氷華の贖罪
血のように赤く、悪魔の笑みのように細く弧を描く繊月が私を見下ろす。
凍てつくような冬の風は妙に重苦しく、黒過ぎるほどに黒い夜空には酷薄に冴えた星々が瞬いていた。
かじかんだ手が握る古びた懐中時計は最も夜が深くなる時刻を指し示している。
眼前の石床には、ぼんやりと薄緑に発光する鉱石の粉で描いた精緻な魔法陣がある。
足元には開かれた古い魔道書。
全ての準備は完璧に整っていた。
あとは私が、覚悟を決めればいい。
息を吸って、あらかじめ暗記してあった文言を朗々と詠ずる。
「魂喰む高貴なる化生、至高にして悪辣なる御方よ!我、己の魂を対価とし大願を叶えんと欲すもの!これなるは異界への門、道は既にして繫がれり!汝等の内に慈悲深き御方あらば、誰ぞ我が呼び声に応え、地の底の異界より這い出し給え!」
刹那。魔法陣が、私の視界を白く染め抜くほどの閃光を放った。
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