僕には、物心ついた時から人ならざるものが見える能力がある。幼い頃はみんな同じものが見えると思っていたから、屋根の上に鬼がいるだとか、襖の影から黒いものが覗いて居るだとか周りに伝えて助けを呼んだりしたこともあったっけ。
でも、助けて貰えるどころか、「嘘をついて気を引きたいんだろう」「不気味なことばっかり言って気持ち悪い」と言われる始末で、僕は人から避けられるようになった。10歳になった今、周りの子達は寺子屋に通ったり、奉公に出たり、店番や兄弟の子守りを任されたりと、それぞれの社会的な役割を与えられて過ごしている。なのに僕にはそれが無い。
僕の能力を恐れた両親は、屋敷の離れに僕を匿った。それでもやっぱり「あの店の一人息子は変なものが見える気狂いらしい」なんて噂は絶えない。怖いものを見たくなくて伸ばした長い前髪と、外に出ていないせいで白く痩せ細った体は、僕の方がよっぽど怪異のように見える。