「地の利は向こうにある。周りが見渡せる場所に行こう」
「セオリー通りの戦い方ね。賛成よ。定石とは最も応用が利くものだもの」
そして、その行動を相手も予想している。
それを二人ともわかったうえで、アクションに移すことにした。
背を預け合い、慎重に歩を進める。
懐中電灯の灯りが、これほど不安な夜もないだろう。
だが幸い、不意打ちでの襲撃はなく終着点へとたどり着いた。
病院で最も遮蔽物のない場所──即ち屋上へと続く扉の前で、永久子はまっすぐにこちらを見据える。
「覚悟はいい? ここから先、後戻りはできないわ」
「……ああ。先に進むことはできるからな」
「口だけじゃないことを祈るわ」
永久子はドアノブに手をかけた。
ギイイ、と錆びついた音が耳朶を叩く。
かつてはベッドのシーツを干していたであろう広い屋上のど真ん中。
煌々と輝く月が、ひどく不気味な男のシルエットを照らしている。
「地の利は向こうにある。周りが見渡せる場所に行こう」
「セオリー通りの戦い方ね。賛成よ。定石とは最も応用が利くものだもの」
そして、その行動を相手も予想している。
それを二人ともわかったうえで、アクションに移すことにした。
背を預け合い、慎重に歩を進める。
懐中電灯の灯りが、これほど不安な夜もないだろう。
だが幸い、不意打ちでの襲撃はなく終着点へとたどり着いた。
病院で最も遮蔽物のない場所──即ち屋上へと続く扉の前で、永久子はまっすぐにこちらを見据える。
「覚悟はいい? ここから先、後戻りはできないわ」
「……ああ。先に進むことはできるからな」
「口だけじゃないことを祈るわ」
永久子はドアノブに手をかけた。
ギイイ、と錆びついた音が耳朶を叩く。
かつてはベッドのシーツを干していたであろう広い屋上のど真ん中。
煌々と輝く月が、ひどく不気味な男のシルエットを照らしている。
「地下に下りれる階段を探そう」
建物内を散策して、予想以上の荒廃ぶりを見た圭はそう提案した。
「それが良さそうね」
床に空いた穴を避けながら永久子もそう答えた。
事実、廃病院の地上部分は人の住めるような状態ではなかった。建物は人が住まなくなるとあっという間に荒れ果てると聞くが、床や天井は崩れて歩くのも一苦労だ。ここをねぐらにするなら地下に潜るしか選択肢はないだろう。
まともな神経の持ち主なら地上部分が崩れて生き埋めになる可能性を心配しそうなものだが………。
「相手は普通の人間じゃないわ。油断は禁物よ」
「わかってるさ」
そう言いながら通路を曲がると、圭は思わず持っていた懐中電灯を取り落としそうになった。
「―――あらあら、これは」
後ろに付いて来た永久子も驚いたような表情を浮かべた。
「………やあ、よく来たね。待っていたよ」
そこには瓦礫の下敷きになった男が二人を待っていた。
「歓迎の意思があるなら、向こうから迎えに出てくれてもよさそうだけどな。どうする? 永久子」
「そうね。こんな風情のある建物なのだし、本当ならゆっくり探索したいものだけれど」
呟くと、永久子は歩を進める。
「こんばんは。魔女見習いさん」
静寂の中、廃墟の主に向けて、彼女は語りかけた。
「もし、私の望みを聞いてもらえるのなら、貴方の願いを叶えましょう」
その言葉に、圭は思わず目を見開く。
しかし、圭が言葉を発するよりも先に、どこからか声が響いた。
―――本当に?
真加部俊郎は男のはずだ。
けれどもその声は、確かに男のようにも、あるいは少年のようにも、そして何故か少女のようにも、聞こえた。
僅かの後。闇に包まれていた通路に、点々とあかりが灯る。
「行きましょうか」
圭へと振り返り、永久子は微笑んだ。