シークレットゲーム 強欲の使徒編
強欲の使徒
ゴールゾーラの裏社会その全てを取り仕切る組織それが強欲の使徒
貴族との結び付きが強く尚且つゴールゾーラではバルマーハ王国のような政策をとっていなかった為取り締まる事ができず気づいた頃には手をつけられないほど巨大な組織になっていた
その力はその気になれば1国を3日もあれば滅ぼす事が可能と言われるほど
「おにぃ...ボス使いからの連絡です」
「2人の時はボス呼びしなくてもいいのに...それで何かあったのかな」
「そうかバルマーハ王国は疲弊しているか」
「どう致しましょう?適当な者を見繕いましょうか?」
「そうだなとりあえず掃討して貰おうか...誰に任せようか」
「...っ!」
「何かあったのか」
「申し訳ございません。ガッダが早まったようです」
「ならちょうどいいガッダ達に任せよう。命令しろ好きに暴れて来いと」
「かしこまりました。『ガッダ好きに暴れて来なさい。ボスからの命令です』」
「3つ条件を提示させてください。まず1つもちろんの事ですがある程度の不法行為は見逃して貰います。2つ私達の拠点を二度と襲撃しない。3つこれはお願いに近いですねりあなた方と定期的に意見交換会を行いたいと思っています。それが難しいようでしたら。前者の2つそれを飲んでくだされば受け入れましょう」
「前者の2つの条件に関しては王の許可は既に得ております。ですが3つ目に関しては私が王の許可がないと王城から外出することが出来ないため難しいです」
「少し残念ですが受け入れましょう」
「感謝します」
話が纏まり1度カディアは馬車で王城に帰り。ベープとゲーゼンの2人が応接間に残った
「それで何かあったのでしょう?ベープ殿」
「あぁ私が1度席を外しただろう」
「ありましたね。てっきり御手洗にでも行ってるのかと思いましたよ」
「報告します。先程ゴールゾーラから帰還するクルノル候が乗った馬車が盗賊に襲われクルノル候は亡くなられました」
「盗賊の情報は分かっているのか」
「それが生き残りからの報告によると...盗賊の1人その腕にブタの入れ墨があったと」
「なるほどクルノル候がそれにブタの入れ墨ですか」
「ブタの入れ墨をしているのは強欲の使徒の掃除屋。しかもそのリーダーだ」
「...これは向こう側からの宣戦布告でしょうね」
「あぁ私もそう受けとった」
「ならあなた方も私も体制を整えた方がいいでしょう」
「その為に私も戻ろうと思っている。その前にお前が提示した3つ目の条件」
「それがどうかしたのですか」
「私ならある程度自由に動く事ができる」
「そうですか...なら月に1度程度で意見交換会を開くと致しましょう」
「場所は私の屋敷に指定してもらう。それともう1つ」
「なんでしょう?」
「お前は何者だ。上位の魔物なのは確実だがそれにしては知能が高すぎる...いや知能が高いのを抜きししても知識が多すぎる。どこで入れ知恵をされたんだ」
「手を内を晒すのは好まないのですが私は見ての通りアークインセクターです。長年生きて来たんです。人間の国に潜り込んだり暇つぶしに色々しました」
「インセクターの上位種か。これも暇つぶしというのか...まぁいいだろう、私はこれで帰らせてもらう。最後に...」
「お前とはいつか決着を付けさせて貰う」
現状整理
「あぁ演技疲れた....」
「お疲れ様っす」
「誰だよ舐められたらあかんから大物風に振る舞おうって言った奴は」
「ゲーゼンっすよ。それに結構ノリノリだったじゃないすか...それとなんすか業深き信徒って厨二病ですか!」
「...それっぽい名称なかったしいいだろ別に」
「良くないっす!」
「一旦バラスクラ達と現状整理した方が良さそうだけど...あぁこのまま寝てぇ」
「その前に名称今からでも変えて欲しいっす」
「いつまでも言うよな...別にいいだろ」
「まぁもういいっすけどね」
「それなら寝るか」
「そうっすね...じゃないっす!」
「なんだよ寝る気満々だったのに」
「圧倒的にバラスちゃん達と現状整理するところっすよね!」
「あぁそうだった...『バラスクラ全員集めといてくれ』んじゃ会議室行くぞ」
「我々は強欲の使徒との戦いに備えなくてはいけないが...そこまで時間の余裕はない。今ある情報を整理したい。バラスクラ」
「数時間前クルノル候が強欲の使徒による襲撃により亡くなられました。そしてその襲撃犯が先程王都近隣の街道で確認されました。いいアピールになると思われます」
「なるほど...ハーザス。俺達がちゃんと仕事をするってとこ見せてやれ」
「おう任せてくれ。アップしたらすぐ行くぜ!」
「アップの方に時間かかりそうだな...」
我は筋肉の為に、筋肉は筋肉の為に
バルマーハ王国 王都近郊
逃げ惑う盗賊が居た
「なんでここに強欲の使徒が居るんだぁぁぁー!」
叫び声と共に盗賊の胴体が弾け飛んだ
「手応えねぇな」
「この国の裏社会はないに等しいです。手応えがなくて当然です。ガッダ様」
「そう言うがなタイト。我が筋肉は飢えている。強者に飢えているのだ骨のある奴と戦いたいものだ」
「ガッダ様...森の方が何か音がします」
森の方へ木々が次々となぎ倒された
そしてなぎ倒された木々の1つがガッダ達に投げられた
「なるほどフィールドを作ってくれたのか...行ってくる待っていろ」
「かしこまりました」
ガッダが木々をかき分け進むと筋骨隆々の巨体が待ち構えガッダを睨みつけた
「我が名はハーザス。貴殿を始末する者。早速戦いたいが...中々の筋肉だ。魅せる筋肉ではないが戦う為の筋肉。俺とは違う筋肉美だ。素晴らしい」
その瞬間この2人は魂レベルに通じ合う何かを感じた
「お褒めに預かり光栄。貴殿とは良い友になれそうだ」
「それはできない。それでは我が筋肉の糧となってくれ」
「いや糧になるとはお前だ」
筋肉と筋肉のぶつかりに木々が騒然とした
「我は筋肉の為に、筋肉は筋肉の為に」
ハーザスの体から蒸気が発せられた
「凄まじい...魅せる戦いだ筋肉を魅せる戦い方」
「戦う為の筋肉をもっと見せてくれ。それは俺が究極の筋肉美に達する1つの欠片となる」
「それなら見せてやろう我の筋肉を」
ガッダの服が弾け飛び筋骨隆々のその肉体。そして腕に掘られた豚の入れ墨が顕となった
それがハーザスの逆鱗に触れた
「貴様には失望した。至高なる筋肉に消えぬ傷をつけるとは....貴様を筋肉を愛する者として断罪せねばならない」
天高く掲げたハーザスの筋肉は膨らみ1回りも2回りも大きくなった
「なんだ。これは...」
ガッダは腰を抜かしその場に倒れた
目の前には拳を振りかぶった巨人、
産まれたての子鹿のように震えて動かない足もはや逃げ道などなかった
「マッスル・オブ・ジャッジメント」
死を覚悟した時ガッダの頭に声が響いた
『最初に言ったな。失敗は死であると。理解したなじゃあ早く死ね』
「うあああああグリード貴様あぁああああ」
ハーザスの筋肉が振り下ろされると雷が落ち凄まじい衝撃波が辺りを吹き飛ばしガッダの肉体は骨すら残らず消失した
「筋肉神による神罰はお前の魂を新たなる筋肉へと導く」
想像以上だった
業深き信徒の拠点
「あそこまでの脳筋だったんすね」
「てか何すかマッスル・オブ・ジャッジメントって」
「ん〜とな多分あれだ。お前が決めたあのスキルだ」
「筋肉を愛せば愛す程力が強くなるっやつっすか」
「それを脳内のほぼ全てが筋肉に埋め尽くされている奴が使ってんだ...あれくらい...やれる訳ないだろ」
「私達が思ってる以上に脳筋にしてるみたいっすね」
「あぁ想像以上だった」
数分後ハーザスが帰還
「我が筋肉見ていただけましたか!」
「あぁ見ていた。想像以上だ」
「想像以上の筋肉だったという事ですね!」
「それじゃあしばらく好きにしてろ。何かある時は呼ぶ」
「かしこまりました!我が筋肉を鍛えてきます!」
「おっおう」
ハーザスはうっきうっきで筋トレルームへと向かった
「さて...別口が居るんだろバラスクラ」
「はい。偵察用の微精霊が多数確認されました」
「術師は」
「術師はゴールゾーラ王国の王都。控えめに言って規格外の範囲です」
「当分の間警戒を続けろ。場合によってはお前の判断で始末しろ」
「かしこまりました」
強欲の使徒 幹部 その1
ゴールゾーラ王国のとある街道そこでは商隊の馬車が盗賊に襲われていた
「護衛も付けずに俺らのナワバリに入るとはいいご身分だな。商人さんよ。有り金と荷物全部置いてけついでに女もな」
盗賊の頭と思われる男が商人の首筋に剣を向け脅しをかける
「おめぇらそっちはどうだ!」
「武具だ!これ結構高価なやつだぞ」
「こっちにはとんでもない量の金だ!数年は遊んで暮らせるぞ」
「お頭!こっちの馬車女が寝てるぞ!しかも上物だ」
「よし!いい事を思いついた。起こしてこっちに連れてこい」
「分かったぜお頭」
「...喧嘩売る相手間違えたな下賎な盗賊さんよ」
「舐めた口きくな」
頭の言葉を遮るように盗賊の悲鳴が街道に響いた
「何が起きた!」
頭が辺りを見渡すと先程まで話をしていた盗賊のその全員が首から上を失い死んでいた
「なっお前ら。ただの商人じゃ」
「知る必要はない脳天に1発ぶち込んでやる」
銃声と悲鳴が街道に響いた
1人はパジャマ姿の少女
「ビリー派手にやったねぇ」
【強欲の使徒 幹部 睡魔 スロウ】
もう1人は西部劇のガンマンの様な格好をした男
「お前の方が派手にやっとるやろうが」
【強欲の使徒 幹部 狂弾 ビリー】
「スロウがそんなめんどくさい事する訳ないでしょ!私がやったのよ!」
新たに現れたそれは背中から半透明の翼を生やしておりその者が人間ではないことがうかがえる
【強欲の使徒 幹部 童邪 アイシー】
「お前いたのか...まぁいい馬車に乗れ定例会に遅れるぞ」
強欲の使徒 幹部その2
ゴールゾーラ王国の王都には数多の娼館がある。その内の1つそこは大貴族も通いつめる王都1の娼館
そしてどの業界でも迷惑な客は一定数居る
「レチェリーはまだなのか!早くしろ私は公爵だぞ」
「お客様落ち着いてください」
「私は常に落ち着いている!」
「先程言った通りレチェリー様は体調を崩され」
「そんなのは関係ない私は公爵だ!」
対応をしていた受付は奥のいわゆる用心棒にサインを送った
「無視をするな!私は公爵だぞ!」
冷たい足音が公爵の背後から近づき肩をぽんと叩いた
「誰だ!私は公爵だぞ!無礼がすぎるぞ!」
振り向いた公爵の目に写ったのは透き通った水色の髪の少女だった
「これ程の美女であればレチェリーの代わりは勤まるな。そこの受付!早く部屋を用意しろ公爵の命令だぞ...さぁ君こっちへ来なさい」
公爵は手馴れた手つきで肩から胸に手を伸ばそうとした
そしてその手は弾け飛んだ
「なっ私は公爵だぞ...このようなこ...」
弱々しくなった公爵の声は怒声で上書きされる
「この体に欲望を持って触れられるのはお兄ちゃんだけ。貴様如き豚は肩を叩かれただけでも幸運だと神に感謝しなさい!」
怒鳴りながら少女は公爵を短剣でやった刺しにした
公爵が力尽きるタイミングを見計らっように奥の方から1人の娼婦が顔を出した
その者は典型的な娼婦の格好をしその動作の1つ1つが欲情を誘う
「あらあら最近は乱暴な客が多くて大変だわ。ありがとねミナーベ」
【強欲の使徒 最高幹部 魅魔 レチェリー】
「あんたのせいでしょうがレチェリー」
【強欲の使徒 最高幹部 狂愛 ミナーベ】
「まぁまぁ落ちついてよ。そんな事より定例会行くわよ」
定例会
王都の繁華街にあるとある酒場
そこに1人の客が来店した
その客は藍色の髪色が特徴の一見どこにでもいる青年だ
そして彼はウェイトレスに2階の少し広めの部屋に案内された
「全員揃っているみたいだな」
そこでは強欲の使徒の幹部が勢揃いしていた
「さて定例会を始めよう。ミナーベ進行は任せる」
「はい!」
目を輝かかせたミナーベがバン!と勢いよく立ち上がった
「ボスより進行を任されました!ミナーベです!」
「知ってるわい」
「うるさい寝たいのにふあぁ」
「あぁアイシーよりうるさい」
「ちょっレチェリー今私がうるさいって言ったよね!めっちゃ大人しくしてたのに!」
「静粛に!はい!アイシー何か報告があるんでしょ!」
「ミナーベ!はぁ...まぁ簡潔に言うとバルマーハ王国に向かったガッダが死んだ。それと偵察させてた微精霊との交信が途絶えた。敵は手強いよ」
「なるほど想像以上の様だ。ビリー量産はできてるな」
「あぁ何時でも動けるようにしている」
「そうか人口精霊プロトタイプIを全て起動しろ。バルマーハ王国を手に入れる。指揮官はミナーベ副官はスロウだ。戦力は逐次補充する。ビリー工場を守れ」
「よっし...こほん...かしこまりました」
「ん〜分かった〜」
「任せろ」
「ではこれにて定例会を終了する。では解散だ」
意見交換会
ベープ男爵邸
その一室ゲーゼンとベープが机を挟みお茶を飲み交わしていた
ゲーゼンが提案した意見交換会である
「先日の1件だ。契約通りやってくれたようだな」
「もちろんだろ」
「今後強欲の使徒はどう動くと思う」
「近いうちに動くでしょう。いや既に動いているのでは」
「あぁ既に動きがあった。商隊に偽装した1団が王都に向かっている。おそらく強欲使徒だ。そして積んでいる荷物は精霊だ」
「精霊を積むか中々聞き慣れない表現だな」
「人工精霊だ。自然では少ない上位精霊を人工的に作るというゴールゾーラの機密技術。あと余計かもしれんが小さな鉄の塊を火の魔法で撃ち出す武器が開発されたという弓とは比にならない威力らしい」
(人工精霊そうだが...それより最後の銃か。この文明レベルから考えられない。ゴールゾーラはその文明離れした技術で発展した国なのか)
「何か心当たりがあるようだな」
「それには少し昔話をする必要があるが」
「時間がかからないのであればいい」
「とある武将が当時最強と言われたとある軍を打ち破ったという。そしてその武将の軍が用いた武器が先程話されたその武器の特徴と一致しているんです」
「ほうそれはゴールゾーラで開発されるよりも前に全く別の誰かが作っていた。いや量産していたということか」
「私の故郷に伝わる神話ようなものです。もしかしたらゴールゾーラはその神話を元に作ったのかもしれませんね」
「そういうことにしておこう。ではどうする」
「人工精霊が多数いるのなら我々だけでは数で押されます」
「数は軽く100を超える」
「本当に戦争でもおっぱじめるつもりかよ」
「国と国と戦いではないから戦争とは言わんがそれに近い規模の戦いになる」
「もしかしたらこの国を取りに来たのかもな」
「いくらなんでもそれはないだろう」
「それには十分な量だ。上位精霊が100あれば簡単に落ちるだろう」
「それは流石に舐めすぎだ」
「そうだな...だが人工精霊は今も作られ続けているだろう」
「戦力の補充が容易という事か」
「それが人工精霊の本当の強みなのだろう」
「製造元を抑える部隊が必要だな」
「お前達が動けば本当の戦争になる。
部下の1人に機密作戦に適した者がいるそいつに任せる」
「1人というのが不安だが。まぁいい防衛の兵力も必要だ。なるべく目立たないようにな」
「分かっている」
開戦
バルマーハ王国 王都近郊
マルド平原
「我らは誇り高きバルマーハ王国騎士団である。貴殿達の商隊と強欲の使徒との関係が疑われている!直ちに取り調べを受けよ」
騎士が一通りの文言を言い終えると商隊の馬車から人が降りてきた
「こんにちは。バルマーハ王国の皆さん...では死んでください」
次の瞬間馬車から数え切れないほどの精霊が飛び出した
「「アイシクルランス」」
氷の槍が商隊を取り囲んでいた騎士団に降り注いだ
バルマーハ王国 王都
業深き信徒拠点
「想像以上だな...てっバラハそのヨダレ」
「おっと失礼っす。精霊は美味しんすよ」
(精霊ってバラハがヨダレ垂らすくらい上手いのかよ...あっそうだ)
「じゃああれ今日の昼飯な」
「分かったっす。じゅるりっす」
バルマーハ王城
「開戦しました。これより作戦を第2段階に移行します」
「民には既に偽の情報を流してあります。それでは殿下」
「...バルマーハ王国騎士団騎士団長スミット・ベープ。バルマーハ王国第1王女カルディア・クイル・スピカの名において命じる。我らに仇なす敵を討ち滅ぼせ!」
「はっ!」
数百数千もの騎士たちが王都から出撃した
王都の民はそれを祝福し送り出した
氷結世界・怨親平等
剣閃が音速を遥か超越して捻り飛ぶ。
千の氷槍が大気を引き裂き降り注ぐ。
朗らかな陽気に香る昼のマルド平原は、見渡す限り、地平線のその先まで美しい草花が広がっているのではないか、と錯覚すら覚える開放感をそのままに、血肉が飛び散る死の温床へと変貌を遂げた。
一度、人造の精が呪文を言紡げば新たな氷槍が現れ兵の額を貫き。
一度、騎士が剣を振るえば人工精霊の首が跳ね飛ばされていった。
バルマーハ王国騎士団と人工精霊との交戦開始から五分、既に周囲には数多もの骸が積み上がり、尚生き残った者共が互いを滅さんと死力を尽くしていた。
戦況は未だに拮抗している。騎士たちも精霊たちも少なくない犠牲を払いつつ、しかし決定打を与えられていない。
その戦局を大きく変えるであろう”要素”は既に揃っている。”二人”だ。均衡を打ち崩し見事自陣へ勝利を齎す為には乗り越えねばならない。
バルマーハ王国騎士団副団長、マキアと人工精霊上位種、ヴァイオレットを。
「オォ、っ──────!」
筋骨隆々としたマキアの体躯が、跳び上がった。齢百年の大木を思わせるその両脚が、持ちうる限りの全力を以て地面を蹴り上げたのだ、と精霊たちが思い至った次の瞬間には首が断ち切られる。
「如何した、凡愚共。俺はまだ力の総てを出し切っていないぞ。所詮はその程度かよ貴様ら」
心底からの侮蔑の念を吐き捨てる、マキア。期待外れである、という内心がそのまま顔に、声色に出力させていた。
曰く、百人力。
曰く、戦闘狂。
数多もの血で血を洗う戦より生還してのけ、かつその巨躯に一切の手傷なし。
鬼神の如く敵手を切り捨てる様からまことしやかに囁かれた逸話が、今ここに具現していた。
マキアを囲っていた夥しい数の人工精霊を総て斬り尽くして尚、傷一つを負わずに君臨している。
この戦場に於ける上澄みも上澄み。この男を斃さねば人工精霊の側が勝ちを得ることはない、と断言できた。
『───Freeze』
ならば、なぜマキアと云う強者がいて尚、騎士団が勝ちを取れないかと言えば。
”詠唱一つで十人の騎士たちを凍り付けにした一匹の精霊”が鎮座しているからに他ならない。
人工精霊、その中でも上位の力を与えられ、各々が一点に於いて特化した上位種。そのうちの一柱こそがこのヴァイオレットであった。
数ある人工精霊を千匹集めても触れることすら出来ずに、放った魔法一つで殲滅して余りある力が内包されているのだ。
ヴァイオレットが特化したのは、氷だ。因果など知らぬとばかりに無から氷を生み出し、ある者は凍らせ、ある者は氷の剣や槍で刺し貫いて、騎士を蹴散らしていた。
騎士たちもまた、ヴァイオレットを討たなければ勝利の目はなかった。
更なる絶望
「なんだ...あれは」
騎士が見たのは
更なる絶望
ヴァイオレット以上の絶望
「副団長!敵の増援です!」
少なくとも1000以上もの精霊の大軍
「嘘だろ!おい!」
ヴァイオレットと同等の上位の人工精霊が2体
それぞれ火と雷の力を持つ
「幹部かよ...何秒持つのか試してみるか」
それらを率いるのは少なく見積もってもヴァイオレットより数百倍の力を持つと思われる精霊が1体
腕にはキツネの入れ墨が彫ってある
「私は強欲の使徒。幹部アイシーです。降伏しなさい。バルマーハ王国騎士団。苦痛を与えず殺してあげます」
「ははは!何を言い出すと思えば!笑いが止まんねぇな!おめぇら!」
降伏を勧告したアイシーに対しマキアは笑いで返しそれに呼応するように他の騎士達も笑いだした
「我らは誇り高きバルマーハ王国騎士団である!貴様ら如きに降伏すると思ったか!」
「そうですか。苦しんで死んでください。試作品殺りなさい」
『ライトニング』
『ファイアボール』
『アイシクルランス』
ヴァイオレットら上位の人工精霊による魔法が放たれようとした
その瞬間ヴァイオレットから血しぶきが上がった
「あれ?この味...人間すね。精霊なのは皮だけなんすかね」
人工精霊の真実
ゴールゾーラ王国西部
ミルハ村
かつて盗賊の襲撃により滅びたその村の地下は人工精霊の工場となっていた
数千を超えるカプセルに人工精霊が1体、1体保管されている
(1個でも破壊したら全部起動して襲ってくる仕組みか。全て同時に破壊する必要があるな)
そしてそこにはバラスクラが潜入している
(見張りは居るが。人が少なすぎる)
不自然な程に人が少ない工場を進んでいく
そこには牢屋が並んでいた
(...工場に何故牢屋があるんだ)
その牢1つにつき約10人、合計100人もの10代~20代の若い女性が閉じ込められている
ちょうどその時牢屋の1つから女性が連れ出された
(まさか...いや考えたくもない)
バラスクラが後をつけると複数の空のカプセルのある部屋に辿り着いた
「おら!入れ!」
そこで待っていた職員が無理矢理女性をカプセルの中へ押し込む
長い牢生活で衰弱した女性は抵抗も出来ずにカプセルへ押し込まれる
カプセルの蓋が閉まったことを確認すると職員はスイッチを押した
するとカプセル内に液体が流し込まれた
その液体は女性の皮膚を溶かし
その肉が露となった
皮膚が全て溶けきった事を確認するとカプセルの蓋は開かれそこからアームで精霊塊という微精霊の集合体である特殊な魔石を胸の中心に埋め込んだ
激痛が走っているはずなのに女性はもう苦しみの表情すら出すことは出来なかった
精霊魂は光を放ち女性を包み込んだ
光が消えると溶けたはずの皮膚が全て元通りになり、背中からは翼が生えその姿は正しく精霊であった
(人工精霊は人間を依代にした微精霊の集合体なのか...)
次の瞬間銃声が鳴り響いた
土煙から現れる影
弾丸はバラスクラの体を掠める形で床に着弾した
有無も言わさず再び弾丸が放たれる
それはバラスクラには当たらなかったがその流れ弾が奥にいた職員に命中した
(今のは銃というやつか。聞いてた通りの威力だ。俺はハーザスと違って耐久力は無いに等しい。当たれば致命傷。そして)
バラスクラは辺りを見渡す
(敵影が一切みえない...予定より早いが。しかたない)
「ライトニング・マイン発動」
数秒の時の置いてバラスクラが工場の各所に仕掛けていた魔法が発動
工場を爆破した
雷鳴が鳴り響き地下空間は崩れ始め辺りは土煙に包まれた
「このまま脱出出来ればいいが...」
土煙の中からカウボーイハットを被り中年の男がバラスクラの背中にリボルバーを突きつけていた
「大人しくしな。無駄撃ちはしたかねぇ」
それはほんの一瞬
バラスクラの体から電撃が発せられ
リボルバーの銃身はその電熱で溶け
咄嗟に手を離すも男は手に大火傷を負った
「雷刃電斬」
その隙を見逃さなかったその剣によって男の腕は切り落とされ。血しぶきを上げ男はその場に倒れた
崩れ行く瓦礫の下敷きとなって
そしてバラスクラは自身の体を電気へと変え地上へと脱出した
「半ば賭けだったが何とかなったか」
完全に崩れ去った工場を確認したバラスクラは任務達成の報告をするのだった
そこに眠る最悪に気付かずに
リボルバーにくちずけを
腕からひっきりなしに上げられる痛覚神経の絶叫こそが、死の淵に立つ男─────ベックマン・メルティキッスにとって唯一感じられる生の実感であった。
右肩から先が文字通り切り離されて、栓を抜いたように溢れ出るどろりと濁った赤色が、細かい瓦礫片を押し流して小さな血河までもを形作っている。
「あ"あ"〜〜~~~ッ!!」
雷電そのものといった侵入者に不意を打たれる形で腕の一本を喪失してしまったことは記憶に新しい。幾千もの戦場にて鍛え抜かれたメルティキッスの動体視力をもってしても残像を捉えることすらできなかったその一閃は、流石の彼をもってしても対処出来ずに敗北を喫してしまった。
先の崩落でひび割れた地面に頭を押し付け恥も外来もなくのたうち回る。果たしてそれすらもがどれ程続くか、国中で巻き起こっている争乱の真っ只中で完膚なきまでに破壊された研究施設にて救助の手が差し伸べられる道理など無いに等しく。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ………………」
故に。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"──────ッッッッ!!!!よし!!!!気持ちを切り替えますかねえ!」
いつ何時来るやも知れぬ誰かの手を待つ事無く、己が精神力と根性のみで立ち上がる。痛みは未だに止む気配が全く以て感じられない。そもそも、切断された腕の止血すら済ませていない現状、メルティキッスは失血死を待つだけの虜囚に相違無い。
実際、救護室は瓦礫の下敷きであるし医療に対する心得など微塵も存在しない。元より斯様な後方支援は自らの役目に非ず、この身は撃てと命じられたままに捻り飛ぶ一発の鉄砲玉なれば。
「ああ………………こいつは、永くは持たんか」
だから、近いうちに己は死ぬ。しかし、そこに悲観や傍観、恐怖のひとかけらすらもが介在していない。
どうしようもない死刑宣告を受けたに等しい身体でありながら、脳裏を埋め尽くすは純粋なまでに一途な殺意のみである。
雇い主からの任務(オーダー)はたった一つ。即ち、見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)。
侵入者の須くを抹殺せよ、この任務だけは遂行せねばならない。
「だがまあ、死ぬ前に面白れェ野郎と出逢えたもんよ」
笑う。ケタケタと。
楽しくて仕方がない、という感情がこれでもかと表れている、笑い声。
「残ったもんは、腕一本と拳銃一本………………上等よォ」
瓦礫で埋め尽くされた研究棟から、一歩踏み出す。
さあ、いざ逝かん。之より歩むは死出の旅路。
だだ、侵入者よ、雷電操る人造人間(バラスクラ)よ。
おまえの命も連れて逝こうか。
輝く未来は沼に落ち、硝煙纏いし弾丸は、貴様の頭蓋を突き穿つ。
逃げ場なし
その男の容姿はバラスクラが腕を切り落とし生き埋めになったはずの幹部の1人ビリー。だがその男は自身をベックマン・メルティキッスと名乗っている
これに仮説くらい立てたいものだがそんな余裕はない
報告中に不意打ちをくらい急所は外したものの膝を負傷してしまった。この為距離を詰めることは難しくなり接近戦が得意なバラスクラにとって不利な間合いでの戦いを強いられた
体を電気に変えようにもそれは一定時間その場に留まらないといけないここでは使い物にならない
道中ライトニング・マインを設置するなどして少しばかりか時間的余裕のできたバラスクラはこの状況から生還する手段を考えた
何度考えてもメルティキッスを倒すしかないという結論にしか至らなかった
問題は倒し方だ
メルティキッスは間合いの管理が上手く膝の負傷も合わせて距離を詰めて接近戦を仕掛けるのはほぼ不可能と言ってよい
応援を待つ余裕はない
もう逃げ場などなくもはや賭けに出るしかなかった
そうこうしている間にメルティキッスはバラスクラの隠れる岩の目の前に立っていた
彼の持つリボルバーの銃口は岩を捉えていた
数秒の静寂の後弾丸が放たれた
着弾を待たず即座に2発目、3発目と放たれそれを受けた岩に亀裂が入り
続けて放たれた4発目で岩は真っ二つに割れた
ここしかないとバラスクラは岩から飛び出した
膝の痛みを押し殺しメルティキッスに詰め寄り剣を抜いた
メルティキッスが扱うリボルバーに装填できる弾数は5発。そして既に4発使っている為残るは1発
メルティキッスは正確にバラスクラの頭を狙い引き金を引いた
バラスクラの剣は雷を纏い光り輝いた
膝の痛みに耐えながら必死に前に進み剣の距離入った
「雷樹惨華」
それはまずメルティキッスの右足を切り落とし胴体を引き裂きながら昇ったリボルバーの銃身は放った弾丸ごと真っ二つにされた
「残ったのは手足1本ずつにただの鉄くずか」
だがメルティキッスは膝を付けることすらなく片足で立っていた
「この怪我でくたばってないって事はゾンビの類にでもなっていたか...」
ビリーは死後不死者(アンデッド)となりメルティキッスへとなった
これで異常な生命力と名が変わった事への説明はつく
「少しハズレだな。俺は不死者ではじゃねぇ。戦場で敵将を殺す殺し屋だ。まぁ失敗してくたばったところを拾われ。この体を貰った。でも死後だったおかげでもう限界だ。長くは持たねぇ」
言い終わるとメルティキッスは隠し持っていたそれを周りにばら撒いた
「それはまさか」
それはバラスクラが道中の足止めにと設置していたライトニング・マインだった
何をするのかは明白だ
だが雑にばらまいたように見えていたそれは止めに入ろうとしたバラスクラが踏むようにされていた
「道連れだ」
万能薬(プロテイン)
辺りは雷鳴と共に眩い光に包まれた
木々は消し飛び地面はえぐれ大穴が生じていた
土煙が去ったあとその大穴の中心に巨大な男が立っていた
「バラスよ。俺の筋肉要塞がなければ死んでいたぞ。筋トレが足りないんじゃないか」
「このふざけた技名はハーザスか。別に体を鍛えてないってわけじゃないんだがな」
「...それよりもバラス。足の筋肉が嘆いているぞ。これを飲むといい」
そう言うとハーザスはどこからともなくシェイカーを取り出した
その中に入っているのは勿論プロテインである
ハーザスのプロテインは筋トレ後の筋肉がたんぱく質を欲する時すぐにたんぱく質が吸収されるよう改良し続けられていた
そして完成したそのプロテインにはその副産物として強力な回復ポーションとしての効果もあった
ただハーザスはこの事はするよしもなく
以前このプロテインを飲んだ際当時骨折していた足の指がなんか治ったという経験から渡していた
まぁプロテイン飲ませりゃなんとかなるやろ感が9割以上を占めてるが
「あぁ。ありがたく貰うよ」
バラスクラは困惑しながらもそれを手に取り一気飲みした
「まぁ薄々分かってたけどこのプロテインどうなってるんだ」
「特別製だからな。それより敵(我が筋肉の礎)はどこだ?」
「跡形もなく消し飛んでるだろうな」
「そうか。もう終わっていたのか...せっかくいつもより時間をかけてアップをしたのだ。筋肉要塞だけでは不完全燃焼にも程がある」
ハーザスは涙を流し、悲しげな表情を浮かべていた
「まぁ敵はまだまだ居るんだ。不完全燃焼で終わることはないだろうよ」
「そうだな。それで俺は何をすればいい」
「とりあえず工場は破壊した。一旦帰還だ。お前の筋肉なら一瞬だろう」
ハーザスはそれを満面の笑みで了承しバラスクラを背負い地面を全力で蹴って飛び立った
後日近くを通り掛かった商人が見たのは2つの大穴
そしてそこから這い上がってきた
メルティキッスだった
「...どうも俺は悪運が強すぎる」
怯える商人から奪い取ったキセルを咥えながら街道をのんびり歩いていった
美味しいお昼ごはん
その少女は残ったヴァイオレットの下半身を大きく開けた口の中へ放り込んでよく噛んで食べた
「人間の味は嫌いなんすよね。油っこかったり筋肉質で硬かったりして食べにくいっす。まぁここのやつは精霊に近い味がして食えなくはないっすね」
とても少女の口から出るとは思えない言葉にその場にいた全ての者が恐怖した
「なんなのよこいつ。何かされる前に殺っちゃって!」
アイシーはその少女を倒すべく残る精霊による一斉攻撃を仕掛け
「お前ら撤退だ!本隊に合流するぞ!」
マキアはぺープのいる本隊に合流するという判断を下した
「あいつらの掃除は任せるっす。エルドレ」
人工精霊の攻撃を食べながらその命令は発せられた
先頭を走る騎士が自分たちにゆっくりと近づいてくる人影を目視した
次の瞬間騎士達の動きががピタリと止まった
手足は動かないものの首から上がかろうじて動かせた
そこから驚き、疑問、恐怖等の様々な言葉が発せられた
『バラハ様終わりました。予定通り離脱します』
「ナイスっすエルドレ。あっゲーゼンが騎士は近くの砦に運んどけって言ってたっす」
『かしこまりました』
「さてとっす。まずは前菜っすね」
向かって来た精霊の攻撃を喰らい。そしてその精霊を喰らいながらアイシーに近づく
その姿はと正しく悪魔と呼ぶべきものだった
「なんで...逃げなきゃ」
恐怖で真っ白になったアイシーの頭の中にそれは響く
『情報を奪われないようにさっさと死ね』
「スキル使われた...命令通りやったじゃん」
「さぁてメインディッシュっすね」
アイシーの胸の中心にぽっかりと穴が空いた
「想像以上の味っす。1番本物の精霊と味が近いっすね」
アイシーは逃げるもせず抵抗もせず文字通り胸にぽっかり穴が空きドーナツのようになりその場に留まり続けていた
「あとは一口でいくっす」
頭からゆっくり口の中に入れ丸呑みにした
「ごちそうさまっす」
数分前まではよだれが垂れていた口からはお昼ご飯達の血が垂れていた
不穏な2人
王都近郊
「アイシー負けちゃったし。ビリーも変なのになっちゃったし。ねぇミナーベこれ失敗じゃない?」
馬車の荷台に寝転がる少女は御者に尋ねる
「騎士団の戦力を削って。暴食、その他強者の炙り出し。何より王都が手薄になった。むしろお釣りが来るレベルですよ」
フードを深く被った御者は機嫌良さそうに答える
「というか次はスロウあなたの出番よ」
「えぇなんでよ」
「どうこう言っても拒否権はないから。じゃあ転移で送るから足止め頼んだよ」
次の瞬間光とともに荷台は消えた
命じる
「第1分隊全滅。第2、第3分隊連絡途絶。第5、第7分隊、隊長死亡」
一瞬の出来事だった。突如として現れたそれは1呼吸も置かぬ間に多くの騎士を死へと追いやった
「餌がデカい分被害は大きいが釣れたな...」
少し悲しげな表情をしながらも腰に携えていた剣を抜いた
そして1呼吸を置きベープは命じた
「道を開けろ」
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