もったいぶって、情報を出し惜しみするのも有益とは思えない。

 マグカップの水を飲み干すと、一旦考え事を中断する。
 いつもの朝ならば所用を済ませばPCかスマホでニュースや株式情報などに目を通すところだが、グランガイズに電波が通ってるはずも無いので諦める。 グランガイズではどのようにして世界や国や地域の事件や情報をい得てるのだろうか。 これは日本人的な考えだな。 日々、生活を送るのにそのような情報は必要ないだろう。 今ではネットの発達によって、調べたいことがすぐに分かる時代になった。 少し前までは、雑誌や新聞やテレビやラジオが主な情報源だったはずだ。 その前となると手紙や瓦版と言った紙媒体が主だろう。 その前になると、直接口頭での伝達となるはずだ。

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中世ファンタジーでは、吟遊詩人などが酒場や催事などで詩にのせて情報を拡散している場面が描かれていたな。おやっさんも言っていたように、組合には掲示板が有るらしい。各組合や、地域などで情報を得られる手段が講じられているかもしれない。
  大事なことを忘れていた。グランガイズには実際に神様が居て神託を授かることが出来たはずだ。これも大切な情報拡散の手段になるだろう。問題は地上の生物が望む情報を神様が取り上げてくれるかどうかだな。ここは教団の頑張りに期待しよう。
  例え俺が重要な情報を持っていて、それを地位の高い人物に提供したとしても、その情報が限られた範囲でしか活用されないのであれば価値は下がる。魔族の吸血族領と道がつながるアメリカの情報をエルテルム王国の上層部に伝えたところで有効には活用できないはずだ。いや、そう考えるのは早計か。なんらかの交渉ルートが有って人族に有益な条件と引き換えに情報を渡すことも有り得るかもしれない。 いずれにせよ、俺は地球の情報を持っていて誰に、何時、何処で、どのように渡すかを判断しなければならない。そのため、南井爺ちゃんも30分間だけ情報を調べる時間をくれたのだと思う。情報を活用せずに日々の生活を送ることは可能だろう。だが、グランガイズで職業に冒険者を選んだように、過行く日を流されるままに生きて行く生活には戻りたくはない。
 今の俺は分水嶺に立って居るのだと感じる。事故によって偶然与えられた機会の中、主人公を目指すのか、それとも物語を見るような傍聴者になるか、全くかかわらない部外者になるかだ。 やはり、目の前に主人公に成れるチャンスが有るのだから、それに乗らない訳にはいかないだろう。乗るしかない、このビッグウェーブに! その先が栄光でも悲劇でも構わない。後悔だけはしないように考慮を重ねて、突っ走ればいい。一度は無くした命だ。自分が本当にやりたいと思った事を精一杯やってみよう。 そんなことを考えてると、扉がノックされる。

「朝食をお持ちしました。」
「はい、すぐに取りに行きます。」
  私はギルドカードで鍵を外し、扉を開ける。すると、バケットとワインが入っているジョッキと、サラダのようなものが入ったボールを乗せた木製のトレイを持った1人の少年が扉の前で立っていた。俺は少年からトレイを受け取り、礼を述べた。
「食べ終わりましたら、廊下に食器を出しておいてください。後ほど私が回収します。」
  そう言うと、少年は階段へと消えていった。

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受け取ったトレイを机に置き、部屋にある木製の窓を開放する。薄暗かった部屋に光が広がる。それと同時にドアの開閉音が聞こえてきた。音の位置から、どうやらラーテイガ早朝鍛錬から戻ってきたようだ。
 それからしばらくして、隣の部屋に先ほどの少年が食事を届ける声も聞こえてきた。さすがにこの時代だと防音などは施されていないので、大きな声や物音は伝わってしまうのだろう。そうなると‥‥‥相部屋で女性を連れ込んだ場合、丸聞こえになるのではないだろうか。どちらにせよ、俺のガラスの心では耐えられそうにないので、相部屋を取るのは避けよう。
しかし、朝からワインか。 ワインと言っても、蜂蜜が入っていて水で薄めてあるので、清涼飲料水に近いのかもしれない。この程度のアルコール度数なら、よほど酒が弱くない限り1、2杯では酔わないだろう。そんなことを考えながら朝食をいただく。

食事をしている最中、廊下が騒がしくなり、他の部屋の借り主たちが宿を出ていく音が聞こえた。まだ食事が配られてから時間が経っていないのに、すぐに出かけるようだ。冒険者は食事を取るスピードが速いのかもしれないな。食事を終え、食器を廊下に出そうとしてドアを開けて廊下を見ると、俺以外の個室の前にはすでに食器が置かれていた。単に俺の食べるスピードが遅かっただけかもしれない。確かにゆっくりと食べたが、20分はかかっていなかったはずだ。最後に配られたラーテイの部屋の前ですら食器が出されている。地球時代には外食が少なかったため、人の食べるスピードについては疎いが、自分が遅いとは思わなかったな。
 部屋に戻って、昨日買った背負い袋から強化靴と強化手袋を取り出し、装備して外出の準備を整えた。水筒を樽から補 充して、満タンにしておいた。巾着も持って、杖も腰につけた。魔石ポーチも装備済みだ。背負い袋には水筒、ポーション箱、食料袋が入っている。机の上のマグカップと魔法時計を背負い袋に入れれば、準備は完了だ。

穏やかな時間の流れに身を任せていたところ、扉をノックする音で現実に引き戻された。

「ユグ様、準備はできていますか?」
「ああ、できているよ。鍵は開いているから、入ってきてもいいぞ。」
  ラーテイが扉を開け、中に入ってきた。

「常に鍵をかけておかないといけませんよ。 食堂で食堂で食事をとりに来ているお客さんの中に、盗賊が紛れ込んでいる場合もあります。宿の職員が目を光らせていると言っても、万全ではありません。 自分の身を守るのは、自分自身しかいません。 必ず覚えておいてください。」  
「分かった。 これからは気をつけるよ。」

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日本でもマンションに住んでいた時は施錠はしていた。 だが、再度の外出予定がすぐにある場合などは施錠していない場合も多かった。 俺の所有しているマンションにはオートロック機能は付いてなかったし、日本は治安が良いのでそこまで心配はしていなかった。 どうしても平和ボケが抜けないらしい。 巾着が有るから大丈夫だと思うが、手荷物が多くなればスリや置き引きなどにも注意が必要になるだろう。

「さて、荷物は背負い袋にまとめたが食料袋には何も入ってないんだが、どこかで買っていくのか?」
「そうですね。 途中の屋台かパン屋が有れば、そこで購入します。 それと、粉袋も持って行ってくださいね。 ダンジョンで便意を催した場合はダンジョンですることになりますが、それを放置しておくと魔物が匂いに釣られて集まってしまうのです。 その集まった魔物が他の冒険者に危害を加えたことが判明すると、罪に問われますのでご注意ください。  逆にその習性を利用した匂い袋と言う品もあるのですが魔物の集まりが膨大なのでよほど腕に自信があるか、万全のパーティーで戦闘に使用することをお勧めします。 低階層では費用対効果が見込めないので使うことはないですけどね。」
「分かった。 粉袋は巾着に入れておくよ。 忘れ物も無いみたいだし、早速出かけようか。」
「では、行きましょう。」
 部屋を出た俺は扉に鍵をかけたのを指差し確認をする。 隣でラーテイがその動作を不思議そうに眺めていた。

「面白い確認方法ですね。 ユグ様の故郷ではそのような確認をするのですか。」
「いや、特定の仕事の初期指導などで教えられる動作なんだよ。 だが、こうやって自分に言い聞かせることにより失敗を少なくすることが出来るから、慣れるまではやっておくほうが無難だろう。 他人から見たら滑稽かもしれないがな。」
「いや、確認は大事な事です。 その動作が有れ他者や指導員から見ても確認していることが分かるのが利点ですね。 教団でも取り入れるように進言してみます。」
「良いけど、俺が発案者だと言うなよ。 俺と行動してる時期ではせず、暫く時期を置いて発案してくれよな。」
「冒険者は名前を売ってこその仕事ですよ。 名前が売れれば指名依頼も来ます。 指名依頼は通常依頼より報酬も多くなりますし、組合貢献度も多く入ります。 どこかの国の専属冒険者に選ばれるのが冒険者の誉れであり、最終目標でもあるのです。 名前が売れない事には選ばれる可能性はないのですから。」
「分かったよ。 だが、名前を売る方法は自分で選ぶ。 自分に自信が無いのに名前だけが売れても、その先に待っているのは落とし穴かもしれない。 知識を得つつ、実力を伸ばしなら名前が売れるのが理想的だな。」

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名前が売れてもそれを利用しようとする者や、妬みなどで陥れようとする者などに対処できるだけの知識と実力がともなってなければ意味はない。 一歩一歩確実に登っていくのが良いだろう。
 チートな能力や、ずば抜けた才能か力が有れば一気にのし上がることも可能だろうが、残念ながら俺にはそう言った類のものはない。 初期金とアイテムボックスがあるのはチートとも言えるが、無駄に使ったり、無くしたり、奪われてしまえば失ってしまうのだ。 何もない状態から始めるよりはすごく恵まれてるとは実感できている。 だが、ファンタジー小説で読んだような『俺TUEEE系』のような行動を取れるとも思えない。 実際戦闘してみると余裕で高階層まで突破できる可能性もワンチャンあるかもしれないけどな。 まぁ、ステータス値を見ると可能性はなさそうだが。

「ダンジョンにはどのような方法で行くんだ?」
「転移施設から転移します。」
「あれ? 転移施設からダンジョンには、まだ転移門は設置されてないって言ってなかったか?」
「転移門は有りません。 実際に行けば分かりますよ。」
 そう言うとラーテイは街の中央エリアへと歩を進めた。 大通りに出ると。冒険者と思わしき連中が多く中央エリアに歩いてる姿が見受けられた。 春風館の近くには余り見受けられなかったので、もう少し中央から離れた低い等級の宿に泊まってる冒険者なのだろう。
 俺と同じくらいの宿に泊まってる銀ランクの冒険者たちは、食事を終えるとすぐにダンジョンに向かったようだ。 この冒険者たちもどれほど遠くの宿から来たのかは分からないが、俺の部屋の近くの連中が出た時間より半刻は遅いと思われる。 やはりランクを上げれる冒険者は時間を少しでも有効に活用しているのだと痛感させられた。
 先ほど考えたように行動に内容が付いてきていないのだ。 春風館に泊まるにふさわしいランクではないのだから、せめて行動くらいは他の冒険者たちより研鑽を重ねていかねばならない。
 
「この時間だと春風館の近くには冒険者が少なかったが、大通りに出た途端に急に増えたな。 この時間がダンジョンに挑む冒険者が活動を始める時間帯なのか?」
「鉄ランクの多数がこの時間から活動を開始しますね。 銅ランクの冒険者の多くは1刻から2刻あとほどから活動する冒険者が多いです。 それに銅ランク冒険者で毎日のようにダンジョンに挑むのは冒険者に成りたての者が多いですね。 長期間、鉄ランクの者は宿代と飲食代と提出義務の魔石しか得ようとしないので毎日は挑まないですね。」
 やはり、上位冒険者ほど活動時間が早く、多いのだな。

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「ここの屋台で食事を買って行きましょう。 食事袋は魔法の効果で3種類の食料を3品の計9食を10日間保存することができます。 この屋台で9品全部購入されてもよろしいですし、他の店を回ってもよろしいですよ。」
「いや、取り合えずこの屋台で全部買って行くよ。 お勧めを教えてくれ。」
「まずは定番の魔豚の甘辛サンドと魔豚の腸詰サンドをお勧めします。 残りはユグ様の好みで選ばれたらいかがでしょう。」
「その2品と‥‥‥この串焼きも袋に入れても大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。 一番人気の魔牛の串焼きを選ばれるとは、中々の眼力ですね。」
「この街まで案内してくれた少年に何かを奢ると約束したんだが、門で止められたんだ。 そのときに門番にこの街で一番人気の商品と代金を聞いて少年にお小遣いを渡したときに知ったんだよ。」
「そうなのですか。 ですが、串焼きは主食と言うより副植物なのでお勧めはしなかったのです。」
 俺にしたら、この串焼きだけ満腹になるのだろうが、昨日の皆の食べっぷりを見るにこの串焼き程度では、おやつ代わりにしかならないのだろう。
 日本人は小食でアメリカなどでは2~3倍の量の食事をする人の割合が多いと聞くが、グランガイズは更にその倍くらいは食べているのではないだろうか。 このサンドや串焼きにしても大きさが日本の4~5倍はある。 それなのに全部の品が銅貨2枚だと言う。 食料の物価が地球に比べるとすごく安いように感じる。
 俺とラーテイはそれぞれ3種9品を買い、大銅貨2枚を払う。 銅貨2枚のお釣りを受け取ると転移施設へ向けて歩き出した。
 施設に着くと入り口に人が集まって混雑していた。 罵声が飛び交う中、我先へと中に入ろうとする冒険者で溢れかえっている。 それを見ると日本のように列を作って順番を待つほうが混雑が解消する速度が速いのが理解できた。 

「ラーテイ、この中を俺たちも行かねばならんのか?」
「このような状態が後1刻は続くでしょうから、それ以降に出直すと言う方法もございますよ。」
「初日から何も分からない状態でこの中に入るのは危険かもしれないな。 どこか1刻ほど有意義に時間が潰せる場所はないのかな?」
「ユグ様はあまり気乗りされてないようでしたが、人材斡旋所に寄ってみると言うのはいかがでしょうか。 道具屋や武器屋も空いてる店はまだ無いでしょうし、今は夕方より混雑しておりませんので様子を見るのは良いのではないですか?」

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ラーテイは教団関係者らしく関連施設を押してきた。 思ってたより人道的措置が取られていると聞いて、初期のような嫌悪感は薄れているが、対人接触が少なかった俺には今はラーテイさえいれば問題を感じない。  ラーテイの同行期間が限られてるので、直前になって慌てるよりは候補の1つを見分しておくことは大事な事かもしれない。 もしかすると、美少女エルフが俺を待ってるかもしれないしな!
 俺とラーテイは転移施設の斜め向かいの人材斡旋所に向かって歩き始めた。 役所から出て前の転移施設が真っ先に目に入って大きさに目を奪われたが、こうして人材斡旋所をじっくり見ると転移施設より大きいのではないだろうか。 転移施設が平屋に対して人材斡旋所が役所と同じ3階建てと言うのも大きいと感じる理由だ。
 転移施設の入り口と違い斡旋所の入り口には人影はまばらだった。 入り口の扉は開放されていたので中に入ると、更に3つの扉が待ち構えていた。 扉に張ったプレートの文字を見ると、右が男性、左が女性で中央が職業と書いてある。

「このプレートはそのままの意味で捉えていいのかな?」
「右が男性をお求めの方用で、左が女性をお求めの方用で、中央が仕事の従事者をお求めの方用ですね。」
「この表示だと、自分が男だから男性のプレートの方に行ってしまわないか?」
「初めて利用される方で間違われる人もおられますが、2度目からは間違わないので大した問題では御座いません。 それに教団では推奨は致しておりませんが、同性をお求めになる方も2~3割ほどおられますので、決して目立つことも御座いません。 登録も好きな方で出来ますし、双方で登録されている方もいらっしゃいますよ。」
 グランガイズの性に関する開放度には驚かされるばかりだ。 俺は同性愛者を嫌悪することはないが、自分が同性に対して欲情をしたことはない。 個々の判断を尊重はするが、俺は同性に迫られる事態は考えたくもないぞ。
 理想は2次元の中の女性だ。 なので、ファンタジーな世界であるグランガイズに転生したからには、妄想の中でしか有り得なかったエルフとの出会いに心躍らせ期待しているのだ。

 勿論、登録や異性を求めてきたわけではないので職業のプレートの付いている扉を開け中に入る。 部屋に入ると入り口横に受付カウンターが有り、そこには2人の受付係が待機していた。 受付係たちはラーテイを見ると深々とお辞儀をした。 やはり斡旋所では教団関係者は敬服されているようだ。 ラーテイはキャソックと呼ばれる司祭が着る平服を纏っているので、一目で神父だと分かってしまう。 常に周りから神父として見られるので、行動や言動も模範となるべくしなければならない。 俺なら窮屈すぎて1日と持たない自信はある。

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「本日は人材をお求めですか? それとも、この男性の登録でしょうか?」
 受付の男性がラーテイに向け質問をする。

「いえ、今日はこちらのユグ様の付き添いで来ただけですよ。」
「それは失礼しました。 お客様はギルドカードはおもちですか?」
 改めて、受付の男が俺に向かって尋ねてきた。

「冒険者のギルドカードは持っている。」
「本日は人材をお求めでしょうか? それとも登録を希望されるのでしょうか?」
「今日はどのような人材が居るのか様子見にきただけなんだが、大丈夫だろうか?」
「はい、20番から40番までが2人用の個室になっておりますので、使用中の札がかけられてない部屋をお使いください。 部屋をお使いになるときには、こちらの使用中の札を表にかけて下さい。」
 受付の男はそう言うと使用中と書かれた札を俺に渡してきた。

「中の設備の使用方法は机の上の冊子に書いてありますが、ご不明の点がございましたら、受付までお尋ねください。」
 俺は受付の男が指差した方角へと向かって行く。 右側はトイレの個室より少し広い感覚で扉が並んでいる。 その扉には1桁台の数字のプレートが掲げられているので1人部屋なのだろう。 天井部から少し隙間が空いているので部屋の広さもトイレの個室より少し大きい程度だと分かる。
 左側は右の個室より1.5倍ほど横幅が広い個室のようだ。 扉を開けると机と椅子が2つが並んでいて、机に箱のな物が乗っているだけの殺風景な部屋だ。 俺は椅子に座り、机の上に乗っていた冊子を手に取り読もうとしたが読めなかった。 数字はある程度分かるようにはなっていたが、文字はサッパリ読めない。
 解読の魔法を使い、再度冊子を見る。  冊子にはギルドカードを持ってる人は机の上の箱にギルドカードを差し込むように書いてあった。 ギルドカードを持ってない場合は受付で作ったカードを入れるように書いてある。
 カードを差し込むと魔法が発動し、前面にウィンドウが現れる。 ウィンドウには希望する職業が複数乗っていたが、俺は冒険者と書いてあるボタンに触れる。
 次は希望する契約日数が出てきた。 1日と1週間と1年と3年と5年のボタンが出てきたので、1日のボタンに触れる。 すると希望日時が出てきた。 今日と明日のボタンが出てきたので、明日のボタンに触れる。 
 次は希望する性別が出てきた。 男性と女性と性別は問わないのボタンが出てきたので、性別は問わないのボタンに触れた。 
 次は希望する種族が出てきた。 人族と亜人と種族は問わないのボタンが出てきたので、種族は問わないのボタンに触れた。
 次は希望する冒険者の戦闘位置が出てきた。 運搬と前衛と後衛と補助と決定のボタンが出てきた。 これは複数可と書いてあり、決定ボタンに触れると完了するらしい。 俺は前衛と補助のボタンに触れ、完了に触れた。

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するとウィンドウに156人と言う文字と、更に分別を行いますかと言うボタンが現れた。 更に分別を行うのボタンに触れると、職業と契約日数と性別と種族と戦闘位置のボタンが現れた。
 何度でも試すことが出来たので色々と試した結果、契約日数は短いほど登録者が多く、性別は少し男性が多い程度で、種族は人族が7割ほど、戦闘位置は運搬が圧倒的に多く、前衛が10%、後衛が5%、補助が1%ほどの割合だった。
 亜人が意外に多かった事に驚き、後衛でも弓使いが多く、魔法使いが少ないことや補助の人数の少なさに納得した。 魔法の値段が高いことで資金は多くかかるが、それだけ貴重なので大切に扱われているのだろう。 それに需要も高いのだと推測できる。 
 3年以上の契約には亜人はほぼ居なく、残念ながらエルフの登録者は1人も居なかった。 ラーテイに聞くところによると亜人は国が公務で派遣している状態で、重大な犯罪が行われても賠償金を支払って取り戻す条約が結ばれているので斡旋所には送られないそうだ。 重大な犯罪を犯した者は人族の国には再入国は出来ないとされている。 しかし、無銭飲食などの軽犯罪は結構あるらしく、1度目は警告だけで送り返すが2度目からは罰が与えられるので一定数は斡旋所に居ると言う事らしい。 あとは借金をして、返す当てが無く斡旋所送りになってる者も多いとのことだ。 これは亜人の国の通貨経済が未発達な事による事故のような物で、故意ではないのが問題になってるらしい。 
 エルフが1人も居ないのはエルフの国には結界が張って在り、結界の外に出る国民が居ないのだと言う。 結界内部には魔獣も居なくて動物が多く存在し、農業も営まれてるらしい。 人族の国で使われている多くの木製品がエルフの国で作られた物のようだ。 兎人族が商品の流通を独占しており、人族が結界内に入れることはまずないらしい。
 ラーテイもエルフ族を見たことは1度も無いと言っている。 
 今回は様子見だけで契約する気がなく、時間も良いころになったので斡旋所から出て転移施設に向かうことにした。 斡旋所から出て転移施設の入り口を見ると先ほどまでの混雑状況は解消しており、中はどうなっているが分からないがすぐに入れる状態にはなっていた。
 転移施設の入り口から中に入ると、中は混雑してはいたが人の流れが出来ていて、それに乗るように移動して行くと両側に扉が見えてきた。

「あの扉の中には4人まで入ることが出来ます。 誰も入ってない部屋か、2人までしか入ってない部屋を選びましょう。 何人が中にいるかは扉についているライトの数で判断できます。 丁度あそこの扉が2つのライトが点灯しているので、あそこの扉に入りましょう。」

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ラーテイはそう言うと扉へと進んで行く 俺も遅れまいと人波をかき分けて向かって行った。 ラーテイガ扉を開け、俺を先に入るように促してくれた。
 中に入ると3人の人物が立っていた。 最後にラーテイガ入り、中に居た3人の中の1人に大銅貨を2枚渡した。 すると渡された人物が呪文を唱え始める。 
 一瞬で視界が部屋の中から岩肌の見える外の空間に変わった。  近くには道が有って、その両側に転移してきたであろう5人組がポツポツと現れていた。 
 呪文を唱えた魔法使いと思われる人物が、再度呪文を唱えると姿が消えた。 一緒に転移してきた2人は道を岩山の方へ歩き出す。
 
「ここで立っていても仕方ありません。 あの2人が向かう方角にダンジョンの入り口が有りますので向かいましょう。」
 ダンジョンの入り口に向かって歩きながら、ラーテイに話しかける。」

「先ほどの魔法使いは転移施設の職員なのか?」
「違います。 あの者は普通の冒険者です。 施設で登録ると転移部屋の使用権が得られるのです。 前日までに部屋の使用許可を取っておくと部屋を使うことが出来ます。」
「だが、一旦転移して戻ろうとすると街の外になるので時間がかかるのではないか?」
「そうですね。 一往復して施設に戻るのに20分ほどかかります。 ですが、それくらい間を置かないと魔力が回復しないのですよ。」
「部屋の使用効率が悪くならないか?」
「大丈夫です。 我々が入った扉の反対側にも扉がったのは覚えておられますか?」 
 はっきりとは思い出せないが有った気がする。 中に2人しか居ないと思ってたのに3人居たことに気を取られていた時に転移が始まったので、他の事に注意を向けていなかったのだ。

「有った気もするが、覚えてないな。」
「その扉の向こうには魔法使いの専用通路が有り、中の人が転移すると扉のライトが光り知らせる機能が有るのす。 魔法使いは通路で多くが待機しており、早い者勝ちで部屋を確保します。 この制度は魔法使いを金銭的に支援する目的で作られたので、ダンジョンへの転移門建設が進まない理由でもあるのです。 転移門の利用料が大銅貨2枚なので冒険者たちにとっても得になりますし、魔法使いも1度の転移で大銅貨2枚の利益が出るのです。 それを1日で10回から15回繰り返せば大きな利益になるので専門にしている魔法使いもいるほどです。」
 その様な支援制度で回ってるところに転移門なんて作ってしまったら魔法使いたちは育ちにくくなるだろう。 今の会話の内容だと帰りも使うことになるだろうから、ダンジョンから出る時間もラーテイと相談した方が良いだろうな。 行きほどは混雑はしないだろうが、鐘の鳴る18刻あたりは混むような気がする。

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「アハグトの街周辺にはこの初級ダンジョンしか有りませんが、エルテルム王国には合計28個のダンジョンがございます。 その内1/4の6個が王都エルテルムに有り、ケルゼン伯領には2個のダンジョンが存在しているのです。 もう1個のダンジョンは領都ケルゼンに有る中級ダンジョンです。 アハグトの街は20年ほど前に初級ダンジョンが見つかって出来た街なので、ケルゼン伯領の中でも一番新しい街なんです。 人口全体の平均年齢も飛び抜けて若く、銅ランクや鉄ランクの冒険者の数は王都に次いで多いです。 昨日、仕事に就いている人口の1/10が冒険者だと言いましたが、アハグトに関しては1/3が冒険者と言えるかもしれません。 ただ、現在は住む場所が空いてないので、違う街から転移門を使い、この街に来てから例の方法でこのダンジョンに来る方も多いですね。 なので、街の壁の拡張計画は他の街の冒険者から熱望されており、今年中には開始されることでしょう。」
 この街は出来て20年ほどしか経ってないのか。 

「昨日宿泊した春風館は結構歴史が有りそうな建物だったぞ。」
「見た目も風格を出したほうが立派に見えますからね。 中の部屋や調度品は古くは感じなかったでしょう。 古くからある宿泊施設はかなり上級な人物が宿泊することが多いので、それにあやかってワザとそのように見えるようにしているのでしょう。」
 そう言った考えもあるのか。 俺も見た時には立派な宿だと思ったもんな。 日本でも老舗旅館だとうりに出しているところもあったしな。  
 おやっさんが所属している傭兵団が一番最初にこの街の傭兵ギルドに申請したクランだと聞いて、更におやっさんが初期メンバーで一番の年長だと聞いた時に気づくべきだったのだ。
 おやっさんの年齢は50才前後だろう。 そのおやっさんが初期メンバーのクランが一番古いってことは、街が出来たのは最近ってことだ。 5番目に大きい街だと聞いていたので新しい街だとは考えもしなかった。

「あと10~20年もすれば、ケルゼン伯領でも領都に次ぐ人口になると思われます。 今回の拡張で倍近い規模に計画されているようです。 中心部から均等に広げる案と、街の東側に同規模程度広げる案が出ているようです。 前者のメリットは公営施設の増設で済むので街の予算が抑えられるとこで、デメリットは施設までの移動距離が新地域からは遠くなるし、門からも遠くなることです。 後者のメリットは中心がもう1つ作られることによりアクセスが良いことで、デメリットは施設をもう1つ増やすことになるので、人員の育成や予算が大幅に増えることですね。 アハグトは冒険者の街なので、冒険者の利便性の良い巧者の案が優勢ですが、最終的な決定権を持っているの予算を管理しているアハグト子爵なので予断は許さない状況の様です。」

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ラーレイに話が終わるころにダンジョンの入り口近くに辿り着いた。 周りには売店が軒を連ねていて、結構な賑わいを見せている。 ちらっと値段を見てみたが、街で買った商品より5割ほど高くなっている。 誰も買わないのではないかと思っていたが、亜人と思われる人たちが屋台で買い物している姿が多く目に入った。 逆に人族で屋台で買い物をしている様子は全く見受けられない。

「何故、亜人たちはこのように値段が高いここの屋台で商品を買ってるんだ?」
 俺は店の店員に聞こえないように、ラーテイにひっそりと尋ねた。

「先ほども言ったのですが、亜人は自分たちの住む街の転移門からこの街の転移門に来るのです。 そこから転移施設内でてこのダンジョンまで転移してくるので、アハグトの屋台や商店で売ってる値段は知らないのです。 亜人の国は屋台などは無いそうですし、食料不足で物価が高いので不思議に思わないのでしょう。 食べる量も我々より多いみたいですので、支給されている金額では追い付かず、あそこの簡易教会で借金する場合が多いのです。 返せなくなると斡旋所に送られると言う訳です。」
 斡旋所に亜人が登録されているわけが理解できてしまった。 言ってしまえば、教会もグルになって亜人から金を巻き上げ、労働力を増やそうとしているのだ。 街の拡張が近いなら労働力はいくらあっても良いのだろう。 労働力が増えれば、1人当たりの単価も減るだろうからアハグト子爵も喜んでいるだろう。 店主も教団も貴族も喜ぶ、亜人以外は皆が儲かる仕組みなのだ。 街での値段を知っているので高く感じるが、これでも地球に比べとまだかなり安いと思う。 購入している亜人たちも知らないので嬉しそうに買っているのだから、俺が文句を言う筋合いでもないだろう。

「こちらのカード差込口にカードを差し込んでください。」
 ダンジョンの前にある受付の机の上に、先ほど斡旋所に置いてあったような箱が有り、同じようにカードを差し込まなければならないようだ。 俺が箱にギルドカードを差し込むと受付の男性が中に入る許可を出してくれた。 横にいるラーテイは顔パスのようだ。 

「ラーテイはカードの類は持ってなかったよな?」
「私達教団関係者は、司祭服が身分証明なのですよ。 教団関係者以外が祭服を着ると重罰が科されます。 私の着ているキャソックでも3年、礼拝時に着用するアルバ等を無断で着用すると無期刑が言い渡されます。」
 ラーテイがいつも祭服を着用しているのは身分証明の為でもあるんだな。 だけど、そのような服装で戦闘するのは厳しいのではないだろうか。 普通の神父ではないのだから、もっと動きやすい祭服を考えたほうが良いのではないかと思ってしまう。

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ダンジョンの中に入ると思ったより明るかった。 外ほどの明るさではないが、明かりが必要とするほどではなかった。 てっきり、ダンジョン内では生活魔法の照明を使うとばかり思っていたので思惑が外れた感じだ。

「入り口付近に立っていると他の冒険者の邪魔になってしまうので、少し奥へと行きましょう。」
 入り口から30メートルくらい離れた場所に下へと続く階段があり、ほとんどの冒険者が階段を下りて行っていた。 ラーテイは階段を通過して、更に奥へと歩いて行く。

「俺たちは下には降りないのか?」
「最初は1階層から順に探索するのがよろしいと思います。」
「ここがもう1階層なのか? すぐに階段が有ったのでダンジョンの待機所かと思ったよ。」
「ダンジョンは階段の位置が固定されており、上下に向かう階段は見える位置に配置されております。 そうでなければ移動だけで時間を消費してしませんか。 ユグ様の知ってるダンジョンは階段の場所が離れているのですか?」
「いや、ダンジョンの構造なんて知らないな。」
「通常、宿屋や役所などの建築物でも上下の階段は近い位置にあるのが通常だと思いませんか。」
「そうだよな。 なにか思い違いをしていたようだ。」
 ダンジョンは入り口から入ってマッピングしながら下層へと続く階段を見つけ出すアニメや小説が多かったので、ダンジョンとはそう言ったものだと思い込んでいた。 広さにもよるがダンジョン内で数泊もするのは難しいだろうし、セーフティエリアが有ると言うのも都合が良すぎるだろう。 魔除けの道具など有ったとしても、魔物が多く徘徊しているダンジョン内で熟睡することは俺に難しいだろう。

「補助魔法をおかけしましょうか? 料金は街に戻ったときに転移料金もまとめて請求させていただきますので、その都度払わなくて結構ですよ。 体を慣らすのには魔物の少ない場所が良いと思われます。 ダンジョンで一番死亡膣が高いのは初日だと言う情報がございますので私も細心の注意払いますが、ユグ様も気を引き締めて下さいね。」
「確か1階層は魔ミミズが出るんだったよな。 すごく弱いと言ってなかったか?」
「敵は弱いですが、探索初日のレベルの低い冒険者の体力は10ほどの人が多いので、1人で探索してると魔ミミズの出す酸によって知らずの間に体力が無くなる場合が多いようです。 冊子にも要注意事項として大きく書いてあるのですが、冊子を読まないような冒険者が被害に合うようですね。 敵が弱いからと聴いて、強化靴や強化手袋もせずに探索して体力が削られて果てる冒険者も多いようです。」

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あまりにも敵が弱いせいで調子の乗って戦ってると、体力が無くなっているのか。 冊子をきちんと読むような冒険者ならば、そのような不注意は起こさないだろうからな。 そう言えば俺もラーテイに冊子を預けたまま読んでないわ。 宿に帰ったら返してもらって読んでおこう。

「体を慣らすためだ、 身体強化と瞬動をかけてくれ。」
 ラーテイが叙門を唱える。 すると体がすごく軽くなった気がする。 少し動いてみるが、それほど動きが変わったようには感じれなかった。

「杖を手に持ち、素早く振ることを想像しながら振ってみてください。」
 言われるままに杖を片手に持って、素早く振ろうと思いながら杖を振ると、見えないほどの勢いで杖が振られた。 この振りでボールさえ当たれば、ドーム球場の電光掲示版でさえ破壊できそうだ。
「走る際も速く走ることを想像して走ると、それに近い速度が出ます。 ステータスにもよりますが上限までの力や速度なら想像力によって出すことが可能です。 身体強化はステータス値と己の想像力によって力がはっきされますので覚えておいて下さい。 その身体強化の能力を即時に引き出すのが瞬動です。」
「確か持続時間は半日だったよな。」
「そうです。」
「今日は17刻には街に戻っておきたいので、十分に持続時間は足りるな。 17刻前にダンジョンから出れば街まで転移してくれる魔法使いは空いてるかな?」
「17時前だと浮いてると思いますよ。 一番混むのが18時過ぎですからね。 そう言えば、17刻に重大な事件が起こると言っておられましたね。 18時以降に師範から枢機卿台下とのつなぎが取れたかの連絡が入ることになっていますので、一旦神殿に向かわねばなりません。 食事を終えた後に1刻ほど宿を空けますね。」
「了解した。 俺は何も用事が無いので部屋で待機しているよ。 宿を出る前に冒険者組合で貰った冊子を渡してくれ。 文字が読めるようになったので、自分で読んでみようと思う。」
「それは良案ですね。 部屋に置いてあるので、宿に戻ったらすぐにお持ちいたします。」
「結構話しているが魔物が全然現れないな。」
「入り口付近は冒険者になって期間が短い者が倒して行きますので、それほど遭遇しませんよ。 奥に行くほどに魔物との遭遇率は高くなります。 ダンジョンの形状は台形ではないかと推測されてまして、下に行くほど広くなってると考えられてます。」
「1階層が一番狭いのだな。」
「はい、低断層が下に降りるほど広くなっているのは確実です。 ただ、中断層からは感覚的なものですので確証ではないのです。」
「取りあえず、魔物と戦ってみたい。 少し奥に進もうか。」

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俺はそう言うと奥に向けて歩き出した。 少し歩くと地面を1匹の魔ミミズが人間がゆっくり歩くより遅い速度で近づいてくる 俺は慎重に魔ミミズの頭と思われる部分を杖で突いて潰す。 少し酸が飛び散って杖にかかったが、魔ミミズは頭が潰れ、そこから微小魔石が俺の魔石ポーチへと入って行った。 これは狩りと言うより作業と呼ぶべきだろう。 この作業を毎日100回繰り返さねばならないと思うと気が重くなった。

「杖に付いた酸は毎回拭かないといけないのだったか?」
「いえ、杖に使用されてる木には少しですが耐酸性が有りますので、1/6刻に一度か5匹くらい倒してからで良いですよ。」
 面倒だが、その程度の割合ならば拭くのも仕方ないと思える。 今度は酸が飛び散るより早く杖を引くイメージで倒してみよう。 うまく行けば拭く作業の時間を短縮できるはずだ。 2~3匹は酸が少しかかったが、4匹目からはコツをつかめたので酸がかからない速度で引くことが出来るようになった。 これで今回杖を拭くと、油断しない限り杖を拭くことは無くなるだろう。 
 魔ミミズを素早く倒せるコツも掴んだことだし、次の段階に移行しよう。 杖術の杖波を使う時が来たのだ。 杖波は俺が読んでいるファンタジー小説などでは武技と呼ばれているやつだと思う。 触媒もMPも使わずにSPを使う技だ。 丁度奥の方から魔ミミズが近づいて来たので、技名を唱える。 すると杖の先から白い煙のような刃状のものが魔ミミズの方向に波状に連なりながら向かって行く。 しかし、魔ミミズには当たらずに少し遠い地面に着弾して波は消えた。 近づいて来た魔ミミズを落ち着いて、杖で頭を潰し倒す。 今回は外したが、次は当てれるような気がする。 ステータスウィンドウを開き、SPの減りを確認すると2減っていた。
 よく見ると冒険者レベルも杖士レベルも2になっていて、㏋とSPの最大値が2づつ上がっておりMPは4上がっていた。 レベルが上がってもSPが10/12になってるので、全回復はしないことが分かった。 ステータス欄の一番下には現在かかっている身体強化と瞬動と解読の残り時間の砂時計が現れていた。 次の魔物を探し周囲を少し歩くと魔ミミズが1匹此方に向かってくるのが見えた。 次は頭に波が当たるようにイメージしながら杖波を発動する。 イメージ通りに波が魔ミミズの頭に当たり、頭部が吹き飛んだ。 武技や魔法はイメージが大事だと言う事が理解できた。 弓や投石などは技量が無いと敵に当たらないが、武技や魔法は当たるイメージで放てば当たりそうである。

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「杖を敵に振りながら杖波を放てば、波の速度も上がりますよ。」
「速度は杖の振り方によって変わるのか。 ならば、もう一度試してみよう。」
 次は杖を全力で振りながら試してみると、波が高速で飛んで行くのが分かった。 魔ミミズ程度の速度ならどちらでも変わりはないだろうが、素早い魔物だと杖を持ったままで放つ速度では当たらないと感じた。
 
「召喚魔法を試してみたいが、やはり魔法名を唱えれば良いのかな?」
「通常、魔法は魔法名を唱えなくとも発動したい魔法を想像しながら発動しますが、詠唱は組合での決まり事であると同時に発動を補助する効果もございます。」
「魔物召喚」
 魔法名を唱えると地面に魔法陣のような物が現れ、そこの中心に煙のようなものが湧き上がって来た。 煙が収まると魔法陣の中心に1匹のモグラが佇んでいた。 モグラと言っても中型犬ほどの大きさがある。 

「モグ『召喚に応じました。 ご主人様。』」
 耳からは「モグ」としか聞こえないのに頭に直接に思念が流れ込んできた。 これが念話と言うやつか。 これは慣れるまで時間がかかりそうだ。
 俺は念話の使い方なんて分からないぞ。 取り合えず、普通に会話できるか試してみよう。

「俺の言葉は理解できるか?」
「モグ『理解できます。 ご主人様。』」
「 ご主人様は付けなくて良い。 俺を呼ぶときはユグで良いぞ。」
「了解しました。」
 魔物にしては言葉使いが丁寧に感じるが、これは相手の念じてることを俺なりにそう変換しているだけなのかもしれない。 とあるゲームで魔獣を召喚したときの魔物の定型文そっくりなので、俺のイメージで変換されている可能性が高いと思わざるを得ない。

 俺はステータスウィンドウを出して状況を確認する。
 召喚魔法 魔物召喚の横に『魔土竜 親密度60』と『消費 *2 1/6』の表記も増えていおり、更にその横には1/1と表示されていた。 俺が召喚した魔物は魔モグラらしい。 10分に微小魔石が2個消費すると言う意味だと思う。 その横の1/1は召喚できる魔物の数だろう。 初めて魔法を使って召喚したので現れたのだろう。 魔モグラを送還した後に残るのか消えるのかは分かるだろう。 最後の親密度だが、60が高いのか低いのかが全く分からないのでこれは保留にしておこう。

「こっちの人間はラーテイと言って、俺の同行者だ。 挨拶しておけ。」
「モグ『我はユグ様かユグ様のパーティを組んでる者としか念話が出来ませんが、挨拶だけはしておきます。」
 魔モグラはラーテイに向かって「モグ」と言いながら片手を上げる仕草をした。

「はい、よろしくお願いしますね。」
 行動から察したのか、ラーテイは挨拶を返していた。

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「お前は魔ミミズ戦えるのか?」
「モグ『はい。 通常は魔物同士で戦闘することは有りませんが、召喚された魔物は召喚主の命で戦うことが出来ます。』 モグ『魔物も召喚された者は敵だと認識するので襲ってきます。』」
 こいつと念話してるとまるでラーテイと話してるような感覚になってくるな。 俺がそのように捉えてるからなのかもしてない。

「魔ミミズと戦って勝てるのか?」
「モグ『我の体毛は酸耐性があるので無傷で倒せます。』」
「戦闘の際に命令をしないと戦えないか?」
「モグ『それは命令次第です。』 モグ「敵を見つけたら攻撃と命じられればそうします。』 モグ『敵を個別に倒す命令ならば、倒した後は次の命があるまで待機します。』」
「敵を見つけ次第攻撃する命令を出して、自由行動を許せばどうする?」
「モグ『送還されるまでこの階層を周りながら敵を見つけ次第倒します。』」
 話していると魔ミミズがこちらに向かっているのが見えた。

「あいつを攻撃しろ。」
「モグ『了解しました。』」
 モグラは魔ミミズの方に向かって行き、鉤爪で頭部を一閃すると頭部が弾け微小魔石が魔石ポケットに吸い込まれていった。 酸がモグラの体にかかっているがモグラの言う通りに耐酸性が有るおかげなのか平気そうにしている。
「お前は自分のステータスは分かるのか?」
「モグ『ステータスの意味は分かりせんが、自分の体調の事なら分かります。」」
「自分の体調が悪くなったと思ったら、自分の意志で送還できるのか?」
「モグ『自分の意志では帰れません。 送還命令があるまで命令に順じます。』」
 HPガ分からないのは厳しいな。 折角召喚したのだから、死なないようにしたいのだがな。 ㏋が減ってるとして、どうやって回復させるのだろう。 回復ポーションで良いのだろうか。 何とかしてこいつの㏋を見るとが出来ないだろうか‥‥‥
「モグ『私に名をいただけるならば、専属となれます。』 モグ『専属になると、名前を呼ぶとで私が召喚されます。』 」
「名前を与えずに送還すれば、次に出てくることは出来ないのか?」
「モグ『魔物召喚は不規則なので、どのような魔物が召喚されるかは分かりません。』」
「お前は最初に召喚した魔物だし、色々教えてもらってるので名前を付けたいと思うが、どうだ?」
「モグ『ありがたく、名前を頂戴します。』」
「では、お前の名前はグラだ。」
 名前を与えると精神的なつながりができたように感じた。 ステータスウィンドウを確認すると魔物召喚の横に有った『魔土竜*2 1/6』が『グラ*4 1/6』に変わっており、親密度は70に上がっていて、1/1は変わらずだった。 
 さらにグラの名前の下にはステータスが表示されていた。

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名前 グラ 消費*4 1/6 親密度 70
年齢 0  召喚中 1/6
召喚者 ユグ・ドラシル 
種族 魔土竜 LV1 性別 男 

体力(HP)5/5 
魔力(MP) 0
技力(SP)5/5

筋力(STR) 2
器用(DEX) 3
持久(VIT)2
敏捷(AGI)2
知力(INT)2
精神(MND) 2
幸運(LUK)2

所持スキル
強爪
特性 耐酸 耐毒

 俺よりステータスが高くないことに安堵すると同時に、俺の半分しかないことに落胆すると言う複雑な感情が胸にうず巻いた。 だが、耐酸と耐毒の特性があるのは心強いな。

「取りあえず、魔ミミズが近づいてきたら自分の意志で倒してくれ。」
「モグ『畏まりました。周囲を警戒します。』」

「グラさんと仲良くなれたようですね。」
「専属契約したよ。 話していると色々な事を教えてくれるし、最初に召喚した魔物がグラで良かったよ。 消費する魔石が倍にはなったが、付き合いも長くなると思えば安いものだ。」
「召喚魔法は教団でも詳しい知識は無いので、私も勉強させていただきます。」
「そう言えば、俺とパーティーを組めばグラとも話が出来るのにパーティーを組まないのは何故なんだ?」
「今回の私の任務はユグ様の生活サポートですので、戦闘を目的にしたパーティーを組むには別途教団の許可が居るのです。 昨日も申しましたが、戦闘のサポートも出来ません。」
「それは仕方ないな。 俺とグラの会話を聞いて疑問が湧いたら遠慮なく俺に聞いてくれてもいいぞ。 先ほどは遠慮して黙ってたようだから、気にはなっていたんだ。」
「解りました。お言葉に甘えさせていただきます。」
 ラーテイと会話している間もグラは魔ミミズを見つけては倒しに行ってる。  倒す度に微小魔石が魔石ポーチに吸い込まれていく様子がとてもシュールだ。 この調子だともう少し奥に行っても大丈夫だろう。
 俺たちはゆっくり奥に向かって歩を進めた。
 グラを召喚して10匹目の魔ミミズを倒したときに、グラの体が一瞬淡く光ったように見えた。 ステータスウィンドウで確かめるとグラのレベルが2に上がっており、 HPとSPが1づつ上がっていたが、後の変化は見られなかった。
 レベルが上がるときには淡く発光するのかもしれない。 俺もレベルが上がったときには光っていたのだろうか。 自分では光ったのが気づかなかったし、レベルが上がった感覚も無かった。

「レベルが上がったのをどうやって判断するんだ?」
「体が発光して、体に熱を感じるので慣れれば分かるようになりますよ。」
「あの時は杖波を当てて興奮していたので熱や発光に気づかなたっかのかもしれないな。 今度俺がレベルアップしたときには教えてほしい。」
「その時はお教えします。」

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狩りをしながら歩いていると階層の奥の壁まで辿り着いた。 この辺りは魔ミミズも多く借り放題である。 グラも魔ミミズを見つけては鉤爪で頭を引き裂きまくっている。 暫くして周辺の魔ミミズを一掃したときには俺のレベルも上がっていた。
 2階層も魔ミミズしか出ないようだし、これなら2階層に行っても大丈夫だろう。
 俺たちは下に向かうべく入口の方へ戻って行く。 行きとは異なったコースを選びながら入口へと戻って行った。
 結局、1階層では他の冒険者とは出会わなかったな。
 階段の付近まで戻ると、他の冒険者の姿が現れてきた。 冒険者たちはグラを見ると、皆驚いた表情になるのが面白い。 稀にグラに襲い掛かろうとする冒険者も居たが、側に神父服姿のラーテイを見つけると、おとなしく武器を収めて戻って行った。
 召喚魔法が珍しいなら、召喚された魔物など見たことが無い冒険者も多いだろう。 側に神父が居るので危険が無い魔物だとわかるようだが、ラーテイが居なければ攻撃を受けていたかもしれない。 この先どうやってグラを俺が召喚した魔物だと分かるようにしたら良いのだろう。 街中でも誰もペットなどを連れている姿は見たことが無かった。  何せ亜人が居る世界なのだ。 グランガイズには愛玩動物の概念が無いのではないてもおかしくはない。 1階層は他の冒険者が周りに居なかったので問題にはならなかったが、2階層もそうとは限らない。  モグを送還するべきか悩むな‥‥‥

「下に降りてしばらく様子を見てから考えた方がよろしいのではないでしょうか。 万が一、グラさんを攻撃すれば、ユグ様の召喚した魔物を攻撃したとして罪になります。 私も警戒しておきますので降りましょう。」
「そうだな。 問題が起きるまでは連れて行くべきだな。」

 俺たちは他の冒険者に奇異の目で見られながら階段を下りて行った。 弱そうな冒険者と神父と魔物の組み合わせは誰が見ても珍しいだろうな。
 2階層に降りると階段付近にも魔ミミズを冒険者が倒してる姿が見えるようになった。 俺たちは冒険者たちの邪魔にならないように奥へと向かって歩いて行く。 戦っている冒険者たちがグラを見て、一瞬ビクッと反応して、ラーテイを見て何かを納得するような様子を見るのは面白い。
 魔ミミズを倒しながら奥へと進んで行くと冒険者の姿も減って行き、代わりに魔ミミズとの遭遇率が高くなっていく。
 稀に進行方向に冒険者パーティーが戦っている姿が見えるが、進行方向を変えながら魔ミミズを倒して行く。 と言っても、魔ミミズのほとんどをグラだけが倒してるんだけどな。

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「そろそろ食事にしないか?」
「そうですね。 良いと思いますよ。」

「しかし、ダンジョン内で食事がとれる場所なんてあるのか?」
「冒険者は階段で食事を取るようですよ。 階段で競う移動する魔物が目撃されたことが無いので、階段は安全だと認識されているみたいですね。」
「それなら、階段の方へ狩りをしながら向かおう。」
 グラに進行方向を指示して階段の方へ向かって行く。 相変わらずグラは魔ミミズを見つけると一撃で頭部を爪で破壊していく。 酸を身に浴びても気にせず倒して行く姿には心強さまで感じるほどだ。 この様子を見ると2階層では魔ミミズがグラにダメージを与えることは出来ないだろう。 魔ミミズは頭からの体当たりか酸による攻撃しかないが、体当たりが届く前にグラの鉤爪の餌食になってしまう。 囲んでしまえば体当たりが当たるかもしれないが、魔ミミズの動きは遅く、グラが倒すのが速いので囲まれる心配も無い。 俺たちはグラが倒して行く後ろをついて行く状態になっている。

 階段近くまで来ると魔ミミズに遭遇率が減る代わりに、冒険者たちと遭遇する割合が増えてきた。 相も変わらず、グラとラーテイを見て反応する様子を見るのが面白い。
 階段に辿り着くと、冒険者たちが階段に座って食事を取ってる姿が見受けられた。 階段の空いている場所に座り、背負い袋から食料袋と水筒を取り出す。
 周りの冒険者の視線はグラに集中しているのを感じながら魔豚の腸詰めサンドを取り出しかぶりついた。

「グラ、お前も何か食べるか?」
「モグ『基本、魔物は魔素を吸収すれば生きて行けるので、物を食べると言う概念が有りません。』」 
「そうだたのか。 でも、口があるのだから食べることは出来るのだろ?」
「モグ『食べた事が無いので分かりません』」
「試しに食べてみてはどうだ?」
「モグ「では、いただきます。』」
 俺は食料袋から串焼きを取り出して、肉の一切れを手のひらに乗せてグラの口元へと運んでやった。 グラは手の平に乗った肉の塊にを何度かに分けかじって肉の塊を食べきった。

「どうだ、美味しいか?」
「モグ『美味しいとの感覚が分かりませんが、喜びを感じます。』」
「それは良かった。 次からはお前の皿も用意しておくので、今日はこれで我慢してくれ。」
「モグ『ありがたき幸せに存じます。 より一層励ましていただきます。』」
「お、おう。」
 喜んでくれたのは分かったが、いきなり時代劇で聞くようなセリフにたじろいてしまう。 周りの冒険者たちは勢いよく食べ、食べ終えるとすぐに階段から離れて行く。 俺たち以外の冒険者たちの回転率が速い。 遅い冒険者でも5分ほどで、速い冒険者なら2分ほどで階段から離れて行く。

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俺は他の冒険者たちとは違い、ゆっくりと食事を取り、休憩も入れる。 
休憩時間を利用してステータスと今後の予定を確認しておこう。
まず、現在の俺のステータスは

名前 ユグ・ドラシル 年齢 28
種族 人族 性別 男 
第1職種 冒険者 LV6 銅ランク 
冒険者職種 召喚士 LV5  杖士 LV2

体力(HP)20/20 
魔力(MP) 35/35
技力(SP) 20/20

筋力(STR) 3
器用(DEX) 5
持久(VIT) 5
敏捷(AGI) 5
知力(INT) 7
精神(MND) 4
幸運(LUK)8

所持スキル 
杖術 杖波
所持魔法  
 生活魔法:水作成 食料作成 照明 修理 清掃 身体強化 解読
 召喚魔法:魔物召喚〇5 名前 グラ 消費*4 1/6 親密度 75 1/2

魔法効果継続 生活魔法:解読 7刻5/6
       補助魔法:身体強化 8刻2/6 瞬動  8刻2/6

名前 グラ 消費 *4 1/6 親密度 75 1/2
年齢 0  召喚中  3刻5/6
召喚者 ユグ・ドラシル 
種族 魔土竜 LV6 性別 男 

体力(HP)10/10 
魔力(MP) 0
技力(SP)10/10

筋力(STR) 3
器用(DEX) 3
持久(VIT) 2
敏捷(AGI) 2
知力(INT) 2
精神(MND) 2
幸運(LUK)2

所持スキル
強爪
特性 耐酸 耐毒

 俺のレベルは合計で10上がってるので、HPとSPが10、MP20、持久力と運が1づつ上がったようだ。
杖士のレベルが1しか上がってないのに召喚士のレベルが4も上がってるのを考えると、如何に戦闘をグラ任せにしていたのが分かる結果だ。 召喚できる魔物の枠も1つ増えている。 グラの親密度も5も上がっているな。
 グラはレベルが5上がっており HPとSPが5、筋力が1上がったようだ。 これで1~2階層では放置しても死ぬと言う事は無いことだろう。
 俺の杖士のレベルも上げたいし、グラを1階層で戦わせて俺は2階層で戦うのも良いかもしれないな。 問題はグラが他の冒険者に遭遇した時だ。 念話が届くのであれば、他も冒険者から攻撃を受けそうになれば連絡を入れ、送還することにすれば問題は無くなる。 
 一回様子を見ながら試してみようか。
 グラのステータスで(召喚中 1刻2/6)と記されているのはグラを呼び出してからの時間だとは思うが、これは累計されていくのか、送還すれば0に戻るのかどちらだろう。 数値が0に戻るのであれば、召喚時間に4を掛け算すれば消費魔石量が分かるので助かるのだけどな。

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もう1匹魔物を召喚できるようになったが、今のところグラだけで戦力は足りている。 しかし、今後の事を考えると早めに呼び出してレベルを上げておきたいところでもある。 次に専属にする魔物の選定も考えなくてはならない。 魔物に関する知識が無いので選定しようが無いけどな。 結局はグラと同じ種族でなければ情がわき、名付けてしまうことになりそうだ。 俺は運が良いのだからそれが正解なのかもしれない。
 1階層にグラを行かせるとして、2階層で新しい魔物を呼び出して育成しながら魔物を狩ると俺が戦闘する機会が大幅に減ってしまう。 これから先、ずっと戦闘を召喚した魔物に任せられるのならそれでもいいのだろうが、俺自身の身を守るためには戦闘経験も積んでおかねばならないだろう。 2匹目の魔物召喚は今日は辞めておこう。
 俺たちは階段を上がり1階層に到着した。 階段付近には冒険者が居るが、奥の方には全く見えない。 
1階層を奥へと進み、魔物が多くなってきたところでグラに念話で指示を出すことを伝えて別れ、俺たちは階段の方へ戻って行くった。 戻る最中に奥から魔石が飛んできて魔石ポーチに吸い込まれていくのは滑稽な光景だ。
 俺も魔ミミズを倒しながら階段のところまで戻って来た。 奥から魔石が飛んできて魔石ポーチに収まるのを不思議そうに冒険者たちも見ていた。 魔石ポーチは大抵の冒険者が装備しているので、冒険者のパーティーが離れていたとしても魔物を倒すと倒した人のパーチに入るはずなので、遠くの仲間のポーチに魔石が飛んで行くことは無いだろうからな。 
 階段を降り始めると魔石が飛んでこなくなった。 グラに何かあったのかと心配になったが、念話で異常はな普通に戦っているとの事だった。 ただ、先ほどまでは魔石が飛んで行ってたのが、そのまま残ってるらしい。 魔石ポーチは同階層の魔石しか吸い取ってくれないのだろう。 グラが残った魔石をどうすればいいのか聞いてきたが、放置するしかないな。 運が良ければそのまま残ってる‥‥‥はずはないよな。 魔物の死体も時間が経てばダンジョンが吸収してしまうらしいので魔石だけが吸収されないと言う事は無いだろう。 グラが魔素と同じ気配がするので吸収してもいいかと聞いて来たので、許可を出しておいた。
 2階層についてもグラとの念話は途切れない。 安心して狩りに専念できるな。 これまではラーテイと会話しながら移動する余裕が有ったが、戦闘に集中しなければ駄目だろう。 冒険者パーティーにも偶に出会うが余裕があるのか話しながら狩りをしている。 グラが居た時は2階層は余裕に感じていたが、ラーテイが居おるとは言え戦うのは俺1人なので周囲を警戒しながら戦うのは難しい。 魔ミミズの動きが遅いので対応は出来ているが、これが素早い魔物だったらやられていたかもしれない。

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3階層で加わる魔ネズミなんて、とても素早そうだ。 当分3階層には降りれそうにないな。
 余裕があるときには周囲を警戒しながらグラと念話で状況確認をする。 囲まれないように動きながら魔ミミズを買って行く。 遠距離に居る敵には杖波を放ちながら狩りをしていると、SPが無くなったので杖波が出なくなった。 武技は使える回数がSPによって決まってるので、SPにも気を配りながら出さないといざと言う時に困る状況になるだろう。 こういう経験は余裕があるうちにしておきたいものだ。
 杖波が使えないので階段の方に戻りながら狩りをしていく。 階段の近くの方が敵の数が少ないので、SPが回復するまでは囲まれる心配のない場所で戦うのが理想だろう。
 魔時計で時刻を確認しながらSPの回復速度を確認する。 ラーテイに聞けば分かるのかもしれないが、自分で調べることをしなければ別れた時に困るので、出来る範囲は自分で調べることにした。 グランガイズは日本のようにネットで調べればすぐに分かることはない。 複数の情報を照らし合わせて情報の正確性を確かめることも出来ない。 ラーテイと別れた後は悪意を持って俺に嘘情報を話してくるやつが居ないとは限らないのだ。 今のところ、ラーテイの教団関連の話とおやっさんの傭兵団関連の話以外の話は信用できると思っている。 自身の所属している組織の事は身びいきで色が付きがちなので、それを差し引いて聞かねばならない。 
 杖の先で向かってくる魔ミミズの頭部を酸のかからないように潰すのは狩りと言うよりは作業に近いな。 SPが回復するのを計算しながら、この単純作業をこなしていく。 少し余裕が出来たのでグラのと念話やラーテイとの雑談をしながら戦うことも出来るようになった。
 SPは10分で2回復することが分かった。 10分単位なのは魔導時計の砂の色が10分単位だから仕方がない。 
 階段付近で戦ってて思ったことは、ベテランと思わしき冒険者が単独で奥へと進んで行く光景が多くみられるようになった。 不思議に思いラーテイに尋ねると、あの者たちは万年銅ランクの冒険者たちで、日々の飲食費と宿代と転移代と税金しか稼がないので昇級できない冒険者たちだと言う。 3階層からは素早い魔ネズミが加わるので、稼ぎは少ないが余裕をもって戦える2階層を主な狩場にする冒険者が多いそうだ。 一日の狩りで2~3日分稼ぐが転移代以外が無くなるまでダンジョンに来ないのらしい。 転移代まで使ってしまい教会に借りに来る冒険者も少なくはないとか‥‥‥ そりゃ、そんな生活をしていたらランクアップなんてできないよな。

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グランガイズでは精一杯生きると誓った俺は少しでも多く貢献値を稼いでランクアップを目指さねばならない。 初日にしては結構な数の魔ミミズを倒したのではないだろうか。 グラが倒した魔ミミズの魔石が得られないのは惜しいが、そこは俺の修行のために諦めるしかない。  欲張りすぎても、良い結果になるとは思えないからな。
 SPが回復した俺は結構冒険者が増えた2階層を冒険者が少ない場所を選びながら奥に向かって進んで行く。 混みだしたと言っても魔物を奪い合う状況にまでにはなってはいない。 食事前と比べ明らかに魔ミミズの数は減っているが、逆に狩りやすくなっている。 杖波も使う機会も少なく済み、順調に狩りを進めて行った。 身体強化と瞬動のコツも大分つかめて魔ミミズを倒す速度も上がってきた。

「そろそろ時間になります。」
「もうそんなに時間が経ったのか。」
 俺はラーテイに16時の10分前に知らせるように頼んでおいたのだ。 グラに冒険者が見えない範囲で階段の方へ移動するように念話と飛ばしつつ、俺たちも階段の方へ向かって進んで行く。
 階段に辿り着き、1階層へと上がって行った。 1階層に着くとグラに階段に向かうように指示をして到着を待つ。 待ってる間に今日のステータスの最終確認をしておこう。

名前 ユグ・ドラシル 年齢 28
種族 人族 性別 男 
第1職種 冒険者 LV8 銅ランク 
冒険者職種 召喚士 LV5 杖士 LV5

体力(HP)25/25 
魔力(MP) 45/45
技力(SP) 25/25

筋力(STR) 4
器用(DEX) 5
持久(VIT) 5
敏捷(AGI) 5
知力(INT) 7
精神(MND) 4
幸運(LUK)8

所持スキル 
杖術 杖波
所持魔法  
 生活魔法:水作成 食料作成 照明 修理 清掃 身体強化 解読
 召喚魔法:魔物召喚〇5 名前 グラ 消費*4 1/6 親密度 76 1/2

魔法効果継続 生活魔法:解読 5刻2/6
       補助魔法:身体強化 5刻4/6 瞬動  5刻4/6

名前 グラ 消費*4 1/6 親密度 76 1/2
年齢 0  召喚中  6刻3/6
召喚者 ユグ・ドラシル 
種族 魔土竜 LV10 性別 男 

体力(HP)15/15 
魔力(MP) 0
技力(SP)15/15

筋力(STR) 3
器用(DEX) 3
持久(VIT) 2
敏捷(AGI) 3
知力(INT) 2
精神(MND) 2
幸運(LUK)2

所持スキル
強爪
特性 耐酸 耐毒

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俺はレベルが2上がって杖士も3上がった。 筋力が1とHPとSPが5上がって、MPが10上がった。 しかし、召喚士のレベルは上がってない。 もしかして魔石ポーチに魔石が届く範囲じゃないとグラが戦ってても召喚士の熟練度が入らないのかもしれない。
 グラはレベルが5も上がっており、親密度と筋力が1と、HPとSPがが10上がっている。 いくらグラでも1階層では魔ミミズの個体数が少なく、探しながら戦っているはずなので、2階層で他の冒険者を避けつつ戦てた俺と倒した魔ミミズの数はそれほど変わるとは思えない。 なのにこれだけレベルの上がり方に差が出来ているのはグラが魔石を吸収しているからなのかもしれないな。

「冒険者がパーティーを組む場合は経験値や魔石の配分はどうなってるんだ。」
「経験値の配分は組んだ冒険者の頭割りになります。 魔石は初期保有数を決めておいて、探索後に合計からその初期数を引いて頭割りが一般的ですね。」
「それなら、パーティー冒険者が違う階層で戦っていたら経験値はどうなるんだ?」
「経験値は同一階での戦闘している冒険者にしか配分されないと聞いています。」
「そうか、召喚した魔物も同じようだな。 どうやら召喚した魔物は魔石を己が吸収することによって更に経験とが増えるみたいだ。 グラのレベルの上りかたからすると、そうとしか考えられない。」
「ユグ様、グラさんがパーティーとみなされてるとすると、ステータスバーが見えるかもしれないです。」
「ステータスバーとは何だ?」
「『パーティーステータスバー表示』と唱えてみてください。 すると視界にパーティーの名前と体力、魔力、技力のステータスバーが表示されるはずです。」
 RPGゲームなどでよくあるあれか! あれがあれば、一々ステータスウィンドウや念話でグラの体力を心配する必要はなかったのにな。 いや、初日に知れただけ喜ばねばならない。 召喚獣が増えると念話だけでは状況把握が困難になったかもしれない。 しかし、これも慣れないとバーが気になって落ち着かないぞ。

「モグ『ユグ様、ただいま戻りました。』」
「グラ、御苦労だった。 何も問題はなかったか?」 
「「モグ『人の気配がする方向は避けて移動していたので冒険者と接触することが無かったので問題ありませんでした。』」
「そうか、それは良かった。 今日はありがとうな。 グラのおかげで色々知ることが出来て助かったよ。 もう少し付き合ってくれな。」
 「はい、了解しました。」

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グラとも合流できたのでダンジョンを出ることにした。 ダンジョンから出ると受付の者たちがグラを見て驚きに表情を浮かべている。 グラを送還せずにダンジョンの外に連れ出したのは受付の人間に、俺が召喚士であり、ダンジョン内に冒険者は召喚した魔物を連れていることを認知しておいてほしかったからだ。 
 どうやら先にダンジョンから出てきた何組かの冒険者から話は聞いていたらしく、魔物を連れた冒険者が居ることは知ってはいたが連れて出てくるとは想像していなかったようだ。
 取り合えず、机の上に置いてある箱型のものにギルドカードを差し込み、ダンジョン探索の終了の確認を終えて受付のも男にいつくかの質問をする。

「こいつはグラと言って俺が召喚した魔物なんだが、グラを単独で狩りをさせるのは問題ないのだろうか?」
「それは問題ありませんが、事情を知らない冒険者から攻撃を受けるかもしれませんよ。」
「そこで相談なんだが、受付でグラの事をダンジョンに入る冒険者たちに周知させることは出来ないか? グラを攻撃すると罪に問われるそうじゃないか。 グラを攻撃された俺も、グラを攻撃した冒険者もどちらも嫌な思いをするなら前もって注意喚起しておけば問題は起こりにくくなると思わないか?」
「これまで魔物を召喚する冒険者が王国のダンジョンに訪れたことが無いので、規則がどうなってるのか分かりませんが、冒険者組合に報告して調べてから連絡させていただきます。 本日宿泊する宿を教えていただければ分かり次第連絡を入れることも可能ですし、明日以降に冒険者組合に来ていただければ報告で切ると思います。」
 さすが大きな組織に属している人物なだけに対応が迅速かつ丁寧だ。 春風館の名前を受付の男に告げ、礼を言って受付から離れた。 まだダンジョンから出てくる冒険者は少ないが、グラを見て皆が驚く冒険者ばかりだ。 ここに居れば良い宣伝になるとは思うが、あと40分もすれば神様からの神託が有るはずなので、ここで時間をつぶすわけにはいかない。
 気づけば視界の端に有ったグラのステータスバーの色が黒になっていた。

「グラのステータスバーの色が黒になっているのだが、どうしてなんだ?」
「ステータスバーはダンジョンから出ると機能が停止してしまうのです。 消えはしませんがバーは機能しなくなります。 パーティーを解除するとバーは消えます。」
「そうだったのか。 グラ今日は御苦労だった。 また後日頼む。」
「モグ『再度の召喚、お待ちしております』」
 送還の呪文を唱えると魔法陣が地面に浮かび、グラが吸い込まれていった。

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グラを見送った後、受付から少し離れた天幕に転移用の待場があるそうなので、天幕に向かって歩いて行く。 屋台の前は亜人がちらほらと買い物をしている姿を見かけるが全体的にまだ冒険者たちの帰宅時間では無いようで閑散としている。 
 天幕の中に入ると十数人ほどの魔法使いが2列に分かれて客待ちをしていた。 片方の列は4人組専用らしく多くの魔法使いが椅子に掛け待っている。 もう一つは3人以下の転移用らしく、俺たちはそちらに向かった。 ラーテイガ魔法使いに話しかけると、魔法使いは4人分の料金を出してすぐに転移するか、あと2人揃うのを待つのか聞いて来た。 ラーテイが俺にどうするか尋ねてきたので、今日は時間が惜しいし、外での人通りを見るに待機時間が長そうだったので今回は2人で転移することを選択した。

 転移して北門から少し離れた場所に到着した。 魔法使いは業務用挨拶を述べて北門へと歩いて行き、俺たちも後を追うように北門に向かって歩き始めた。

「食事用の皿を買いたいのでダルス商会に向かおう。」
 俺たちはダルス商会のある中央エリアに向かって歩き始める。
 どうやら中央より北側は住居用の家が多いらしく1戸建ての家が多くみられた。 中央より北側は住宅が多く、南側は施設が多いとラーテイは言っている。 大通り沿いは金持ちが住む一戸建ての住宅が多いが、北東エリアは東側に進むと高所得の人が住む集合住宅や一般の人が住む一戸建てが多く、壁際になると一般の人が住む集合住宅が増える。 北西エリアは大通りから西に進む一般の人が住む一戸建てと低収入の人が住む集合住宅になり、壁際はスラム化している。
 ラーテイの話からすると治安は中央が一番良く、大通り沿いが次に良く。北エリア、東エリア、南エリア、西エリアの順になってるらしい。
 当分の間は南西エリアに有るおやっさんの所属する傭兵クランには1人では行けそうにないな。

 ダルス商会に着き入り口付近に並べてある食器類から木製の皿を10枚ほど買っておく。 召喚獣がどれだけ同時に召喚できるかは分からないが10を超えることは無いだろう。 この街に来て思った事の1つが木製の品物が多く、金属製の品が少ないことだ。 そのことをラーテイに聞くと、人族の支配エリアには鉄の取れる鉱山が少なく、亜人の国から鉄製品を購入してるのだと言う。 ドワーフの国は国土が全て鉱山らしく、大半はドワーフの国から購入しているが、採掘が追い付かず武器防具を中心に発注するので鉄製品は貴重なのだそうだ。

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人族も鉄製品が多くほしいので終身労働者を鉱山労働に送り込み採掘させているが、やる気が著しく低く効率が悪いらしい。 それはそうだろう、頑張ろうが手を抜こうが多少の待遇の差しかでないのであれば皆が手を抜くに決まっている。 頑張れば特別な報酬を与えるとかのようにエサを与えないと頑張って働く気にはならないだろう。 使い捨て前提なら少しは理解できるが、人が足りないのであれば待遇を改善して少しでもやる気を上げる方が良いと思う。 ただ、待遇が良すぎるのもつけあがって仕事をさぼるかもしれないので問題がある。 ただ、グランガイズには地球では無かった魔法と言うツールがある。 隷属魔法があるのだから使いようによっては色々できるのではないだろうか。 グランガイズの法律が分からないので、人権がどの程度保護されてるかも理解しないと解決策は机上の空論でしかない。
 街中やダンジョンで見かけた冒険者の大半は布や革の衣類を着用していたな。 おやっさん達も革製品だったと思う。
 地球と戦争になったときには地球側の序盤の主力武器は銃だろう。 革の衣類や木製の盾で銃弾を防げるとは思えない。 魔法の力で防御できるかろ言えば、魔法使いの数からいっても無理だと思える。 やはり地球と戦うには鉄製品の普及を急がねばならないだろう。 色々考えるほどにグランガイズの知識が無いことがネックになってしまう。 少ない期間でラーテイから多くの知識を得ないといけない。 ラーテイと別れた後の信頼できる情報を得られる人物の査定も急がねばならない。 知識が豊富で偏った思想を持たず、柔軟な発想が出来る人物が望ましいが、そのような人物が野に埋もれているとは思えない。 特定の組織に在籍している人物を雇用できるほどの実績も信用も無い。 まずは誠実である程度知識がある人物から探すことにしよう。 結局、伝手が無い俺は斡旋所を頼るしかないだろう。 明日からはダンジョンからの帰りに斡旋所に寄って人材の選定にも時間を割くことを決意した。
 皿を10枚とナイフとフォークも10セット買ってダルス商会を後にする

「昨日も思ったんだが、この木製のナイフで肉が普通に切れるのは何故なんだ?」
「それは木人《エルフ》族が種族特性の付与魔法をかけているので切れ味が鉄製と遜色がないほどになっているのですよ。 冒険者は探索中に身体強化や瞬動の補助魔法を使う場合が多いので、食器類も頑丈に作ってあるのです。」
「木製の食器にしては値段が高いと思ってたんだが、そういう理由があるのなら納得できたよ。 だが、補助魔法を使える魔法使いなんて多くはないだろ。」
「はい、そのための簡易教会なのです。 そこでは寄付をいただき補助魔法を付与する場所でもあるのですよ。 料金は魔石か魔石と同等の硬貨となっております。」

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ダンジョン付近に教会が有ったのは亜人に金を貸すためだけではなく、補助魔法を支援すると言う目的もあったのか。 転移魔法は魔法使いの支援のために開放されてるのに支援魔法は教会が担ってるんだな。 支援魔法は種類も多いそうなので魔法使いに任せると問題が起きるからだそうだ。 確かに転移なら、時空魔法と付随魔法の転移を取得すれば良いだけだが、補助魔法には初級の付随魔法だけでも5つ以上あるとラーテイは言っていたからな。 司祭以上になれば教団から補助魔法取得にかかる金銭は免除されるので初級魔法は全種類取得しているらしい。 神聖魔法も司祭で初級、司教で中級、大司教で上級を全種類取得できるらしく、戦闘司祭も位階ごとに各級の戦闘スキルの付随スキルが1つ無償で取得できるらしい。

 魔法時計を見ると現在の時刻は16時と5色目の緑が半分程落ちてるので45分くらいだと思われる。 魔法時計の色は赤、青、黄、黒、緑、茶色に分かれており、各色10分になっていて人族共通らしい。 
 戦争開始の神託まで残り15分を切った。 神託が告げられるとグランガイズの人々はどのような反応をするだろう。 神との接点があるだけに人々は混乱するだろうか、それとも地球のよう多少の驚きは有るが日常生活を変えるほどの変化は見られない程度なのだろうか。 いや、日常生活が乱れてなかったのは日本だけで、宗教色の強い西欧や中東は」混乱していたかもしれない。 南井爺ちゃんに与えられた時間では、現在の軍事状況や各国の政治、人口、経済、地理を重点的に調べたので、現在ニュースは調べてはいなかった。 限られた時間ではそれだけで精一杯だったのだ。 混乱が起きるとすれば人が多い場所は避けたい。 中央エリアで一番混乱が起きても無事そうな場所は何処だろう。 知ってる場所が少ないので、役所か冒険者組合のどちらかで迷うことになった。 
 結局、俺は冒険者組合内で神託を迎えることにした。 冒険者組合の中に入り、周囲を見渡す。 先日訪れた際に立ち寄った受付には、同じ女性の担当が暇そうに近くの職員と話している。 施設の中には冒険者の姿はほとんどなく、閑散としていた。 俺たちは依頼が張り付けてある掲示板の前に行き依頼内容を見ることにした。
 依頼のほとんどが鉄ランク以上で銅ランクの依頼は薬師組合からの原材料採取くらいだった。 鉄ランク以上になるとダンジョンでの素材集めが中心となっている。依頼を受けるつもりはなかったが、現状の依頼を見ておきたかった。 戦争が始まった後にどのように変わるか興味が湧いたからだ。  掲示板の端にはダイヤランクの冒険者の名前が公表されている。

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ミスリルランクは空白で、ダイアランクには13名の名前が載っていた。 5人組のパーティーが2組と2人組のパーティーと単独が1人となっていた。 2人組も5人パーティーみたいだが残りの3人が金ランクだと書いてある。 最後の1人は名前と性別だけが載っており、剣士であること以外の情報は載っていなかった。
 おやっさんが言ってたが、俺も3つの職レベルが20になるまでに運の数値が10を超えてしまうとこの場所に載ってしまうのだろう。 現在は8になってしまったので10になる可能性はかなり高いと思われる。 
 掲示板はもう1つあり、こちらは現在起きているらしい情報が複数張られている。 このような情報が張ってある掲示板は役所にもあるらしいが、冒険者組合に張られているのは冒険者に特化した情報のようだ。 役所の方は経済、政治などの情報に特化しているらしい。
 
 【これからグランガイズに住むあなたたちには、異世界にある地球という世界と戦ってもらいます。あなた方には拒否する選択肢はありません。理由は双方の世界を創った大神が、グランガイズと地球のどちらが有益で面白いかを判断するためだそうです。
 グランガイズと地球の間に通じる『通路』を作り、互いに相手に攻め込むことになります。『通路』は人族支配地の各国に1つ20個、亜人の各支配地域に1つ14個、魔族の各支配地域にも1つの3個を大神が造られます。
 勝利条件は相手方の各国の政治機関の占拠か全人類の抹殺です。
 敗北条件は各種族の政治機関か城の失陥か全種族の滅亡です。期間は無限だそうです。

 我ら6神は、この戦争に手を貸すことは禁じられておりますが、日常生活に関することなどは今までのように手を貸すことが認められました。よく考え、勇敢に戦い、勝利を手にすることを我らは望んでいます。グランガイズの民に幸あらんことを!】

 突如、脳内に声が響き渡った。 用意が出来ていたのとグラとの会話で慣れ始めていたおかげで地球で聞いた時のような驚きはなかった。 声は南井爺ちゃんの声や地球で聞いた時のではなく、南井爺ちゃんの言ってた通り6神の1人だったのだろう。
 周りを見渡すと、冒険者組合の職員は時が泊ったように固まっていたが、内容を理解し始めたのか徐々に騒がしくなっていく。 狂乱とまではいかないが、かなりの混乱具合である。
 隣で立っているラーテイもしばらくは茫然としていたが、いきなり涙を流し始めた。 驚いた俺はラーテイが心配になり話しかけた。

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「おい、大丈夫か?」
「すいません。 少し取り乱してしまいました。 私は初めて光の神のお告げを直接お聞きしたことに感激して、取り乱してしまったようです。」
 どうやらラーテイは神託の内容より、神から直接にお告げを聞いたことに感激していたようだ。 神殿関係者でも限られた人物でないと神からの神託は得られないらしい。 冒険者組合の職員の混乱は収まる気配がない上に外部から混乱した人々が状況を知りたくて冒険者組合に集まってきてるらしく混乱は大きくなっていく。 この様子だと役所や神殿なども大混乱の渦中だと想像ができる。 やはり神の存在が間近であり、信じているだけあって、日本とは混乱の様子が大きい。 俺もここまでグランガイズの住民が騒ぎ立てるとは思っていなかった。
 混乱が収まるまではこのまま下手に動かずに待機するのが得策だと思える。

「ユグ様がおっしゃってた事件と言うのはこの神託の事だったのですね。」
「そうだ。 俺はこの戦争相手になる地球の日本と言う国から転移してきたんだ。 俺は日本で死んでしまったのだが、何らかの条件が適合したらしくグランガイズに転移することになったんだよ。 その時に神様からグランガイズと地球の成り立ちや、この戦争が起きることも聞いていたんだ。 俺は地球側の人間ではなくグランガイズに所属する人間だと言われているので、グランガイズに協力していきたいと思ってる。 地球では普通の市民だったので詳細な情報は持ってはいないが、大まかな戦い方や国の情報などは調べている。 ミケイル枢機卿と接触したいと言った理由も分かってもらえたと思う。」
「確かに相手は全く未知な相手。 少しでも情報が有れば欲しいと思われます。 このような事を言うと失礼ですが、枢機卿台下もユグ様の言う事を無条件に信用することは無いと思われます。 地球側の諜報員で、私たちを攪乱しようとしている可能性もありますからね。」
「それは分かっている。 俺も情報を提供する際は制限を設け、用済みとされて処分される可能性もあるため、情報の提供は限定的に行うつもりだ。 提供した情報が正しいと判断され、俺の行動が制限されずにお互いが信頼できるような関係を築きたいと思っている。」
「私個人としてはユグ様を信用できる人物だと判断しているので、私の力が及ぶ限り枢機卿台下との橋渡しはさせていただきます。」
「それは嬉しいね。 俺もラーテイを信頼できる人物だと判断したからこそ、このように秘密を打ち明けているんだよ。」

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「それでユグ様の意見としては現状どちらが勝つと思われますか。」
「グランガイズの知識が無さ過ぎて判断が出来ないな。 ただ、人口は地球が圧倒的に多いのだけは分かっている。」
「地球はそれほどまでに人口が多いのですか?」
「地球の人口は80億人を超えたとされている。 しかも近年は毎年1億人近く人口が増加している。 その中でも2国の人口が飛び抜けて多い。 その2国は14億人も居て人族と通路がつながる国なんだ。」
「人口が80億人ですか。 しかも一か国で人口が14億人の国が2つもあるとは…… 我々は勝利することが出来るのでしょうか?」
「地球には魔法が無いんだよ。 その代わりに文明が発達して、武器の威力が高い。 必然的に道具に頼った戦いしかできない。 俺はグランガイズに来て2日しか経っていないので、魔法の威力を理解してないのでグランガイズの戦力が分からないし総人口も知らない。 だが、ある程度の地球の戦力は調べてきているので、グランガイズの事を理解できてくれば比較が可能になるだろう。」
「私も力の及ぶ限り協力いたします。 グランガイズ全体の情勢には詳しくないので、教団内で情報に詳しい人物を探しておきますね。」

その後、一時間ほどラーテイと会話していたが、時間が経過するほど冒険者の数は増えて行く。 神託が発せられたときのように混乱は起きてはいないが少しでも情報を得ようとして駆け付けているらしい。
 この様子だと、役所、組合、領主の城、神殿関連は人が押しかけてるだろう。 冒険者組合が一気に冒険者で埋まらないのはダンジョンから街へ転移する魔法使いが冒険者組合に押し寄せたので、魔法使いの数が足りずにダンジョンの転移の待合所に足止めを食ってるからだそうだ。 組合の係員が魔法使いに業務に戻るように促しているの姿がが見とれた。
 大通りは混乱も収まったようなので組合から春風館に戻ることにした。

 春風館に戻ると受付近くの食堂の椅子におやっさんとライドルと昨日神殿で会ったリーリアスとか言う長司祭が座って会話をしていた。 珍しい組み合わせだと思って見ていると受付の男が俺の客だと説明してくれた。 受付の男の動きを見てか入り口に目を向けたおやっさんが俺を見つけ声をかけてきた。

「おう、兄ちゃん。 えらいことになったな。 兄ちゃんはこの神託の事を知っていたんだよな。 水臭いじゃないか、昨日教えてくれても良かったんじゃないか?」
「いや、あまりにもっ現実離れしているので事が起こってからでも良いかと思いまして…… それに急ぐ案件でもないですからね。」

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「この事態が急ぐ案件ではないと?」
 おやっさんの前の椅子に座ってるリーリアス神父が俺の方に振り向き聞いて来た。

「そうです。 神託で戦争が開始されたことが伝えられましたが、いきなり戦いが発生する確率は極めて低い問い言えると思います。」
「何故、そう言い切れるのだ?」
 相変わらず愛想もない平坦な声色で問いかけてくる。 思わず『お前に答える義務はない』と言いたくなったが、ぐっと堪えて返答を返す。

「まず通路を見つけないと相手の世界に行けないからですよ。」
「通路などすぐに見つかるだろう。 教団の情報収集能力をなめるなよ。 お前みたいな安易な考えではこの先生きていけないぞ。」
「ご忠告痛み入ります。 それでリーリアス神父はどのような用件でいらっしゃったのですか?」
 取り合えず1つだけ理由を述べて相手の来訪理由を尋ねる。 リーリアスは感情を出さないのと話し方がぶっきらぼうなので冷たく感じるが俺の事を心配はしているのだろう。 だが、信用できるかと言えば分からない。 マルレシア司祭が言うようにこいつは優秀なのかもしれない。 優秀と言う事でも教団にとって有益であって俺にとって有益と限らない。 教団の為に俺を平気で陥れる可能性も捨てきれない。 ミケイル枢機卿も同じだが、ミケイル枢機卿とリーリアスでは立場や権威が違う。 ミケイル枢機卿は危険を冒してでもつながりを持っておきたい相手だが、リーリアスは優秀だと言ってもアハグトの神殿の1神父でしかない。 将来はどうなるか分からないが、今は差し当たりのないように対応しておくのが正解だろう。

「教団からの出頭要請だ。 強制ではないが素直に応じたほうが良いと思うぞ。」
「今からすぐにですか?」
「いや、来れる時間を私に伝えてくれれば良い。 出来れば早い方が良いと言われたが、お前の都合もあるだろうから配慮しろと言われている。」
 俺は魔導時計を巾着から取り出し時刻を確認してリーリアスに答える。

「では20刻に神殿に行かせてもらいますが、それで良いですか?」
「20刻だな。 私は所用が有るので帰らせてもらう。 司祭ラーテイ、時刻通りにこの男を神殿に連れて来るように。」
 用件を告げるとリーリアスは春風館から出て行った。

「兄ちゃんも大変だな。 それで本当のとこ急ぎではないんか?」
「そうですね、通路はすぐには見つからないと思いますよ。 おやっさんは通路と聞いてどのようなものを思い浮かべますか?」
「そりゃ、異世界に繋がるんだから、ここの転移施設にある転移門よりでかくて立派な門が有るんだろ?」

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そう思うのも無理はない。 グランガイズには転移門が有るので、それを想像してしまうのも無理はない。 リーリアスも転移門のような物を想像していただろう。 俺も転移施設で転移門を見たが、あれが地上の何処かに現れたのであれば発見もたやすいのかもしれない。  だが、実際は1日に1cmずつ広がるただの穴なのだ。 それも都市部ではなく発見が容易でない場所に作ると言っていた。 その様なものがすぐに発見されるとは思えないし、発見されても通路とは思わないだろう。 グランガイズにはダンジョンが有るので、ダンジョンと思い入るやつが現れるかもしれないが、それでも中は魔物も居なければ何もない空間がただ広がってるだけなのだ。 
 あれ?そうなのか? 入り口が1mで天井と幅が500mの長さ1kmの空間だとは聞いたが、その空間に何もないとも何かがあるとも聞いてなかったな。 南井爺ちゃんならトラップや強力な魔獣などを配置していると言う事も有り得そうだ。

「そう思いますよね。 でも違うんですよ。 通路はこれくらいのただの穴のようですよ。ただ、1日にこれ位広がっていくそうです。」
 そう言って俺は穴の大きさや広がっていく大きさを手と指を使って示して見せた。

「ほう、穴の大きさが1mくらいで、1日に1cmくらいずつ大きくなるのか。 他に何か情報はないのか?」
「そうですね。 見つけにくい場所に設置されるそうです。」
「そりゃ、急ぐ必要もない訳だ。」
 おやっさんは納得したようにうなずいている。 これで長さが地球と同じだと分かった。 ただ、単位は俺用に翻訳されてるのでセンチやメートルとは限らないけどな。

  視線を感じたので周りを見渡してみると受付の男や食堂に集まってた冒険者の視線が俺に集中していて俺とおやっさんの話に聞き耳を立てていた。 そりゃこんな大事件の後に神殿の司祭と街で老舗の傭兵団の幹部が1人の男を待っているならば興味を持たないはずはない。 別に小声で話しをしていた訳でもないので静かにしていれば内容は聞こえていただろう。 それを信用するかは別の話だが……
 おやっさんも周りの視線に気づいたようで場所を変えるかと念話を飛ばしてきた。 俺もこの場で大丈夫と念話を返した。 グラとの念話のおかげで念話での会話もスムーズにできるようになった。 おれは1対1で念話で話すのが精一杯だが、慣れれば複数と念話が出来るらしい。 ただし、あくまで個人の間であってグループ念話のようなものは為されたことはないとのことだった。
 目立つのは嫌だが、これは良い機会なのかもしれないな。 ここに居る冒険者たちは中級以上なはずだ。  中級以上の冒険者ともなると組合での信用度も高いだろうし、人脈や横のつながりもある程度あるに違いない。 広めたい情報を選りすぐってこの場で話せば自然に広がる可能性は高いと思われる。

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広めたい情報としては、まずは通路に関する事だけで十分だろう。 グランガイズの何処かで通路の発見の通達が出てから再度おやっさんと話し合うことを決めた。 ここで表明しておくことで通路発見の発表がでると、皆が次の情報を得るべくまた集まってくることが予測される。 ただし、ここに居るメンツが何処で誰から話を聞いたかを吹聴してしまうと春風館に入りきらずに冒険者が溢れて混乱してしまうかもしれないので、ここで聞いた話は広めても良いが、何処で誰から聞いたかを話すと次回からは春風館ではなく、おやっさんの傭兵団のクランハウスで話し合うと言っておいた。 完全な抑止にはならないかもしれないがある程度有効だろう。 それだけの判断が出来るだけの集まりだと思いたい。
 神殿には余裕をもって辿り着きたいので、おやっさん達と別れて自分の部屋に戻った。

 現在の時刻は19時を少し回ったところだ。 神殿での立ち回りを考えておく必要がある。  まずはミケイル枢機卿が居ない場合、春風館で話した内容と同じ程度の情報だけで良いだろう。 あとはミケイル枢機卿と会ってから話すと言えばいい。 ミケイル枢機卿が居た場合はどの程度の情報を渡して、対価として何を要求する顔考えておく必要がある。 こちらが欲しいのはグランガイズの正確な情報だ。 ラーテイガ言ってたように地球側の密偵であることも疑われるだろうから、ある程度の情報と裁量を持った人物の紹介を頼むとしよう。 こちらが渡す情報は枢機卿からの質問で変わるので、自分の中で渡せる情報の整理をしておいた方が良いだろう。 渡すには早いと思える情報は、丁寧に説明して信頼してから提供する旨を正直に話すべきだと判断した。 
 俺には真偽判定のスキルが反応しないのでとぼけても良いが、それが本当だとは限らない。 俺の言動を見極めるための伏線だとも考えられるからな。 自分を信じてもらうために相手を信じるなんて綺麗ごとが通用するとは思えない。 全てを疑い、常に相手の言動の真否を確かめつつ自分の考えに反映させていかねばならない。 地球の活動家たちが言う話し合いで全てが解決するなんて言葉は人の善良性に付け込んだ妄言であり、相手の意見を取り入れて異見を変えた活動家なんてことは聞いたことが無いしな。  
 ラーテイの事も信用はしているが信頼はしていない。 ラーテイは教団に忠誠をささげているから司祭なのであって、教団と俺とを天秤にかけた場合俺を取るとは考えにくい。 教団関連以外なら少しは信頼しても良いと言う気持ちも芽生え始めているのも確かだ。

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ラーテイが部屋の扉をノックする音で出発時間が近いことに気づいた。 色々と考えを整理していたので時間が一気に過ぎたように感じる。
 ラーテイを部屋に招き入れ、部屋に戻ってから教団と連絡を取り合ったのか尋ねてみた。 ケッセル神父と連絡を取り合ったらしく、アハグトの神殿にミケイル枢機卿ともう1人の枢機卿が本国からご来臨されると聞いたと話してくれた。 カステレウス大主教も同行を望まれたようだが、ミケイル枢機卿の判断で今回の臨席は却下されたそだ。 カス大司教が俺に高圧的な態度を取っていたのは明らかだったので、今回の会合から外されたと言う事は教団としては俺と友好的な態度で挑もうとしていることが分かる。 ラーテイにカス大司教の同行の却下を伝えたのも俺に対しての意志の表明だろう。 カス大司教が居れば俺の発言にいちゃもんをつけて話が進まないと思ったのもあるだろう。
 取り合えず少しは気が楽になった。 だが、もう1人来ると言う枢機卿の事が気になるな。 10人しか居ない枢機卿のうち2人も来るなんて教団は俺の事をかなり重要に思ってくれているのが分かる。 もしかしたら教会内部で一番の真偽判定のスキルを持っている人物かもしれない。 教団最高と言う事は人類で一番と言う事だ。 それでダメなら諦めるしかないだろう。 俺の事はグランガイズで処刑された南井善次郎と同郷で異世界らしき世界から来たことまでは分かっているだろうが、その世界が今回の戦争の相手だとは確定していないはずだ。 可能性は高いと思っているだろうが、異世界が1つだとは限らない。 俺が今回の戦う異世界の地球から来たと言っても全面的に信じるにはリスクが大きいだろう。 だが、真偽判定さえできてしまえば問題は解決する。 ラーテイにミケイル枢機卿と同行してくる枢機卿のことを尋ねると、名前はゾイルと言う男性で位階は司教だそうだ。 10人いる枢機卿の中で大司教では無いのは彼だけらしい。 彼は現教皇の教育係だったらしく、教皇派の筆頭らしい。  教育係と言う事はかなりの知識を持っているのだろう。 その彼を同行させて来ると言うのは俺が知識が欲しいとラーテイに言ったからだろう。

 あとは俺をアリライ神聖国まで連れて行き、監禁して拷問すると言う事も考えられる。 だが、その可能性はかなり低いとだろう。 おれは神意によって大神から連れてこられて、干渉するなと光の神から告げられている。 その俺を監禁や拷問をすると言う事は神意に逆らうと言う事だ。 教団がそのような事を起こすとは考えにくい。 地球みたいに権威を利用するだけの組織に成り下がってない限りは大丈夫だろう。

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俺から見たミケイル枢機卿は損得勘定が出来る慎重な性格の人物に思える。 初対面の俺に対する対応を見るに奇貨居くべしの考えが見られる。 カス大司教のように自分の理解できないような物を排除するのではなく敵対しないように丁寧に対応し、人物の見極めができるまでは厚遇する。 ラーテイを俺に同行させているのも俺の価値を見極めると同時に使える人物だと判断出来たら味方に引き込むか、最低敵対しないようにするためだろう。 ラーテイガ俺を恭しく対応しているのも、元からの性格もあるかもしれないが、教団からの指示があるからだろう。 そうでなければ、このようなどこの誰だか分からないような奴に丁寧な対応をするはずがないからな。
 どのような意図が有ろうともラーテイと言う人物を派遣してくれたことには感謝してるし、誰も同行者が居なかった場合俺は自分の行く方向性すら見つけられなかったかもしれない。 ラーテイの助言が有ったからこそ俺は主人公のようになろうと思えたし、そのために何をすればいいのかと考えるようになった。 その道が正しいのかなんて誰にも分からないが、自分で決めれたことに意義があるのだと思う。 ただ、流されるだけの人生が自分の意志で歩んでいくことになったのだ。 後悔が無いようになんて無理だが、出来る限り後悔の少なくできるようにしていきたい。
 ラーテイにゾイル枢機卿のことについて色々と尋ねてみた。
 年齢は俺より4つ上の32才。 教皇が俺より1つ下なので、年齢が近く前枢機卿の息子でもあり、幼い時から麒麟児と呼ばれたほどの逸材だったので教育係に任命されたそうだ。 ただ、教団にはあまり興味が無く、学術一辺倒だったのが、教皇の教育係に指名されて教皇とよほど気が合ったのか教皇派筆頭と呼ばれるほどにまでなったそうだ。 枢機卿の選択のときも教団に対する忠誠心が無いなどで反対者が多かったらしいが、教皇の鶴の一声で決定したそうだ。 現在枢機卿として本国に滞在しているらしいが教育係も終えて、また色々な研究に没頭しているらしく表舞台にはあまり出てこないらしい。
 その話を聞くとミケイル枢機卿が同行を要請したのではなく、知識欲から物珍しい俺に会いたい一心で同行してくるのかもしれない。  南井善次郎の処刑に最後まで猛烈の反対したのは彼だけらしいし、異世界に興味があるのは確かだと思える。 知識欲を刺激して何とかしてっも味方につけたいと思える人物であるのは間違いない。 あとは人格だが表舞台に立つことが少なく、交友関係も狭いようでラーテイも知らないらしい。
 敵対すると厄介な事態になることは間違いないので敵に回らせないように立ち回らねばならない。

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ある程度の考えがまとまったのでラーテイと共に部屋を出て一階へと降りて行った。 先ほどまでは数グループの冒険者たちで賑わっていた食堂は誰もおらず閑散としていた 部屋に居た俺が2階に誰も上がってくる気配が感じられなかったことから自室に戻ったとは考えずらい。 一階の大部屋の方に耳を傾けても人の話し声は聞こえてこない。 食事を終える時間にしては速すぎることから俺たちから聞いた情報を誰かと共有するべく春風館から出かけたのだろう。 俺の計画通りに混乱している冒険者たちに戦闘がすぐに始まる可能性が低いことを広げてくれていることを期待しつつ春風館を後にした。 

「そう言えば、冒険者は転移魔法使いの不足でダンジョン前で渋滞しているはずなのに、春風館には多くの冒険者パーティー―が戻っていたよな。」
「春風館に泊まれるくらいの金銭に余裕のある冒険者は自分たちのパーティーに魔法使いを入れていたり、リーダーが時空魔法の転移魔法や補助魔法を習得している場合も多いですから転移施設の魔法使いに頼らなくても戻ってこれるのですよ。」
 パーティーを組めるメンバーは最大5人となっているので初級冒険者のパーティーは4人組が多いが、中級以上になるとフルメンバーになっている場合が多い。 中層の低層に挑むには5人のフルメンバーでないと厳しくなるので金ランクの9割以上の冒険者は5人パーティーを組んでいるらしい。
 そうなると転移の時に3人と2人に分かれたり、4人と1人に分かれて転移しなければいけなくなる。 それでは手間にもなるし、一回の転移で5人合わせれば銀貨1枚の出費になってしまう。 それならばパーティーの誰かが習得してしまおうとなるのが自然な流れに思える。 補助魔法もそうだが、ダンジョン探索に必要となる魔法は投資できる資金が有れば習得した方が長い目で見れば圧倒的にお得なのは間違いない。

「何故パーティーのリーダーが多いのだ? 確かに責任のある立場のやつが取得すれば安心はできるのだろうが自分たちのパーティーに専門の魔法使いを作ろうとはしないのか?」
「成人の儀のときに自分の得手不得手の職やスキルが分かるのはユグ様自身が体験してご存知ですよね。 そこで魔法の適性があるのもは無理をしてでも魔法使いを目指そうとします。 その結果が転移施設の制度ですね。 そこで魔法使いの適性が無かった者たちが冒険者になって組むのが一般の冒険者のパーティーなのです。 だから、特に苦手な冒険者が居ることは有っても得意な冒険者が居ない場合が大半なのです。」
 確かに俺は召喚魔法の特性の色が青だったので選んだんだったな。 魔法使いの特性が皆同じなら誰がなっても同じなのか。

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「皆が同じ素質しかないのであれば、責任のあるリーダーに取得してもらうのが一番安心できるのですよ。 なので、金ランク以上の冒険者のリーダーが魔法使いが主な職業になってしまう場合が多いですね。 魔法攻撃に弱い魔物も現れたりするので、リーダーが飛び抜けた近接戦闘の技量の持ち主でない限りは魔法戦士になるか魔法使いに転職されます。」
 俺の潜ったダンジョンの一階はほぼ無人で、2階層はソロの冒険者が多かった。 稀に2~4人組のパーティーもいたが実際戦闘しているのは1人の場合が多いように見えた。 さすがに3階層からは素早い敵も出て、敵の数も増えて来るらしいのでソロだと厳しくなるかもしれないが2人以上で組むとかなり安定して戦えるらしい。
 貴重さに胡坐をかいて天狗になってしまって、どこのパーティーからも相手にされなくなった魔法使い連中が魔法使いだけのパーティーを組むことも有るそうなのだが、結局天狗同志の集まりがうまく機能するはずもなく喧嘩別れして組合にパーティーの斡旋を泣きついてくる場合も有るそうだ。 しかし、そのような連中は斡旋されたパ-ティーでもうまくなじめるはずもなく、すぐに解約されてしまうそうだ。 仕方なく斡旋所で臨時パーティーに登録してお呼びがかかるのを待っているそうだが評判が良くないのでお呼びがかかる場合は少ない。 才能は有るのに単純労働より少し賃金の良い魔法労働作業の仕事で食いつなぐこともあるといった笑えない話も聞いた。 いくら才能があろうとも、結局は1人の探索は危険なのだ。 仲間を見つけれられなければ金も稼げなくなり、金が稼げないとなると魔法を買うことが出来ないので才能を生かしきることは出来なくなる。

 その点、俺は強力な召喚獣さえいればパーティーにこだわる必要はない。 今はまだ2体しか召喚できないが召喚士のレベルが5上がる度に1対増えるのであれば中層に着くころには4~5体召喚できるようになるかもしれない。 次のダンジョン探索でもう一体召喚する予定で入るが、3体目から増やす時には一体分の空きを作っておきたい。 狙って呼びたい魔物が出来るかもしれないし、現状のメンツでは戦うのに不利な魔物と遭遇してしまうかもしれない。 その様な時に空きが無ければ臨時に冒険者を雇うことになり感れない。 対人経験の少ない俺がいきなり臨時で組んだ冒険者との連携が取れるはずもなく混乱する様子が目に浮かぶようだ。 パーティーを組むなら臨時ではなく、俺が一緒に居て気を使わなくてよいような人物にしたい。

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大通りにでると冒険者の姿が多く見られるようになってきた。 組合で情報を得ようとしてひしめき合っていたが、組合も情報を持ってないのが伝わって帰宅しているのだろう。 ダンジョン前の混雑も組合職員の説得で転移の仕事に戻った魔法使い達により大分解消されたのだろう。 だが、人の流れを見ていると俺たちと同じく神殿に向かっているようにも見える。 もしかすると冒険者組合で情報を得られなかった冒険者や役所で情報を得られなかった街の住民が神殿に向かってるのかもしれない。 何しろ神様からのお告げなのだ。 役所や組合よりは神殿や教会の方が情報を持っている可能性は高い。 何しろ神殿の方角に向かって行く人々の視線がラーテイに集中している。 
 そう言えば、ダンジョンでも混乱した組合の中でもラーテイに話しかけてきたやつはいなかったな。 祭服なので目立っているが視線は集まるものの、話しかけに来ることは無かった。

「もしかして、神殿や教会以外で聖職者に話しかけたらいけないとか言う決まりでもあるのか?」
「そのような決まりは有りませんが、我々神に使える者は催事や神事以外で外部に出ることは滅多に御座いませんので近寄りがたいのも有りますし、神官の業務の邪魔をすれば罰則がございます。 なので、神官が用事もなく街を歩いている可能性が少なく、何かの業務の最中だと思われて話かけらられないのだと思います。」
 俺も先ほどのリーリアス以外で街中でラーテイ以外の神官など見たことはなかったな。

「神殿や教会に行っても情報は得られないよな。 なら、俺が言ったすぐには戦闘が起こらない可能性が高い事や、通路の状態をこの場で言い聞かせてあげたら良いのではないか? 俺を信用してくれているのなら情報を広めて混乱を少しでも早く落ち着かせるのが良いと思うんだ。 神官が発する情報なら信用度も高いだろうからな。」
「そうしましょう。 少しお時間を取らせますがお待ちください。」
 そう言うとラーテイは大通りの真ん中まで歩いて行った。 俺もついて行くか迷ったが人々の視線が俺などは眼中に無さそうだったので、道の端によって壁と同化するかの如く気配を押し殺して見とどける。

「皆さん聞いてください。」
 ラーテイガ声を張り上げ皆の注目を集めると、ゆっくり語り出した。

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「今回の神託について情報が無く不安になっているのは分かります。 教団にも今回の件では情報が少なく、教会や神殿に行っても情報をお渡しすることは出来ません。 ですが、私個人の仕入れた情報ならお聞かせすることが出来ます。 今回の異世界との戦争のことですが、すぐに始まる可能性は限りなく低いと思われます。 まずは通路を見つけれないと攻め込むことも攻められることも有りません。 その通路も1メートルの普通に存在するような穴で1日毎に1センチづつ広がるそうです。」
 一旦息継ぎをして周りを見渡して人々の反応を確かめた後、再度語り出した。

「異世界の人口は我々をはるかに凌駕する数だそうですが光の民たる我々に敗北の文字は御座いません。 まずは通路の発見に集中し、自己を磨き来たる戦いに備えようではありませか。 慢心してはなりませんが恐れる必要などないのです。 通路を見つけたとしても様子見で入るのは構いませんが、中に何かあるか分かりませんので必ず神殿か組合に報告してください。 私が話したことをまだ不安に思って彷徨っている人たちに広めて安心させてあげてください。」
 ラーテイは話を締めくくり周りを見渡した。 人々の不安が完璧に収まった訳では無さそうだが、情報が得られたので落ち着いてはいるようだ。 神殿に向かうだけの人々がラーテイの言葉で色々な方向に散っていくのが見えた。 これである程度人々の混乱は収まるだろう。 

「立派な演説だったぞ。 俺ならあれだけの人数の前で立つと固まって何も話せなくなるだろう。」
「聖職者は説教が仕事みたいなこともございますので、人前で話すことが出来ないと務まりませんからね。 しかし、教団に許可なく情報を流布してしまいましたので、破門されたらユグ様に一生取り付いてしまうかもしれませんよ。」
「俺としては、破門されなくともラーテイなら大歓迎なんだけどな。」
 冗談が言えるようなら安心だな。 実際ラーテイガ俺の探索に加わってくれるなら大助かりだが、評価点としては100点満点なら60点ってとこだ。 減点の内訳は男性であることで20点のマイナスで、あとはエルフじゃないことで20点のマイナスだ。 まだグランガイズに転移して2日だから異性との出会いはないが、これから多くの出会いが待ち受けてるだろう。 俺は主人公を目指すと決めたのだから、数多くの美女や美少女との出会いが待っているはずだ。 俺が読んだり見たりした異世界物の男性主人公の9割以上は美女と出会い、ともに冒険していた。

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奴隷として購入する場合も多いが、俺にはそれを実行するつもりは全くなかった。 しかし、ラーテイから斡旋所の仕組みを聞いてるうちに、それほど非人道的には扱われてないことから斡旋所を頼ろうと言う気持ちが強くなっている。 俺が指名したとしても相手にも拒否権があるからうまく見つけられるかは分からないが、こちらから選べると言うのはポイントが高い。
 明日からの事は今日の会談の内容によって変わるかもしれないが、それほど重要な情報を話す気はないので当分は平穏な日常を繰り返すことになるだろう。 明日もダンジョン探索を早めに切り上げて斡旋所で人材を探す時間に充てようかと思う。
 神殿に近づいて行くにつれ、神殿に向かっている人々の数が増えて行く。 先ほどのラーテイの演説で俺たちが来た方向の大通りから来る人は少ないが、他の辻から合流してくる人が多くいる。 神殿が見える範囲まで来れたが、神殿の周りには人垣ができていて門には近づけそうにない。 神殿からは誰かが出てきて説明することも無く、警備の人間が集まってる人々に帰宅を促しているだけだった。 説明が無いことにイラついて来た人々がいつ暴発してもおかしくない雰囲気になっていしまっている。

「このままでは神殿にも近づけないし、下手すると暴動が起きるかもしれない。 もう一度ここで演説してみたらどうだ?」
「そうですね。 このままここで待っていても、いつになったら神殿の門に辿り着けるか分かりませんからね。」
 ラーテイはそう言うと人の群れの中に入り込んでいった。 ラーテイに気づいた人々が少し間を取るので、周りには少しばかりの空間が出来上がっていく。 俺は先ほどと同じように壁際に移動して気配を消しつつ同化を試みる。
 ラーテイの歩く姿を見ていると1つの疑問が浮かんできた。 あれほど普通に進めるのならば別に演説などせずとも神殿の門まで辿り着けたのではないか。 ラーテイはそれを分かっていても、この状態を収めるために演説を行うことに利を感じたのだろう。 いつまでも情報を得られずに放置されっぱなしと言う状態はよろしくない。 しかし、この神託に関する情報を教団関係者は誰もここに居る人々に説明することは出来ないだろう。 だが、神の代弁者たる教団が何も知りませんと発表できるはずもなく、本国からの指示を待っている状態と思われる。 人々も冷静になれば地方神殿の管理者にそれほど素早く情報が伝わることは無いことくらいは理解できるだろう。 今日の神託より先に教団に6神から何か神託が有ったとすれば、神託が下りたと同時に全人類の国の教団施設で何だかの情報が発表されたはずだ。

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発表が無い時点で教団には何の情報も持ってないことが想像できるはずだ。 ラーテイの話を聞いて冷静に戻ってもらって、取り合えず急に戦闘が始まることが無いと言う事さえわかれば心にも余裕が出来て思考能力も回復するだろう。 この混乱の変な熱気を浴びて行動が過激になって行くことが懸念される。 
 ラーテイが立ち止まり息を大きく吸い込んで第一声を発すると視線がラーテイに集まった。 ラーテイは先の演説ではしていなかった身振り手振りを交えて話している。 神殿の前と言うことも有ってか、かなりの熱量が感じられた。 
 視線がラーテイに集まってるはずなのに神殿の方から俺に向けての視線が感じられた。 俺は視線の主を探るべく、神殿の窓を1つづつ確認していくと2階の窓の1つから俺と同じほどの年齢の男が俺を見ていることが分かった。 俺が視線に気づいたことが分かったのか、視線の主はニヤリと笑った後に部屋の奥へと消えて行った。 神殿の多くの窓からは多くの神官がラーテイの方へ向かって視線を集中させ演説に聞き入っている様子が見える。 遠いので個々の判断は付かないが、きっとケッセルやリーリアスやマルレイシアも聞いていることだろう。 
 ラーテイの演説も終盤に入り、集まった人々は差し迫った危機が無いことが分かると高まっていた熱も徐々に下がって行き冷静さを取り戻して行ってるのが分かった。 演説が終わったときには自然と拍手が起こり、ラーテイは手を上げて人々の完成に応えながらも解いた場所へ歩いて行く。 そんな人々の注目を浴びながら戻ってくるんじゃない。 俺は壁際を元居た場所から神殿方面にゆっくりと移動して行った。 ラーテイガ俺と別れた場所あたりに戻ると俺を探して綾里を見渡している様子が見える。 俺はそれを無視して、更に神殿の入り口に向かって進んで行く。 先ほどまで神殿の入り口に詰め掛けていた人々の興味がラーテイに移ったことによって神殿の門の前は若干空いている状態になっていた。 門の前で立っている警備員が壁際をコソコソと門の方へ忍び寄っている俺を見つけて警戒を強めたのが分かった。 だが、その中には昨日、俺をケッセルの元まで送ってくれた案内役の男も混じっていて、俺を覚えていたのか、俺が来ることを前もって知らされていたのか俺を見ると警戒を解いて近くの番兵に説明していた。
 ラーテイも番兵の動きや目線から俺の居場所を見つけ俺の方へと歩いてくる。 俺は一気に門までダッシュをして案内役の元まで辿り着いた。 
 その時に神殿の中から正装で整えた1人の神父が飛び出してきた。 その神父は赤い鉢巻のような物を額に巻いて、一気に大通りを中央に向かって走って行った。 神殿の前に屯っていた人々もまるでモーゼの十戒
の海側れる場面のごとく中央に道が出来て行く。

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俺が唖然とその様子を眺めているとラーテイガ俺の元まで辿り着き肩をギッシリと掴んで言った。

「私を見て逃げるとはどういうことですか!」
「いや、ラーテイを見て逃げたのではなく、ラーテイに注目していた人々の視線から逃げたんだよ。 そう言えばさっき神殿から神父がすごい勢いで走って行ったが何事なんだ?」
「まぁ良いでしょう。 先ほどの額に赤い布を巻いた神父が走って行ったのは急を要する伝令ですね。 しかも正装だったのを見ると本国向けの伝令の様です。 額に巻く色によって重要度が変わるのですよ。 赤が緊急、黄色が重要、青が練習ってところですね。 いざと言う時の為に週に一度は練習として青の布を巻いた神父が神殿から転移施設や教会へと走ることになっています。 練習以外で使われることは少なく、更に通常は本国から伝令が来て、街の各教会に伝令を出すのが普通なのです。 しかし今回の伝令は1人で正装であったことから、アハグト神殿で決まったことを本国に知らせたと言う事になります。 緊急の伝令の派遣を決められるのは枢機卿台下か教皇猊下だけなので通常は街の神殿から発っする事態は有り得ないのですが、今は枢機卿台下が2人もアハグト神殿におられますので、どちらかの台下の指示で出されたものだと思われます。」
「皆、綺麗に避けていたが何かコツみたいなものがあるのか?」
「ユグ様は壁際を歩いていたので分からなかったと思いますが、伝令が走るときには大通りの中央部には冷気の魔法が発するようになっています。 逆に言えば、大通りの中央部が冷たくなったと感じれば伝令が走ることが分かると言うことですね。 これは街に住む者の常識であり、伝令の邪魔をすれば罰則もあります。 額に巻いた布の色で罰則も変わります。 青色は1年の無償労働で、黄色は5年の無償労働、赤色は永久労働ですね。」
 今回の伝令の邪魔をしてしまえば永久労働の刑が課されてしまうのか。 如何に教団が優遇されているのが分かる一例だな。 教団に伝令があるのなら各国の領主たちにも同じような制度があるのかと尋ねたところ、そのような制度は無いとの事だった。 おい、それでいいのか領主たちよ。 折角、教団と言う組織が便利な連絡方法を使っているのだから、それを真似れば良いのにと思ってしまう。 近頃は戦争の気配もなく平和な時間が流れていたとしてもいつまでもそうであるとは限らない。 事実、人族同士ではないがこうして異世界との戦争が始まってしまったのだから急を要する情報があるかもしれない。 まぁ、いざとなれば教会に頼んで同じ制度を使わしてもらうと言う手も有り得るな。

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「さぁ、何時までここに居ても埒があきませんし、両台下もお待ちでしょうから早く中に入りましょう。 ギール、今回もあなたが案内役なのでしょう。 ユグ様を両台下の元まで案内をお願いします。」
 ギールと呼ばれた男は俺に付いてくるようにと促すと、受付を通り越してそのまま門から中へと進んで行く。 俺もそれに追随して歩いて行く。 ラーテイも俺の一歩後ろをついて来ていた。
 昨日とは違う少し豪華な扉の前に止まるとギールは中の人物に俺の来訪を告げ、中からの了承の返事を受け扉を開いた。 
 部屋の中は会議室な様な感じで、中心にミーティングテーブルが置かれ、両脇には5席づつ背もたれの付いた木製の椅子が用意されている。 椅子には柔らかそうな動物の毛皮で出来た敷物が敷かれていて、座り心地も良さそうだ。
 俺が座るであろう向かいの席の中心にはミケイル枢機卿が座っており、その右側には俺より少し年齢が上のような人物が座っていて、左側には60代くらいの男性が座っていた。 両端には俺と同年齢か少し下と思われる男が机に紙の束と手に筆のような物を持っているので秘書か書記ってところか。 その5人の背後には4人の聖騎士が立っていて、机の両サイドにも2人づつの聖騎士が立っていた。 前回は2人だったのに対し、今回は枢機卿が2人なのと、状況が状況なので護衛にも力を入れてきたようだ。
 ミケイル枢機卿が俺に座るように促してきたので、俺はミケイル枢機卿のまえの中心の席に着席した。 俺より1息遅れてラーテイが俺の左側に着席した。 
 これで全員揃ったので会合の始まりかと思ってたところに、掌院ケッセルと司祭長リーリアスの到着が扉の向こうから発せられた。 2人は許可を得て部屋の中に入ってきて、俺の側両端に着席した。 位置取りとしては俺が中央で左にラーテイとケッセル、右に1つ空いて端にリーリアスとなっている。 後でラーテイに聞いて知ったのだが、教団では教団関係者以外と対面で会合するときに、相手の右の席を空席にしておくのは最大の配慮とされているらしい。 理由はグランガイズでも大半の人間は右利きらしく、その利き手側の席を空けておくと言うのは信頼しているとの意思表示にもなってるらしい。
 暫しの間沈黙が場を支配したが、壁際に置いてあった人間と同じ大きさほどの魔法時計の中心の瓶の中の砂が落ち切って上下が入れ替わったのを期にミケイル枢機卿が話し始めた。

「時刻も丁度20刻になったことだし、今回の神託でユグ殿がご存知のことを聞かせてもらえるかな。」

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この質問は予想されていたことなので、ラーテイに説明したのと同じ内容を話すことにした。 枢機卿たちにも話が伝わっていたようで驚きも無く受け入れられている。

「君が南井善次郎と同じ世界から来たと知ったときに本国で会議を開いたのだよ。 取り調べの際の調書をもう一度読み返してみた人物が居たのだ。 そこには地球とか日本とか言う地名が数回出ていたので、君が地球から転移してきたと言う事は分かっていた。 まさか戦争の相手になるとは思っていなかったから重大視はしていなかったがね。 しかし教団幹部でしか知り得ない彼の処遇は大神からお聞きになったのですか?」
「そうです。 地球からグランガイズに転生できる制度を作ったのが地球の時間の流れで800年前に作ったと聞いた時に俺が6人目の転生条件の保持者だと聞いたのです。 俺の1人前の転生条件保持者が南井善次郎と言う人物だったのですが、神の部屋で暴言を繰り返したので転生させずにアリライ神聖国の聖都に転移させたことと、そこで捕まり3日後に処刑されたことを聞きました。」
 俺以外の人々から『おおぉ~』と言った感嘆の言葉や、俺に向かって頭を下げて拝むような態度を取るものまで現れている。 いち早く立ち直ったミケイル枢機卿は更に質問を重ねてきた。

「地球時間でとおっしゃいましたが、グランガイズと時間の流れは違うのですか?」
 俺は大神から聞いた話をそのまま伝えた。

「なるほど、大神は力を使い切られて楽園で休養なされていたので神託が途切れたのですね。 その間にグランガイズの民が6神を創り出したのですか。 大神がそれを認めてグランガイズの管理権限を6神に移譲して地球と言う世界を創り出したと言う事なのですね。 グランガイズが一度滅びたと言う事や、魔族や亜人が異世界から人族同士の戦いを止めさせるために連れてこられて進化した生物なのには衝撃を受けました。 南井善次郎はユグ殿から見て何年前に地球で暮らしていた人物なのですか? それにユグ殿が6人目で南井善次郎が5人目だとすると残りの4人はどうなったかご存じなのですか?」
 ミケイル枢機卿は右隣の男性が話したそうにしているのを抑えつつ興奮しながら聞いて来た。 この話したそうにしている人物がもう1人の枢機卿であるゾイル枢機卿なのだろう。 左隣の初老の男性は目を閉じて迷走しているようにも見えるが、話を聞いて興奮しているのか浜息が荒い。 左端の男性は俺とミケイル枢機卿の言葉をもらさぬように必死で紙に書いているが、こちらも鼻息は荒い。 右端の男は俺を見てニコニコと微笑んでいるが取り立てて感情の変化は見られない。

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俺は時期は分からないが、2人が特殊な能力を持って人族の国の何処かに転生したことと2人は南井善次郎のように転生に納得せずに文句を言い続けたので魔族領に転移されたことを告げた。

「魔族領への転移か…… 彼の者たちはもう生きてはおるまい。 2人の転生者について他に何か知っていることはないかね。」
「800年以内にグランガイズの人族の国に転生したと言う事なので、最長でも8歳と言う事になりますね。 それ以外には何も分かりません。」
 ここまでは重要な内容でもないので南井爺ちゃんから聞いたことや、聞いたうえで確定している情報を隠さずに話すことにした。

「先ほど玄関前で司祭ラーテイが演説していた内容も大神から聞いた事柄なのかね。」
「そうです。 私が大神から聞いた話をラーテイに話し、場を落ち着かせるために2度ほど演説をしてもらいました。 ラーテイに話した場所が宿屋の食堂だったので、その場に居た冒険者や宿の従業員も聞いていましたね。」
「長司祭リーリアスがその宿に貴殿に伝言を伝えに行ったときではないかね?」
 ミケイル枢機卿はリーリアスに視線を向けながら質問してきた。
 俺は春風館に着いた時点から自分の部屋に戻るまでの経緯を説明することにした。 ミケイル枢機卿はラーテイに確認を取って間違いのないことを確認するとリーリアスに向けて話し始めた。

「ユグ殿が急ぐ必要はないと言っていて理由も説明されたのに詳細も聞かずに帰って来たのか?」
「申し訳ございません。 門などすぐに見つかるものだと思い深く聞くことはしませんでした。」
 リーリアスはミケイル枢機卿の質問に平身低頭しそうな勢いで弁明した。 確かに前回の質疑の場にも同席していたので、俺が異世界から大神によって転移させられてきたことは知っていたはずだ。 それなのに俺の発言の真意を確認せずに帰ったことはマイナス要素かもしれないな。

「長司祭リーリアス。 君は優秀ではあるが、もう少し人の意見を聞く度量を持ちなさい。 自分の判断や思い込みだけで奉仕を続けていると誤った道に進むことも有り得るのですよ。 さて、身内の話はここまでにして話を進めましょうか。 それ以外には何か聞いていませんか?」
「通路の形状は聞いたんですが、中に何かを置くのを聞いてなかったことを思い出して後悔しているところです。 あとは少しの自由時間をいただいただけで、これと言った情報はもらえませんでした。 大神と交わした会話の内容に関しては個人的な事を除いては、ほぼ話しきったと思います。」

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「そうですか。 では、これからは今後について話をしていきましょう。 ユグ殿は地球と言う異世界でどの様な地位で、どれだけ情報をお持ちなのですか。 司祭ラーテイからはユグ殿はグランガイズの勝利を望んでいると聞きました。 こちらに希望するのはグランガイズの情報だとお聞きしたのですが、さすがに簡単に情報を渡すわけにはいきません。 こちらから信頼できる人物を派遣いたしますので、その人物と情報を交換して共有するのはいかがですか?」
 やはり、そう簡単には重要な情報は渡さないよな。 俺に真偽判定が効いて、俺の言ってることが真実と分かろうと国家機密や重要な情報をおいそれと外部の人間に教えてしまう事は有り得ない。 情報の交換と言う最低限譲れる範囲を示してくれたのだろう。
 勿論俺は肯定の意志を伝えた。

「では遅くなりましたが、こちらの人物の紹介をさせていただきます。 私から見て左に座っているのが私と同じ枢機卿のゾイル卿です。」
 俺とミケイル枢機卿とでは左右が逆になっちまうな。 こちらからもミケイル枢機卿から見た左右で統一しておこう。 
 ゾイル枢機卿と紹介された男は話すことが許されたのか、挨拶はおまけ程度でマシンガンのごとく質問してきた。 俺はその迫力に戸惑っているとミケイル枢機卿はそれを咎め、俺との直接の会話は禁止されてしまった。 ゾイル枢機卿は、しぶしぶと言った体で引き下がって行った。 その関係性で見るに、ゾイル枢機卿は教皇派のトップではあるのだろうが、教団の内部ではミケイル枢機卿の方が格上なのだろう。 それか、何かしらの条件を飲んだうえでの同行なのかもしれない。

「こちらの右に座っているのがパズ審問官です。 ユグ殿には真偽判定が効きませんので司教パズにユグ殿の言葉に偽りが含まれていないか見てもらっていたのです。 ユグ様は性格が素直なのか分かりませんが態度や表情である程度話の真偽が分かるのですが、演技されてる可能性も捨てきれませんので専門家に判断してもらっていたのです。」
 教団ほどの組織ならそのような人物が居てとうぜんだな。 少しでも相手の会話の真偽を確かめなくてはならない状況なのだから仕方ないだろう。
 パズ審問官と呼ばれた司教は俺に軽く会釈をしただけで紹介を終えた。

「左端の紙に会話の内容を記している人物は私の秘書兼書記です。」
 紹介された男性も俺に軽く会釈をしてきた。

「右端の微笑んでいる男性はアリライ神聖国58代教皇のレクリウス7世殿下です。」

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「そうですか。 では、これからは今後について話をしていきましょう。 ユグ殿は地球と言う異世界でどの様な地位で、どれだけ情報をお持ちなのですか。 司祭ラーテイからはユグ殿はグランガイズの勝利を望んでいると聞きました。 こちらに希望するのはグランガイズの情報だとお聞きしたのですが、さすがに簡単に情報を渡すわけにはいきません。 こちらから信頼できる人物を派遣いたしますので、その人物と情報を交換して共有するのはいかがですか?」
 やはり、そう簡単には重要な情報は渡さないよな。 俺に真偽判定が効いて、俺の言ってることが真実と分かろうと国家機密や重要な情報をおいそれと外部の人間に教えてしまう事は有り得ない。 情報の交換と言う最低限譲れる範囲を示してくれたのだろう。
 勿論俺は肯定の意志を伝えた。

「では遅くなりましたが、こちらの人物の紹介をさせていただきます。 私から見て左に座っているのが私と同じ枢機卿のゾイル卿です。」
 俺とミケイル枢機卿とでは左右が逆になっちまうな。 こちらからもミケイル枢機卿から見た左右で統一しておこう。 
 ゾイル枢機卿と紹介された男は話すことが許されたのか、挨拶はおまけ程度でマシンガンのごとく質問してきた。 俺はその迫力に戸惑っているとミケイル枢機卿はそれを咎め、俺との直接の会話は禁止されてしまった。 ゾイル枢機卿は、しぶしぶと言った体で引き下がって行った。 その関係性で見るに、ゾイル枢機卿は教皇派のトップではあるのだろうが、教団の内部ではミケイル枢機卿の方が格上なのだろう。 それか、何かしらの条件を飲んだうえでの同行なのかもしれない。

「こちらの右に座っているのがパズ審問官です。 ユグ殿には真偽判定が効きませんので司教パズにユグ殿の言葉に偽りが含まれていないか見てもらっていたのです。 ユグ様は性格が素直なのか分かりませんが態度や表情である程度話の真偽が分かるのですが、演技されてる可能性も捨てきれませんので専門家に判断してもらっていたのです。」
 教団ほどの組織ならそのような人物が居てとうぜんだな。 少しでも相手の会話の真偽を確かめなくてはならない状況なのだから仕方ないだろう。
 パズ審問官と呼ばれた司教は俺に軽く会釈をしただけで紹介を終えた。

「左端の紙に会話の内容を記している人物は私の秘書兼書記です。」
 紹介された男性も俺に軽く会釈をしてきた。

「右端の微笑んでいる男性はアリライ神聖国176代教皇のレクリウス7世殿下です。」
「余がアリライ神聖国176代教皇レクリウス7世だ。 よしなに頼む。」

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砂蛇幻夢 2023-06-04 13:55:52

前日、1行書いただけなのに本日分を書き上げたと思い込んで本日分は書き上げておりません。 最近は集中力も散漫になりがちですのでしばらく休息したいと思います。 こんな思い付きの作品を1日1000人以上見られてることは嬉しいのですが、誠に申し訳ございません。


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通りすがりのイニシャルT 2023-09-18 05:36:14

凄く面白いです!これからも執筆頑張って下さい!


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砂蛇幻夢 2023-06-04 13:38:36

同じ話を間違って投稿してしまいました。