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 しかし、たとえ迷いがあろうとも取引は成立してしまったのである。開き直る他ないだろう。

「じゃあね、おじさん!」
 だから30はおじさんではない。
 再びドアベルを鳴らして店から出て行く少年を見送ると、受け取った鞘を片手に作業場へと歩を進めた。

「さて、どうするかね。」
 作業場にて、取り敢えず気を取り直して再び鞘と対峙する。長さに加え、幅と厚みを測ってから鍛つ剣の構想を練り始めた。

 この大きさだ、鉱石は軽めのものを選んだ方がいいだろうか。いや、寧ろ重くして一撃必殺型の剣にするか。思いの外細かったし、粘りのある鉱石を使ってしなりを出しても面白いかもしれない。いや待て、いっそのこと剣は剣でも蛇腹剣とかにしてしまうか。それともこの間思い付いたギミックを入れてみるか……。

 そこで、我に返る。
 悪い癖だ。そんなに技巧を凝らしても扱い難いと苦情が来るだけ。普通に鍛てばいい。普通に……。

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