異世界vs地球

神によって異次元のデスゲームが始まった

ある日、世界中の人々の脳内に謎の声が響き渡る。【これから貴様らには、異世界と戦争をしてもらう。貴様らに選択権はない、時刻は明後日の夜5時。ちなみにだが理由は地球と異世界、どちらも私が管理しているが、どちらが有益、面白いのかわからないためだ。以上】そうして謎の声はなくなる。「やっべえなこりゃ」俺、友山健人は静かにそうつぶやいた。


現在の時刻は午前9時を少し過ぎたところだ。指定の時間までは56時間しかない。
戦争が起こることの真偽は定かではないが、起きなければ問題なし。起こることを前提に動いたほうが得策だろう。
「まず、何をするべきか・・・」
 情報は・・・この短時間では実のある情報などあるはずもないな。 異世界と言っても様々だ。 一番最初に思い当たるのは『剣と魔法の世界』、あとは『未来的サイバーな世界』くらいだ。発想力が乏しいな。
 取り合えず、個人では何も戦争に協力できることは無さそうなので食料品などの必要物資を買いだめておこう。明日になれば少しは有益な情報も出てくるだろう。方策が決まれば早速行動だ。 のろまなやつから戦場では死んでいくと言うしな。
 おれは寝間着からいつもの革ジャンにジーンズに着替え、駐車場に行き車に乗り近所のスーパーやホームセンターがある場所へ向かうのだった。

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ショッピングモールに向かう道中、車内から外を見ると多少ざわついてはいるが混乱はおきていないようだ。 この長年平和になれきった日本で危機感を持つのは稀なことなのだろう。
ショッピングモールの駐車場につき、まずはキャンプ用品売場に向かい大型リュックを買い、スーツケースも2つ買っておく。トレーダーで培った勘が準備を怠るなと告げている。簡易テントやカセットコンロから、救急治療セットや常備薬など長期災害避難時を想定した買い物をした。最後に缶詰やレトルト食品、乾麺など保存食を大量に買い込み駐車場でリュックに詰め込む。日常品はスーツケースにまとめてある。なんとかギリギリ入れきって帰途につく。
自宅マンションの近くにある駐車場に車を止め、背中に大型リュックや丸めたテントを背負い、両手にスーツケース持った姿は通常なら異様にうつるかもしれない。 だが、買い物に時間をとられたせいで日も落ち辺りは薄暗くなってるおかげで目たたない。道向かいにあるマンションに向かい道路を渡ろうとした時に視界が真っ白に染まった。

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「知らない天井だ・・・」
取り合えず、お約束な台詞は言わねばならない。辺りを見回して見て分かったことは自分が白い四角な十畳くらいな部屋の中心に出かけたときの服装で仰向けに寝転がっていることだ。
 すると近くに急に光をまとった球状の物体が現れて、脳内に声が響いた。【この忙しい時に転生条件を満たす奴が現れるとは。普通は特殊能力を与ええて転生させるんだが、今回は戦争の開始準備が忙しいのだ。そのでかい荷物と一緒に人間勢力のいずれかにそのまま転移させるぞ。】そう言うと謎の光の球体が点滅を始める。
「ちょっと待ったあぁぁぁ~」俺は急いで立ち上がり、片手を前に突き出して声を張り上げた。
『おおっと、ここでまさかのちょっと待ったコールだっ』と脳内に声が響き点滅が止まった。
【私は忙しいのだが、少しの時間なら融通してやってもよい。地球時間で1時間くらいやるから用件を言え。】
 忙しいと言いながら1時間もくれるのか。時間の感覚がずれているのかもしれない。
【長いと思うか? まぁ、この空間は地球の1/10の時間の流れだから気にするな】
 まるで思ったことをよんだような返答だが、顔に出てたのかな。
【いや、思ってることは分かるぞ。】
 思考が読めるのか、嘘は厳禁だな。取り合えずいくつかの質問をなげかけてみようと光る球体を直視する。ま、まぶしい。
【ん?まぶしいか?】そう言うと光る球体が人型に変形していき、やがて70代ほどの日本人っぽい男性に変化していく。
【こいつは前回、40年ほど前に発動条件を満たしてここに来た地球人よ。名前は確か・・・南井善次郎と名乗っていたな。】
 こんな爺さんが転生したのか。人生やり直しできたのは良かったんじゃないか?
「いや、こいつは私と対面するなり罵声を浴びせかけたり、神を語る不届き者だとか、くどくどと講釈垂れたり生意気だったので、そのままグランガイズのアリライ神聖国の聖都の転移させてやったわっ。転移その日に教団騎士団に捕まり、3日後に処刑されよった。」
 いきなり爺さんっぽい声で返事がきたので驚いてしまった。この神様ちゃんと転生させてないんじゃないか?
「ん?ちゃんと転生させてるぞ。800年ほど前にこの発動条件を決めてからここに来たのはお主を含め6人いるが、2人は特殊能力を与えて転生させたぞ。」
 俺と南井さんを含めると成功率が33%じゃねぇ~か!残りの2人の成り行きが気になるが時間は有限だ。無礼のないように簡潔に質問をしてみよう。

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まず、最初に聞かねばならないことは。
「俺が転移される世界は地球と戦う世界なのですか?」
 これは大事なことだ。ワンチャン、スローライフをすごせるかもしれない。
「いや、お主が行く世界は、グランガイズと言って地球と戦う世界じゃよ。わしが管理してることになってる世界は2つしかないからのぅ。」
 語り草もじじいっぽくなってきた神様はいつの間にか現れた椅子に座り、テーブルに両手をついてどこぞの司令官のようなポーズをとっていた。結局戦争する羽目になっちまうってことか。
「お主は戦いが始まる前に転移させるので地球側じゃなく、グランガイズの人間として戦ってもらうことになるじゃろう。」
え?俺、地球の敵になっちゃうの? いや、地球から先行偵察員として活動してもいいかもしれないな。
「それは無理じゃぞ。負けた側は滅亡か従属と大きなペナルティーが科せられるからのぅ。グランガイズが負けたらお主は死か地球の養分の如き働きをすることになるんじゃ。」
 養分のような働きってなんだよ。まぁ、聞いても碌なことはなさそうだ。次に聞きたいとこは・・・
「グランガイズとはどのような世界なのですか?」
「一言で言うなら、お主が想像した剣と魔法の世界で合っとる。なぜ地球人の多くが思い描くような世界があるのか知りたいか?」
 神様はポーズを維持しながら尋ねてきた。これは有益な情報とは思えないが、時間もあることだし好奇心が煽られる。
「まずは2つの世界の成り立ちからになるが・・・
 神様は語り始めた。

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「元々、わしが管理する世界は1つじゃった。と言うより通常は1つの世界しか管理できない。」
「では何故2つの世界があるんですか?」
「管理神に選ばれると1つの星が与えられ、その星の主要生命体となる種を選べるようになるんじゃ。 わしは人間種を選び管理を始め、その星を人間はグランガイズと呼び文明を作っていった。グランガイズは徐々に発達していった。 いくつもの文明の興亡の末、他の神が管理する世界に侵攻するまで増長してしまったじゃのじゃ。 その戦いに敗れグランガイズは滅びた。その事態を受けて管理神の会合が開かれ、わしは管理怠慢を指摘されグランガイズは初期化して作り直すことになったのじゃ。」
「世界は一度滅びたのですか。でも、作り直すにしても1つだけですよね? しかも1つでも怠慢を指摘されてるのになんで増えてるですかっ。」
 つい、ツッコんでしまった。
「怠慢を指摘されたわしは新生グランガイズの人間種に神託と言って頻繁に介入し、より良い世界を創ろうとしたんじゃが人間種はどうやら戦いをのぞむ性質があるらしくてな・・・ 機械文明に進んでしまうと前回と同じように他世界へと侵攻しそうじゃから神の能力の1部を与えて機械文明への移行を止めたのじゃ。 人間種はそれを魔法と名付け生活に浸透させていった。」
「おお、魔法誕生の秘話が聞けるとは!」
 俺は神の語りに引き込まれていた。 神は興奮する俺を見ると、落ち着きなさいと椅子を用意してくれた。 椅子に椅子に腰かけ、つい前傾姿勢で話の続きを聞く態勢にはいる。神は微笑まし気にそれを見ると続きを語りだした。
「グランガイズには大陸は1つだけしかなく、ほぼ横長の長方形なんじゃ、北と南の極は地球のように氷で覆われておる。 地球とちがうのは双方に陸地がないことじゃな。 大陸の中心に人間種を配置したんじゃが、何故か西へ西へと移動していき、大陸の西端が一番発展して大陸中心は寂れてしもうた。 魔法を得たことにより機械技術は生まれなくなったんじゃが、文明が地球で言う中世あたりで止まってしまってのぅ。  近代化をしなかった弊害があらわれた始めたんじゃ。 それは人口が減り始めたことじゃ。争いを始め、信託で仲裁してもすぐに別の場所で争いが起きてしまうんじゃ。」
 中世の地球は人口の伸びは緩やかだったけど、伝染病が流行ったとき以外は伸びていたはずだ。 なぜ減ったんだ?
「それはのぅ、攻撃魔法が防御魔法より発達したせいで戦争による死者が増えたからじゃ。」
 神はどこからともなく急須と湯呑2つを取り出し、お茶を入れ始めた。 入れ終え片方を俺に差しだし、ずずぅ~と茶をすするとまた例のポーズに戻り語りを再開した。

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「困ったわしは前回の侵攻で交友ができた管理神に相談してみた。 そうすると、そこの世界の主要生命体の長命種という人間種の亜種を譲り受けることができたんじゃ。」
「どれくらいの寿命の違いがあるのですか?」
「グランガイズの平均寿命は40くらいじゃな。 魔法が浸透したおかげで大幅に伸びておる。 戦死者を除けば50は超えてるかもしれん。 ちなみに地球の中世での平均寿命は30もいかないぞ。 まぁ、種としての寿命は100歳前後といったところじゃな。」 
 確かに医療が発達していなかったから新生児の死亡率が高かったことや、伝染病とかもあったしな。
「譲り受けた長命種の寿命は1000前後じゃと聞いていた。だが現状は平均寿命は50もいってないかもしれん。」
「また大幅に下がりましたね。」
 あまりにもの減少に驚いてしまった。
「最初に譲り受けた長命種100人を大陸東方に配置した。 長命種にも魔法を授け時空をいじり、時間をわしが操れる最高速度の1000倍にして成長速度を既存の人間種に追いつくようにしたのじゃ。 人間種は10万年で人口が1億人に手が届くところまで増えたんじゃが、ここ100年間平均すると毎年5万人くらい減っておる。 寿命が10倍でなら1000倍の速さで100年も経てば人間種の1/10くらいにはなると計算しての計画じゃった。」
「まぁ単純計算だとそうないますね。」
「10年たった時に長命種に3種類の新たな亜種が生まれた。 吸血種と巨人種と竜人族という種族誕生したのじゃ。 新たな3種は平均寿命は800年と2割ほど減っていた。 その代わり繁殖能力はあがったがのぅ。 その後も10年単位で亜種が増え続け、第2亜種は第1亜種の半分の400年になり第3亜種は第2亜種の1/4の100年、第4亜種はさらに1/5の20年、第5亜種はそのさらに1/5の4年じゃ。巨人種と竜人種は第5亜種がいないので平均寿命は高く、人口は少ないがの。 60年目に亜種が増えなかったので、多分打ち止めじゃ。それに、譲り受けた長命種は徐々に数を減らし、60年目には絶滅したんじゃ。」
「なるほど。 上位種は死ににくいけど増えにくい、下位種は死にやすいけど増えやすいので平均寿命が大幅に下がったと言うことですね。」
「そうじゃ、またここで新たな問題が浮上したんじゃよ。」
 この流れからいくと逆に人口爆発が起こったとかかな?

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「いや、違う。60年目を境に全く人口が増えなくなった。食糧が問題だったんじゃ。 長命種は人間種と違って農耕や畜産はしない。野生の獣や山の幸を中心に食べておる。自分より下位の種族を食う種もいたがな。わしも獣に魔力を与え、栄養価を増やし繁殖力も増やしてたんじゃが・・・ 人間種より領土の拡張意欲が少なく人口増加に土地拡張が追い付かず、餓死する下位種が続出したんじゃ。それに人口を増やすことに重きを置いていた神託を土地を拡張することに重点を変えて出し続けたが反応は鈍かった。」
「なるほど。 全体的な地域配分はどのような感じなのですか?」
「人間種が大陸西端から中心までじゃが、大陸中心部付近はほぼまばらな集落が点在して残ってる程度じゃ。 長命種は大陸東端から2割ほどを支配して、そこからは下位種族が食料を求めて放浪してる感じじゃな。」
 と言うことは、大陸の西5割が人間種、東3割ほどが長命種、間の2割が完全空白地で両種族とも中心1割は点在状態なので、実質4割が空いてるってことか。
 「そこで方針を変えて長命種の時空を戻し、空白地の中心部に吸血種の第2亜種の1種の妖精種を配置して時空を1000倍に変更し、新たに発展させることにしたんじゃ。」
 なぜ妖精種にしたんだろう? どうせなら吸血種の子孫で良かったんじゃないのか? 俺なら神託を生息地域拡張しして、吸血種の子孫からやり直すだろう。
 すると、例のポーズにいつの間にかかけていた眼鏡を『キラーン』と光らせ、神様こと南井爺ちゃんは理由を話し始めた。
 「なぜ妖精族かと言うと、第5亜種まで至ったのが妖精族だけだったからじゃ。妖精種は第3亜種では人狼種(ワーウルフ)や人猫種(ケットシー)などに変化し、第4亜種で小人種(ホビット)、小鬼種(ゴブリン)や子犬人(コボルト)と言った種族になっていったんじゃ。 妖精族は神託にも従順で繁栄させやすいと言う理由もあった。 妖精種は2種おって森人族(エルフ)、山人族(ドワーフ)じゃ。」
 なるほど。 従順で繁殖力も高いならうってつけの選択だ。 やはり聞いたことがある種族が多いが、何故地球で広まったんだろ。 グランガイズから地球への転生者か転移者が居たのだろうか? だが、そんな理由なら一言で済んでしまいそうなもんだよな。 まあ、話は聞いていて楽しいし、これから行く世界への理解を深めることは悪いことじゃない。

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「それで、順調に空白地は埋まったのですか? それに何故空白地があったら駄目だったのですか?」
「ああ、空白地は埋まった。 妖精種も10年経つと、やはり新たな亜種が生まれ出した。 じゃが、大陸東部と近いが違った亜種になったんじゃよ。 獣人種と言って12種の獣人が誕生したんじゃ。」
 人狼族や人と獣人種の違いが分からねぇ! どうやって分けてんだよ。
「それは鑑定の能力があるからじゃ。 基本、交配は同種族でしか行わないが、稀に他種族とする者も出てくる。 それでも通常は産まれる子供は両親の遺伝子を引き継ぎ、容姿はどちらかの種族のものになるんじゃ。
 だが、全く違う容姿の子供がいきなり何人も生まれたら気になるじゃろ? それで鑑定をすると種族名が出て新種族名が分かるんじゃよ。 人間族には無いことじゃから最初は混乱して大騒ぎになったが、長命種しか居なく、人口も少ない時期に1度目が起こったのが幸じゃった。 神託で新たの種の誕生は慶事だと教え混乱を収めたんじゃ。」
 確かに自分の子供の容姿が自分たちと違ってたら驚くよな。 自分の子供を捨てる親や、下手すると殺す親も居るかもしれない。 こういう時は神の存在が身近だといいよな。 あれ?地球だと神様の存在なんて感じたことはないぞ。   
「その疑問は後々分かるわい。 まずは何故空白地があると駄目なのかと言う疑問から答えよう。 それは人間種の人口減少の対策の為じゃ。 あくまでもわしの主な管理種は人間種じゃから、人間種の繁栄を第一に考えとるからの。」
「何故空白地がなくなると人間種が繁栄するんですか?」
「空白地をなくすことが主な目的ではなく、近くに敵対勢力を作ることいが大事じゃった。 譲り受けた長命種の力は強大だが、性質は基本穏やかだったんじゃ。 人間種に新たな敵を作ることによって団結させ、長命種に攻撃本能を向けさせる予定じゃった。 人間種と長命種の生息地域が離れすぎてると危機感が薄れ、結局人間種同士の戦いが続くと思われたからの。 実際に長命種の時空を戻し妖精種を配置したとき人間種に【大陸東に強大な種が誕生し、人間族に災いを与えるであろう。備えよ。】と神託を出したんじゃ。 10年ほどの間は東に探索団を出しておったが、発見するのは第5亜種のはぐれ部族くらいじゃった。 徐々に危機感は薄れていき、人間種同士の争いが再発したんじゃ。」

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「25年ほどが経ち、空白地を埋めるほどに妖精種の生息範囲が広がったので時空を戻した。 そして人間種には隣に友好的な種族を配置したが、その更に東には脅威があると神託をだしたんじゃ。」
 それでも人間種は妖精種に戦いを挑みそうな気もするな。
「いや、しばらく放置して様子を見ていたのじゃが結構友好的に接して負った。 これでグランガイズは一時的に安定期に入ったんじゃよ。」
なるほど、これでグランガイズは平和になってめでたし、めでたしってことだな。 いやぁ~ファンタジー小説でも聞いてるようで楽しかったなぁ。 って、最初の疑問も2つの世界を管理してる理由も何も解決してねぇ~よ!
 再度ツッコんでしまった。
「そうじゃな。 次元を最大で90年近くも操作してたせいで神力が大分減っておってな、神の国の楽園で100年ほど休養することになったんじゃ。」
「また、大事な時期に休養したんですね。」
「いざという時に力が足りなくて何もできないよりマシじゃからな。 それに留守の間は代理の管理者を派遣してもらえるんじゃ。」
「それなら安心ですね。」
「わしも安心して休養を取って負った。 それで英気を養って戻ってきたら・・・ グランガイズは大きく変わっておったんじゃ・・・・。」
 代理のものがなにかやらかしたのか!
「いや違う、何もしなかったんじゃ・・・・ わしが居た時は定期的に神託を出しておったんじゃが、代理神は基本様子を見て大きな問題がおきたときにくらいしか対応しない方針だったと言っておった。」
「じゃ、大きな問題が起きなかったのに大きく変わったということですか?」
「そうじゃ。 神託がなくなった人々は自分たちで神を創ったのじゃ。 人間族は『光』を司る神を、吸血族を筆頭に長命種の子孫たちは『闇』を司る神を、妖精種たちは自然『火・水・風・土』の神を創りだしておった。 魔法(神の力)には想像を具現化する力がある。 個人では創り出せないことでも種族単位ともなると、疑似神さえ創り出してしまえたんじゃ。」

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南井爺ちゃんなら疑似神くらい排除できるんじゃないか?
「できる、できないかで言えばできる。 じゃが珍しい事象じゃったから管理神の会合を開き、そこでの判断を仰ぐことにしたんじゃ。 そこで示された判断は管理者はわしじゃが、なにか大きな変化が起こるまでは様子見と言うことになった。 やることが大幅に減ったことで新たな世界をもう1つ管理することになったんじゃ。 それが地球じょよ。 地球は最初のグランガイズの時のようにあまり発展に関与せずに見守っていたんじゃ。 時空を1000倍で100年進めて、100年間休んで戻ってきたのが20年前でそこから100倍で20年経ったのが今じゃ。」
「なるほど。 これで2つの世界を管理して謎が解けました。」
「何故、グランガイズのような世界のことを地球の者たちが思い描いているのかと言うと、グランガイズの人間種の輪廻してる魂を地球に持ってきたきたことによる副産物じゃな。 グランガイズで生活していた昔の記憶が少し蘇った者も居たんじゃろうな。 」
「では、私たちの遠い祖先はグランガイズから来たようなものなのですね。」
「そうとも言えるの。」
「グランガイズの成り立ちと地球とグランガイズの関係も大まかですが理解できました。 グランガイズの現状は3つの種族が1つの大陸で生活をしてるで合ってますよね。」
「そうじゃの。 大陸西部から中央部くらいが人間種、大陸東部から1/3くらいが長命種の子孫、その間に妖精種系じゃな。 人間種は己たちを人族と呼び、長命種の子孫を魔人族と、妖精族系を亜人族と呼んでおる。 今では鑑定でもそう表わされるようになった。 人族は20の国に分かれて治めておって、亜人族はエルフ族とドワーフを中心に獣人12氏族が各々複数の村を点在させておる。 魔人族は北は巨人族、中央は吸血族、南は竜人族が治めておる感じじゃな。」
 俺は人族の国の何処かに転移させられるんだよな。 あと聞いておかなければならない大事なことは・・・

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「グランガイズの言葉は理解できるのですかね?」
 言葉が通じないとなると色々問題が出てくる。 通じないとなると習得までの期間もかかるし、生活もままならないからな。
「その点は大丈夫じゃ、普通に会話はできるぞ。 グランガイズの言語は1つじゃ。 ちなみに今、わしが話してる言葉はグランガイズ共通語じゃぞ。 お主は日本語を話しておるがな。」
「え? 普通に日本語と思ってましたよ。」
「そうじゃろ。 グランガイズでは魔法の念が発達し言語に至ったので他種族とも会話ができる。 個人でなら念話で話すこともあるが1人限定なので通常は言語で話すのが一般的になっておる。 お主も転移させるときにグランガイズの人と同じような能力を得るので大丈夫であろう。 ただし、文字は自分で習得するしかないぞ。」
 まぁ、話が通じるだけでも大助かりだ。 これで人里離れたところでキャンプ生活せずに街に行くことができる。 グランガイズ人と同様の能力を得るということは俺は魔法が使えちゃうのか!!
 不安が一気に期待へと変わっていく。 それを見た南井爺ちゃんは茶受けを齧りながら答えてくれた。
「魔法は使えるようになるぞ。 グランガイズはスキル制じゃから、努力すると資質があれば能力は上がる。 お主は人間族が使えるスキルは概ね使えることになるじゃろう。 精進せよ。」
「スキル制なのですか。 ではHPとかMPとかステータスも表示されるのですか?」
「一般の人々は知らないであろうな。 だが、人間族の貴族や神官たちは知っておる。 あと、冒険者のギルドカード記録されているので念じれば自分のステータスを見ることができる。 あとは鑑定の特殊能力持ちも見ることができるじゃろうな。」
「ちなみに俺に何かチートスキルを下さるとかないですかね?」
「そんなもん与える訳がなかろう。 このような忙しい時期に来ただけで迷惑なのに。 逆に逆に迷惑料とかとりたいくらいじゃ。」
「ですよねぇ~」
「じゃが、久々に楽しく会話が出来た。 このように長く会話をしたのは20年前、後に聖人と呼ばれることになった奴以来じゃ。 8年前に転移制度を決めてからお主が6人目と言っておったじゃろ? 2人は理解してないようじゃったが、一応納得してある程度の特殊能力を与えて転生して行きおった。 2人は帰せとしか言わなくて話にもならなかったので、魔人国に転移させてやった、この爺は前に話したとおりじゃ。 お主は楽しませてくれたので2つのものを与えよう。」
 おお、言ってみるもんだ。 何がもらえるのだろう。

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「1つはわしがグランガイズにお忍びで使っていた装備一式じゃ。 普通の街人の装備と2~3年は生活できるであろう硬貨と小さいが時空をいじった巾着じゃ。 そこにあるお主の荷物の10倍くらいしか入らんし、生き物も入らんが時間も止まるので便利じゃぞ。 アイテムボックスは普通に町の道具屋で売っているから、そんなに珍しい物ではないぞ。 時間はが止まるのは貴重かもしれんがな。」
 能力ではないが簡易アイテムボックスが手に入ったのは大きい。 あと怪しまれずに街に入れるし、生活費を稼ぐことに追われないのもいい。
「あと1つは情報じゃ。 2日後の戦争開始時に地球側に公表される情報は『南北アメリカ大陸、アフリカ大陸1つづつ、ヨーロッパ地域に14、アジア・中東・オセアニア周辺国に20個異世界に通じる『道』ができる。 勝利条件は異世界にある人間族の国20の政治機関と魔人国の公爵領の3つの王城、亜人国の14の政治機関を支配するか、全種族を皆殺しにするか。 敗北条件は国連加盟国193国の政治機関の喪失か人類滅亡。 期間は無制限。』 これだけじゃ。 グランガイズ側にも神託で6神に通達させる。」
「結構ハードな条件ですね。」
「20年前に管理神の会合でグランガイズのデータが集まったので、地球かどちらか1つを消して良いと決まったのじゃ。 わしが勝手に選んでも良かったが、生き残りの可能性を自分たちで掴む機会を与えることにしたんじゃよ。」
 何も知らずに地球が消えていた可能性もあったのか。 それはそれで幸せだったかもしれないな・・・
「お主には特別に情報を与えよう。 まずは『道』のことじゃ。 グランガイズの内情を理解したお主なら分かったと思うが人族vsアジア・中東・オセアニアとなる。 魔人族vs北南米+アフリカ、亜人国vs欧州じゃ。 『道』はその地区の人口順に現れる  例えるなら人族1位のガーリス帝国とアジア・中東・オセアニア1位の中国、亜人国1位の鼠人村と欧州1位のロシア、魔人国1位の公領である吸血人族領とアメリカと言った感じじゃな。 別に他の国家や村に援軍に行ってもかまわない。」
 俺は人族の地域に行くことになると言うことだからアジア・中東・オセアニアと戦うことになるのか。 それに今ロシアってウクライナと戦争してなかったか? ウクライナも人口で言えば10位以内に入ってたと思うが大丈夫なのか? もしや、グランガイズでも、まだ人族同士が戦争してたりするのか!?
「今、グランガイズで戦争は起きてないはずじゃ。 険悪な関係の国はあるがな。」
 それは一安心だな。

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「『道』37個同時に発生させる。『道』は1mの出入り口を持った穴と、中はは1kmほどの長さと高さと幅が500mな長方形の空間じゃ。 出入り口の大きさは日に1cmづつ大きくなるように設定するつもりじゃ。 『道』の中で戦うことも可能じゃぞ。」

 また面倒な設定をするもんだな。 どちらにせよ先に『道』とやらを見つけたほうが多少なり有利になるのではないだろうか。 東京都内に突然、『道』とやらができたら後先もないがな。 ん?この設定どっかで見たととあるような‥‥‥

「いきなり大きな出入口を人口過密地に作って全面戦争も楽しいかもしれないが、折角のイベントじゃ、見つかなそうに場所に作る予定じゃ。 長く楽しませてもわらんとな。」
 とか言って、少しグランガイズに有利な設定になってないか? 序盤に地球側の利点である機械系はドローンくらいしか役に立ちそうにない。 バイクも半年ほど使え無さそうだし、主力である戦車は1年くらい使えないし、ヘリや戦闘機も2~3年はグランガイズ側に持ってこれない。 今の性能でグランガイズに持ってきても役に立ちそうにないがな。 まず、測量して衛星でも打ち上げない限り性能を使い切れないだろう。 船は持って行けそうにないから、海戦はなしだな。

「否定はせん。やはり最初に管理した世界じゃ思い入れもある。 じゃが、できるだけ地球にも配慮はしてるぞ。 確かに電脳化で攻めづらくはなったかもしれんが守りは強化されたはずじゃ。 電化しすぎの気もしないではないがな。 人間側には戦争開始の通達も2日前に出したが、グランガイズには開始直前に知らせる。」

 確かに先進国や各国都市部の電力が止まると大混乱になるだろうな。 事前通知も地球側は混乱するだけで有利になったと言えるのだろうか?

「それは受け止め方じゃ。 地球の時間で500年ほど前に、グランガイズとの戦争を500年後に起こすと決めたと地球の者・・・ノストラ何某に情報を与えたのだが、正確な情報が伝わらず大予言とか言われておったのぅ。 情報を生かすも殺すもお主次第じゃて。」

  情報や知識は持っていても有効に使わないと意味がない。 有効に使える立ち位置にいるか、そのポジションの人間と交友を持たねばならないな。

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「それにグランガイズの文明の発達は遅い。 戦いの最中に地球側の団結と文明の発展が勝敗の大きなカギになるじゃろうな。」
 確かに戦いが長引けば対処能力は地球に分があるだろう。
「さて、残りの時間は30分となった。 ここはスマホの電波が届くが、グランガイズでは届かないじゃろう。 合図はしてやるから安心して調べるがよい。」
 ここからはどれだけの情報をグランガイズに持っていけるかが大事だ。 ソーラー充電器があるのでネットはできないがスマホの機能は使うことはできるだろう。 覚えきれそうにない情報はダウンロードしておこう。 荷物も巾着にまとめておかないとな。 南井爺ちゃんと世間話をしながら準備を進めていった。

「さて、ここまでじゃ。」
 集中しているとすぐに30分は過ぎてしまったようだ。
「準備はできたかな? 転移と始めるぞ。」
「転移する場所は決まっているのでしょうか?」
  南井爺ちゃんは少し考えたのちに
「言っても分からんじゃろ? 希望があるのかね。」
 俺は行きたい国があったのだ。 それは‥‥‥
「人間族の国に行くのが決まっているなら6番目の国に行きたいです。」
 南井爺ちゃんはニヤリと笑って
「それで良いのかね? わしとしても楽しめそうだから反対はしないよ。 お主の希望は叶えてやろう。 それでは精進してわしを退屈させんでくれよ。」
 南井爺ちゃんはそう言いながら立ち上がり、呪文のような言葉を呟き始めた。 俺も急いで立ち上がり一礼して
 「 南井爺さん、ありがとうござい‥‥‥」
と、お礼の言葉を発したが、途中で意識が遠のいていったのだった。

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1 異世界到着

「知らない夜空だ‥‥‥」 

 いや、本当に月の大きさが違う。 多分、星座の位置も違うのだろうが、はっきりとはわからない。 だが月の明りのせいで、暗いと言う感じはしない。
 まだ頭の働きが覚醒してないが、大地に横たわってる体を起こしつつ周りを見渡してみと草原に転移したようだ。 風で草花が揺れてはいるが生物が動いているような不自然な動きや音は感じられない。

 取り合えず転移直後に敵対生物と鉢合わせといったハードモードではなく、南井爺ちゃんは安全な場所に転移させてくれたようだ。

 爺ちゃん、ありがとうございます。 と、心で再度お礼を述べ今後の方針を考え始める。 言葉が通じるとのことなので、まずは現地の人とと接触して情報を集めないとならない。 魔法世界とは言え、中世の村レベルでは情報は限られてるだろう。 だが、まずは人を探しつつ村か街の場所を聞き出すことから始めようか。

 さて、方針が決まれば行動だ。 と行きたいとこだが‥‥‥ 見渡す限りの草原だな! 右側遠くに森っぽいものが見え、左側には幽かに山のようなものが見える。 もちろん周辺に道らしきものは見えない。 どの方向に向かえばいいのだろうか‥‥‥  

 今は南井爺ちゃんにもらった服にズボンと靴を着込み、片手に巾着を持っている状態だ。 巾着から南スーツケース2つとリュックを取り出す。 まずはスーツケースから使う頻度の高いものを取り出しておこう。 そして大型リュックに詰め込んである食品類を数日分だけ残し、種類別にポリ袋に小分けして巾着にもどす。 使う頻度の低そうなものはスーツケースに残し、それも巾着に戻す。 使う頻度の多そうなものはリュックに入れてこれも巾着に戻しておく。

 方位磁針は正常に作動してるか分からないが、山の方角を北と示していることから一応機能はしていると判断できる。 南に森が見え、東西は見渡す限りの平原だな。 確かグランガイズの人間領は大陸の西側で大陸中心は亜人領となっていたはずだよな。 しかも西端の海側が栄えていると言う話だから、向かうは西だ! そうと決まれば即行動だ。
 
 俺は巾着を腰紐にくくりつけ、右手に短剣を左手に双眼鏡を周囲を警戒しながら持ち歩き始めた。 月明りのおかげで視界は良好で、草花も高くて30㎝ほどなので歩行の邪魔にはならない。
 いつしか鼻歌を歌い、寂しさを紛らわしながら歩いていると前方の草が不自然に揺れた。
 
  短剣を構え、慎重に揺れた草周辺を凝視する。 揺れた範囲と動きからすると小動物と思われる。 南井爺ちゃんの話では日本のファンタジー小説に出てくるような魔獣と呼ばれる生物は魔人領に生息していて亜人国までは出没するらしいが、人族の国には滅多に現れないとのことだったはずだ。

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剣の心得など全くないが素手よりは心強さは段違いだ。 少しの間、静寂が辺りをつつみこむ。 無為に時を過ごすのも意味がないので一歩踏む出す。 すると草の中から長い2本の耳が見えた。

「兎かぁ。 危険な獣じゃなくて良かった。」

 緊張でカラカラになった口から安堵の言葉が漏れる。 歩きやすいと思った道も草木が邪魔で実際歩いてみると結構疲れる。 そろそろ歩き始めて時間も経つし一旦休憩を取るべきだろう。 巾着からペットボトルと簡易食料バーとレジャー椅子を取り出し休憩に入った。
 ペットボトルの水を飲みながら少し考えに耽る。

 まず1つ目にこの国の大きさだ。 仮に日本と同じ大きさだとすると1日12時間歩いても50km程度だろう。 と、言うことは東京から鎌倉あたりまで歩ける範囲になる。 爺ちゃんにグランガイズとこの国の大きさを聞くのを忘れたのが痛いな。 人口は中世日本と同じ程度と聞いていたから、700~1300万人ってことは調べてある。 どの程度の距離でどの程度の規模の集落があるのだろう。 

 2つ目は地球と1日の長さが同じかどうかだ。 まぁ、これは丸24時間経過すれば分かることなんだが。 日本と同じなら日の出は5時前後だったはず。 あと2時間で明けてくれればよいのだけどな。 明けるよな? ずっと夜ってことはないよな⁈

 3つ目は魔法が使えるとのことなので、歩きながら色々試してみたが、全く発動する気配なかった。 発動条件があるのだろうか。 触媒がいるような面倒な世界ではないことを祈ろう。

 簡易食料バーも食べ終わり、水も飲み切ったのでゴミをポリ袋に入れて椅子とともに巾着にしまうと西へ向かい歩を進める。 休憩から少し歩いた時に遠くに草が線状に途切れて見えるような場所があることに気づく。 これは、道を見つけれたのではないだろうか。 喜び勇んで歩を早めその場所へ進んでいく。 到着すると、そこには幅50cmほどの道だと思えるものが南東から北西に向かって伸びていた。

 これで歩きが大分楽になるな。 道があると言っても草を踏みつぶして地面が見える程度だが、人の行き来があると分かっただけで気分が高揚する。 時刻は3時を回ったとこだ。 さすがに異世界でもこのような時間にこのような場所を移動しているよなヤツは居ないだろうと思い、最近よく聞いていた歌を歌いながら北西へと歩を進める。
 
 1時間半ほど歩いた時に東の方角が少しづつ明るくなってきているのに気づく。 

 ふむ、日の出は東京と同じような時間なのだな。 日の入りも確認し、明日また同時刻に日の出があるなら地球と同じ24時間周期と判断できるかもしれないな。 しかしの地平線での日の出を拝めるなんて都会暮らしの俺には感動すら覚える。 太陽が顔を出すのを見ながら、少しの間惚けていたが気を取り直し道を進むことにした。

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日の出から1時間ほど歩いていると、前方から土煙をあげながら凄い速度でこちらに向かってくる物体が見えたので、俺は急いで双眼鏡を覗き込んだ。 どうやら人間の男のようだ。 スクーター並みの速度でこちらに向かって爆進してくる。 俺は双眼鏡を巾着に入れて短剣も腰の鞘に戻して敵意の無いように心がけるようにした。 あんな速度で走る人間と戦って勝てる気が全くしなかったからだ。
爆速で走ってくる人物は俺の少し手前で立ち止まり訝し気に俺に向かって声をかけてきた。

「おっちゃん。 ここらでは見かけない顔だけど、この先にはおいらが住む村しかないんだが何か用なんか?」

 10歳前後と思われる少年‥‥  もう、ガキでいいや。  言うに事欠いて俺のことをおっちゃんだと!? おれはまだ20代だぞ! いや、俺、冷静になれ。 見かけはガキでもあの速度で走れるだけの運動能力があるのだ。
 俺は少し引きずった笑顔で答える。

「道に迷ってるんだよ。 どこかであたまを打ったらしく記憶が無くなってしまってるようなんだ。 自分が何者で何処へ向かってるのかも分からいんだよ。(嘘)」
「へぇ~ うちの村の長老もボケて段々と物忘れが酷くなってるけど、それと似たような感じかぁ~」

 全然違うが説明するのも面倒だし合わせておこう。
「そんな感じだな。この先には村があると言うことだけど、どれくらいの距離なのかな?」

  ガキは少し考えたのちに
「えっと、走って2/6刻ってとこかな?」

 うわ、分からねぇ。 が、想像はできる。

「太陽が昇って、次の太陽が昇るのは何刻だい?」 
「24だよ。1刻を更に1/6で分けて言うんだ。」

と言うことは、グランガイズまたはこの少年が住む村では10分単位で時刻を数えるのだな。 だが、意外と言えば意外だ。 どうやって時刻を判断してるのだろうか。

「少年。 どうやって時間を判断してるんだい?」

 するとガキは肩に掛けていたカバンから砂時計のようなものを取り出して俺に向かって突き出しながら

「おっちゃん魔道時計も知らないんだ。 これがあるとどこでも時間が分かるんだよ。 街の道具屋で安く売ってるから買ったらいいよ。」 と見せてくれた。

 砂時計の砂が6色に分かれていて、横に向けても逆さにしても一定歩行に砂が流れていく。 砂時計の上下に1~12の文字が輪っか状に書いてあり、現在は6の数字のところまで砂が入ってある。 ガラスの中の砂は2色目が流れ始めたとこだ。 つまり、6時10分だな。 村まで20分ってことか。 しかしよくよく考えてみると、あの速度で20分だぞ!   時速で50~60kmは出てたよな‥‥ 徒歩だと15倍計算で5~6時間かよ。 一応行先も聞いておこうか。

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「少年よ、何処へ向かってるのかな?」
「んとね、街だよ。 おっちゃん街から来たんじゃねぇ~のか?」
 ガキは不思議そうに聞き返してきた。

「『お兄さん』は気づけば草原で倒れていたんだよ。 さっきも言ったけど、それ以前の記憶が無くて何をすれば良いのか分からないので、取り合えず人か街を探していたんだよ。」
「へぇ~ だったら転移に失敗したのかもね。」
 あまりにも当然のように紡ぎ出された解答に感心しながら質問を続ける。

「転移とはなんだい? 失敗とかは良く起こるものなのかな?」
「転移とはね。村と街を繋ぐ門を転移門と言ってね、村の人は魔導石が高いので使わないけど、街から商人や冒険者やお役人やお偉いさんとかが使って転移してくるよ。 転移の失敗は門では起きることはほとんど無いけど、魔導士が偶に失敗することがあるって前に会った冒険者のおっちゃんが言ってたよ。」

 なるほど、乗り物が通って無さそうな道なのは乗り物を使うくらいの金を持ってれば転移門使ったほうが早いんだな。 アイテムボックスがあるなら、商人も荷馬車などで移動しないのだろう。 さすが魔法世界だ。

「そうなのか。 少年はすごい勢いで走っていたけど、どうやって走ってるんだい?」
「身体強化に決まってるじゃん。 これはみんな使える魔法だよ。 もしかしておっちゃん使えないの?」
「『お兄ちゃん』は魔法の使い方も忘れてしまったようなんだ。 どうやったら使えるか教えてくれるかな?」
 おお、自然に魔法の使い方を訊ねることができたぞ! ここで使えるようになれば時間も短縮でき、色々楽になることに違いない。
 
「教会に寄付をして、欲しい魔法を司祭様に言ったらもらえるんだよ。 おいらが使ってる生活魔法と呼ばれる魔法は1つの種類が大銅貨銅貨1枚で使えるようにしてもらえるから、おっちゃんも何種類か買ったらいいよ。 普通は使えるはずなんだけど、使えないならもう一回使えるようにしてもらったらいいんだよ。」
 教会までいかないと魔法は使えないのかと少しガッカリしたが、街着いて教会に行けば魔法を覚えられるのが分かっただけで成果はあったな。 ただ、貨幣価値が話か分からなねぇ~な。 まぁ、村の子供に覚えさせれるくらいなら安いとは思うんだけどな。

「でも、おっちゃん。 今向かってるおいらの村には司祭様は居ないよ。 新年の儀とか成人の儀とか豊穣祭とかじゃないと司祭様は村にいらっしゃらないんだ。」
 どれくらいの規模の村だかは分からないが、小さい村だと教会が有るかもしれないが、有ったとしても司祭様が常駐してるとかぎらないよな。

「じゃ、少年の向かってる街には司祭様はおられるのかな?」
 これで司祭が居ないようなら転移門を使って大きな街へと移動するしかないな。 そう思いながら尋ねてみる。

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「うん。おいらが行く街には教会があって、いつでも司祭様がいらっしゃるよ。」
「では、『お兄さん』も街に向かうとするよ。 魔法は使えないので普通に歩いていくけど、少年の速さでここからどれくらいの時間で街に辿り着けるのかな?」 
「え~っとここまで、大体1/3刻で村から町までが5/6刻だから‥‥」と呟く。
「あと半刻ってことでいいのかな?」
「そうそう、それで合ってるよ! 多分‥‥」
 自信なさげに答えるが、ここはガキを信じるしかないしな。 このガキの速度で30分となれば普通に歩けば7~8時間ってところか。 日が暮れるまでには着きそうだなと思いながらガキに礼を言うと早速歩き始める。 

「おっちゃん、魔法が使えないならおいらが背負って運んでやろうか? 偶に長老を背負って街まで往復するけど全然平気だからな、 屋台で何かおごってくれるなら運んでやるよ。」 と話しかけてきた。
「俺は結構重いぞ。 大丈夫なのか?」
「平気だよ。帰りに運ぶ荷物のほうがきっと重いし。」

 凄いな魔法。 こんなのが一般市民だとすると人数差はあれど、地球側が勝てる気はまったくしないぞ。 俺はこっち側だから問題ないけどな!
 
「では、頼むよ。すごく助かる。 高価なものは無理だけどできる範囲でおごってやるよ。」
「じゃ~背負うね~。」
 ガキはおれを軽々と背負い、すごい勢いで走り始めた。

 ちょ、おま‥‥ 縦揺れが激しく、すぐに気分が悪くなる。 そりゃそうだ背負われて走ったら揺れるよな。 少し考えると分かることだった。 時間短縮とお手軽感の誘惑に負けた罰だとでも言うのか! 少年が話しかけてくれるが、返事も空返事で内容もほとんど聞いていなかった。

「おっちゃん、街が見えてきたよ。」
 クソガキが大きな声で俺に呼びかけていたようだ。 あまりの揺れに気分が悪くなりすぎて気を失ってたのかもしれない。 しかし利点もあった。 背負われてからすぐに気を失って一瞬で時が過ぎ去ったので、背中で大惨事を起こすことはなかったようだ。 俺の尊厳は守られたのだ!
 前方を見ると街の外壁がドンドン大きくなってくる。 ここまで来ると道の周りには田畑が広がっていて、ポツポツと農作業している姿も確認出来るようになった。

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「少年。もう降ろしてくれ。 少し気分がすぐれないので、ここからは気分転換がてら歩いて行きたいんだ。 この距離だと1/6刻ほどで着くだろう。 それくらいの時間の余裕はあるだろ?」
 限界は間近だったか、余裕のある振りをしてクソガキに尋ねてみた。

「おっちゃんはだらしないな。 長老は全然平気なんだぜ。」
 それ絶対何かの魔法を使ってるだろ! 常人があの揺れに耐えれるとは思えない。 
 クソガキに降ろしてもらい地面に立とうとするが、ふらついて真っすぐに立てないで千鳥足になってしまう。

「ははは。 おっちゃん、なんだよその変な踊りは。」
 腹を抱えて笑われてしまった。 俺は繊細なガラスの心が音を立てて割れていくのを感じながら笑顔で応える。
 深呼吸をして、2~3回の屈伸をした後にゆっくりと街へ向かって歩き始めた。

「少年、あの街の名前はなんというのだい?」
 俺は当然な疑問を投げかけたはずなのだが、クソガキは何を言ってるんだ、こいつはとでも言うように
「街は街じゃん。 それ以外に呼び方なんてないよ。 村は村だし名前なんてあるわけないじゃん。」
「いや、それはおかしい。 ほかの街や村と区別がつかないじゃないか?」
「なんでほかの村とか街とか関係あるの? うちの村の人のほとんどは自分の村から出ないし、おいらみたいに荷物運びで小遣い稼いでるやつも、この街にしか行かないからね。 確か街の人はうちの村を名前で呼んでたような気がするけど、気にしてなかったよ。」

 他の街や村を知らないならそんな事もありえるのか。 街や村の名前は街に着いてから聞けばいいや。 やはり村の子供から情報を得るのは得策じゃないな。 日常会話をしつつ街に向かって歩いていく。

 街の外壁には門が有り、そこには4人の門番が立っていた。 時間が早いせいか、交通の手段が転移門がメインなのだかは分からないが人の出入りは全く無さそうだった。 門番の1人が俺たちを見つけ声をかけてきた。

「おい小僧、今日は珍しくゆっくりじゃねぇ~か。 それにその兄ちゃんは知り合いか?」
「違うよ。 ここに来る途中に出会ったんだ。 転移の失敗かなんかで記憶をなくしたんだってさ。」
 
 クソガキは小走りになって門のほうへ駆けていく。 俺も遅れまいと全速で追いかけていった。 門に辿り着くと息を切らした俺に向かって門番が囲むようにして話しかけてきた。

「兄ちゃん、悪いが決まりなんで、あそこにある水晶の上に手を置いてくれないか? 別に危害を加える訳じゃねぇ。 街に犯罪者を入れる訳にはいかないんでな。 あの水晶が光らなければ普通に通れる。 赤く光れば犯罪者として捕まえることになる。 青く光れば誰かの探し人なので本人の許可を取って依頼主に連絡することになってる。 兄ちゃんは青く光るかもしれないからな。」

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犯罪者の特定に捜索願いが届けられてる人物を判定できるとはかなり便利なシステムだな。 俺はグランガイズに来たばかりだから犯罪歴もないし、知り合いもいないからと安心して手をかざしす。 すると水晶が白色に光り出した。
「白色⁈ おい、誰か白色に光ったときの条件って知ってるか?」
 門番の中でも年長に見える男が慌てたように皆に問いかけている。 残りの3人も「白色なんて聞いたととねぇ~。」
とか、「白色があるなんて初めて知ったよ。」など口々に話している。
 
 意を決したのか年長の門番が話しかけてきた。
「兄ちゃん、悪いな。 水晶が光ったと言うことは何か問題があるってことだ。 犯罪者ではないし、黄色でもなかったので危険人物とは思えねぇ~が、おいらの一存ではどうしようもない。 そこで、兄ちゃんには2つの選択肢がある。 1つはおいらが神殿に確認に行ってる間、この番所の裏にある個室でおとなしく待っていることだ。 もう1つはおいらと一緒に神殿に行くかだ。 逃げようとは思わないことだ。 命の保証はできないからな。」

 俺も突然の出来事に混乱していたが、神殿と言えば司祭様。 魔法を覚えるために訪れようと思っていただけに道案内までしてもらえるとなるとお得なのかもしれないな。 ここは神殿に一緒に行くことを選ぶことにする。

 ふと、隣を見るとクソガキが俺を睨んでいた。 心当たりは‥‥‥ あっ、屋台で何かおごると約束してたんだ。 だが、どれくらい神殿で時間がとられるか分からないし、 このまま約束を反故にするのも、たとえ生意気なガキでも心が痛む。 でも、駄賃として硬貨を渡すにしても相場が分からない。 なら、門番に聞くしかないだろう。
「あの、この少年に道案内を頼んだお礼に屋台で何か食べさせてあげると約束したのですが、時間がなさそうなのでお駄賃を渡したいのです。 生憎相場が分からないので教えてもらえませんか?」
 「そうだな。一番人気のある串焼きが1本で銅貨2枚だ。 村の小僧には贅沢な食べものだがな。」

 門番の1人が答えてくれた。 多少高価であっても、一番人気なら一般人が買える金額のはずなので、小遣いとしては範囲内だろう。 俺は巾着に入れていた小袋から銅貨2枚を取り出しクソガキに渡す。

「生憎、俺はこれから神殿に行かねばならないらしい。 一緒に屋台には行けないが、これで好きな物を買って食ってくれ。 ここまで助かった。」
「おっちゃん、ありがとう。 生きて街から出られてうちの村に来ることが有ったら村を案内してやるよ。」
 手を振りながら街の中へゆっくりと走って行った。

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「さて兄ちゃん、悪いがこの腕輪をつけてくれないか。 別に危険な物じゃねぇ。 逃走防止のために魔法を封じさせてもらう。 この部屋は魔封じの結界が張ってあるから転移や攻撃は出来ないが、街中だとそうはいかんからな。」
 最年長の門番の男がそう言いつつシンプルな銀色の腕輪を差し出してきた。 日本では手錠とか腰紐で逃走防止をするのだが、さすが異世界魔法さえ封じれ逃走はふせげると言う事なんだな。 俺は受け取った腕輪を左手首に嵌めて繁々と眺めてみた。 普通にデジタル腕時計でもしているような感じに見えるな。
「おい、ゲルタ。 今から神殿にこの兄ちゃんを連れて行くから、長司祭に訪問の連絡を入れておけ。 内容は『水晶が白く光ったので、その人物を連れてくから鑑定を頼む』だ。」
 最年長の門番の男は門番の1人のゲルタと言う男に伝言を頼んでいる。 何だかの通信手段も確立されているのか。 中々侮れないじゃないか、異世界。
「じゃぁ、出かけるぞ。 ライドル、お前は兄ちゃんの前を歩いて神殿へ案内の役だ。 おいらは後ろで警戒しながら付いていく。」
「解りました、おやっさん。 出発するけど兄ちゃんも準備はできてるよな。」
 一番若そうなライドルと呼ばれた門番が俺に確認してきた。 俺の持ち物なんて巾着1つだし、心の準備と言う事ならできている。
「はい、いつでも行けます。」
「歩いて10分もかからない。何か聞きたいことが有ったら質問を受け付ける。答えられる事なら答えてやるから気軽に聞いてくれ。 兄ちゃんは犯罪者って訳じゃないから、そんなに身構えなくていいぞ。」
 おやっさんよ呼ばれた最年長の門番が豪快に笑いながら言ってきた。
 
 これはチャンスかも知れない。 まず知りたいのはこの国の名前と位置、それにこの街の名前と位置と規模だな。 門番クラスになると正規兵だろうし、ある程度の情報は持っているはずだ。 時間はあまりないので重要な情報順に聞いていくことにしよう。 ライドルが部屋の扉を開けて先導して歩き始めた。 おれはそれに続き付いていくことになる。 最後尾におやっさんが扉を閉め辺りを警戒しながら留守をする門番に声をかけた後歩き始めた。 
 番所から出て、街の中へ目を向けると、いかにもファンタジーアニメなどで映し出される一般的な風景が視界に飛び込んできた。 さすがに2階建てまでの建物が多く。稀に、3階建てと思われる建物も点在している。
 そこに、思いもしなかった情景が目に入った。 それは亜人が少数ではあるが居たことだ。 亜人は一目で分かった。 見た目は普通の人間だが、耳がケモ耳なのだ。 人間のような側頭部に人のような耳もない。 よく見ればズボンの後ろから尻尾も出ているじゃないか。 俺は気になり、おやっさんに尋ねてみた。

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「亜人との交流も結構あるのですね。」
「そりゃそうだ。この国は位置的に亜人の村と近い。 亜人との交易で大きくなったような国だからな。 国境周辺の街に行くと、もっと亜人の数も増えるぞ。」

 なるほど、この国は人族の国の中でも東部に位置するんだな。 亜人とも友好的な関係らしい。 爺ちゃんからの話ではエルフ、ドワーフと12の獣人だったっけな。 見渡す限りでは3種の獣人しか見当たらない。 ウサ耳とトラ耳と犬耳がひょこひょこと動いて、見てて癒される。 だが、俺はエルフが見てみたい、とてもだ! 
「3種類の亜人しか見当たりませんが、他の種族の方はおられないのですか?」
「この国と接してる亜人村が兎人村と虎人村と犬人村だからな。 兎人と犬人は人族と友好的な種族だ。 虎人は中立ってとこだな。 土竜人や蛇人ってのも居るらしいが、滅多に人族と関りを持とうとしないと聞く。 

 エルフの名前が出てこない。 まあ、14種全部の立ち位置を聞くのも時間がおしいし、何故知ってるのかと聴かれても答える術がないからな。 ここは当初の予定通りの質問に戻ろうか。

「この国の名前を聞きたいのですが‥‥‥」
「兄ちゃん、この国の名前も忘れちまったんか。 この国の名はエルテルム王国だ。 最近、急成長して結構名前も通ってきているから、国名を聞かれたのは初めてだぁ。」 
「エルテルム王国ですか。 この街の名前も先ほどの少年にも聞いたのですが知らないと言われてしまって困ってたんですよ。 自分の住んでる村や近くの街の名前も知らないとは思いませんでした。 ちゃんと名前はあるのですよね?」
「そりゃあるに決まってるだろ。 この街の名前はアハグトで、坊主の住んでる村はアハグトイミグだな。まぁ、アハグトの13番目の村って意味の名前だ。 村の奴らは滅多に外には出かけないから名前など気にしないんだろうな。 この街の者たちならイミグ村で通じるが、よその街もそれぞれの村を街の名前の後に番号を付けて呼ぶから、そこは気を付けないと混乱することになるぞ。 街や国を行き来する奴なんて商人か冒険者くらいしか居ないから大丈夫だと思うがな。 大抵の街は、その周辺に複数の開拓村を持つんだ。 そこから農作物や畜産品を仕入れて、生活物資や嗜好品を卸して成り立っている。 街の規模が大きくなるにつれ開拓村は増えていくって寸法さ。 アハグトには18の開拓村があるんだよ。」

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開拓村の数で大体の街の規模が分かるのか。 街に入る前に見えた田畑の規模では到底、街の人々の食料を補えるとは思えなかったが、周りに村を作って不足しそうになると村を増やしていくと言う方法は効率的ではある。 土地が潤沢にあるから出来るのだろうけどな。 18と言う村の数が多いのか少ないのかは分からないが、結構大きい気がする。 対面の側面の外壁が見えないので、直径数キロはありそうな感じだ。 地球では在り得ない規模だな。
「18も開発村を持っているってことは結構大きな街なんですね。」
「そうでもないぞ。 ここケルゼン伯領には12個の街があってな、アハグトの街の人口は2万5千人ほどで5番目くらいの規模だったと思うぜ。 ケルゼン伯が治める領都ケルゼンが一番大きくて15万人くらい居るって話だ。 収穫の3割は領主に納めねばならんから、最低でも街に10以上の開拓村がないと街の経営が成り立たん。 村を増やす時は領主様に相談して承認を得られれば、村の建設の予算の半額が与えられ、軍から建設魔法の特化魔導小隊と工兵小隊と輸送小隊が派遣される。 早ければ、1月ほどで村の主要設備や家屋が出来上がるぞ。 今この国は発展期だから、慢性的な順番待ち状態だな。」

 村を作るときのは予算の半分が支給され、村づくりのスペシャリスト部隊も貸してもらえるのか。 軍隊と言うものは平時となるとお荷物みたいなものだから、屯田制にするか工作部隊としての兵站の訓練を兼ねて有効活用すると良いと偉い人が言ってた気がする。 国がまとめて村の建設を差配するのは計画も立てやすいし、人材の無駄も少なくなるのかもしれない。 転移で街と街や街と村の間を移動できるなら全て国有地にしてしまってもいいだろう。 まぁ、封建制でそのような制度ができるとは思えないがな。 しかし、村1つ作るのに1ヵ月ほどなのか。 1ヵ月と言ってもグランガイズと地球と同じ日数計算なのだろうか。 週とか曜日の概念があるのかも分からないしな。 聞きたいことが増えていく一方だな。

「ケルゼン伯領は王国の中では大きい所領なんでしょうか?」
「エルテルム王国には王都と辺境伯領が4個、伯領が15個の計20の所領があるが、ケルゼン伯領は10~15番目くらいの規模だったと思う。 最近、急激に人口が増えて順が入れ替わったりするが、確かその辺りだった気がする。 王都が断トツに多く、最近600万人を超えたとか大騒ぎしてたぞ。」

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は? 王都だけで600万だと⁈ 10~15番の規模ってことは真ん中より少し下ということだ。 それでで30~50万人くらいと推定してみる。 爺ちゃんから聞いてた人口と全く違うじゃないか。 もしかして、地球の育成にかかった年数の情報が抜けているんじゃないだろうな。 確か‥‥‥1000倍で100年、休憩に100年、100倍で20年とか言ってたな。 合計220年か。 それだけ年数が進めば平和になった時代なら人口が急増していてもおかしくないな。 爺ちゃんから聞いた情報の歴史以外は参考程度と思ってたほうがいいかもな。

「ケルゼン伯領は王国のどの辺りにある所領なんですか?」
「そうだな‥‥‥ 王国の東西南北には辺境伯の伯領があってな、中心と東伯の所領の間に王都がある。 その逆の中心と西伯との所領の間にあるのがケルゼン伯領だ。 王都とうちの領の間には王都と辺境伯領の次に大きいガルデム伯領ってのがあってな、ここのガルデム伯ってのがあまり良い噂を聞かないのよ。 近々、王様か大司教からお咎めがあるんじゃないかと言われてるからな。 隣領なのであまり騒ぎが起こると、こちらまで被害が来るんじゃねぇ~かと皆心配してるのさ。」

 戦争が無くても紛争の火種は燻ってるってことだな。グランガイズにおけるこの国、領土、街、村に関しての初級な基礎知識はある程度得られたのではなかろうか。 地球との『道』の入り口が国のどの領に現れるかは分からないが、ケルゼン伯領に拠点を構えるのも良いかもしれないな。 王都でも良いが、どれくらいの広さに600万人も住んでるのか分からない。 あまり人が多いのは好きではないから、中規模辺りが丁度いいだろう。
 ケルゼン伯の評判を集めて、悪くないなら街の選択だな。 この街の評判も集めて悪くないなら、この街でも良いかもな。 取り合えず『道』の入り口が見つかるまでの拠点だ。おやっさんに評判を聞いてから決めてみようか。

「この街の暮らしは良いですか?」
「漠然とした質問だな。 まぁ、領主のアハグト子伯はお優しい御方だな。 嫡男のリューゲル様も優秀な御方だと聞いている。 リューゲル様も御年30になられるので、そろそろ子伯も代替わりを考えられてるのではと囁かれてるな。 ということで、未来は結構明るい。 亜人との交流が盛んな国で、この街もその影響が大きく発展し、勢いもある。 おいらとしては結構良いと感じてるぜ。」

 アハグトの街を第一候補にしておこう。 ここまで歩いて来ても雰囲気も悪きない気がする。 だが、エルフが多い領があるなら考えを改めねばならないかもしれない。
 そのような考えをしていると、今まで無言だったライドルが話しかけてきた。
「この角を曲がると神殿が見えてきます。 もうすぐ着きますよ。」

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角を曲がると、大きな門構えの建物が見えてきた。
「神殿にしては、かなり閉鎖的な建物なんですね。」
「普通だろ? 神殿は神聖国の飛び地みたいな場所だから、関係者以外は入れないぞ。 教会と勘違いしてるのではないか。 信徒の礼拝は教会で行うからな。 神殿はあくまで神を祀る場所であって、政治機関としての一面も持ってる。 なので、警戒は厳重になるのは仕方がないだろう。」

 ギリシャ神話でよく描かれる神殿をイメージしてたので、かなりのギャップを感じてしまった。 宗教関係は詳しくないので、あまり深入りしないようにしなければな。 地球より、かなり宗教関係の力が強い感じがする。 神が現存するのだし、仕方ないのかもしれない。 権威だけで中身が腐ってないことを祈ろう。 神様も見てるし大丈夫だと信じたい。

「ライドル、受付に行って先方に到着の報告に行って来い。」
 命を受けたライドルは門の横にある窓の前まで走ってき、中にいる受付の男と話している。 少し話すと受付をしていた男が部屋の奥の扉を開け出て行き、暫くして門の閂らしきものを外す音が聞こえてきた。
 やけに厳重だな。 グランガイズではこれが普通なのだろうか? まぁ~大使館みたいなものと思えば、それほど違和感はないのか。 

「番兵のお二方、案内ご苦労様でした。後のことはこちらで処理致しますので、お引き取り願っても結構です。 ではそこの御方、こちらにいらしてください。」
 受付の男が、おやっさんとライドルに戻るように話して、俺に呼びかけてくる。 ここでおやっさん達と別れ、神殿に残されるは不安が一気に襲ってきた。

「おやっさん、色々有難うございました。 ここを出たら、絶対すぐにお礼に伺います。 なにか美味しい物でもおごりますので、また色々教えてください。 ライドルさんにもお世話になりました。」
「おお、楽しみに待ってるぞ。 遅くなって、おいらが帰った後でも次の番の奴に連絡先を告げておくから、気軽に連絡してくれや。」
 おやっさんは俺の不安を察してくれたのだろう。 豪快に笑いながら手を振って答えてくれた。 俺はその心遣いに感謝しつつ案内役の男の後に着いて行く。
 
 建物の中は取り立て飾り物もなく殺風景で生活感が全くない上、人の気配すら感じられない空間になっている。 通路の横には中庭であろうか、芝生が敷き詰められ中央に噴水が備えられていた。 噴水から吹き上がる水の音と案内役と俺の足音だけがこの空間を支配していた。 通路脇にある扉の前に案内役は止まると、扉を3回ノックする。

「掌院ケッセル様、例の御仁を御連れ致しました。」
 案内役は恭しく部屋の中にいるであろう上司に到着の報告を行った。

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「はい。お入りください。 案内御苦労様でした。 貴方は勤務に戻ってください。 後のことは全てこちらで引き受けます。 では、貴方は此方にいらして下さい。」
 中から思ったより若そうな男の声が聞こえ、それに従うように部屋の中に入った。 それと入れ替わるように俺の前にいた案内役の男はそのまま部屋の前から踵を返し、元来た通路へと歩を進めて行く。 中に入ると10畳くらいの部屋の正面に長方形の机が1つ、椅子がこちらに3つ奥に2つ並んでいて、そのうちの1つに20代後半に見える男が座っていた。 部屋には窓はなく、大きな鏡が壁に張ってあるだけの、この建物らしい殺風景な部屋だった。 鏡と逆の壁際に20代前半に見える男女の神官が待機しているのが見える。

「私はこの神殿を預かっているの掌院ライウズ・ケッセルと申します。 ケッセルとお呼びください。 そこにいる2人はこの神殿の司祭であります。 さぁ、そちらの席にお座りください。」
 ケッセルと名乗る人物はアニメの教会に出てくるより少し飾り物が多く着いた白い祭服を身に纏っていた。俺は促されるままに3つ並んである中央の椅子に腰を下ろす。 すると壁際にいた男が俺の入って来た扉の前に移動し、錠をかけて扉の前に直立した。 罪人と言うほどの扱いではないが、不審人物扱いである。 まぁ、確かに不審人物なんだろうが。

「さて、お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「友山健人です。 性が友山、名が健人です。」
「ほう、性をお持ちなのですか。 では友山様、鑑定をかけますがよろしいですね。」
 よろしくないが、断ることも出来ないだろうが! なんとか穏便に、この場から帰れるように行動しなければならない。

「はい、大丈夫です。」
「始めます。 『世界を照らす光の神よ。 我に真実の理を映し出したまえ。鑑定。』」
 ケッセルは呪文のような言葉を発し、自身と俺の間の空を見つめている。 俺には見えないから予想だが、そこに俺のステータスがあらわれているのだろう。 暫しの間、静かに時間だけが流れていく。 

「友山様、ここは神の御前です。 嘘偽りの無いように願います。 偽りの言葉を吐けば、貴方自身に厄災が訪れ、不幸な未来が訪れることになるでしょう。 最初の質問です。 貴方は何処から来られたのですか?」
 最初から答えづらい質問からブッコんできやがったな。 まぁ、最初に聞かれるとは思っていたが。 ここは想定通りの応答で乗り切れるしか方法はあるまい。

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「気が付けば草原の中で倒れていたのです。 自分の名前は思い出せたのですが、何処から来たのか、何処へ向かっていたのか記憶がないのです。」
「それは大変でしたね。 鑑定の結果、貴方の国籍が空白なのです。 水晶が白く光った訳はそれだと思われます。 水晶での審査方法が広まって以来ずいぶんと時は経つのですが、白く光ったのは過去に一度しか御座いませんでした。 前回の場合も国籍が空白だと言う事が伝わってますし、今回貴方も同様な結果となったので原因は国籍不明と言う事だと思われます。なにか国籍や身元が分かるような物はお持ちではないですか?」
 ケッセル神父は俺の腰紐に付いてある巾着を見ながら尋ねてきた。

「巾着の中は調べたのですが、入っていたのは硬貨を入れた小袋だけでした。あとは腰につけた鞘に入った短剣ぐらいしか持っていませんでした。」
「なるほど、硬貨は人族統一硬貨なので出身国は分からないですね。 その短剣を見せていただいてよろしいでしょうか。」
 帯刀したまま、このような場に座ってしまった非礼は咎められないようだ。 俺は腰に付けた鞘ごと外し、神父の前の机の上に短剣をそっと置いた。 神父は短剣を手に取ると、繁々と眺めている。 おじいちゃんからは街の人が使うような一般的な短剣と聴いていたので、不審な点は見つからないだろう。

「結構古い型の短剣ですな。 まるで新品のような品質でございますね。 通常の手入れでは、このような状態を維持できますまい。 何か方法があるので御座いましょうか?」
 そう言えば、220年以上前の短剣なのだった。 そこらの整合性もこれからは注意しないといけないな。

「気が付いた時には佩していたので、どのような経緯で手に入れ、どのような手入れをしていたかわからないのです。」
「水晶が白く光った原因は分かりました。貴方に記憶が無いこと以外は、一点を除き怪しいことも御座いませんでした。 私の虚言判定にも反応は有りません。 最後に不可解な点をお尋ねします。 貴方のステータスに表示されているスキルは無く、所有魔法も無い。 職業は記されず、レベルも1です。 能力値も空白になってます。 どうやって生きてこられたのでしょうかね。 成人以上だとお見受けする貴方には絶対に有り得ないことなんですよ。」
 おい、じいちゃん、そこらも調整しておいてくれよ。 確かに、この年齢になってもレベルが1って事は有り得ないよな。 魔法やスキルのことは誤魔化せたとしても、この世界の常識を知らない俺にでも異常と言う事は理解できた。 しかし、ここは記憶に御座いません戦法で乗り切るしかないだろう。

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「王都の大神殿から大司教台下がいらっやるとの念話が入りました。 すぐに転移門から来られると言う事です。 少しお待ちいただくようにと連絡が入りましたので、ひとまず休憩と致しましょうか。 私は表まで大司教台下をお迎えに行って参りますので、気を楽にしてお待ちください。」
 ケッセル神父は扉の前に立つ男性に少し話をした後に部屋を出て行った。
 
 大司教って結構な身分の人だったよな。 俺は無事にこの建物から出ることが出来るのだろうか。 不安が雰囲気に出ていたのだろうか、白い祭服姿の女性が俺に声をかけてきた。

「 私はシスターマルレシアと申します。 何も分からないのは辛いことでしょうね。 私でよろしければ多少の疑問にお答えできることもあるかもしれません。 会話することによって、気持ちがが落ち着くことも御座いましょう。 我々六神教・光の徒は民に寄り添い、心と身体のケアを心がけてます。 どうか、悩みや分からないことが有れば、気軽に話してみてはいかがでしょうか。」
 先ほどまで話していたケッセル神父よりかは幾ばくか年嵩の増したと見える女性で、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。 俺は内心、胡散臭いと思いながらも質問をすることにした。

「国籍が無いと言う事なのですが、これから私はどのように扱われるのでしょう。」
「犯罪者ではない限りは、最初に確認された場所に登録されることになるはずです。 貴方の場合ですと、村の少年と道中で出会い、最初に確認されたのがアハグトの街ですので、エルテルム王国のケルゼン伯領・アハグトの領民登録になると思われます。 もし貴方が神殿に保護を求めるのであれば、私たちも出来る限りの助勢はさせていただきますよ。」
 既に俺の行動はある程度調べ上げてると言うことだな。 念話で個人通話が出来る世界だ。 門番の誰かから情報を得たのか、あの部屋の会話を知る術があるのかは分からないが、好ましい行為とは思えない。 それに宗教を信じるのであれば、初めからグランガイズ3位のアリライ神聖国を選んでるよ。 この世界は神と呼ばれる者が実際に居るので、地球ほどには腐っていないとは思うけどな。 レベルとかの事も聞きたいが、何をどのように聞けば良いのか分からない。 取り合えず漠然と聞いてみるべきか。

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「レベルと仰られてましたが、レベルとは何ですか?」
「まず、ステータス情報は御存知ですか?」
「いえ、分かりません。」
「生物にはステータス情報があるのですよ。 鑑定などで見られるものなのですが、『名前・年齢』『職業・レベル』『現在の状態』『所有魔法と所有スキル・レベル』『現状能力値』が分かります。 鑑定のレベルが上がるともっと詳細な情報が得られるらしいのですが、鑑定のレベルの高い人は滅多におられないので真偽のほどは分かりかねますね。」
 俺は自分のステータスは見れないので、どのように映し出されているのかが分からないが、取り合えず職業レベルが1なのだけは確かなようだ。 おれの職業欄は空白だと言っていたな。 この世界にはトレーダーなんて無いだろうし、職が不明なのは仕方が無いだろう。

「職業はどうやって決まるのでしょうか?」
「職業は成人の儀の際に成りたい職業を選択することができます。 嫡子は親の職業を継ぐのが一般的で、後の子供は、街に出て職を探すことになります。 一番多くの人が選ぶのが、新村が出来て農業を営む『農民』でしょうか? 職人に弟子入りする場合もありますし、最近では冒険者組合で『冒険者』を選ぶ若者や傭兵組合で『傭兵』を選ぶ若者が増えてると聞きます。 転職したい場合は教会でできるのですよ。 ただし、転職前の職業とレベルは残るのですが、転職後のレベルは転職前の職業のレベルの半分から始まります。 なので、うまくいかずに諦めて元の職に戻る人も多いですね。 婚姻すれば家業を持ってる人に合わせる場合が多いです。 もちろん、別々の職業の方もおられますよ。 職業を変えずに他の仕事に着くことは出来るのですが、本職の人よりは効率や上達にすごく差ができるのでお勧めしません。」
 職業を変えた時に現時点の半分のレベルがもらえるのか。 レベル1からやり直すので無いのは結構優しい制度だな。

「後、犯罪者になると強制的に職業欄に犯罪名が表されることになります。 例えば人を殺めた者は『殺人者』となり、捕まれば神殿に送られ審議官が罪の重さを判定します。 事故等によって人を殺めた場合などは、更生施設に送られ刑期を終えれば再度一般職に戻れます。 軽犯罪も同様ですね。」
 入門審査で水晶が赤く光ると犯罪者と言っていたな。 あそこで赤く光ると神殿送りになってしまうのか。 裁判所の役目も負ってるんだな。 罪状が明らかだから、弁護士や判事も要らず即日結審って訳だ。 後は本当に教会関係者が誠実であるかどうかだがな。

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「大司教が来られるとおっしゃられてたのですが、教会ではどのような地位におられる人なのでしょうか。」
「六神教と言っても色々御座いますが、人族限定で言えば教皇猊下を頂に、23名の大司教台下が次席として数えられます。 本国の大聖堂に教皇猊下と大司教台下3名が常駐しており、各国の首都の大神殿に1人ずつ常駐しております。 各領都の神殿には司教が、各街の神殿には神父ケッセルのような掌院や典院が管理を任されていて、そこに私達のような司祭や輔祭が務めております。」
 掌院や典院などは聞いたことはないが、司教と司祭の間の地位っぽいな。 俗に言うとファーストフード店の店長みたいな地位ってことだな。 大司教ならこの国の教会のトップか。 それに、このシスターは自分が司祭か輔祭と言ったな。 この世界では聖職者に女性もなれるのだな。

「魔法やスキルは教会で得られると聞いたのですが、ここでも得ることはできますか?」
「各神殿は神聖国の出先機関でも在り、法を司る場所でもあり、聖職者が祈り修行する場所ですので一般人の出入りは許可が無いと許されません。 ですので、通常は街や村の各教会でのみ配付しております。」
 ここでは無理なのか。 来た意味が無くなってしまった。 おやっさんも一般人は入れないって言ってたもんな。

「神父リーリアス、台下の面談の後であれば貴方がトモヤマ様に配付することは可能ですか?」
「神殿内での配付は無理ですが、近くの教会でなら私が同行して配付することは可能です。」
 リーリアスと呼ばれた神父が無表情で応えた。 こいつ、会ってからずっと無表情だな。

「神父リーリアスは長司祭で司祭の中でも優秀なので褒章されるほどの人物なのです。 頼られると良いですよ。」
 この無愛想な神父が長司祭だったのか。 確かおやっさんは長司祭に連絡取れって言っていたよな。 本来ならこいつが俺を審査してたはずってことだ。 それが何故か、この施設の責任者に代わって、更に王都から大司教とかが来ると言う。 段々と自体が大事になっていないか? そのような事を考えていると廊下の方から話し声と金属が擦れるような音が聞こえるだした。 声と音の主は扉の前まで来て、リーリアスみに扉を開けるように指示をだした。 声からするとケッセル神父が戻ってきたようだ。

 ケッセルを筆頭に豪華な赤い祭服を纏った男が後に続き、その後ろには豪華な白い祭服を纏った男が続き、その後ろから鎧を着込んだ2人の騎士っぽい人物が入って来た。 リーリアスは赤い祭服の男が入って来た時に無愛想な顔が一瞬、驚愕の色を浮かべていた。 やはり優秀な司祭でも国の管理を任される大司教と顔を見ることはあまりないのだろうか。 赤と白の豪華な祭服の男2人が俺の対面の席に座り、ケッセルが2人の間の後方で直立している。 騎士2人は机の両側面に待機したようだ。

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「お待たせして申し訳ありません。 私は神聖国の大聖堂で大司教をしておりますライウズ・ミケイルと申します。 そこの騎士2人は私の護衛ですのでお気になさらないでください。 国元を出るときには護衛をも共わなければならない決まりがあるのですよ。」
 赤い祭服の男が自己紹介してきた。 あれ? 神聖国から来たって言ったぞ。 しかも、またライウズと名乗ったな。 兄弟なのだろうか。

「私はエルテルム王国の教区を任されているライウズ・カステレウスだ。 本国に連絡を入れた時にミケイル枢機卿が同行されると仰ったので、一緒に来られることになったのだ。」
 この赤紫の祭服の男が、この王国の大神殿の大司教なのか。 こいつもライウズかよ。 ライウズって地球で『聖人』とか付けて呼ぶあれかな? この大司教はミケイルを枢機卿って言ったよな。 確か俺の曖昧な宗教知識と先ほど女司祭から聞いた情報を整理して考えてみた。 日本で例えると教皇が総理、枢機卿が閣僚、大司教が国会議員、司教が県会議員、掌院や典院が市会議員、司祭や輔祭が公務員って感じだよな。

「早速、鑑定をさせてもらうね。 『世界を照らす光の神よ。 我に真実の理を映し出したまえ。鑑定。』」
ミケイル大司教がケッセルと同じ呪文を唱えた。 魔法を使う時には詠唱する文言が決まっているのだろうか。 そうだとすれば面倒だな。
 
「トモヤマ殿、掌院ケッセルから聞いておられるでしょうが貴方のステ―タス情報欄には職業レベルが1と書かれています。 名前欄も(性)トモヤマ・(名)タケト(仮)となっていますね。 貴方が掌院ケッセルにそのように名乗ったのでその様に仮登録されたのですな。 我ら人族の国で性を名乗るのは貴族身分くらいなのですが、各国に神殿を構える我らもトモヤマと名乗る性を聞いたことが御座いません。 それに大半の人族の貴族は性は後に名乗るのですよ。貴方は何者ですか?」
「ケッセル神父にも答えたのですが、私には記憶が無いのです。 なので自分が以前に何をしていたかは全く分からないのです。」
 ミケイル枢機卿は俺を興味深そうに見ながら微笑んでいる。

「なるほど。 掌院ケッセルが言った意味が解りました。 私たち聖職者は真偽判定のスキルを所持しており、高位になるほど詳細が解るのです。 それによると、貴方には真偽判定のスキルが反応しないのですよ。 鑑定スキルは反応するのに真偽判定は反応しない。 まぁ、鑑定スキルも完全に反応したかは分かりかねますが‥‥‥ 何か特殊なプロテクトスキルでもかけてあるのでしょうかね。」
「ミケイル枢機卿、これは異常な事態ですぞ。 こ奴を本国の大聖堂に連行し、そこで尋問するべきではありませぬか?」

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カステレウスと呼ばれた大司教が俺を睨みながらミケイル枢機卿に話しかけた。 おい、これはヤバいかもしれない。 どうやら決定権はミケイル枢機卿が持ってるらしい。 穏便な判断をしてくれよな。

「カステレウス大司教、どのような容疑でトモヤマ殿を連行するのだ?」
「このように真偽判定のスキルが通じない危険人物は大聖堂で保護し、世の為にスキル解析の検証体になってもらうのが一番ではないかね。」
 おいおい、どんどんヤバい方向に話が進んでるぞ。 

「そのような曖昧な嫌疑で彼を拘束することはエルテルム王国との関係も悪くなるのではないかね。」
「罪状など作ればよろしい。 真偽判定が出来ないと言う事なら、偽証したと言う事もあり得るのではないかね。 もしかすると、高度なステータス偽造のスキルや判定スキル全般を妨害できるスキルを使っているのかもしれませぬぞ。 何にせよ、一旦本国に送ってから考えても良いのではないかね。」
 おいおいおい、立場が逆じゃね? 神聖国から来た枢機卿が王国との関係を気にして、王国の大司教が関係を気にせず強引に物事を進めようとするとはな。 ミケイル枢機卿が穏便派でカステレウス大司教が過激派ってことなのか。 それか宗教勢力が強く、実際に管理している大司教からすると、王国は気にするに値しない程度の存在と思ってるかだな。 どちらにせよ俺の運命はミケイル枢機卿に託されたわけだ。 

「我々は各国で秩序と法を司る存在としてお役に立っていると自認しております。 一番は神の存在の威光のおかげでありますが、長年の神聖国が培ってきた信用と努力の賜物でもあるのですよ。 だからこそ我々は常に公平で在らねばなりません。 自分が思う公平ではなく、他者から見ての公平です。」
 どうやらミケイル枢機卿は本当に人格者なのかもしれない。 表面だけかもしれないので油断はしてはいけないがな。 カステレウス大司教‥‥ もうカスでいいや。 カスの表情が憤怒に染まって見える。 しかし、自分より上位の存在に正論を言われてしまうと、さすがに反論は出来ないようだ。 

「枢機卿台下、受付に王国のアハグト子爵が参られたとの連絡が御座いましたがいかがいたしましょうか?」
 唐突にリーリアス神父が無表情に戻った顔で報告を入れてきた。 アハグト子爵、名前からするとこの街を統治している貴族なのだろう。 貴族などとも余り関りを持ちたくはないな。 状況によってはこの枢機卿を信用して神聖国を頼らざるを得ない事になるかもしれない。 ここは状況を静観するしかないだろう。

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「少しお待ち頂きなさい。 トモヤマ殿、最後の確認させていただいて宜しいですかな。 貴殿は南井善次郎と言う人物を御存知ですかな?」
 予想していなかった質問に、思わず答えに詰まってしまった。 そうだった、地球時間では40年前だけどグランガイズでは100倍の速度だ。 と言う事はグランガイズは5か月前の出来事じゃないか。 無国籍の前例が一件と聞いた時に予想しておくべきだった。 このクラスの尋問官に一瞬でも躊躇したのはまずかったな。 完全に知ってることはバレたようだ。

「なるほど、御存知なのですね。 彼がどの様な結末を辿ったかは御存知ですかな?」
「はい、知っております。 どのような状況で何をしたのかは知りませんが、処刑されたと聞きました。」
 俺は観念して知ってる情報を素直に話すことにした。 ここで下手に心証を悪くすると後に後悔することになりそうな予感がしたからだ。

「ミケイル枢機卿、こ奴は神聖国でも上層部しか知り得ない事柄を知っておるぞ。 これは大問題ではないかね。 やはり大聖堂に連行して徹底的に身柄を調べるべきではないかね。」
「それには及びませんよ。 教皇からこれを御借りして来て参りました。」
 ミケイル枢機卿はそう言うと、懐からビー玉くらいのガラス玉の様なものを取り出した。 カスはそれを見て驚愕の表情を見せながら
「それは神意球ではないか。 大聖堂から持ち出すことは禁止されていたのではないかね。」
「教皇様が必要になるから持参して行けようにとお達しがあったのですよ。 教皇は持ち出し許可を与える権限が有り、枢機卿は使用者権限が有りますので何の問題もありますまい。 トモヤマ殿、私の手に触れて下さい。」
 ミケイル枢機卿は右手に神意玉を持ちながら、左手を俺の方へと差し出してきた。 おれは諦念の状で枢機卿の手を取ると神意玉は光輝き出した。 

「光の神から神意が下されました。 トモヤマ殿は大神が連れてこられた迷い人だそうです。 迷い人とは、この世界の理が無い世界からこの世界に送られてきた一般人だそうです。 トモヤマ殿に過度に干渉するなと大神から警告があったようですね。 これでトモヤマ殿に対する建議は晴れました。」
 そう言ってミハイル枢機卿が微笑みながら席を立ち上がったってドアの方へと歩を進め出した。 それにつられた様にカスもいそいそと追いかけて行く。 リーリアス神父が扉の錠を外し、扉を開放する。

「長司祭リーリアス、 トモヤマ殿に王国からの干渉無きように警告せよ。 下手に干渉すると神罰が下ると言っておきなさい。 それと彼はこの地に不慣れな状況でもあります。 案内役に1人、有能と貴方が思う戦闘司祭をお付けしなさい。」
「案内役の件、畏まりました。 早速用意させます。」
 リーリアスは目を閉じ瞑想でもしているような状態になった。

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「トモヤマ殿、私たちが直接干渉出来るのはここまでです。 後は王国の庇護下に入ることになります。 一応、忠告は入れましたが、王国の動きは読めません。 神殿から護衛を付けますのでご自由にお使いください。 神殿の関係者を側に置いておくと王国の連中も無茶な行動も取れないはずですよ。 それに、この世の常識やある程度の高度な知識も得られましょう。 司祭ならば魔法や職業を選択して配付を授けることも出来ますよ。 お布施は頂きますがね。」
 特典付きの警護か。 これは受けておくべきだな。 リーリアスから配付を受け取るよりは気が楽だろう。

「御厚意、有難うございます。」
「何、こちらとしても貴殿とは交友を繋いでおいた方が有益だと思っての事。 警護の者に不満が有れば、この神殿に連絡を入れて神父ケッセルに申し出ると対応するように命じておきます。 他に何か『思い出した』事があれば気軽に護衛の司祭に話してくださいね。 私共は貴族とあまり関係を持つことは許されてません。 神殿の内部の視察を行って本国に戻りますので、ここで失礼します。」
 そう俺に告げると、大司教と騎士2人とケッセル神父を率いて廊下を入り口とは逆の方向へと歩いて行った。 ミハイル枢機卿は俺が記憶が無いと言ってることを嘘だと見抜いているようだったな。 結果的に彼がここに来てくれたのは俺にとってとても有益なことになった。 あと、じいちゃん。 何だかんだ言って、光の神に俺の事を頼んでくれていたんだな。  あとはこの街の貴族との話を無事に乗り切れば自由が待ってる‥‥‥はずだよな?

「トモヤマ、随行する司祭の用意が出来た。 受付に先に行くように命じてあるので、そこで合流するように。」
「トモヤマ様、私が表門までお送り致します。用意が出来たら仰ってください。」
 リーリアス神父が相変わらずの無愛想な表情で俺に指示を出し、シスターマルレシアが玄関まで送ってくれるらしい。 俺は机に乗った短剣の入った鞘を巾着に入れると立ち上がり、準備が整った旨をシスターに伝えた。

 シスターは開いた扉から出て待機し、俺が後に続いて歩き出すのを確認してから玄関へ向けて歩き出した。 突然の本国からの枢機卿の来訪に驚いたらしく、人の気配が薄かった神殿の奥の方が慌ただしく動いている様子が伺える。その気配に背を向けシスターの後に着いて行く。 玄関口に着くと眼前の門は開け放たれており、門の向こうには貴族っぽい男と兵士姿の男が3人に黒い祭服の男が何かを説明している姿が見えた。

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「あちらにお見えになられている貴族が、この街の管理を任されているアハグト子爵ですわ。 本国から枢機卿が参られたと聞いて取り急ぎ駆け付けたみたいですね。 その子爵に枢機卿来訪の趣旨を説明しているのが、トモヤマ様の護衛を務めることになる神父ラーテイです。」
 え? ここは普通、女神官が来るんじゃないの? 全世界の俺からブーイングが起こるぞ! シスターはラーテイと呼ばれた男の横まで歩を進め、子爵と神父に向けて話しだした。

「アハグト子爵、御来訪いただき御苦労様です。 神父ラーテイ、子爵様の御用件は伺いましたか?」
「アハグト子爵の御用件は、ミケイル枢機卿台下とカステレウス大司教台下の来訪の理由とトモヤマ様が水晶の検査で白く光った理由をお聞きになりたいとの事です。」
「解りました。 水晶が白く光った理由についてはステータス表示で国籍と所属地域の登録が為されてなかった事によって起きたとのことです。 犯罪等の容疑が有った訳では御座いませんので御安心ください。 枢機卿台下と大司教台下がいらっしゃった件は聖王国でも半年ほど前に同様な事象が起こったので、その為の確認で来訪されたとの事です。 確認されて、何も問題がないとの事ですので、両台下は当神殿の視察をなされてます。」
「それでは、そちらの男は何の問題も無かったと言う事ですかな。」
 アハグト子爵は俺の方を見ながら、シスターに確認を入れた。

「はい、何の問題も御座いませんでした。 ですが、記憶を失って御困りとの事でしたので、神殿から神父ラーテイを警護役と保護司を兼ねて随行させる事になったのです。 後ほど住民登録の為に役所に登録に同行させる予定でしたのですよ。」
「記憶が無いのですか。 それはお困りでしょうな。 問題が無いとの事ですので我々は引き上げると致しましょう。」 
 そう言うと、アハグト子爵と兵士達は引き返して行った。 拍子抜けするほど素直に引き返して行ったな。 確認の為だけなら配下の者にさせても良かっただろうに。 枢機卿か大司教に直接会えればラッキーくらいの考えで来たのだろうな。 俺はラーテイ神父の側まで歩いて行き、ラーテイ神父を観察していた。 
 ラーテイ神父は黒い祭服を身に纏い、戦闘司祭と言う割には武装しているようには見えず、筋肉粒々なマッチョの体質とは思えない細身な体をしている。 髪は金髪で、年齢は20代くらいの如何にも人の好さそうに見える若者って感じの男だ。  身長は180くらいあるだろうか、俺より高いな。 身長で負けたくらいで悔しいとか思ってないからな!

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「戦闘司祭ラーテイと申します。 私の事はラーテイとお呼びください。 拳闘士スキルと補助と治癒の魔法が使えます。 暫くの間御一緒させて頂きますが、御迷惑にならないように助力させて頂きます。 どうぞよろしくお願い致します。 分からないことが有れば、何でもお尋ね下さい。 私の知り得る事であればお答えさせていただきます。」
「俺は友山健人だ。  記憶が無くて、常識も全く分からない状態だ。 色々質問するだろうがよろしく頼む。」
 俺はそう言ってラーテイに向けて右手を差し出した。 ラーテイはその手を不思議そうに見つめている。 もしかしてグランガイズには握手と言う文化が無いのだろうか。 こういった地球での常識が無意識で出るのは仕方がないが、誤魔化し方も考えねばなるまい。 俺は何事も無かったように右手を引っ込めシスターに謝意を伝え、ラーテイと今後の予定を話し合うことにした。

「まず、何からすれば良いのかな? 住民登録やらをする為に役所に向かうのが良いのかな?」
「そうですね、何をするにしても住民登録はしておいた方が宜しいと思いますよ。」
「それでは役所まで案内を頼む。」
 ラーテイは了承し、俺を先導して歩き出した。

「なぁ、ラーテイ。 戦闘司祭と司祭って何が違うんだ?」
「まず出発点が違いますね。 戦闘司祭は戦闘修道院に入ります。 司祭は通常の修道院です。 通常の修道院では神に祈り、修行しながら労働し経験や知識を得る事が目的です。 戦闘修道院は祈りと身を鍛え、後に聖騎士となるべく修練するのが目的なのです。 戦闘修道院から聖騎士にならず神官への道を歩む者を戦闘司祭と呼びます。 この街には神殿内に小さな修道院も併設されておりますが、戦闘修道院は領都にある大神殿内にしか御座いません。 戦闘司教まで叙聖される方もおられるのですよ。」
 ラーテイは誇らしげに語ってくるが、宗教に興味がない俺からすれば、司教も司祭も変わらないように感じてしまう。
 
「俺に向いている職業って何があるんだろうな。」
「私は分かりかねますが、要はトモヤマ様が何を望まれているかによると思いますよ。 神に仕え、民に奉仕したいなら神職の道へ。 何かを作って自分を表現したいなら生産職の道へ。 戦うことや世界を渡り歩きたいと思われるなら傭兵や冒険者になると言う事も候補にあがるのではないでしょうか。 安定した生活を望むなら役人になると言う道も御座います。 後は‥‥‥その日暮らしで良いと思うのであれば、単純労働者ですかね。」

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自分が何者で何がしたいかなんて考えた事なんてなかったな。 大学時代に暇つぶしで始めた仮想通過取引で儲けを出したのをきっかけに個人トレーダーの道へ進んでいっただけだ。 情報分析が得意だと言う訳でもなく、運の良い男と例えるのが正しいだろう。 俺は数年前からアメリカの某電気自動車や大手IT事業の株に投資して儲けを出して売り抜け、今では細々と趣味で日本の外食関連の株で遊んでいるような状態だ。 趣味は読書程度だし、外出も好まない。 人付き合いも多いほどではないし、散財する要素がない。 多分、今の生活なら50回くらいの人生を繰り返せるほどの資産はあったな。 転移前に住んでいたマンションも俺の名義だし、マンションの家賃収入だけでも俺が余裕をもって何人か暮らせるだけあった。 まぁ、もう無くしたも同然だから意味ないがな。

「トモヤマ様がお持ちの資金の状態にもよりますが、資金が多ければ冒険者や傭兵がお勧めですね。」
「ほう、何故資金の多寡で推薦する職業が変わるんだ?」
「例えば神職や生産職や役人や単純労働者はスキルや魔法の所有数ではなく、熟練度が大事になってきます。 冒険者や傭兵も熟練度も大切ですが、所有スキルや所有魔法によってやれる事の範囲が大幅に変わってくるからですよ。 スキルや魔法を会得するには資金が要ります。 特に中位や上位のスキルや属性魔法は結構お高いですからね。」
「傭兵や冒険者と言うのはどのような事をして金を稼いでるんだ?」
「傭兵は傭兵組合に登録して、組合に登録しているクランに所属するのが大半です。 傭兵のクランは街の役所と契約して街や村の警護や領内のパトロールを受け持っていますね。 罪を犯して街に入れなくなった連中や、冒険者くずれの連中が野盗となり村を襲うことがあるのです。 それを防ぐのが目的ですね。 この街の門番も傭兵クランが任されているのですよ。」
 おやっさん達はこの街の正規兵ではなく傭兵だったのか。 あ、後でおやっさんにも会いに行かないとな。

「冒険者は冒険者組合に登録して、個人や組合の募集で集まった人や特定のパーティを組んだり、クランに所属したりと様々です。 それぞれにメリットやデメリットが御座います。 個人は自分の都合が優先出来ますが、よほどの実力が無いとかなり危険です。 組合で募集をしたり、募集しているグループに参加するのも自分の都合に合わせられるけれど、実力が不釣り合いだったり、信用がどこまでおけるか分からないところがデメリットですね。 特定のパーティを組む場合は自分の都合は優先されないけれど、ある程度信用できる仲間と言う事になるでしょう。 クランに所属すれば組織の一員としての働きを求められますが、一定の所得と新人のときに細やかな指導を得られることです。」

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せっかく異世界に来たんだ。 農民や単純労働をするのは嫌だな。 と言って生産職に就くほど器用でも無ければ発想力がる訳でもない。 もうすぐに戦争が始まると言うのに傭兵なんかになったら、速攻で戦死してしまうかもしれない。
 役人に成れるほど学がやコネがある訳でもないとなると冒険者が一番ということになる。 異世界小説などで冒険者を選ぶ奴が多いのは仕方ないことなのだろう。 特にチート能力など持ってれば当然の帰結だろう。 チート能力で思い出したが2人ほど転生者が居るんだったな。 最高齢でも8才だから戦力にはならんし、知識も古いだろうから役には立たんだろうが能力次第ではある。 優れた能力なら何れ天才児として名前が上がってくるだろう。 頭の片隅にでも記憶しておこう。
 金が無くて冒険者になるならクランに所属するのが良くて、決まった仲間がいるのならパーティを組むのも良し、ある程度懐に余裕が有って、自由を求めるなら募集か個人ってことだな。 おれは集団生活や行動は苦手なので傭兵や冒険者のクランに入るのは無理だ。

「冒険者の収入源となるのは、組合からの依頼とダンジョンの報酬が主ですかね。」
 ダンジョンがあるのか! これは冒険者になるのも良いかもしれない。

「ダンジョンでどのような事が収入になるのかな?」
「通常の収入は魔石と素材です。 モンスターは体内に魔石を持っているのです。 人間でいえば心臓にあたるものが魔石だと言われています。 モンスターが高ランクになれば魔石の大きくなり価値も上がります。 素材はモンスターの肉や部位がお金になります。」
 モンスターがそのまま残るタイプのダンジョンなのか‥‥‥ ゲームみたいに素材と魔石が残るタイプが理想だが仕方ないな。

「稀に宝箱が有り、アーティファクトが出ると品によっては大儲け出来るらしいですよ。 レリックも出たことも有るらしく、手に入れる為なら教団は金銭を惜しまないそうです。 下層に行くほどに魔物も強力になって行き、宝物から出る品も高価になるという話です。 以上の事柄からダンジョンは神の制作物と見られていますよ。」 
 一攫千金などは期待はしないが、普通に生活が出来るほどには収入を得たい。 戦争が始まっても、道を見つけるのにも時間はかかるだろうし、直ぐに激戦になるとは考えづらい。

「そう言えば、魔法を使う時に詠唱しなければならないのかな?」
「私たちが主に使う神聖魔法は詠唱が必要ですが触媒は要りません。 無属性魔法や属性魔法は詠唱は要りませんが触媒が必要になります。 ただ、混乱を避けるために魔法名を発することを義務付けられています。 スクロールを使うのであれば魔力も触媒も要りませんね。」
「触媒って何が必要なんだ?」

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「低位の魔法なら極小魔石~小魔石が必要で、中位の魔法なら中魔石、高位の魔法なら大魔石が必要とされています。 特殊な呪文なら、それに足して必要な素材が増えるらしいです。 私も神聖魔法以外を使う時が有るので、このように魔石ポーチに魔石を入れて持ち歩いてるのですよ。」
 そう言うとラーテイは腰につけてあるポーチの中身を見せてくれた。 ポーチの中には空気銃で使う玉くらいの小さな魔石らしい赤い石とビー玉ほどの赤い石とピンポン玉ほどの赤い石の3種類が入っているのが見えた。 数は小さい石ほど多いようだ。 一番小さいのから極小・小・中の魔石なのだろう。 さすがに高位の魔法は使えないのか大魔石は持っていないのだろう。
「この魔石ポーチは吸収魔法と連動しており、吸収魔法を自分に掛けておけば半日ほどの間はモンスターの死体に手のひらを翳すとポーチの中に魔石を吸収してくれるのです。 冒険者の必須アイテムとも言える品でしょうね。 後でトモヤマ様もお買いになられるが良いでしょう。」
 何それ、便利じゃないか。 ってことは、モンスターの素材もアイテムボックスが吸収してくれるのだろうか? 
「モンスターの素材はどうするんだ?」
「モンスターは解体スキルを使って解体するのが普通ですね。 解体スキルも熟練度が上がれば、高品質で素早く解体できるようになりますよ。」
 うへ、解体は自分でするのかよ。 アイテムボックスは何処に行った。
「素材とか冒険中に邪魔にならないか?」
「上層では素材を得るようなモンスターは出ませんし、中層に行けるほどになるとサポーターを雇う場合が多いです。 下層や深層に行くような上位者はアイテムボックスを使ってるみたいですね。」
 よし、やっと出てきたな、アイテムボックスよ。 じいちゃんの話では普通の道具屋で売ってる品で高価では無いって言ってたはずなんだが‥‥‥
「上位者じゃないとアイテムボックスが買えないほど高いのかい?」
「昔はそれほど高価では無かったらしいのですが、空間魔法で必要になる時空トカゲが200年ほど前に乱獲の末に絶滅しかかって禁猟指定されてから品薄になってるのです。 120~150年ほど前にルクサセス魔法国の稀代の空間使いが人族の持つアイテムボックスを回収し、規格統一を図って再作成したらしく、ほとんどのアイテムボックスの形状は統一され、収容能力にだけ違いがあるそうです。 アイテムボックスは年が経つほどに容量が減るらしく、最大収納量時から年に1%づつ減っていくようです。 規格統一時に再作成されたアイテムボックスは劣化が1/10に抑える魔法が付与されたので、今残ってるアイテムボックスは、その再作成された品か違法に時空トカゲを狩った素材で作られた品しかないですね。」
 レアな状態になってるじゃねぇ~か。

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この巾着は絶対にアイテム収納出来るとバレないようにしないといけなくなったな。 あとで魔石ポーチを買う時にアイテムボックスの形状や容量や値段も見ておこう。

「役所が見えてきました。 あそこの角に見える3階建ての建物が、この街の役所です。 役所で住民登録をしてから今後の事を考えましょう。」
 そう言うとラーテイは速足になり、役所へと向かっていく。 木製の扉は開放されており、中に入ると多くの受付が並んでおり、数人が順番待ちしている状態だった。 そこで俺はある事柄を思い出すことになった。
『俺、字が読めないんだった‥‥‥』

「ラーテイ、住民登録の窓口は何処だ。」
「そこの5番で書類を受け付けてます。」
 ラーテイは右前方にある窓口を指差して答えた。 窓口には順番待ちの列もなく、すぐに受付の女性に話しかけることができた。

「すいません。 住民登録をお願いしたいのですが。」
「お子様の登録ですか? 」
 そりゃそうだ。 こんな年齢で未登録の奴が居るとは思わないもんな。

「いえ、私自身の登録なのです。」
 受付の女性は驚いた表情で、こちらに1枚の紙を差し出してきた。

「あちらの机で、こちら書面に必要事項を記入してこの窓口に提出してください。 文字が読めない場合は代読と代筆しますので御申しつけ下さい。」
「文字が分からないので、お願いできますか?」
「では、ここで代筆させていただきます。 まずはお名前からお聞かせください。」
 名前からか。 確か枢機卿は俺が名乗ったからステータスに名前が表示されたって言ってたよな。 では、名前を変えようとしたらどうなるのだろうか。 日本と戦いになるかもしれないのに日本人名ってのはマズイ気がする。 ラーテイには後で説明したら良いだろうし、ここは本名とは違う名前で登録しよう。 何か良い名前は‥‥特にエルフに好かれそうな名前は‥‥ そうだ、あれで行こう。

「名は『ユグ』で、性は『ドラシル』でお願いします。」
「名前がユグさんで、性をお持ちなのですね。 ドラシルっと‥‥ 次は年齢をお願いします。」
「年齢は28です。」
「定住地か定宿とかは御座いますか? なければ、仕事先や所属組合でも構いませんよ。」
 今日来たばかりなのに、そんな場所は無いって。 どう答えるか迷っていると後ろからラーテイが答えてくれた。

「ユグ様は今朝、記憶を失って草原に倒れていたらしく、鑑定でも何も表示されない状態だったのです。 ですが、神殿の審査で犯罪行為や不審な点が見つからなかったので、教団が素性を保証する事となり私が同行する事になったのです。」
 ラーテイは俺に合わせて偽名で呼んでくれた。

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「でしたら、職業欄も空白と。 では最後に、ここに血を一滴垂らしてください。」
 受付の女性は俺に針っぽい物を渡して、書類の右下の囲いを指差していた。 俺は左手の人差し指に針を刺し書類の上に指を持っていくが血が落ちる気配がない。 仕方なく巾着から短剣を取り出し、指を縦に切って血を垂らした。 すぐに後ろから詠唱が唱え始められ俺の指は切れる前の状態に戻っていった。 こいつ結構、過保護なのだな。 と思いもしたが素直に謝意を述べておこう。

「職業を決められたときに、個人事業などをされる場合は税金の兼ね合いも御座いますので、あちらの1と2番窓口で登録していただくことになります。 組合などに加入された場合は登録した組合から税金を差し引かれますので、こちらでの登録は結構です。 あと何か分からないことが有れば 入り口横の総合受付でおたずねください。」
 まぁ、名前とレベルしかないのだから、これくらいしか書くことはないだろうしな。 俺はラーテイを引き連れて役所を後にした。 役所から出ると向かいに役所の倍ほどの大きさの建物が目についた。

「あの大きい建物も街の施設なのか?」
「あの建屋は転移施設ですね。 街中ではあの施設以外で転移を行うことが許されてません。 この街の転移門は19個あり、1個は領都ケルゼンで、残り18個はこの街の開拓村に通じてます。転移門は対でしか使えないので限定して置くことになります。 街は領都と開拓村、領都は王都と各街、王都は各国と各領都と繋がる転移門を置いているのです。 施設には、それとは別に個別の転移部屋が御座います。 あと冒険者が増えたことで、この施設とダンジョンを繋ぐ転移門の設置が検討されていますね。」
 ラーテイは一息入れて、話を続けた。
「そうですね‥‥‥ 今日来られた枢機卿台下の来られた順を例に挙げると分かりやすいでしょうか。 枢機卿台下は聖都の転移門からエルテルム王都の転移門へと転移され、王都から領都ケルゼンに、領都からアハグトの転移門に、転移部屋から神殿の転移部屋まで来られたのですよ。」
「では、帰りは神殿の転移部屋からここの転移部屋に転移するんだな。」
「いえ、この施設の転移部屋は片道で転移する場所であって、転移で来ることは出来ませんよ。 街中の施設や個人の転移に対応してしまうと、同時に転移場所が重なり事故の原因になりますからね。 転移門以外でこの街に転移してくる場合は門の外の安全な場所に転移板を埋めておくのです。 転移板は厚みの1cmの50cmほどの正方形ですので、埋めるときに先に転移版がなければ設置しても良いことになってます。 他人の設置版を動かすことは犯罪になりますので覚えていてくださいね。」
 そりゃそうだ。 同じ場所に同時に転移してきたら事故になるわな。

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「役所の隣の建物は何の施設なんだ。」
「あの建物は人材斡旋所ですね。 自分や家族を売ってお金を借りた人や、借金をして返せなくなった人、軽犯罪を犯して神殿で審判で罰を受けた人が隷属魔法をかけられて斡旋されてる場所ですよ。」
 やっぱりあるんだ、奴隷制度。 奴隷とは言ってないが、システムは奴隷と同じだもんな。 現在日本で育った俺には人権の関係上忌避感はあるが、ラーテイが居なければ利用も考えたかもしれないな。

「人材斡旋所は国で運営されており、人材は国が一括管理しています。 基本、治安が良い国や地域では人材不足に陥りやすく、治安の悪い場所から仕入れることになります。 アハグトの街周辺は発展途上で治安も良いので、需要が高く供給が低いのです。 エルテルム王国全体も需要が高く、供給が低いので他国から人材を入れてる状態です。」
 発展しているなら、仕事も選べるし金に困ることも少ないだろうな。 需要が勝ってると言う事は単価も高いってことだろう。 まぁ、よほど困らない限り利用することはないだろう。 全ての施設を聞く訳にはいかないし、いずれ必要な時に尋ねれば良いだろう。 では、何処へ向かうとしようかと考えていると
「何故、違う名前で登録されたのですか?」
 早速尋ねてきやがったな。
「今は言えないが、今後言える時が来ると思う。 ラーテイは俺の事を誰に報告することになってるんだ? リーリアス神父か? それともケッセル神父、もしくはカステレウス大司教かい?」
「基本は長司祭リーリアスに報告することとなりますが、何か不満な点でも御座いますか?」
「間に誰も通さずにミケイル枢機卿に連絡が取れるなら、明日の夕刻に重要な話が出来るかもしれないと思ってね。」
 
 ラーテイは少し考えた後に
「独自のコネクションは御座いませんが、私の師である大神殿の戦闘修道院の体術の師範を経由すれば枢機卿台下と連絡が取れると思います。」
「では、その時にでも話すとしようか。 腹も減ったし飯でも食べないか?」
 朝に簡易食料バーを食べてから何も食べてなかったからな。 この世界も食は3食取るのだろうか。物価も気になるし、街の食文化も気になる。 

「それでは、冒険者組合の近くに『安い・美味い・多い』と評判の店が有るので、そこで食事を取りましょうか。 ユグ様は資金はお持ちなのでしょうか? 我々教団は貸金業も商っておりますので御融資できますよ」
 この世界でも宗教が金貸しやってるのかよ。 日本も昔は寺社が金貸しやってたと言うし、その制度のせいで寺社の権力が大きくなったと書いてあったな。

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「長司祭リーリアスからユグ様には無制限で融資しても良いと許可頂いておりますので、気軽に御申しつけ下さい。」
「利息は有るんだろう?」
「御座います。 利息は月に1割と法で決められています。」
 単利か福利かは分からないが、単利だとしても年利換算で120%かよ。 一昔前の街金でもそこまで高くなかったぞ。

「大丈夫だ。 巾着の中に硬貨入れが入っていてな、資金には問題ないと思う。 足りなくなったら、頼むかもしれないから、その時はお願いするよ。 物価が分からないので、どの程度持つか分からないんだけどな。」
「一般的な初級の冒険者の1日の生活費で例えますと、宿泊費は組合施設の大部屋なら1人銅貨3枚です。ここは人気ですので空きは無いことが多いです。 安宿の大部屋なら1人銅貨5枚です。 大部屋は個人で使うと問題が起こることも多いですのでパーティーで借りる人優先されています。 宿には2人部屋と個人部屋も御座いまして、2人部屋が1人大銅貨1枚です。 個人部屋なら大銅貨2枚ってところが初級冒険者の宿泊費です。」
 宿泊費を考えると大銅貨が千円と考えれそうだ。 硬貨入れには銅貨が3種類、銀貨が2種と金貨が入っていた。 大銅貨が千円で銅貨が百円と考えられる。 残りの銅貨と銀貨と金貨の価値も聞いておこう。 

「銅貨と大銅貨の他にどのような硬貨があるんだ?」
「小銅貨10枚で銅貨になります。 そこからも10枚単位で価値が上がっていって、小銅貨➡銅貨➡大銅貨➡銀貨➡大銀貨➡金貨➡大金貨となっております。 大金貨などは大商店や国家や組合くらいしか扱ってないでしょうね。 神殿関係者でも見たと聞いたことが御座いません。 司教クラスになれば扱うこともあるでしょうが‥‥」
 金貨も2種類あったのか。 小銅貨が10円で小銀貨が1万円、銀貨が10万円、金貨が100万円、大金貨が1000万円ってことか。 そりゃ大金貨は入ってないはずだ。 詳しくは数えてないが金貨は10枚以上入っていたはずだ。 1000万もあれば普通の生活でも2~3年出来ると言うのは、爺ちゃんの言う通りだったな。

「月に1割と言っていたが、ひと月は何日で1日は何時間なんだ?」
「ひと月は30日で1日は24刻です。 1年には12の月が御座います。 今は8の月の4の週の土の日です。」
 ガキの言っていたことは正しかったな。
「土の日とは?」
「1週間には7日御座いまして、1日から大、光、火、水、風、土、闇の順で日数が過ぎて、8日目からまた大から数えるのです。 ですので、大と光は月に5回有ります。」
 なるほど、今日は8月の27日だということなんだな。 地球とは1年で5日の誤差ができるのか。 そのような事を話しながら歩いていたら、ラーテイがある店舗と思われる建物の前に立ち止まった。

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「ここが先ほど話していた食堂です。 そして、あそこに見えるのが冒険者組合で、その向かいが傭兵組合ですよ。あと、近くに商人組合や生産組合の建物も御座います。 この辺りに組合が集まっているのです。」
 ラーテイは少し向こうに見える建物を指差しながら説明してくれた。 昼過ぎだからだろうか、店の前も大通りも組合周辺も、それほどの混雑している様子はない。 スマホは巾着の中だから正確な時間は分からないがな。 ラーテイは木製の扉を開け中に入って行った。 俺もそれに続き中に入って行く。 中はテレビで見るような社員食堂といった感じで横長の木製の机に両側に木製の丸椅子が5個づつ並んでいた。 そのような机が横5列、縦10列ほど並んでいる。 見た限り座席は1割~2割しか埋まっていない。 しかも、飯を食ってると言うより酒を飲んで話してくつろいでるように見える。 まぁ、何処の世界でもこういう人間はいるよな。 ラーテイは誰も掛けていない机の座席の前まで行き俺を座席に案内してくれた。

「こちらで頂きましょう。 今回はユグ様の登録祝いとして、支払いは私が持つのでお好きな物を注文してくださいね。」
 ラーテイが奢ってくれるらしい。 好きな物を頼んで良いと言ってくれたが、メニューも読めないし、どんな食べ物が有るかさえ分からない。 かつ丼って言ってかつ丼が出てくるとは思えないしな。
「俺はどのような品が有るか分からないから、ラーテイと同じで良いぞ。」
「では、肉・魚・野菜のどれがお好きですか?」
 その中でなら肉なんだが、この世界の肉って何の肉なんだろう。 魚も不安だな。 といって野菜はあまり好んで食べてこなかったからな‥‥‥ 郷に入っては郷に従えと言うし、ここは肉を頼んでみよう。 
「肉が好きだから、肉料理を頼めるかな。」
 ラーテイは店員を呼ぶと、焼肉の定食らしいも者とワインを頼み、その場で大銅貨2枚を支払っていた。

「あ、お飲み物はワインにしましたが宜しかったでしょうか? ワインが飲めないのであればエールに変えることも可能ですよ。」
 どっちにしても酒類じゃねぇ~か。 昼間から酒を飲むって言うのは日本人として違和感があるよな。

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「いや、ワインで良いよ。」
「それは良かったです。 私は宗教上の理由からエールを嗜むことを禁じられているのですよ。 無料で水を頼むことも出来るのですが、食材の品質や接客態度や提供時間に影響が出ますのでお勧めしません。」
 注文するものによって店の応対が変わるのか。 忙しい時間帯ならまだしも、このような空いてる状況なら目立つだろうしな。 それに祭服を着てるような人物がケチだと思われるのを避ける意味もあるのだろう。 暫くすると300gは有ろうかと思える肉の塊が乗った木製のプレートが2つ運ばれてきた。 続いてワインが500mlほど入ってそうな木製のジョッキ2つと、こぶし状の大きさの黒パンが4つ入った木製のボール状の入れ物が運ばれてきた。 

「この量で1人で大銅貨1枚なのは安いんだろうな。」
「そうですね。 この焼肉のセットで銅貨5枚でワインが銅貨5枚なのはお安いですよ。 エールなら同じ量で銅貨2枚で済みますからね。」
 この焼肉セットが日本円で500円だと! 確かにプレートの上には野菜やポテトなどの付け合わせもない肉だけだが、硬いパンだけど、2個もついてるので安すぎる。 日本で食べたら安くとも2千円くらいするのではないだろうか。 食べ物に対して、ワインはちょっと高く感じるが、日本と比べると相場より少し安いのと思う。 日本での生活に慣れていると代金の先払いに違和感があるが、地球にも先払いな地域も多いらしいからな。 少しの雑談を交えながら食事を取り終え食堂を後にする

「次は何処に参られますか?」
「そうだなぁ、冒険者組合で登録して行くか。」
「冒険者をお選びにになられましたか。 冒険者は金と意欲と運が大きく影響する世界ですが、ユグ様なら大丈夫でしょう。 もちろん、どの職業も力量が要るのは変わりませんから。」
 一番目に金が出てくるあたりにスキルと魔法の重要性を感じるな。 食堂を出て2分ほど歩いた先にある、食前に指差した建物に入っていった。

「あのカウンターが登録受付の窓口です。」
 今回はラーテイは文字の読めない俺を気遣い、聞く前に察して誘導してくれる。 さすが優秀とリーリアスが押すだけはある。 受付にいる女性に声をかける。

「冒険者の登録がしたいのですが。」
「それでは、こちらにある水晶に手を置いてください。」
 水晶の上に手を置くと、水晶からクレジットカード状の鉄の板が出てきた。 受付嬢はそのカードを手に取りカードを俺に差し出しながらたずねてきた。

「ユグ・ドラシル様で間違いございませんか?」
「ああ、そうだ。」
 早速、ユグの名前で登録されている。 俺のステータス情報の名前がユグに固定されたっぽいな。

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「冒険者の必要事項はこの冊子に書いてありますのでご確認ください。 これから最低限の決まりを説明します。
・獲得した魔石や素材は組合を通さずに売ってはいけない。 
・税率は30%で換金時に差し引かれる。
・ランクにより任務期間と魔石の収集義務が生じる。 未達成時はランクが1つ下がる。最低ランクで未達成なら除名も有り得る。
・公共施設内での問題行動は組合からの除名も有り得る。
・組合を通さないパーティーを組んだ場合、問題が生じても組合は責任を一切負わない。
 この規則に従う事に納得されたなら、そのまま了承の意を宣言してください。」
「誓う。」
 俺が宣誓するとカードが発行し、銅色に変化していった。

「これでユグ様は銅ランクに登録されました。 ギルドカードは『ギルドカード収納』と発言すれば体内に収納され、『ギルドカード出現』と言えば出現します。 『ステータス表示』とカードも手に持ち発言すると、カードから情報が見れるようになります。 銅ランクは月に3000個の極小魔石収集義務が生じます。それ以外の指定任務は御座いません、 期限が切れる5日前にカードに書かれたランクの色が今の銅色から黄色に変わります。 期限が切れる色が赤に変わりカードの機能は停止されます。 再発行も可能ですが、お預かりしている硬貨や品は消失したことになります。 カードの再発行には銀貨1枚が必要になりますのでご注意ください。 3000個以上納品されますと貢献ポイントが上昇しますので、頑張って多く納品してくださいね。 貢献度が規定値を超えるとランクアップします。」
 カードが体内に収納されるのは無くすこともないだろうし、すごく便利だな。俺は最低ランクだから即停止なのか。 銀貨1枚での再発行は最低ランクの冒険者にはきついのではないだろうか。 最低ランクで義務も果たせないような人物は要らないと言う事なのだろう。 俺は受付嬢からカードと冊子を受け取った。

「冊子を読まずに捨てられる方も多いですが、色々有益な情報も載ってますので一読されることをお勧めします。」
 と言っても、俺は読めないんだがな。 ラーテイに読んでもらったら有益な情報は言ってくれるだろう。 受付嬢に礼を述べ組合から出て行った。

「スキルと魔法を習得したいんだが、この場で可能なのか?」
「いいえ、司教以上でないと簡易祭壇を携帯することが許されてませんので、教会の祭壇で行うことになります。」
「では近くの教会に案内してくれ。」
 ラーテイはおれの言葉を聞くと先ほど通って来た大通りを神殿の方へと歩を進めた。

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「冒険者のランクってどのようになってるんだ?」
「一番下が銅ランクで上が鉄ランク、その上が銀ランク、その上が金ランク、その上がダイヤランク、最上がミスリルランクですね。」
 ラーテイは歩きながら冊子を見て答えてくれた。 やっぱりあるのか魔法金属。

「ランクアップの条件はどうなっている?」
「銅ランクの場合ですと、毎月3000個の極小魔石の義務納品の他に納品すれば、貢献度が100個に付き1pt加算されるようです。 1000pt貯まれば鉄ランクへと昇級できます。 極小魔石は100個単位での納品が可能であり、単価は1個小銅貨1枚で換金時に税金として30%引かれると書いてあります。」
 毎日最低の100個づつ納品したら、銅貨7枚か。 ギルドの宿泊施設で3枚、宿の大部屋で5枚使うと食費が2~4枚で生きていける計算なのかな。 倍の200個づつ納めれば月に30p貯まり3年ほどで昇級できるのか。 ひと月で10万個余剰に納めれば即ランクアップできるのか!  確か硬貨入れに金貨10枚以上あったから、即ランクアップ可能だな。 ランクアップしても残金が乏しくなるだろうからやらないがな!

「ラーテイも自分で魔石は取りに行ってるのか?」
「いいえ、国に登録してる住人は成人を過ぎると、月に100個の極小魔石が配付されるのです。 組合に所属してるなら組合で、所属してないのであれば町や村の役場で受け取れます。 道具屋でも魔石は購入できますが小売価格が組合の買い取りの2倍の金額になっています。 今回は随行中に補助魔法や回復魔法を使用すると思われるので、教団から小魔石も特別に配付されております。」
 買うと金額が倍になるのかよ。 そりゃ、組合以外で売ると罰がある訳だ。 住人に配るとなると、そりゃノルマを課せて集めないといけない訳だ。即ランクアップが金貨2枚になったな。 どっちにしろ、やらないがな!

「犯罪者や納税しない人には配付はされませんが、納税義務を果たしている限り、微小魔石が所持していていれば飢え死ぬことは有り得ないので安心してください。」
「一般市民でも魔石は売ることができるのか? 出来たとしても銅貨10枚で1カ月は生活できないだろ。」
「魔石は冒険者や傭兵以外が組合などに売ることは出来ません。 ですが、極小魔石で使える生活魔法を使えば最低限の飲食は出来るので生きてはいけます。」
 そのような魔法があるのか。 確かガキが生活魔法は1つに付き大銅貨1枚で買えるとか言ってたな。 大銅貨1枚で済むのなら村の住人でも数種類は持つことができそうだ。

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「基本の生活魔法の基本6種は最低でも取った方がよろしいですね。 あとは戦闘スキルも欲しいですね。 ダンジョンに潜るなら、低階層で魔法は金銭効率が悪いので、武装した方がよろしいですよ。」
「生活魔法6種って、どのような魔法なんだ?」
「生活魔法について説明させて頂きます。 
 1つは『水創造』です。水創造を使うと最大1樽分の水を生み出すことが出来ます。 樽の容量は教団によって決められておのり人類共通になっております。 最大量以下なら自分が思う量を調整できます。
 次は『食料創造』です。 食料創造を使うと固形の食料が現れます。 無味無臭ですが空腹感は抑えられ、栄養価もあるらしいです。 が、好んで食しようとは思いませんね。
 次は『照明』です。 一定範囲を一定時間、明るくすることが出来ます。
 次は『修理』です。 消耗した物品をある程度補修できます。
 次は『清浄』です。 汚れや不浄な物質を粉上の物質に変化させます。 この粉上の物質は集めて月に1度、役所に提出する義務が御座います。 
 最後が『身体強化』です。 身体強化は属性魔法にも御座いますが、生活魔法の身体強化は1刻の間、体の1部だけ強化することが出来ます。 『瞬動』の魔法とも親和性が無いので加速力が無く戦闘では使えないと思います。 足の速さで言うと最高速度は同じでも生活魔法は徐々に加速していき、属性魔法+瞬動なら一瞬で最高速度に達します。 強化時間も半日になりますの、で戦闘中に切れる恐れもないのです。」
 なるほど、生活魔法の身体強化は速く距離を移動したいときや、重い物を運びたいときに使えるのであって、戦闘で素早い動きや強力な攻撃をするには向かないのか。 だからこそ、 生活魔法なんだろうけどな。 水も食料も生み出せるなら、最低餓死が無いのはうなづける。 照明や修理も言葉のままだろう。 問題は清浄だ。 汚れや不浄な物質を粉に変える? 想像だが、体で言えば垢や便を粉にして、部屋の汚れや食器等の汚れも粉に出来るのだろう。 

「何故、清浄で出来た粉を役所に納めないといけないんだ?」
「清浄で出来た粉は、上質な肥料や飼料になるのですよ。 農家は、その粉が無いと作物や畜産物の量や品質が大きく低下するそうです。 国としても直接的に収入が増えますし、作物の質と量が上がれば間接的に税として収入が増えるのです。 極小魔石100個と粉末を交換すると考えても良いですね。」
 確かに理に適ってるな。

「ここを曲がれば、すぐに教会が見えますよ。」
 そう言うと、ラーテイは辻を曲がり大通りの半分ほどの幅の道へと歩いて行った。 するとすぐに。右前方に大きな協会が見えてきた。

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「神父カルモイ、祭壇をお借りしますよ。」
「神父ラーテイか。 君が同行者として選ばれると言う事は重要人物なのかね?」
「詳しくは語れませんが、一般人らしいですよ。」
「ほう、訳アリなのですかな。 では、詳しくは聞きますまい。 自由にお使いなさい。」
 ラーテイはカルモイと呼んだ神父に一礼をすると礼拝堂を祭壇に向け歩き始めた。 俺もカルモイ神父に一礼し、ラーテイに着いて行った。

「ユグ様、生活魔法は取得されますか?」
「なぁラーテイ、そう訊ねるってことは義務じゃないんだよな。では、清浄の魔法を取得しなかったら粉末が出来ないよな。 そうなれば納品できなくならないか?」
「身近な者に魔法をかけてもらえば良いのです。 家族に1人居れば問題は有りませんし、代価を払って頼むことも良いでしょう。 国が定める最低物納量さえ超えれば問題ないので、粉末事態を売買している輩も居るらしいです。 勿論、そういった事が発覚すると罰せられますよ。」
 家族単位で考えたりグループ単位で考えて取得することにより節約も出来るんだな。 俺は大学生活からずっと1人暮らしだから、そう言った観点は無かったな。 安い物だから念のため全部取得しておくことにしよう。

「生活魔法は全部取得することにするよ。」
「それがよろしいかと。 それでは『ステータスオープン』と唱えていただけますか? 私の鑑定からでも付与は可能なのですが、冒険者や傭兵のギルドカードからステータス情報を出しますと、その個人の特性が高い魔法やスキルが変化して見えるのです。 鑑定なら使えるスキルや魔法が表示され、使えないスキルや魔法の場所は空欄となりますが、ギルドカードで表示された場合、使えないスキルや魔法が空欄なのは変わりませんが、後に取得可能になる可能性がある場合は赤で、熟練度が上がりにくい場合は黄色で、通常は黒で、上がりやすい場合は青で表示されるので、取得する際の参考になると思われます。 あ、スキルカードを現出させなくても大丈夫ですよ。」
 すごく親切な仕組みだな。 神様はグランガイズの民を甘やかしすぎではないだろうか。 最初の放置し失敗して滅んだのが心の傷になって、甘やかしたんだろう。 甘やかしすぎに気づいて、地球ではまた放置気味になってると。 両極端なんだよ。 そして、どっちのほうが良いのか戦わせて決めると。 まぁ神様の考えってのはそんなものなんだろうな。

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「『ギルドカード出現』」
 ギルドカードを顕現させた俺を見てラーテイが不可解そうに見つめている。

「ギルドカードを一度も出したことが無かっただろ。 練習を兼ねて出してみたんだよ。」
「なるほど、出されたことが無かったのですね。 それは一度試しておいた方がよろしいです。 私も配慮が足りてませんでした。」
「気にするな。 こんな事は通常在り得ないだろうからな。 それでは『ステータスオープン』」
 呪文を唱えると、眼前に俺が転移前に使っていた21インチのモニターのようなステータスウィンドウが浮かび上がり、そこには文字が羅列されていた。

「珍しいステータスウィンドウですね。 通常はこれ位の正方形なのですが。」
 ラーテイはそう言いながら、指でか大きさを象って見せた。 これは俺がパソコンのモニターを想像して呪文を唱えたから、このような形になったのかもしれない。 何も考えなくて呪文を唱えれば、ラーテイの言う形が基本形として表示されるのだろう。

「通常は先に献金を頂くのですが、ユグ様は金銭保証を教会をしておりますので後払いで大丈夫です。 それでは、生活魔法から付与します。 『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』 あれ? 7種類ありますね‥‥‥ 解読と言う魔法が新たに載ってます。 しばらくお待ちください。」
 ラーテイは呪文を唱え、ステータスウィンドウもある箇所を指で押すと新たに浮かび出た7種の文字を見て戸惑っている。
 
「『世界を照らす光の神よ、我に真実の理を映し出したまえ。自己鑑定。』 私にも赤色ですが解読の魔法が現れてます。 これはどう言う判断したらようのでしょうか‥‥‥ 字から意味するところは読み解くってことですが。 少し席を外させて頂きます。」
 そう告げるとラーテイは礼拝堂を出て奥の方に入って行く。 俺はステータスウィンドウを眺めていたが、文字が読めないので配色を見ていた。 全体的に黄色が多いな。 次に青と黒が多く、赤色は少ないな。 人間種は使えるスキルが多いと南井爺ちゃんも言っていたからな。 読解の魔法で文字が読めるようになるとすれば、自分で取りたいスキルや魔法を探すことが出来るようになる。 選択肢が増えるのは嬉しい限りだが、ラーテイが同行してくれている期間は実践を踏まえつつ取得する魔法やスキルは最小限に抑えよう。 無駄に最初から多く取得しても使いこなせるか分からないし、どれほど稼げるかも分からないのだから節約はしないとな。
 15分ほど経つとラーテイが先ほどのカルモイと呼んだ神父を含む7人の神父を引き連れて戻って来た。

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「ユグ様、お待たせしました。 こちらの7人はこの教会を管理している司祭です。 奥で皆を鑑定したのですが、私以外は解読魔法は現れてませんでした。 ユグ様に魔法を取得していただき、魔法の効果を皆で識別させてもらって新種魔法に登録させていただきたいのです。 私が取得できれば良かったのですが、赤色なので取得条件が満たされて居ないようなのです。 報酬は生活魔法全種無料と属性魔法とスキルを1個づつ無料とさせていただきますがいかがでしょうか?」
 取得する予定の魔法が無料な上、属性魔法1個とスキル1個が無料なのか。 それなら見世物になるくらいはお安い物だ。 7人の神父達は俺のステータスウィンドウを見ながら、変わった形だとか確かに解読の魔法が有るとか口々に語っている。

「ああ、問題ない。 」
「それではユグ様、解読の魔法を附与します。 『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』」
 ラーテイはそう言うと、俺のステータスウィンドウの一部に指を触れる。  触れた先に有った文字が消えた。

「ユグ様、解読の魔法は付与されました。 教団から微小魔石を100個譲渡いたしますので、早速使っていただけないでしょうか。 解読と唱えれば発動するはずです。」
「解読」
 呪文を唱えると、ステータスウィンドウに書かれている文字が理解できるようになった。 見たことはない文字なのだが理解できるのだ。 すごく不思議な感覚だな。

「字が読めるようになったな。」
 俺はラーテイに起こった事をありのまま伝えた。

「それだけで御座いますか? 他に何か変わったことは御座いませんでしょうか?」
「今のところ、他には何か変わったようには思えないな。」
「そうですか。」
 ラーテイはそれだけ言うと神父達と共に礼拝堂を出て行った。 これは予想だが、ラーテイに解読のスキルが赤文字で現れたのは俺が日本語で会話しているのではないだろうか。 グランガイズは言葉が共通だと南井爺ちゃんが言ってたが文字も共通なのだろう。 ならば解読のスキルなんて意味がないと思うだろう。 だが、戦争が始まったら地球の知識を得るために地球の文字が読めると便利なはずだ。 ただ、赤文字が取得可能な黒文字に代わる条件が分からないけどな。
 取り合えず、文字が読めるようになったんだ。 ステータスを確認しないとな。

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名前 ユグ・ドラシル 年齢 28
種族 人族 性別 男 
第1職種 冒険者 LV1 銅ランク 
冒険者職種 ーー LVーー  ーー LVーー

体力(HP)10 
魔力(MP) 15
技力(SP)10 

筋力(STR) 3
器用(DEX) 5
持久(VIT)4
敏捷(AGI)5
知力(INT)7
精神(MND)4
幸運(LUK)7

所持スキル 
ーー
所持魔法  
生活魔法 解読

魔法効果継続 生活魔法・解読

 これが俺のステータスか。 パラメータから判断すると魔法使いタイプだな。 それに冒険者職種ってなんだろうか。 一番下には魔法効果継続に解読と書いてあり、その横にガキが持ってた魔法時計の絵が載っていて数字が11で1色目が流れている状態だった。 
 パラメーターの下にスキルと魔法の一覧が載っていた。 1個づつ無料で貰えるらしいので今のうちに選んでおこう。
 まずは武器スキルからだな。 スキルは全部黒色の文字だ。 武器は短剣を持ってるので、それを活かして剣術を取るべきか‥‥‥ だが、後々は魔法がメインになることを考えると杖術を選ぶのも良いかもしれないな。 これはラーテイと相談して決めるべきだな。
 生活魔法は全て取るとして、無属性魔法は他に防御魔法、補助魔法、回復魔法、時空魔法、召喚魔法があるらしい。 補助・時空魔法が黒色文字、防御・回復が黄色文字、召喚魔法が青入文字だった。 属性魔法は火、水、風、土、光、闇の6種で光と闇が赤文字で、残りは黒文字だった。 魔法は召喚魔法、君に決めた! 値段によっては自腹でいくつか取得しても良いかもしれない。 
 その様な事を考えているとラーテイ1人だけが礼拝堂にに戻って来て、再び俺のステータスウィンドウを覗き込みながら話し始めた。

「先ほど、ここに居た7人の神父にも赤文字で解読の魔法がステータスウィンドウに出現しました。 あと、掌院ケッセル、神父リーリアス、シスターマルレシアにも赤文字で出現したようです。 今、掌院ケッセルが枢機卿台下と大司教台下と随行した聖騎士2人にも確認している最中です。 もう、神殿から戻られた後なので、明朝の定時連絡時に確認の報告が来るそうです。 これでユグ様と会話した人物に出現するのか、ユグ様の会話を聞くだけで出現するのかが分かります。 あとは発動条件が分かれば魔法辞書に新魔法として登録されます。 発動条件が分からず1に年が過ぎるとオリジナル魔法として登録されます。」
 発動せずに俺だけが使えるならば、確かにオリジナルだな。

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「それでは続いて生活魔法を付与していきます。 『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』」
 ラーテイが呪文を唱えると、ステータスウィンドウの魔法欄の生活魔法の横に書いてある『水創造』『食料創造』『照明』『修理』『清掃』『身体強化』の文字に次々に触れて行くと、触れたと同時に消え、俺のステータスパラメーターの生活魔法の横に浮かび上がってきた。 取得すると一覧から俺のステータスパラメーターに移動するんだな。

「ユグ様、無料で付与を希望するスキルと魔法は決まりましたか?」
「一応決めたんだが、ラーテイの助言を聞いてから確定しようと思ってな。 まずは武器スキルなんだが、俺は短剣を持ってるから剣術を選ぶべきか、何れ魔法を主体に考えると良いスキルが他にあるのか聞きたい。」
「魔法主体の攻撃を考えるとしても、低階層では費用対効果で武器のみで戦うことになると思われます。魔法使いを目指す人は杖術や拳闘術を取得する人が多いですね。 トレントと言う魔物の素材で作った杖には、魔法の威力を上昇させる効果があるので人気です。 何故拳闘術が人気が有るかと言うと、基本魔法使いは新たに魔法を取得するために貯蓄したり、魔法に魔石を使うのでお金が貯まりません。 武器を調達したり、買い替えたりする資金に余裕が無いので武器を持たない拳闘術が選ぶ者が多いのです。」
 ここでも資金の差が出るんだな。 資金には余裕があるし、武器スキルは杖術にしよう。 

「武器スキルは杖術にする。 魔法は召喚魔法にしようと思ってる。」
「召喚魔法ですか。 人族で召喚魔法が青文字や黒文字の人は滅多に居ないのですよ。 黄色や空白な人が大半なので、私には判断は付き兼ねますね。 青色と言っても熟練度の上昇には幅が有るのを留意してください。 他の人より熟練度上昇が微小に多い場合も有れば、2倍、3倍と言う場合も御座います。 知り合いに召喚魔法を取得している人が居ませんので助言は出来ません。 大成している人物でも召喚魔法の使い手は居ないように思われます。 どちらかと言うと、上位の亜人や上位の魔族が持ってるイメージが強いですね。」
 まぁ、常人より上りが良いなら問題ないだろう。 俺は近接戦闘には向いてないと思うので、召喚した生物に期待したい部分もある。 所詮は無料で手に入った魔法だと割り切れば良い。 使えない魔法なら属性魔法の4種のうち、どれかを取得すればいいさ。

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「それで構わない。」
「『世界を照らす光の神よ、彼の者に力を与え給え』」
 ラーテイは武器スキルの杖術の文字と無属性魔法の召喚魔法の文字に触れる。  俺のステータスパラメーターの所持スキルに杖術の文字が浮かび、所持魔法の生活魔法の下に召喚魔法の文字が浮かび上がった。 先ほどの生活魔法を取得したときには取得した魔法の文字が消えたのだが今回はそのまま残り、その文字の横に新たに文字が浮かび上がってきていた。 杖術の横には黒文字で『杖波』、赤文字で『強打』と『魔法威力増加』、召喚魔法の横には黒文字で『魔物召喚』、赤文字で『精霊召喚』、『悪魔召喚』が浮かび上がってきていた。

「一覧に新たに文字が浮かんで来たんだが‥‥‥」
「説明をしてませんでしたね。 杖術を取得すると杖を使って戦闘すると熟練値が上がり、熟練値が一定数値まで上がるとレベルが上がります。レベルが上がると扱いが上手くなり、一定数値まで上げると左の赤文字の付随スキルが開放されていき青、黒、黄文字に変わっていきます。 そうなったら取得が可能になり、ここで付与を受けることが出来るのです。 召喚魔術の場合は『魔物召喚』を取得しないと魔法が発動しませんね。 祭壇の上に猪得に必要な献金表が御座いますので参考にして下さい。」
 別料金が要るのかよ、最初に言ってくれよな! 俺は文句を言いたい気持ちを抑えつつ祭壇の上にある献金表とよばれる紙を覗き込んだ。 無属性魔法の生活魔法自体は無料で各6種は大銅貨1枚で、防御魔法、回復魔法、時空魔法、召喚魔法は大銀貨1枚、補助魔法は銀貨5枚、属性魔法の火、水、風、土魔法が銀貨5枚で光と闇魔法が大銀貨1枚と書いてある。 俺が取得した召喚魔法の付随魔法は『魔物召喚』が大銀貨1枚、『精霊召喚』が金貨1枚。『悪魔召喚』が大金貨1枚と書いてある。 属性魔法もそれぞれ初級と中級と上級に分かれており、初級が2種類、中級が2種類、上級が1種類有るらしい。 初級の安い方でも銀貨5枚で高い方は大銀貨1枚である。 上級魔法なんて大金貨1枚だと! 資金が潤沢な奴にしか取得できないだろうな。 これで魔法を使う度に触媒として魔石を使うのだから、専業魔法使いはお金が無いとやっていけなんだろうな。 杖術は銀貨3枚で『杖波』が銀貨5枚、『強打』が大銀貨1枚、『魔法威力増加』が金貨1枚だ。 こちらも武器や防具も買わねばならないので初期投資に金はかかる。 本当に冒険者や傭兵は仕事として成り立っているのだろうか。

「なぁ、ラーテイ。 これだけ資金が要るなら冒険者や傭兵になるのは難しいのではないか?」

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「銅ランクの冒険者はスキルや魔法なんて持ってませんよ。 格安の武器や強化靴だけでダンジョンに潜って魔物を狩り、生活費を稼いでるのですよ。 冒険者の3割強が銅ランクで、その多くの者が生涯を銅ランクで終えるでしょう。 向上心が有るものは鉄ランクに1~2年ほどで上がりますからね。 冒険者の4割ほどが鉄ランク、2割ほどが銀ランク、数%が金ランク、ダイヤランク以上は1000人も居ません。 鉄ランクに上がってから中階層に潜るようになるまでに、武器スキルや魔法のメインと付随を取得できる資金を貯めるのが一般的ですね。」
 低階層に居る魔物は、よほど弱いようだ。 定番のスライムなのだろうか。 最近の異世界ファンタジーではスライムをテイムして従魔にするのが流行りだが、テイムスキルは無かったな。 召喚で出てきたら従魔にして愛でようではないか! 折角、召喚魔法を取得したのだから『魔物召喚』も取得しておこう。 杖術の『杖波』もついでだから取得しておくか。

「『魔物召喚』と『杖波』を取得するよ。 他に取得したら良いと思うスキルか魔法はあるかな? それと、この『魔物召喚』の文字の横にある○5とは何だ?」
「取りあえずは、それだけで宜しいかと思います。 その記号は『*』が微小魔石 『○』が小魔石 『◎』が中魔石 『●』が大魔石が必要と言う事で、数字は必要な個数です。」
 魔物召喚には小魔石が5個必要なのか。 どれくらいの時間召喚できるか、何を召喚できるかによって使い勝手が変わるな。

「では、お願いする。」
 ラーテイは例の呪文を唱え俺のステータスウィンドウの『魔物召喚』と『杖波』に触れる。

「そう言えば、冒険者職業って何のことだ? 2つもあるようなのだが。」
「ステータスウィンドウの冒険者職業の右の空白に触れてみてください。 触れると現在選択可能な職業が出てきますよ。」
 言われるままに空白の科挙に触れると『召喚士』『魔法使い』『戦士』『拳闘士』の4種の職業が出てきた。 
「基本、拳闘士は全員に出ます。武器を持たずに戦うことに優れた冒険職ですね。 戦士は武器を所持していると現れる職です。 生活魔法以外の魔法を所持していますと魔法使いの職は必ず出ます。 ユグ様は召喚魔法を取得されたので召喚士の職が現れたのでしょう。 2つ目の空白は所持する武器にとって表示される職業です。 ユグ様は短剣をお持ちだと言う事ですから『短剣士』が表示されると思います。 先ほど杖術を取得されたので『杖士』も表示されるでしょう。   左に表示された順に適性が高いので、ユグ様には召喚士をお勧めします。 2つ目は杖士がよろしいでしょう。 レベルは、それらの職に関係する行動をすることでレベルが上がり、技能も上達します。」

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俺は1つ目の空白を召喚士にして、2つ目の空白に杖士を選択した。

名前 ユグ・ドラシル 年齢 28
種族 人族 性別 男 
第1職種 冒険者 LV1 銅ランク 
冒険者職種 召喚士 LV1  杖士 LV1

体力(HP)10 
魔力(MP) 14/15
技力(SP)10

筋力(STR) 3
器用(DEX) 5
持久(VIT)4
敏捷(AGI)5
知力(INT)7
精神(MND) 4
幸運(LUK)7

所持スキル 
杖術 杖波
所持魔法  
生活魔法 解読
召喚魔法 魔物召喚

魔法効果継続 生活魔法・解読

 これが今の俺のステータスパラメーターだ。 MPが1減ってるのを見ると、解読の魔法で1消費したのだろう。 

「これで付与は完了ですね。 都合、大銀貨1枚と銀貨5枚と大銅貨6枚になります。」
 俺は巾着から硬貨入れを取り出し、硬貨入れから言われた枚数の硬貨をラーテイに渡し硬貨入れを巾着に戻した。

「ユグ様、次はどちらに向かわれますか?」
「そうだな‥‥‥ 道具屋には行きたいな。 宿泊する場所も探さないといけないな。 それに杖は道具屋で売ってるのか? それとも武器屋とかが有るのか?」
「杖は一応道具屋でも売ってますが品質は最下級で使い潰すか、こまめに修復の魔法をかけるかとなります。  武器スキルの付随スキルを使われるなら、武器屋で購入するのをお勧めします。 ですが、低階層なら付随スキルを使うことも無いでしょうし、手に装備しているだけでも熟練度が少量ですが上昇するので道具屋で売ってる杖を買うのも良いかもしれませんね。」
「ダンジョンの低階層って、どのような敵が出るんだ?」
「1~2階層は魔ミミズですね。 3階層は魔ミミズに加え魔ネズミが出ます。 4階層になると魔ミミズは出なくなり、魔ネズミだけになります。 5階層は魔ネズミと魔ヘビが出ます。 6階層は魔ヘビのみ、7階層は魔ヘビと魔イタチとなり、8階層は魔イタチのみ、9階層で魔イタチと魔ザルになり、10階層で魔ザルのみになり、11階層への階段の手前にボス部屋が御座います。 ボスを倒すと中階層に行けるようになります。」
「魔ミミズってどれほどの大きさなんだ?」
「大体10㎝~20㎝ほどの長さで、幅は1~2㎝ほどですね。」
 ラーテイは両手で大きさを表していた。 その程度の大きさならば、戦闘が素人の俺でも倒せそうだ。

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